PC買い替えてました(挨拶)。
あと風邪で盆休みが吹き飛びました(憤怒)。
そんなわけで空きっぱなしの投稿間隔を埋める目的でデータ引っ越しの折に出てきた走り書きを取り急ぎ清書してみたものになります。しかし今にして見ると、どうにもオチが弱い。
まあ、連載中の作品の繋ぎとしてご査収くださいませ。
作者としては初となります現代風オリジナル。
ちょっと特殊な事情を持つ女学生が面倒くさいクラスメイトに絡まれた話。
※作者の実体験が基になってたり……はしません。流石にね?
―――わたしと友達になってください。
クラスメイトという間柄の相手から、こんな言葉をかけられたとして。
極一般的な感性を持つ人間ならば、どのような返答を考えるのだろうか。
―――こちらこそよろしく。
無難なところでは、この辺りか。
―――もう友達だと思ってたよ。
多少なり奇をてらうなら、こんな答えもあるだろう。
―――こっちから言おうと思ってたのに。
こちらもまた、常識の範疇を越えてはいないはず。
いずれの答えでも相手の反応、および周囲に与える印象に然程の差異は生じまい。
仲が良くてよろしいことだ、と。それでこの場は幕となる。
……ここまでが、そのとき私の脳裏を巡った思考で。
それらを踏まえて、口を衝いて出た私の答えが、これだった。
「あなただけは無理です」
その日、私は生まれて初めて、時が止まる瞬間というものを目撃した。
「……どうして、あんなこと言ったのかな?」
私を友達にしようという奇特な意思を見せた彼女は、やがて動いた時の中で涙を溢して。
彼女の周囲に居た心優しい級友達は、我先に、思いつく限りと私に糾弾の声を浴びせて。
そんな騒ぎを聞きつけたのか、或いは誰かから知らせを受けたのか。
騒然とする場に駆け付けた担任は、中心に居た私を職員室へと連れ出す形で収束を図った。
その判断如何については、むべなるかな、と頷ける。
教師という立場で、あるいは単なる野次馬の視点でも、騒ぎの原因は私だと見えただろうし。
こうして職員室という場所で問いかけられる形となってからも、あの場で何が起きていたのかは正確に、厳然たる事実のみを告げたつもりだ。
隠さなければならない何事かの意思も、意味も、私の中には皆無だったのだから。
「……私は、『叱られている』のでしょうか」
解せないのは、そこだった。
大して長くもなり得ない話を聞いた担任が浮かべたのは、さも怒っていますとばかりの視線。
……いやまあ確かに今にして思えば、同じ内容を告げるにしても、もう少し言い方があったかと思わないこともないが……目の前の顔に刻まれた皺は、そんな理由からではないのだろう。多分。
「友達にならないかとの誘いを断った。それが何か問題なのでしょうか」
溜息を吐かれた。
吐きたいのはこっちなのだが。
「彼女の望みを、私が叶えなければならない理由が無いと思うのですが」
「どうしてそんなに彼女を嫌ってるんだ?」
何の話だ。
「友人が多い彼女を僻んでいるのかな?」
そんな話は誰もしていない。
「折角、友達のいない君に声をかけてくれたんじゃないか」
今それは関係ない。
「どうして君は、他人と仲良くできないのかな」
それも関係ない。
「成績だけが良ければ生きていけるわけじゃないんだよ?」
かんけーない。
「そういう発言は、君の価値を下げるよ?」
なんのこっちゃ。
「―――どういうつもりだよっ!」
第二ラウンドが待っていた。誰だゴングを鳴らしたのは。めーわくな。
職員室での不毛なやり取りを終えて、漸く学校の敷地外に出られたところだったというのに。
私を囲うようにずらりと並んだ顔はいずれも、あのとき彼女の周囲にあったもの。
なるほど、友人が多いというのは実に羨ましいことなのだなあ。
「あいつが折角、お前なんかを友達にしてやろうって言ったんだぞ!?」
「……いや、彼女の中にそんな偉ぶった意図は無かったと思いますよ? 多分、純粋に私と友達になりたがっていたのだと……」
彼女がそんな人間であったなら、もっと気兼ねすることなく否を言えたのだから。
「……じゃあ何で断ったんだよ!?」
「純粋な頼みなら断ってはいけない、ということはないでしょう」
私の返しを否定できなかったのか、数拍の沈黙を経て再び噛みつくような問いが飛ぶ。
しかし実に妙な内容だ。断る事が悪にされる頼みなどそもそも『頼み』とは呼ばないだろうに。
「あの子の何が悪いっていうのよ!?」
「……別に何かが悪いと言った覚えは無いんですが」
早くも既視感に襲われる。
せめて脈絡のある質問をぶつけてくれないものだろうか。
「人気者のあの子が羨ましいんでしょ!」
何故そうなるんだろう。
