DOG DAYS 〜The Demise Hero〜 作:セラフィエル
何かお話ししたいところなのですが、何も無いので今回は早速本編をどうぞ!
『努力は報われるんだ。』
あの台詞が脳内にフラッシュバックし、何度も響き渡る。
その度に禍々しい感情が和斗の心を支配する。
窓から見える空は黒く淀んでいた。それはあたかも今の和斗の心を鏡のように映しているようだ。
あの時ーー
"いつも通り"バスケで、失敗のオンパレードをやらかした和斗を慰めに来たイズミ。
そこでアイツは言った。
『努力は報われるんだ。』と。
その時、やっと分かった。
イズミに出会った時から俺の中で蠢いていた謎の感情。
怒りでも、嫌悪でもない。
憎悪。
紛れもない、純粋な憎悪。
俺がアイツに感じていたのは憎しみだったのだ。
気がついたら、俺はイズミを睨めつけていた。
これ以上無いほどの憎しみを込めて。
あれ以来俺とイズミは会話していない。
イズミも感じ取ったのかもしれない。
俺の中で蠢く憎悪の影を。その冷たさを。
それならそれでいい。またアイツにあの台詞を言われたら、恐らく俺はこの憎悪を抑えきれないだろう。
『努力は報われるんだ。』
「・・・ッッ、何がッ!努力なんか・・絶対にッ・・・!」
頭を抱え、アイツの声を脳内から追い出す。
しかし、それでも消えない声に苛立ち、机をバンッと叩いた。その音に驚いたのか、窓の外のカラスがバサバサと空へ羽ばたいて行った。
放課後、閑散とした教室でシンクは同じ事を何度も考えていた。
昨日見た、黒神 和斗の瞳に渦巻いていた憎悪。
睨みつけられたこと以外、特に何かをされた訳でもない。
だが、忘れられない。
彼の憎悪は間違いなくこの僕に向けられたものだろう。
しかし、なぜだろうか。
「・・・ク」
微かに・・微かだが、感じたのだ。
「・・ぇ・・・ンク・ば」
憎悪とはまた別の何かを。
「・・・シンク・・てば」
あれは一体・・・?
「シンクってば!!」ポキン
「⁉︎」
「聞いてるの?」
「聞いてなかったのは謝るよ七海。けど、僕の小指をあり得ない方向に曲げるのはどうかと思うんだ。」
「だって、いくら呼んでも聞いてくれないから・・。」
それなら肩を優しく(ここ重要)叩いてくれるなりしてくれればいいのに。
「そんなことより!」
七海が意気込む。どうやら僕の小指は「そんなこと」レベルらしい。
「さっさとレポート書くよ!」
レポート>僕の小指
随分酷い扱いだ。
「はいはい。」
まあ、七海がそうなるのも仕方ない。なにせこのレポート、膨大な量を書かなければならないうえに、期限までに提出しなければ倍以上の課題を出される。
まさに鬼畜課題なのである。
ちなみに隣にいるベッキーは、あともう少しで終わるらしい。さすがはベッキー。スポーツ馬鹿の僕達とは大違いだ。
そんなベッキーが僕を心配そうに見る。
「何かあったの?昨日からずっとその調子だよ?」
むぅ・・・話すべきだろうか。
「もし、何かあるのなら何でも話してねシンク。私、シンクがそうやって恐い顔をするの見たくないから・・。」
どうやら僕の想像以上に心配させてしまったらしい。
それなら話してしまった方がいいだろう。
「・・・実は、さ・・・・」
僕は事の顛末を話した。
すると二人は苦笑いをした。
「・・・ホント、シンクらしいね。」
「まったくだよ。」
え?なんかおかしかった?
「だって、普通そんな事で悩んだりしないよ。知り合ってほんの少ししか経ってないのにさ、それも自分を睨みつけてきた人に対してだよ?そういうところ、シンクらしい。」
隣で七海がうんうんと頷いている。
「でも・・・僕は気になるんだ。彼がどうしてあんなにも暗い瞳をしているのか。彼が抱いている憎悪の理由が。」
何もなければあんな悲しい顔はしない。
彼の過去に何かがあったのだ。
彼の心を歪ませてしまうほどの何かが。
彼の顔が思い浮かぶ。憎悪に歪んだ、あの顔。
僕は知りたい。そして、でき得るのなら・・・助けてあげたい。
ベッキーが僕の手を包み込む。
「大丈夫。シンクならできるよ。私の知ってるシンクは、いつだって勇者だから。」
そうだ。いつまでもあの瞳を恐れて、悩んでちゃダメだ。
やると決めたことはやる!それが僕じゃないか!
