【完結】TS〜朝目が覚めたら万能執事長はダメイドになってました〜   作:ラットマンΣ

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砕けた幻想

 俺の身体は女性になった。

 力もなくなった。

 死に物狂いで鍛えた力は無意味と化した。

 こんな状態の俺に価値はあるのか? 

 アキルの隣に立つのに相応しいのか? 

 ……ならいっそ、死んでしまった方が良いのかも知れないな。

 

 

 

「痛っ……」

 

「起きたかいお嬢ちゃん? まぁ、起きてくれなきゃ俺らが困るんだけどな」

 

 痛みで目が覚める。

 ここは……廃工場か? 

 そして下卑た笑顔を浮かべる男が五人、俺は両手を縛られてろくに動けない。

 男たちがカチャカチャとズボンのベルトを外す。

 あぁ、そう言うことか。

 予玖土町では性犯罪が多い、主に一人歩きしてる女性を狙うのが定石だ。

 まぁ、詰まるところ俺はコイツらの慰みものにされるわけだ。

 あぁ、すごく気持ち悪い。

 けれど今の俺じゃ逃げられない。

 もういい、どうにでもなれ。

 

「うちのクリスに何してるんだ! このど変態どもがぁ!」

 

 聞き覚えのある大声と共にアキルが廃工場に突っ込んでくる。

 身体強化の魔術を使用してるのだろう、人とは思えない動きで五人の男を次々ノックダウンしていく。

 そして全員を倒した後、アキルは俺の手の拘束を解く。

 

「さ、帰りましょうクリス!」

 

 そう言ってアキルは笑顔で手を差し伸べる。

 月夜に照らされたその顔は美しく、そして……残酷だ。

 もう俺はいらない。

 いや、訂正しよう。

()()()()()()()()()()

 アキルは俺なんかより遥かに強い。

 俺はアキルを守っているつもりになっていただけだった。

 俺は最初から館の誰よりも弱かったんだ。

 なら、もう……

 

「さようなら」

 

 そう言ってアキルの差し出した手を叩く。

 そのまま廃工場から一目散に走り出して逃げる。

 息の続く限りひたすらに、滅茶苦茶に走る。

 アキルには酷いことをした。

 けど、けれど! もう俺は耐えられない! 

 何の力にもなれなくて、何の意味もなくて、なぜ生きる必要がある? 

 

「はぁ……はぁ……バカみたい」

 

 気づけば食屍鬼街の裏路地に迷い込んでいた。

 死にたいくせして死ぬ勇気すら無い愚者、ただ自ら居場所を捨てただけ、大切な人を傷つけただけ。

 あぁ、本当に最低だ。

 

「ふふ、良い獲物見つけた」

 

 ふとそんな声が響く。

 食屍鬼街には殺人鬼が潜んでいると聞く。

 きっと()()がそうなのだろう。

 ちょうど良かったじゃないか、どうせ死にたいんだろう? 

 なら、抵抗せずに殺されれば良い。

 目の前の少女はゆらりゆらりと動きながら距離を詰める。

 心臓の鼓動が加速する。

 

『死んで仕舞えば良い、それが答えだろう?』

 

 そうだ、それが答えだ。

 答えのはずなんだ! 

 少女の動きが一瞬で加速する。

 そしてその凶刃が()()を貫く。

 

「……死にたがりは殺しても楽しくない。精々苦しみなさい」

 

 そう言って少女は闇に消える。

 腹部からの出血は止まらない。

 手で必死に傷口を押さえる。

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い! 

 

「ぐぅ……ふぅッ……」

 

 あー、チクショウ! 殺してすらくれねえのかよ! 

 なら、俺はどうすれば良い! 

 生きて無様を晒すしかないのかよ……

 クソ……

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