DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
DOG DAYS”が終わってから、心がスライム状態です。
ドラ◯エのスライムより、スライムです。
大口を開けた腹から滝のように血が溢れ出す。
それは魔物の輝力によって黒紫色に煌めいていた。
俺の足元の地面はあっという間に鮮血で染まっていった。
「他の奴らもすぐにそっちに送ってやっからよぉ。気長に待ってな、クソガキ。」
魔物はそう言うと、俺を放り投げた。
僅かに残っているフロニャ力のお陰か、即死級の傷を負った俺の意識は未だ健在していた。
しかし、もはや指一本動かない。
さっきまでバクバクと脈打っていた鼓動も、徐々に弱まりつつある。
もってあと数分だろう。
数分で俺の全てが終わる。
あとは・・・シンク達に任せよう。
撤退して、万全の態勢を整えればあの魔物にも勝てるはずだ。
アイツらなら・・・きっと。
そうすれば・・・何もかも元通りだ。
シンクも姫様も皆も幸せな日常に戻れる。
皆は俺の死を悲しんでくれるだろうか。
俺の為に涙を流してくれるだろうか。
もしそうじゃなくても、誰か一人でもいい。
その人の記憶の片隅に、俺がいたという記憶が在れば、それで充分だ。
いや・・・誰の記憶に残らなくても、皆が幸せならそれでいい。
その幸せこそが俺の生まれてきた意味なのだから。
だが、
その希望はあっさりと裏切られた。
何故なら、俺の耳にここにいてはいけない筈の声が聞こえたからだ。
「ーーー斗さーーー‼︎ーーー和斗さん‼︎」
この声は・・・姫様?
そんな・・・まさか・・・
ゆっくりと視線を動かした先には、地面にへたり込んだ姫様の姿。
隣にいるブランシールの上に横たわっているのはシンクだ。
その奥でオミノスの大群に剣を振るうリゼル。
撤退は完了していなかったのだ。
おそらくオミノスに邪魔されたのだろう。
メイド隊員の姿が見えるという事は姫様やシンクの他にも負傷者がここに残っているだろう。
メイド隊員の放つ紋章砲がオミノスの壁に小さな穴を開けるも、すぐに他のオミノスによって埋められてしまう。
撤退は疎か、余計に被害が拡大している。
そして、魔物はゆっくりとシンク達の方へと向かっていた。
その口には狂気の笑みを浮かべながら。
行かねぇと・・・。
もっとだ。
もっと時間を稼げば・・・。
身体を動かそうとするが、身体は電池の切れたロボットのようにピクリとも動かなかった。
四肢に込める力など残ってはいなかった。
嗚呼・・・そんな・・・
結局・・・俺は、最後の最後まで・・・役立たずだったのか・・・。
魔物がゆっくりとシンク達に近づいていく。
俺はそれを無様に地に伏しながら見る事しか出来なかった。
クソ・・・俺のせいで・・・
瞼をそっと閉じる。
暗闇の中で後悔だけが渦巻いていた。
畜生・・・やっぱり俺なんか部屋の中に閉じ籠っときゃ、もっと別の未来だって、あったかもしれねぇのに・・・。
その時、薄れ行く意識の中で、不思議な声を聞いた。
『そんな事ないよ。』
誰だ・・・?
スッと目を開けると、そこには黒いバグのような『何か』が立っていた。
『それ』は男とも女とも、子供とも年寄りとも取れない声で言った。
『凄いじゃないか。そんなにボロボロになってまで彼等を守ろうとするなんて。並大抵の人間が出来ることじゃない。』
でも・・・結局、守れなかった・・・。
俺は役立たずなんだ・・・。
『気にする事はないよ。誰も君を責めたりなんかしない。君が守ろうとした人達は君のその努力を認めてくれるはずさ。』
そう・・・かな・・・。
アイツらなら許してくれる・・・よな・・・。
『そうだよ。君も彼等もここで死ぬ。それは変えようのない運命なんだ。』
運命・・・。
そうだよな・・・。
運命なんだから・・・仕方ないよな・・・。
『そう。だからもう、楽になればいい。』
これだけ頑張ってもダメだった。
なら、もう仕方がないとしか言いようがない。
もういい。
もう・・・いいんだ・・・。
閉じた瞼にフロニャルドでの記憶が蘇る。
これが走馬灯ってヤツか。
皆との思い出を見ながら死ねるなんて、幸せモンだなぁ。
皆の優しい笑顔が記憶の奔流に流されていく。
皆が俺に掛けてくれた言葉が耳の奥から消えていく。
皆が俺にくれた想いが心の底に沈んでいく・・・
・・・俺は、本当に・・・馬鹿だなぁ。
仕方ない訳ねぇだろうがッッ‼︎‼︎‼︎
目をカッと見開く。
ギリギリと指が地面にめり込む。
何が運命だ‼︎
運命ならアイツらは死んでいいのか⁉︎
アイツらはすっげぇいいヤツらなんだよッ‼︎
ここで死んじゃいけねぇんだよッッ‼︎
