異世界転移モノの元祖(?)ことサモンナイトシリーズ4作目に、みんな大好き(圧)アトリエシリーズをブッ込んでみるテスト。
なんか思いついちゃったけど上手くまとまりそうにないから書きたいとこだけ書いてみたやつ。
要するにいつものアレ。今回ちょっぴり長編のプロローグ風味。
なお現在鋭意執筆中の新作とは全くの無関係なのです。
「ぐーるぐーる……ぐーるぐーる……」
特注の大きな釜の前に立つ、一人の少女。
片手にはかき混ぜ棒、もう片方の手に開いているのはおそらく自前の手記の類い。
妙にヒラヒラとした衣服をはためかせ、時折手にするのは傍らに用意した奇妙な粉末・固形物。
「ぐーるぐーる……ぐるぐる、ぐるー……」
しっかと握った棒を差し込む先は、これまた奇妙な液体が煮え立つ釜の中。
脱力感溢れる掛け声(?)と共に、かき混ぜられるそこから立ち上るのは奇々怪々な多色の煙。
「ぐるぐる……ぐぅーるっぐぅーるっ」
時と共に、煙の色が変わるたびに、披露されるバリエーション豊か(?)な掛け声を耳にしつつ
総じて聞く者の気が抜けることに変わりはないが、少女と釜の中では何か意味があるのだろう。
釜より漏れる気泡の音に、ただ煮込むではない微細な変化が生まれているのがその証左か。
煮込まれている釜の中で、何が起きているのだろうか。
この不思議な少女の手で、何が起こされているのだろうか。
見る者に不安と期待を与える後ろ姿は、しかしどこか楽し気で。
やがて、ひときわ奇怪な光と軽い音を最後に、釜が沈黙する。
ふう、と額の汗を拭った少女は何を思ったか、つい先程まで煮え滾っていた大釜へと躊躇い無く手を突っ込み───
「できたーっ!」
背後の者達が戸惑いを抱く暇すらなく、取り出されたそれは何らかの固形物。
作業の終了を宣言した少女の手に乗った、完成品、らしき物に集まった彼らの視線が注がれる。
性別、年齢、体格はもとより、その出で立ちも、人種すらもが雑然とした一団。
されど今この場での彼らに共通するのは、少女の持つ物体に向けた視線と、そこに色濃く宿った途方もない───困惑の色。
「…………」
集まった一団の中、周囲の目配せを受けた灰色の髪の少年が、代表のように少女に歩み寄る。
手の上の物体、少女に言われて用意した大釜に調理場、使われた材料の残りを順繰りに見つめ、最後に深く溜息をついた後、少女へと向き直って。
「……で、何が出来たって?」
「えっ? だからパイだよ?」
「…………そうだな。うん。パイを作るとは聞いたけどな?」
「───なんであの煮込み作業で
ほかほかと白い煙と素晴らしい芳香を立ち上らせるパイを手に、きょとりと首を傾げる少女。
少女の使った器具、器材、場所を貸し与えた少年の儘ならぬ慟哭が響き渡るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町はずれの丘の上に佇む小さな宿屋、『忘れじの面影亭』。
旅人など滅多に訪れぬ町の、さらに人目につかぬ場所に建つこの宿屋は、これまた奇妙なことに年端もいかぬ一人の少年によって切り盛りされていた。
年に似合わず類まれな才能を見せる少年の料理は、町の中ではそれなりの知名度を持っている。
また非常に安価であることも相まり、駐在軍人や、職人、学生など腹を満たしたい客にとって、この店はまさしく垂涎の『穴場』として扱われていた。……
……そうした理由から一向に使われることの無い宿泊施設の部分を、逆に人目を避けたい者達がひそかな感謝を抱きつつ利用しているのは別の話。
「なんでだよ……なんで釜かき混ぜてパイが出来るんだよ……しかも結構うめえし……」
皿に乗せた少女のパイを胡乱な瞳で見つめながら呟くのは件の少年、名前はライ。