「お前なんか誰も受け入れてやらねーからな!」
じゃあ、さっさと一人にして欲しい。
「ちょっと頭良いからって調子に乗って!」
はいはい。
「どうせ、独りでいるワタシかっこいい、とか思ってんだろ!」
なんだそりゃ。
───彼女本人に、何か悪い点があるわけではない。
私がこんな上から目線で言うのも難だが、『人気者』になるだけの人格者だとは思っている。
そして、私が友達を作らないことにしている、というわけでもない。
声をかけてきたのが彼女でなければ、少なくとも真っ先に『否』を考えはしなかった、と思う。
多くの人間に散々溜息を吐かれたが、返す返すもそうしたいのはこっちの方だ。
こうなった以上、私の友人作りは最早考えることすら億劫な程に困難な道程になってしまった。
人気者からの誘いを断った、という唯一点によって、だ。
「……頑張るつもりは、あったんだけどな」
ようやく、ようやく、帰ってこられたアパートの自室で、誰に聞かせるでもない呟きをこぼす。
聞いてくれる相手など居るはずのないそこで、疲労を訴える手足を投げ出して、天を仰いだ。
私にも、友人を作りたい、という意思はあった。……未だ実行には移していなかったけれど。
何せ、どうやって作っていいものやら想像もできなかったから。
周囲で、初対面同士のはずの人間が、瞬く間に友人関係を築いていく様を見て。
後に人気者となる彼女に至っては、何をしているようにも見えないのに、日に日に新しい人間に囲まれていく様子に戦慄して。
自分もどこかの輪に入れないものかと、真剣に考え始めた矢先の、この始末。
「……『成績だけ良ければ』、『頭良いから』……そんなので……」
決して広くはない、冷え切った空気漂う、それでも必死の思いで
制服に教科書、文房具。あとは最低限の衣類と毛布───これが私の、
『成績だけ』で通れる門戸を備えた学校を探して、そこを潜り抜けたのだから、『成績だけ』の人間と言われたら、否定する材料を私は持たない。
……それでも、私にだって、憧れはあった。
『普通』の子どもとして、『普通』の子どもの集まる場に足を踏み入れて。
友人の一人も作って……『普通』に過ごせる目が、私にもあるんじゃないか、と。
そんな憧れと……淡い期待を、抱いていなかったといえば、嘘になる。
「まあ、でも……仕方ないか」
今一度、深く溜息を吐きながら、心の声を確認するように独りごちる。
それでも、どんな思考を重ねようとも……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ええ、昨夜娘が泣いて帰ってきて、聞けば心無い言葉を浴びせられたというものですから事情を伺いに、ね?」
翌日、再び連れてこられた職員室は、とんでもなく面倒なことになっていた。
どうやら日を跨いで第三ラウンド開幕らしい。勘弁してくれ。
「いえいえそんな、こちらも娘がお世話になっている立場ですから……ただ、何か問題があったというのであれば、お聞きしておかないと私もこの人も、ねえ?」
「…………」
あの人気者がそのまま十余年を経たような女性が、大いに含みを感じる言葉と共に小首を傾げ。
その視線の先、かっちりしたスーツに身を包んだ長身の男性が、ただ無言無表情で傍らに佇む。
…………なるほど。両親に愛されるとは、本当に、幸せなことなのだなあ。
「……私が出て行って解決する状況とは思えませんが?」
遠くからでも明らかなほどに顔を引きつらせた担任と、その眼前に立つ御両親。
修羅場という言葉を形にしたような様を指して問えば同意するところはあったのか、登校直後の私を引っ張ってきた教師も渋い顔を見せる。
それでも選択は変わらず、物理的に背中を押された私に、彼らと相対していた担任が気付き。
彼の様子から何かを感じ取ったか、振り向いた女性は視界の中心に私を捉えた。
「…………あら、あなたは?」
女性が微笑みを消した。
……そうか。そう来るのか。それなら私も……
「犯人です」
「まあ」
私が何かを言う前に、担任の口からあまりにもあんまりな説明が入った。
その紹介は流石にないんじゃないかと、喉元まで出た抗議の言葉を飲み込む。
……誰に何と言われようと、私は後ろめたいことなど何もしていない。
「どうしてあなたは、あの子のお願いを断ったのかしら?」
やんわりとした女性の声を契機に、矢衾も斯くやと集まる、職員室に居並ぶ教師達の視線。
女性の後ろに見える担任など、最早顔全体で「さっさと謝れ」と言っている。
「……私は、彼女の友人になれる人間ではないので」
しかし謝罪するつもりも、そうしなければならない理由も、私には無い。
故に、口にするのは私自身の、偽らざる本心。
