サモンナイト4 in ロロナ Part2。
サモナイ側パーティにロロナ加入まで(イメージ)。
ある程度はサモナイ側の背景に触れておかないと個々の発言の意図が描写できない。
おかげで妙にIQの高いロロナが出来上がってしまった気がががが……
「───はっはっは! どうだ、驚いたか?」
「う、うわぁ……本当に若返っちゃった」
「若返っただけではないぞ。もう『老化』というものに煩わされる事もない。腰も曲がらなければ髪も白くなったりはせん。関節の痛みともおさらばだ」
「ああ、師匠も実は結構……」
「何か言ったか?」
「な、何でもないですっ!」
藍色の長髪をたなびかせ、薬品の入った瓶を手に高笑いする壮年……
その傍ら、眼前で起きた出来事に目を丸く、ついでに余計な事を口走った『愛弟子』が上機嫌な彼女のひと睨みに縮みあがった。
ロロナの師にして、自他ともに認める天才かつ天災錬金術士、アストリッド・ゼクセス。
二十代前半の身体だという主張に違わず、そこに重ねられていた年月を見事に消し去った彼女は常にも増して不遜を地で行く尊顔に満悦といった表情で頷きを繰り返す。
「ともあれ実験は成功だ。流石の私でもそれなりに苦労はしたが……上手く行って何よりだな」
「ええ、良かったですね、師匠」
「おいおい随分他人事だな? 何のために私がお前を呼び出したと思っている?」
「……えっ?」
師の成功を祝った直後、思わぬ返答にポカンと口を開けるロロナ。
その視線が今も師が握っている薬品───先程使われた物の残り───を捉え、続けて師の目と合わさり……にこりと微笑まれたことで、彼女は全てを悟った。
師弟と言えども今は別々のアトリエを営む錬金術士。
なのにわざわざ呼び出しを掛け、目の前で『若返りの薬』を調合、飲用してみせた真の理由。
「……え、うえぇっ!? わ、私はいいですよう。やっとスタイル良くなってきたし、良い感じに貫禄もついてきてるのにいっ」
「お前に貫禄など無い。有っても似合わん。それに三十路に突入したロロナなど私は見たくない」
「ひ、ひどいですっ、というか最後のが本音ですよねっ!?」
「私は嘘などつかんぞ。全部本音だ」
「あ、ああもう……どこから突っ込めばぁ……」
「しかしまあ、それほど嫌がるというならば仕方ない」
「……はぇ?」
「やれ、ホム」
「「はい、グランドマスター」」
アストリッドの号令一つ。傍らに佇んでいた一組の少年少女が能面のような顔のまま動き出す。
そのまま二人は呆けて動きの留まっていたロロナの両腕をそれぞれ掴み、さながら十字架にでも張り付けるように肩まで広げさせた。
「え……ちょ、ちょっと!? ホムちゃん、ホム君!?」
「すみません、マスター」
「グランドマスターの命令ですので」
「全く往生際の悪い奴だ。薬の安全性は他ならぬ私自身が証明してやったではないか」
「う、うう……ち、ちなみに私は、何歳ぐらいになるんですか?」
「勿論、一番私好みの年齢……14歳前後だ」
「……一生?」
「そうだな……解毒薬など作る気はないし、一生というか……未来永劫、だな」
「…………う、うわああんっ!? 誰か助けてえー!?」
「「暴れないで下さい、マスター」」
動かない腕の代わりにじたばたと振られる足と首。
そんな動きも二人の少年少女に抑え込まれるロロナ。やれやれと首を振るアストリッド。
まるで破落戸に無法を働かれる乙女の如き構図であった。……あまり語弊もないかもしれない。
「全くお前も贅沢な奴だな。若返りに不老長寿となれば人類の夢だぞ。もっと喜んだらどうだ?」
「うう~……で、でも心の準備がぁ……」
「時間の無駄だ。……まあ、考えてみれば、まさにその時間が無限のものになるのだから、多少は待ってやってもいいが……」
「ほ、本当ですか!? じゃ、じゃあ───」
「だが時間を置いたところで私の結論は変わらん。故に無意味だ。ホム、口を開けさせろ」
「……お、鬼~っ!? 師匠のおごっ!? おごご……!?」
「……すみません、マスター」
「……グランドマスターの命令ですので……すみません」