世にも奇妙な手段で十数個作られた『焼きたての』パイ達は今、経緯はどうあれ作ったからには食べねばならぬと、店主である彼を含めた宿に滞在する人物たちに快く振る舞われていた。
「我も存外長く生きてきたつもりであったが……あのような術がこの世にあるとは、いやはや己の無知を久方ぶりに思い知った気分だ」
言葉は悲観的ながらどこか愉しみを含んだ声でそう批評するのは、赤い毛髪から奇妙な突起物を覗かせ中華風の衣装を纏った青年、セイロン。
少女の調理───『調合』を最も鋭く観察していた彼は、しかしすっかり眼光の緩んだ目で己の手の中のパイを見遣る。
「釜の中で物質の変異が……まるで世界の法則を書き換えて……まさか、ですけれど……」
その隣、困惑に歪んだ呟きの主は、薄紫の頭髪の先に黄色の輪っかを浮かべ、背中からは純白の羽を生やした眼鏡の少女、リビエル。
なお、特に関係の無い余談だが、パイが無くなったのは彼女の眼前の皿が最も早かった。
「あの釜だって何の変哲もない普通の釜よ。使ってた棒も勿論ね。召喚術は勿論、機械技術だって一切使われてやしないわ」
「用意した材料も、街で買ってきた物をそのまま渡しただけだっだよ」
おかしな仕掛けは何も無かった、と主張するのは栗色の髪の姉弟、リシェルとルシアン。
ついでにパイの美味しさを、昔馴染みでもある
「……認めるほかあるまいな。我々の常識を超えた術の存在を」
ついに、といった様子で諦念を込めて呟いたのは、褐色の肌に民族衣装と思しき羽飾り、背には鷲のような羽を生やした女性、アロエリ。
少し前まで傍目にも明らかだった強い反発心も今は彼方。投げやり気味になった感情を隠さずに吐露した彼女に、同情と共感の視線が集まった。
「同時に彼女の、『機界』『鬼妖界』『霊界』『幻獣界』そのどれでもない世界の出身だ、という主張を認めることにもなるかと」
総括するように告げたのは、金髪に黄緑の瞳、幼い姿でありながら理知に富んだ立ち振る舞いを見せる中世的な顔立ちの少年、コーラル。
そして示し合わせるように、その場の人々の視線が、今しがた彼らの常識を吹き飛ばして見せた淡紅色の髪の少女へと注がれた。
「んぐ、ふぁからいったふぇしょ?」
「うん、パイ呑み込んでから喋れ?」
「もぐもぐ……ごくん。だから言ったでしょ? 私はこことは違う世界の『錬金術士』だって」
そう言って胸を張った彼女───ロロライナ・フリクセルの言葉を、誰も笑うことはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───え、えーと……ここはどこ? 皆さんは誰なんでしょうか……?」
「うわ……何か間違えたかなあ……」
アーランドが誇る錬金術士、ロロライナ・フリクセルことロロナが異世界『リィンバウム』へと召喚されたその日その時。
彼女の目の前には大勢の少年少女達が、「やっちゃった……」という顔をしていました。
「……君、召喚式を間違えましたね?」
「せ、先生……そんな筈は……」
「では君には、この女性が機械兵士に見えると?」
「うう……」
目の前に居た、学生だろう少年へと駆け寄り叱咤を始めたのは教師然とした男性。
言葉少なに指導を───おそらく簡易のものであり、この後しっかりと雷を落とす予定で───行った彼は、まだ呆然としていたロロナに振り返ります。
「私の生徒が申し訳ないことをしました。お詫びにすぐに元の世界に送還して差し上げます」
「え、あ、はい。どうも……?」
元の世界? 送還? と頭を捻るロロナを置き去りに、男性は机の上にあった宝石を拾い上げ、学生へと指示を始めました。
ロロナは後に知った事ですが、召喚者である少年が召喚に使った宝石───『召喚石』を使い、然るべき作業を行うことで、召喚された生物を召喚元の世界へと帰すことができるのです。