親娘の血筋を感じさせる透き通った瞳が、じっと私を見据えている。
私もまた、穴を開けんばかりに向けられるそれを、逸らすことなく見つめ返す。
沈黙に耐えられなくなった幾人かが、足早に退出していくのが気配で分かった。
「…………そう」
睨み合いを終結させたのは、薄く口の端を上げた女性の一言。
傍らの男性の耳元で何事かを囁いたかと思えば、呆気ないほどに軽く踵を返した。
「お騒がせしましたわ。それではまた」
微笑みをその顔に被せ直し、去っていく女性を残っていた教員が呆然と見送る。
スーツ姿の男性が、やはり無言のままその後を追い―――去り際に一度だけ、振り向いて。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、視線が重なった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――遠慮しないでください!」
「……いいえ、私は友達になれる人間じゃありません」
何と言って良いのか非常に迷うが……何というか、『人気者』は強かった。
「そんなことありません!」
「……周りの『友達』にも聞いてみてください。きっと私と同意見なはずですから」
精神が強くないと『人気者』などやってられないんだろうと、そう思った。
「えっ? そんなことないよね、みんな?」
「……えっと」
「その……」
吐いた唾は呑めぬ、を体現した彼らが一様に口をつぐむ。
純粋な頼みを断る、ということの辛さを彼らも体験してくれていることだろう。
「……母親からも何か言われてませんか? 私だけは友達にしてはいけない、とか」
「はい。お母様は、あの子だけは駄目だ、と」
「そうですか、やはり言われて……えっ、言われて?」
「はいっ!」
返ってきた言葉に一瞬納得しかけて、何かがおかしいことに気付く。
……というか何故こうも元気が良いんだ。そんな快活に断言することじゃないだろうに。
「あの子は悪い人間だから、近付いては駄目です、と」
「…………そこまで言われているというのに、何故?」
思った以上にハッキリ否定されていた。心外だが都合は良い……はずなんだけどなあ。
なんで彼女は先日と変わらない勢いで迫ってくるのか。何がどうなってるというんだ。
「だってわたしは、あなたを悪い人だとは思いませんから!」
……そう宣った彼女の瞳は、どこまでも真っ直ぐで。
その言葉は、願いは、どこまでも純粋なものだと理解させられて。
「だから、わたしと友達になってください!」
今すぐ両手で頭を抱えたくなる思いを、必死にこらえて。
意思を無視して苦笑いを浮かべようとする頬を、懸命に抑えて。
私の口から、出た答えは。
「あなただけは無理です」
―――実のところ。
彼女を擁護する人達の指摘は、割と鋭いところではある。
彼女に何も悪いところなど無いし。
私が彼女を
私は一度たりとも、それらを否定してはいない。
理由が的外れ過ぎるから聞き流しているだけで。
……彼女には、悪いと思ってはいる。
だが何と言われようと、正しい理由を話すことも、その願いに応えることも私にはできない。
だからさっさと諦めるか―――
……いや、どうも諦めさせようとしたのに当人が諦めなかったらしいが。
そこは私の関知するところではないので、あちらで決着をつけて欲しい。切実に。
……きっと彼女は、夢にも思ってはいないだろう。
私が―――私達が、
妻に先立たれ、乳飲み子を抱えていたところを見初められた男が、自分の父親で。
そんな彼と強引に婚姻を結んだ……らしい女が、自分の母親であるなど。
義理の妹、および実の父親から隔離されて育った
そして……彼女には、想像することもできないだろう。
つい先刻の
たまたまクラスメイトとなった人間が、自身に対し臓腑が煮え返る程の憎悪を抱いているなど。
……こちらに関しては正しく単なる八つ当たりでしかないので、仕方のない話なのだが。
───友達になることに理由は要らない、というのはよく聞く言葉だ。
ならば
私の理由は単純だ。
彼女が羨ましくて、妬ましくて……憎くてしかたない。たったそれだけ。
殺したいほど憎い相手を、友達とは呼びたくない。それだけのことだから。
だから何度頼まれても。
何度乞われても。
私の答えは、決して変わらない。
あなただけは無理です。
嫌いな相手とは友達になりたくない。ただそれだけのお話。
Q. プロトタイプ?
A. いえいえまさかー。
……ヒロアカと出会っていなかったらこれが処女作になっていた可能性が微粒子レベルで(ry
ちなみに作中の担任にはモデルになった人物がいます(一個人ではありませんが)。