「お・・・おお・・・!」
消えかけていた命の灯火が再び燃え上がる。
言う事を聞かない身体を無理矢理動かそうと、有りったけの力を込める。
諦めないって決めただろう⁉︎
逃げないって誓っただろう⁉︎
ゆっくりと、しかし、確かに上体を起こしていく。
だが、激痛と苦痛がそれを拒もうと全身を蹂躙する。
動け動け動け動け動け動け動け動け動け
動け動け動け動け動け動け動け動け動け‼︎‼︎
動いてくれッッッッ‼︎‼︎‼︎
眼から血の涙が溢れ、大口を開けた腹からはボタボタと大量の鮮血が地を染めていく。
それでも尚、立ち上がろうとする俺を見てか、すぐ側にいる黒いバグが驚愕したかのような溜息を吐いた。
『・・・そうか。それが君の選ぶ道なんだね。感謝するよ・・・。
バグは俺に手らしきものを差し伸べて、こう言った。
『待っていたよ、少年。君が来る、この時を。さぁ、おいで。』
「おおおおぉぉぉぉッッッッ‼︎‼︎」
雄叫びと共に両足で立ち上がる。
最早、痛みも苦しみも感じはしない。
ただ、ただ、皆を守りたい。
その為なら・・・俺は何処までも行ける。
何だって出来る。
だって・・・いつの間にか、大好きになっちまったから。
そして、彼は叫んだ。
天に向かって。
地に向かって。
不条理な運命に向かって。
彼の者の名を。
「《
瞬間、地が紅に染まった。
戦場であるスキム草原から離れた所にある竜の森。
その中の一際大きな巨大樹の太い枝の上で、青髪の少女が、遥か遠方を眺めていた。
「・・・あれは、一体・・・?」
その視線の先では、謎の禍々しい赤い輝きが空をも照らしていた。
「勇者・・・そこにいるのか・・・?」
あの輝きの元に行こうと足を踏み出そうとする。
だが、足は半歩の時点で止まってしまった。
「・・・くッ」
ギリギリと歯軋りをする。
今朝からこの調子なのだ。
スキム草原の方から強烈な殺意を感じて、様子を見に行こうとしても、身体が一向に言う事を聞いてくれない。
まるで本能が引き留めているかのように。
そして今、そのスキム草原で謎の輝きが放たれている。
一体、何が起こっているのか。
不吉な予感しかしない。
スキム草原から竜の森まではかなり距離があるはずなのに、背筋が凍りつく程の瘴気を感じる。
その証拠に、森の竜達もまるで何かに怯えているかのように、ひっそりと息を潜めている。
「皆・・・無事なのか・・・?」
かつてこの森を危機から救った勇者達の顔を思い浮かべる。
彼等があの輝きの元にいる事は間違いないだろう。
行きたい。
もし、彼等が危機に陥っているのならば、私が加勢し、その危機を取り除くべきだ。
それなのに、
「何で・・・動いてくれない・・・?」
私の身体は尚も動こうとしなかった。
私はさっきより大きくギリギリと歯軋りをした。
「アアアァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」
和斗が、紅に輝く巨大な魔法陣の中心で人のものとは思えない雄叫びを上げる。
バチバチと赤黒い電光が空気中に奔り、辺りに残っていたフロニャ力を喰らい尽くしていく。
すると、魔法陣がより一層輝きを増し、地面から謎の黒い物質が血のように溢れ出した。
それは人の形へと姿を変え、次々と和斗に飛び付いては和斗の身体の至る所に噛み付いていく。
まるで、何かを欲しているかのように。
長年の渇きを癒すかのように。
黒いバグはその様子を見ながら、感嘆に浸っていた。
黒神 和斗。
君は本当に素晴らしいよ。
僕の夢を、いや、
人は死ぬ気になれば何でもできる、と言うけれど、どんな人間が死ぬ気になっても君には敵わないだろう。
だって、君は・・・神ですら届かない所にまで、手を延ばしたのだから。
空が悲鳴を上げる。
その存在を忌み嫌うかのように。
地が身を捩らせる。
それの来訪を拒絶するかのように。
和斗の身体が黒い物質と共に紅い電光を纏いながら空へと昇っていく。
和斗を覆い尽くす黒い物質が和斗の身体に染み込み、その形を変えていった。
この世の恐怖を具現化したかのような瘴気を放つ黒衣。
彼の右手には禍々しく、歪な大振りの片刃剣。
それが放つ悲痛なオーラによって、空間がギシギシと啼いている。
そして、和斗の背中から一対の翼が生まれーーー
「・・・去ね。」
ーーーー『天使』は顕現した。
畏怖と共に。
始まりと共に。
愛と共に。
久々に出てきた黒いバグさん。
一話の初っ端以来ですね。
シャルも登場しましたが・・・こんな登場のさせ方でいいのでしょうか・・・。
不安に思います。
王子や空の巫女さんも追い追い登場しますので、しばしお待ちを。