十数分もしない内に送還される相手に事情の説明は不要。
事情を知れば誰でも同じ判断をするだろうと、ロロナでさえもそう思いました。
すなわちこの時、
今ごろロロナは何事も無く元の世界に帰りついていたことでしょう。
「……あれ、何か落ちてる。なぁにこれ?」
「え…………わっ!? さっきので落としちゃ───!!」
たまたま傍にいた生徒に指摘され、足元を見たロロナが慌てた頃には後の祭り。
それが
───幸いなことに、爆発による怪我人は居ませんでした。
ですがロロナにとって大変なものが、爆発の犠牲となっていたのです。
「……あなたを召喚した召喚石が砕けてしまいました。こうなってはもう……あなたを元の世界に送還して差し上げることは……我々にも、できません」
辛そうに告げる教師と、傍でしゃくりあげる少年に、ロロナは怒る気にはなれませんでした。
なにしろ元々、理不尽な不運不幸には慣れ切っていた彼女です。
向こうに残してきた友人や愛弟子の事は気がかりでしたが、嘆いてばかりではいられません。
その教師を始めとした人々に、この世界『リィンバウム』について聞き込んだ後で、心機一転、異世界の錬金術士として生きていくことを決意し、意気揚々と旅に出たのでした。
旅は楽なものではありませんでした。
襲い掛かってくる野盗に、異世界の獣、はぐれ召喚獣達。
とはいえロロナだって女一人、あるいは三人程度でそれなりに旅をしてきた経験があります。
召喚されたときに持っていた道具も健在であり、わりと危なげなく旅を続けていました。
しかしそうして旅を続ける中で……とある重大な問題にぶつかることになったのです。
「───食い物の用意をしてなかった、と。……ただの馬鹿じゃねーか」
「ひどいっ!? 私馬鹿じゃない……よっ!?」
「何でちょっと自信無さげなんだよ。そこはせめて胸張れよ」
憤慨しながらも微妙に歯切れの悪いロロナに呆れ顔のライ。
ちなみに店の前で空きっ腹を鳴らして倒れていた彼女を、最初に発見したのも彼である。
「……これも一つの『召喚事故』なのかな。ご不幸でしたね……」
「いや『理不尽な不幸に慣れてる』って何なのよ。元の世界でもひどい目に遭ってたってこと?」
「まあ、おもに師匠のせいで……流石の師匠でも異世界なら追ってこれないだろうし、それだけはラッキーかなあって……」
「また変なところで前向きですわね……」
「大体、あんなヘンテコな方法でパイが作れるのに、どうして行き倒れるのよ?」
「その、釜が無いのを忘れてて……向こうで旅する時は必ず持ってたから、逆にそのせいで食べ物用意するの忘れちゃって……えへへ」
「……まさか普段からああやって食べ物を『創って』たんですの……?」
「それより旅に大釜を持ち歩いてたっていうのが……」
傍目には凄まじい不幸やら過酷な旅路をどうにも楽観的に話すロロナに閉口する一同。
一方、ここリィンバウムでは似た事例が悲痛な、それでいて
「……まあ、とにかく。悪いヤツじゃなさそうだよな」
「元々コーラル君や御使いさん達もそこまで警戒してなかったもんね」
「……何々、何の話?」
「こっちの話だ」
「気にしないで下さい」
「???」
首を傾げるロロナを尻目に、ライ達がひそひそと言葉を交わす。
そんな彼女にふっと笑った彼は、今度はにやり、と含みのある笑いを浮かべた。
「……で、行き倒れてたあんたにたらふく食わせてやったけど。ここは宿屋で、オレは店主だ」
「あ、はい」
「金はねえけど『錬金術』があるって言ったあんたの言葉は確かに嘘じゃなかった。つってもあれぽっちじゃあんたが食った分には全然足りないわけでな」
「ま、まあ、それはそうですよね……」