「ありがとう。頑張るよ。」
教室から眺める景色がいつもより明るく見えた。
そしてさらに二日が過ぎた。
今日がイズミ達の滞在最終日である。
そして・・・最後の体育。
昨日、一昨日は散々だった。授業では何かとイズミと比べられ、その度に罵倒された。
しかも、イズミから何度も声をかけられた。
俺がこの世で一番聞きたくないあの声で。
そして・・・今も。
またしても俺は大失敗をやらかした。
またしても比べられた。
『クズ神よぉ、おめぇマジでドクズだよなぁwww』
『あんなで失敗するとかwwww』
『イズミ君はあんなに頑張ってんのにな。おめぇが足引っ張ってんじゃねーよ。』
こんな罵倒は慣れているはずなのに。
イズミが関わると、俺の心が深く抉られる。
だが、俺の心を傷つける罵倒もアレよりはマシだった。
「黒神君。」
そう、アイツよりかは。
「・・・・何の用だ。イズミ。」
イズミが驚いた顔をする。そういえば、俺がコイツの名を呼ぶのは初めてかもしれない。
イズミは言葉を探すように目を閉じた後、俺を真っ直ぐ見て言った。
「僕は、君のことを知りたい。君が今まで歩んできた道を。その途中で何があったのかを。僕は知りたい。そして、もし君が苦しみにもがいているのなら・・・救ってあげたい。努力の素晴らしさを教えてあげたい。だから・・・今は少しでいい。僕を信じて欲しい。」
イズミの手が目の前にある。
俺も分かっていた。この手を取れば、変われると。
しかし、俺の心を支配したのは憎悪だった。
以前よりも遥かに大きく深い憎悪。
もう、我慢できなかった。
イズミの襟を掴み、壁に叩きつける。イズミの目が見開かれ、苦痛に歪む。
「ッざけるなッッ‼︎知りたいだと?救いたいだと?信じて欲しいだとッ⁉︎」
視界が真っ赤に染まる。
嗚呼、憎い。この男がどうしようもなく憎い。
「今までろくに苦労もせず生きてきたお前がッ‼︎俺を救うだとッ⁉︎」
コイツの周りにはいつも誰かがいた。
コイツを信頼する誰かが。
「お前に何が分かる‼︎⁉︎俺の苦しみを知ったところでお前に何ができるッ‼︎⁉︎」
俺には・・・・何も無かった。何も。
視界が滲む。
頬を熱い液体が流れ落ちる。
「お前はッッ‼︎自分の周りしか見てねぇじゃねえか‼︎自分より下の世界を見たことがあんのかァッ⁉︎」
「ッッ‼︎」
イズミの目がより大きく見開かれる。
その目には恐怖と驚愕と悲哀が入り乱れていた。
力が抜ける。もうそれ以上イズミの顔を見たくなかった。
もう一度イズミを壁に叩きつけ、体育館の入口を走り抜ける。
『待て!黒神‼︎』
教師が呼ぶ声がする。しかし、俺はその声を無視して走り続けた。
もう嫌だ
走り続ける間も瞳は濡れたままだった。
一学期が終わり、皆が待ちに待った夏休みに突入した。
まだ涼しさの残る朝。夏特有の香りを含んだ風が二人の間を吹き抜ける。
シンクとベッキーは紀ノ川インターナショナルハイスクールの屋上にいた。
もしこの様子を何も知らぬ者が見れば、これから愛の告白が始まると勘違いするだろう。
しかし、二人は何のアクションも起こさず、ただ待っていた。すると、二人の前に一匹の犬が現れた。
「やあ、タツマキ。いつもご苦労様。」
タツマキは嬉しそうに、ワン!と鳴いてシンクに駆け寄る。
シンクはタツマキを笑顔でナデナデしつつも、微かにぎこちなさが残っている。
恐らく・・・まだ気にしているのだろう。”彼”のことを。
あれ以来、シンクと黒神 和斗が会うことは無かった。
「ベッキー、何してるの?早く行こ!」
シンクが無垢な笑顔で私を呼ぶ。
シンクの後ろには既に向こうへ繋がる魔法陣が淡い桃色の輝きを放っていた。
「うん!今行くー!」
きっとシンクは向こうで自分と向き合うつもりだろう。私達の第二の故郷、フロニャルドで。
少し時間を遡りシンク達がフロニャルドへ旅立つ前日。
一匹のゴキブリがぐったりと伸ばされた腕の側を走っていく。普通ならば叫び声をあげ、直ちに別の部屋へ避難するところだ。
しかし、その腕の主はピクリとも動かなかった。
眠っているわけではない。その証拠にその眼は半眼に開けられている。
黒神 和斗は何も考えず、自分の部屋に寝転んでいた。
考えていないわけではない。考えられないのだ。
イズミに怒鳴り散らした後、家に帰ったが、待っていたのは母親の叱責と重い平手打ちだった。
その後も散々罵倒された。
母親は一度も俺に何があったのかを聞こうとはしなかった。
あれ以来、トイレと食事の時以外はずっと自分の部屋に引きこもっている。
ふと、尿意を催し、体を起こす。ちらりと右側を見ると、使い古された机の上の時計は午前二時を示している。
部屋のドアを開け、静かに廊下に出る。
トイレに行こうと廊下を歩いていくと、台所から話し声が聞こえた。声から察するに母親と父親だろう。
台所の横をさっさと通ろうとすると、母親の台詞が俺の足を止めた。
「ホントなんでうちの子はあんなにダメなのかな〜?」
「まあ、そう言うな。アイツにだって事情があるんだろう。」
「だとしても、他の生徒に暴力を振るって、さらには学校を抜け出すなんて!考えられないわ。」
父親は話題を変えようとして、アイツの名を口にした。
「たしか、和斗が突っかかっていったのはシンクとかいう子だったな?」
「そう。ホントいい子だったわ〜。礼儀正しくて、アイアンアスレチックの優勝者なのよね〜。和斗とは大違いだわ。」
和斗は自分の心が黒く塗り潰されていくのを感じた。
聞きたくないのに、足が動いてくれない。
「なんであんな子を産んじゃったのかしら。どうせだったらあんな無能な子より、シンク君が欲しかったわ。」
気がついたら俺は部屋のベッドに座っていた。
両手で顔を覆う。両手が震えているのが顔全体の肌から伝わってくる。
心が黒く黒く黒く塗り潰されて、ボロボロと崩れていく。
もう・・・・・嫌だ。
もう・・・・・嫌だ。
もう・・終わらせたい。
その瞳はもう濡れていなかった。
今回あたりで姫様を出そうと思ったのですが・・・。
いやはや小説とはなかなか難しいものです。
で・す・が!
次回は必ず出しますんで!もうしばらくお待ちを!!