【完結】TS〜朝目が覚めたら万能執事長はダメイドになってました〜 作:ラットマンΣ
相手は
本来なら勝負にすらならない。
けど———
「どうした? 怖気付いたか?」
リリスはわかりやすく挑発してくる。
俺は何も言わずに一歩づつリリスに近づいていく。
相手は理外の存在だ、仮に
けど、だからこそ!
「アキルを返してもらう」
リリスの眼前まで近づき、回し蹴りを打ち込む。
当然ながらリリスにはまるで効いてない。
「本当に弱くなったなぁ、クリス。そんな調子じゃ大切なお姫様を守れないぞ?」
リリスの右ストレートがメキメキと音を立てながら腹部にめり込む。
か細い腕からは想像できないような重い一撃と激痛が身体を襲う。
「がぁっ! う……おぇ……」
たまらず膝をつく。
しかしリリスの攻撃は終わらない。
続け様に放たれた回し蹴りで身体が吹っ飛ばされ、コンテナに激突する。
「クリス!」
あぁ、アキルの声が聞こえる。
死にかけてるって言うのに……それにしても妙に思考がクリアだ。
勝ち筋は無い。
つまらなそうな顔をしたリリスがこちらに向かって歩いてくる。
身体中が痛い。
「一方的だな、つまらん。どうするクリス? このままアキル共々死ぬか? それとも……」
リリスはドス黒い笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「
……は?
「何、アキルを差し出すならキミは助けようと言っているんだよ。キミじゃ私には勝てない。なら二人死ぬより自分だけ助かる方が合理的だ。そうだろ?」
……
「何、ついでに魔術も解いてやるし逃げ道も作ってやろう。このままではキミは間違いなくケイト達に殺されるからな」
…………
「さぁ、答えを聞かせておくれ? クリス」
あぁ、答えか。
確かにこのままじゃ二人とも死ぬ。
じゃあ———
「俺だけ殺せ」
そう告げてリリスの瞳を睨む。
リリスはその言葉を聞いて鼻で笑う。
「おいおい、そんな選択肢は提示して———」
「アキルを殺して俺を生かす選択肢があるならできるだろ」
「……ほう、キミは状況がわかってるのか? キミたちの生殺与奪権は私が握っているんだぞ?」
「だからこそさ。と言うか最初から意味不明なんだよ、この状況。なんで曲がりなりにも友好的だったアンタが急にアキルを殺す? それこそ意味がわからない」
「…………」
「最初はいつもの趣味の悪い遊びだと思ってたがそうでも無い。ならきっと意味があるんだろうな。アンタはそう言うタイプだ」
「……ほう」
「だけど、今回ばかりは完全なる解答にたどり着けそうに無い。だから……今出せる俺なりの回答を出した。それだけさ」
「……そうか、なら死ね」
リリスの手刀が俺の胸を抉り、貫く。
瞬間、アキルとの思い出が脳裏を走る。
初めて会った日、俺は恋に落ちた。
アキルはまるで宝石のようにキラキラと輝いている様に見えた。
胸が熱くなって鼓動が早まった。
それからの日々は全てが思い出だ。
喧嘩もしたし、一緒に笑って、泣いて……
気持ちを伝えた後は日々が更に輝いて見えた。
そんな日がずっと続くと思っていた。
あー……死にたくないな……
「さて、約束通りアキルは解放しようか」
リリスはパチンと指を鳴らす。
同時にアキルの拘束が外れる。
「リリス! アンタは私が殺す! 必ず殺す!」
……アキルが叫んでいる。
「……こうなるから面倒なんだ。番と言う概念がない私達にはわからないがそんなに大事か?」
「……ッ!!!」
……アキルが泣いている。
「おお、怖い。そんな表情しないでくれ。まぁ、いいじゃ無いかキミは助か———」
…………なら、立たなくちゃ!
「はぁ……はぁ……一発いいのが入ったなァ、リリス!」
殴られたリリスは不思議そうな表情をしてこちらを見る。
「確実に殺したはずだぞ? なぜ生きている?」
「アキルに泣かれたら死んでも死に切れねぇのが俺なんだよ! 勝てなくてもいい、とにかくアキルを逃すまで時間を作れればいい!」
そう吐き捨ててリリスに殴りかかる。
しかし……
「理解不能だ」
片手で止められる。
身体もまた動かなくなってきた。
チクショウ……これじゃ……
「だから面白い!」
リリスはそう叫ぶと魔術を行使する。
瞬間、身体中に激痛が走る。
「がぁ……はぁ……はぁ……」
「いやぁ、人間は面白いねぇ! 魔皇の宿主とただの執事、不釣り合いだと思ったが私の間違いだったらしい! キミたちは狂ってる! あぁ、実に実に愉快だ!」
リリスは空中に浮かびながら笑う。
「クリス!」
アキルが抱きついてくる。
……そう言えば、体が軽いし痛みがない。
なんで?
「面白いものを見せてくれた礼だ、元通りに治しておいた。それでは私はこれで。このままじゃキミの彼女に殺されかねないからね!」
そう言ってリリスとシェリーは闇に霧散した。
あぁ、けどこれで良かった……のか?
と言うか……
「アキル、少し痛いです」
「あ、ごめん! けど、クリスが無事でよかった……アイツらは後で見つけ次第殺すとして、今はそんなことよりクリスが無事なことが重要よ!」
「……けど、アキルにはカッコ悪いところ見られちゃいましたね。やっぱり俺は弱いや」
「だから何よ! クリスは弱くなんか無い!」
「けど……」
「けども何も無い! それ以上言うと泣くわよ! わんわん泣くわよ!」
「……それは困りますね。アキルの泣き顔は見たく無いですから」
「〜〜〜!!!」
アキルは顔を真っ赤にしたあと、俺の胸に顔を埋めた。
身体中が震えているアキルを静かに抱きしめる。
色々あったがこれで事件は解決……なのかな?
———後日
「あはは、助けてくれないか?」
「アキルちゃん! 私はリリスに脅迫されてただけだから!」
「関係ねぇよ! 二人とも死ぬより辛い目に合わせてやる!」
館の庭に吊るされたリリスとシェリー、二人に魔術で攻撃し続けるアキルの姿がそこにはあった。
「アキル……もう許してあげても……」
「ダメ! コイツらクリスを殺したんだよ?!」
「こちらにも止むに止まれぬ事情と言うやつがあったんだが……」
「知るか!」
この後、半日暴行を加えられた二人は隙を見て逃げました。
と言うか、止むに止まれぬ事情ってなんなんだろうか?
———某所
「ふぅ、とりあえずクリスがいるうちはアキルが魔皇に堕ちる事はなさそうだ」
「誰かさんのせいで私まで酷い目にあったじゃ無い! どうしてくれるのよ!」
「知らん。アキルの不安定性は心配だったがこれなら大丈夫だろう、全く良いめぐり合いをしたものだよ、ホント」
「リリス? 無視はやめないかなぁ?」
「……はいはい。私もなんやかんやで良い相方を持ったものだ」
「?」
「わからないなら構わんよ。さて、今後は二人の恋愛事情に少しチャチャ入れでもして楽しむかな!」