「そもそも材料はあたしたちが買ってきたものだものね」
出される料理を出されるままに掻き込んだ事を今更ながら後悔しているらしいロロナ。
冷や汗と共に目を逸らす彼女に、殊更悪ぶった笑顔を作るライ。
「ここはやっぱり……『体』で払ってもらうしかねーわな?」
「それは勿論……って、か、『体』で!?」
椅子から立ち上がり、赤面するロロナにゆっくりと歩み寄るライ。
思わず後退った彼女の視界に、やれやれと頭に手を当てる姉弟の姿が見える。
「わ、私、結構若く見られるけど実はそんなに若くないし……っ! そ、そういうのはあんまり、経験が……」
「大丈夫大丈夫……誰でも最初は初めてさ、な?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───ありがとうございました。またのご来店お待ちしてまーす」
「…………」
「『体で払う』ってこういう事かあ、ああ良かった……」
翌日の食ど……もとい、ライの宿屋。
そこには店の制服に身を包み、配膳用のトレイを手に立つロロナの姿があった。
ライが彼女に求めたのは、宿屋が昔から抱えていた慢性的な人手不足の解消の一助。
友人のよしみで手伝ってきたというリシェル達と共にホールに立った彼女は、これなら大丈夫としみじみ呟いた。
「あはは……納得しちゃうんですね」
「ライったら変なとこで悪戯好きなんだから。ところで案外手慣れてるし、もしかして経験者?」
「実は一回、本格的にパイ屋さんをしてみようかなあ、なんて思って色々……結局やめちゃったんだけどね」
「ふーん……あ、そういえば『実はそんなに若くない』って言ってたけど、実際何歳なの?」
「ね、姉さん、いきなりそんなこと聞くなんて……」
「あ、えっと……もうすぐ三十歳になる、はずだったんだけど……」
「答えるのっ!? しかもなるはずだったってどういうこと!?」
「あはは……師匠のせいで、ちょっと……」
「何者なのよ、あんたの師匠さん……」
「……オマエら遊んでねーで手を動かしてくれよー?」
「はは……」
ホールの喧騒に厨房から呆れて呟くライに、そのすぐ傍で曖昧に笑うコーラル。
昼時を前にした食堂の束の間の和やかさに、少年少女達の華やかな声が響くのだった。
「……でも人手が欲しかったならそう言ってくれれば、錬金術で用意したのに」
「「「…………えっ?」」」
「…………いや、あんたの錬金術がすげえのは分かったけど、人手はどうにもならねえだろ?」
「なるよ。ちょっと変わった材料が必要なんだけど…………ちょっと」
「え、私? …………ちょ、あんた、何言って……っ!?」
暫し黙考したロロナが、リシェルに耳を貸すようにと手招きする。
招かれるままに近寄りぼそぼそと何事か呟かれた彼女は、やがて顔を真っ赤にして飛び退いた。
「誰なら協力してくれそうかな、て。私じゃ分かんないし」
「わ、私にも分かんないわよっ、そんな事っ!」
「ね、姉さん、何を……」
「あ、あんたにはまだ早いわっ!!」
「えぇ……」
「手持ちの素材だとあんまり沢山作れないけど……まいっか。店長さん、後で釜借りるね?」
「お、おう」
「手持ちがあるんなら先にそう言いなさいよおっ!!?」
「……何なんだよいったい……」
「───御子様、異常はありませんか?」
「……大丈夫だよ」
「前から言っていますが、こんな店の手伝いなど御子様がされなくとも……」
閉店後の食堂へと戻ってきたリビエル、アロエリ、セイロンの三名がコーラルを囲む。
三人が彼に見せる態度を誰かが見たならば、主君に仕える臣下のそれと見ただろう。
「僕が、お父さんの役に立ちたいんだよ」
「……そうですか」
「……そう言うオマエらの方こそ何か無かったのかよ?」
主の返答に複雑な表情を浮かべる彼らへと、店内の清掃に移っていたライが問いかける。
日中、とある理由から外回りに出ていた三人は、しかし一様に首を横に振った。
「いや、実に平和なものであったよ。先日までが嘘のようにな」
「昨日の今日ということもあるのだろう。そう毎日のようには動けまい……お互いにな」
「……ところで、あの『錬金術士』の方はどこへ? 店員として扱うと聞いていましたけど」
「あぁ、何か『人手が足りねえ』って言ったら『錬金術』で何とかするっつって……また調理場で釜かき混ぜてるぜ」
「むう……ヒトカタの札でも作る気であろう、か───?」
鬱々とした話題を避けようとしたのか、件の『錬金術士』へとリビエルが水を向ける。
結果、返ってきた答えにセイロンが己なりの解釈を下そうとしたところで、『それ』は現れた。
「───ちむっ」
「へっ?」
「ぬっ?」
「ふえっ?」
彼らの目の前に、いつの間にか小動物のような人影が鎮座していた。
薄青色の髪に、袖を大きく余らせた燕尾服。
頭頂部には白いフリルのカチューシャを付け、くりくりとした青い瞳に尖った耳。
ライの上半身程しかない全身を精一杯に伸ばし、その存在をアピールする姿。
加えてその特徴的な鳴き声(?)に、虚を突かれた一同は呆然と口を開けた。
「……な、何だこいつ? どっから入って来たんだ?」
「やだ、かわいい……」
「言ってる場合かっ!?」
未だ驚愕に動けずにいるライ、何やらとろんとした目で頬を染めるリシェル。
真っ先に気を取り戻したアロエリが、小さな侵入者の首根っこを荒々しく掴みあげる。
「ちむっ!? ちむむ~……」
「ぐお……っ、か、かわいい……」
「ちょ、ちょっとアロエリっ!? あんまり乱暴なことは……っ!」
幼児虐待にしか見えないその光景に、思わず制止の声を上げるリビエル。
他方、涙目になった顔を目にしたアロエリの身体は釘打ちでもされたかのように静止した。
「ふうむ……こちらにも似たような
「えっ?」
「ちむー……」
俄かに巻き起こる騒ぎの傍ら、やや離れたところでセイロンが床から何かを摘み上げる。
宙吊りで袖をパタパタと振っているのは、確かに喧噪の只中にあるものとよく似た生物だった。
違いとして挙がるのは、栗色の瞳にツインテールの髪型、加えて衣服の意匠の違い。
先の個体を雄とすれば、こちらは雌の個体という風体である。
60cm程度の体長と風変わりな鳴き声を共通に、されるがままぷらぷらと揺れる童女(?)は何やらじっとりとした目をセイロンへと向けていた。
「ふむ……『鬼妖界』の
「……『霊界』の悪魔は勿論、天使でもなさそうですわ」
「『幻獣界』でもこのような種族は見たことがないぞ」
「一応確認するが機械じゃねーよな?」
「ちむちむ」「ちむ~」
「この子達が機械なわけないでしょっ!」
「だよなあ」
「どの世界の住民でもなさそう、かと」
最初の警戒心はどこへやら、いつの間にか先に目に入った個体を至極大事そうに抱きしめているリシェル、および羨ましそうな眼を向けている
そうこうするうちにこの侵入者たちがどう見ても人間でないことはもちろん、『四界』の何れの住民でもなさそうだ、との見解が固まった。
「……つーことはだ」
「うむ、おそらくは、だが」
「うーん……やっぱり二人しかできなかったかあ」
「……ということであろうな」
「だよなあ……」
やや残念そうな顔で調理場から姿を見せたロロナを、胡乱な眼差しで迎えるライとセイロン。
二人のそんな視線を、彼女は心なしか胸を張って受け止めるのであった。
「ちむむ?」「ちむー」
「くあぁ……かわいい……」
「り、リシェル? わたくしにも一人……」
「……お、オレにも少しぐらい……」
「ちむっ!」
「駄目よ、この子アロエリの事怖がってるもの。……大丈夫よ、私がこわーいお姉さんから守ってあげるからねー」
「ちむ~」
「ぐぅ……」
「わ、わたくしにもぉ……」
「……で、あいつらは一体何なんだ?」
「ちっちゃいホムンクルスの『ちむちゃん』だよ。店長さんが人手が要るって言うから作ったの」
奇妙な生命体二匹を巡って取り合いを始めた女性陣を放置し、ロロナに詰問を始める男性陣。
半ば以上確信があり、本人の様子を見ても明らかとはいえ、それでも問い質さねばならぬ疑問がそこにはあった。
「作ったって……ロロナさんが作ったんですか?」
「うん。材料が少なくて二人しか作れなかったけど」
「……ちなみに、釜で?」
「うん、釜で。昨日みたいに」
「むう……既に向こう十年分ほどの驚きを味わったと思っていたのだが……」
「コーラルを拾った時より驚いたかもしれねえ……」
「……その驚きは妥当、かと」
あっけらかんと答えるロロナに、さらに深く深く額に皺を刻むセイロン。
痛む頭を押さえるように手を遣る彼の視線の先には、たらい回しのように移される女性陣の腕の中で目を回すちむちゃん達の姿があった。
「…………『あれ』には明らかに魂がある。そういった事に詳しいリビエルでなくとも理解できる程にな。それも含めて『創った』というなら、最早神の御業と言わざるを得ないのだが……」
「そんな偉大な人物には見えない……」
「……?」
首を傾げるロロナに向けられるセイロンの目は複雑な感情を湛えている。
コーラルも尊敬の意を表すべきなのだろうかと、困惑を浮かべるばかりだった。
「……で、あいつらが人手の代わりになんのかよ? あんなちっこいのに何ができるんだ?」
「甘く見ないでよー? ちむちゃんはすっごく賢いんだから。───ちむちゃん達、集合ー!」
「ちむ?」「ちむーっ!」
「「あぁっ、ちむちゃーんっ!?」」
リシェル達の悲痛な叫び(?)を振り切り、二体のちむちゃんがロロナの元へと駆けつける。
とてとてとやってきた彼らに頷いたロロナは、手にした籠の中から何かを取り出し、二体の前にそっと差し出した。
「ちむちゃん、ちむくん。『これ』、お願いね?」
「「ちむー」」
「それ、昨日のパイ……?」
集まってきた二体にロロナが見せたのは、昨日振る舞われたパイの残り。
たったそれだけの指示に二体は意を得たとばかりに頷き、戸惑う男性陣の視線を浴びながらも、ぱたぱたぺたぺたと足音を立てて調理場へと向かっていく。
「……ほっといて大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。生まれたばっかりだし、ちょっぴり時間がかかると思うけど」
「あの! ……様子、見てきても良いですか?」
「うん、良いよ。あ、でも邪魔しないであげてね」
「はーい」
いち早くロロナの許可を得てリシェルが、やがてその後を追ってリビエルが、さらに暫しあってアロエリが、二体の向かった調理場へと消えていく。
アヒルの親子を想起させるその光景に、ライは今日だけで何度目か分からない溜息を吐いた。
「……先ほど『ホムンクルス』と言っていたな。それが種族名ということか?」
「種族……? うーん……錬金術で作った人工生命体だよ」
「人工生命……」
「材料が無かったってことは、材料さえあればもっと沢山作れるんですか?」
「うん。でも誰か男の人に協力してもらわないといけないから……」
「そういやリシェルの奴が顔真っ赤にしてたな。何なんだよ、その材料って?」
「……気になる」
「んー……ライ君達にはちょっと早いかなあ……」
「何だそりゃ?」
「…………ふむ、そういうことか?」
「セイロンさん、分かったんですか?」
「うむ、おそらく。だが確かに、店主殿達には少々早いかも分からんな」
「ちぇ……そう言うならセイロンが協力したらどうだよ?」
「ふむ……あれほどの物が出来ると知っていれば協力するにやぶさかではないが……」
「うーん……亜人さんの『それ』を使ったことは無いからどうなるか分かんないです」
「であろうな」
「ちむっ、ちむっ」
「ちむー」
二体のちむちゃんがホールに戻ってきたのは小一時間後。
彼らを見守る女性陣を背に、その小さな手には皿に乗ったパイがそれぞれ乗せられていた。
「パイ……昨日ロロナさんが『創った』パイを、この子達も作ってたんですね?」
「そうだよ。錬金術で作ったものを見せれば、同じものを作ってくれるの」
「……錬金術で?」
「錬金術っていうか……『複製』?」
ロロナへの確認の後、ライはちむちゃんの働きぶりを見ていただろう女性陣に視線を送る。
気付いた三人が頷き、ロロナの言葉に偽りが無いことが保証され───彼は遠い目になった。
「ありがと、ちむちゃん達。ほら、食べてみて?」
「あ、ああ、そんじゃ一つ……」
「ちむっ!」
心なしか誇らしげに皿を掲げるちむちゃん(雄)からパイを一切れつまみ、口に運ぶライ。
一同の奇妙な沈黙の中で咀嚼、嚥下し……彼は呆然と呟いた。
「うめえ……昨日食ったパイと全く同じだ」
「ちむーっ」「ちむむーっ」
彼らにとって最上の評価ということか、くるくると回って喜びを表現するちむちゃん達。
───その様子に「ごふっ!」と鼻を押さえ、倒れこむリシェル。ライは目を逸らした。
「良かったね、ちむちゃん達。ご褒美にそのパイ、食べていーよ」
「ちむーっ」
「ちむしゃ、ちむしゃ……」
ロロナに言われて皿を床におろし、二体は幸せそうな顔で小さな口一杯にパイを頬張り始める。
───その姿に「くふっ!」と断末魔を上げ倒れるリビエル。ライは見なかったことにした。
「ちむちゃん達はみんなパイが大好物なの。パイを用意してあげれば何でも仕事をしてくれるし、難しい仕事をさせようとすると初めはちょっと時間かかっちゃうけど……そのうち仕事を覚えたら早くなっていくよ。こう見えて力も結構あるし、配膳ぐらいならすぐさせられるんじゃないかな」
「お、おう……」
取り扱い説明という風情で告げられる情報に、ライの頭の中で経営者としての算盤が弾かれる。
碌に人件費もかからず、仕事に文句も言わず、小ささゆえに居住空間もとらず、きっちり仕事をこなして、極めつけには幾らでも量産可能な店員。
口癖のようだった『人手が欲しい』という呟きからとんでもないものを用意されたことに、彼は遅まきながら気付き始めていた。
「……ひょっとしてロロナさんって、とんでもない人なんじゃ……」
「疑惑でもなく確定、かと」
「相変わらず途方もない『拾いもの』をするものだな、店主よ?」
「は、ははは……」
むぐむぐと口を動かす二体を見下ろしながら、乾いた笑いをあげるライであった。
ちょっとだけ続く。
ちなみにアトリエ側は『メルル』の時間軸イメージ。
ただしロロナの見た目は14歳です。アストリッドの野望成功ルート?
次パートはその辺りにも少し触れる……かも?
とはいえ本格的な長編連載にする予定はありません。
軽ーくプロット作ったらサモナイ側のシリアスをアトリエ側にブッ壊させる形になっちゃって、これ双方へのリスペクトが足らねぇな? なことになったのです。ダメだこりゃ。
そんなわけで軽く読んで笑えそうなとこだけ短編扱いで書き出す所存なのです。あしからず。
作者のサモンナイトシリーズプレイ歴は3と4のみ。
周回も何度かはしましたが、流石にキャラEDを埋めきる情熱は無かったクチです。
そういえばサモンナイトとメルルって裏ダンジョンがどっちも『無限回廊』なんですよね。
だからどーだこーだ言うわけではないんですがね。