能面のような表情に心なしか同情するような感情の浮かんだ少年達の顔がロロナの視界に映る。
それでもその手は躊躇い無く口内に突き入れられ、こじ開ける力は万力の如く。
「ほれ、投入ー」
「~~~~~~~っ!!?」
慣れ親しんでしまった師匠の企み笑顔を最後に、ロロナの意識は消失した。
「~~~~~~~っ!!? …………あ」
跳ね起きた身体。耳と喉に残る叫び声の余韻。
薄暗い室内を見回し、足の下まで吹き飛ばしてしまった掛け布団を見下ろして。
「ゆ、夢かあ……」
へなへなと背中から倒れこんだロロナが、深い溜息を吐く。
───異世界にいるのに夢の中にまで入ってこないでくださいよ……などと心中で愚痴りつつ。
「……どうせ召喚されるなら、あとちょっと早かったら良かったのになあ……」
そう呟いた彼女が見下ろすのは、実年齢と大いに差のついてしまった己の身体。
主には寄せて、上げて、見栄を張れる程度にはあった
今では綺麗に平坦になってしまった『部分』をぺたぺたと押さえ、落涙はらはらと。
「まあでも、なっちゃったからにはしょーがないよね。うん、今日も一日がんばろっと」
泣いたカラスがもう笑う。
持ち前の、あるいは常人離れするまで鍛え上げられた切り替えの早さを発揮し、むしろ鼻歌でも聞こえそうな笑顔で起き上がって。
異世界の錬金術士、ロロライナ・フリクセルの一日が、今日も始まるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちむっ」「ちむ~」
「……話には聞いてたが、すげえなあ」
「ほ、本当に凄くかわいいなあ……」
「お嬢様が骨抜きになる気持ちも分かっちゃいますね……」
明くる日の宿屋。
そこには二体の『未知』に呆然と呟き、頬を染め、困り顔を作る三人の男女の姿があった。
ここ『トレイユの町』の駐在軍人であるグラッド。
自宅の菜園で採れた野菜を宿に卸している召喚師、ミント。
リシェル達姉弟の父親に雇われ、その屋敷のメイドとして二人の世話係を務めるポムニット。
それぞれ足繁くこの宿を出入りする一同の一員だが、先日までは仕事に追われていたらしい。
ライ達からそんな説明を受けたロロナは少しばかり首を傾げつつも、まあそんなこともあるか、と頷きつつ、二度目となる『顔合わせ』を見守っていた。
「本当にとんでもないんだな……その、錬金術って奴は」
「帝国の研究者の人たちがこの子たちを見たら、きっとひっくりかえっちゃうね」
「私からすると、この世界の『召喚術』っていうのも凄いなーって思いますよ?」
この世界『リィンバウム』に当たり前のように存在する召喚術。
その非常に壮大な仕組みに、こちらへ来たばかりの頃は大いに圧倒されたと、この世界で軍人、召喚師を務めるという彼らにロロナは返す。
産業、工業、興業、軍事技術……あらゆる分野に利用され、この世界の文明を支える召喚術。
様々な奇跡を可能にするその術の要訣は唯一つ『異世界の住民の力を借りる』。この一点だ。
『リィンバウム』の周囲───あくまで比喩的表現だが───に存在する世界から、その住民を『召喚』し、『召喚師』の思いのままにその力を引き出させる技術、『召喚術』。
火を出す、雷を出す、水を出す、と言った即物的なことから、労働力にする、戦力にする、など長期に渡る隷属まで、全ては『リィンバウム』側の召喚師の意思一つ。
───何故そのような一方的な契約が可能なのか?
召喚それ自体は遥か昔に確立された技術らしく、今となっては詳しい事は不明である。
とはいえ召喚された異界の民が忽ち人形のように自由意志を奪われるかと言えば、一部の例外を除いてその限りではない。
その場で伝えられるだろう召喚師の要求を跳ね除ける事も、物理的には不可能ではないのだ。
……では何故召喚された殆どの者が、そのような不当な扱いを享受するのか。
その答えもまた単純明快。
召喚された者を元の世界へと帰せるのは、その召喚を行った召喚師のみだからだ。
故に召喚師の要求がどれほど不当なものであろうと、元の世界へ帰りたければ従う他ない。
突如として縁も所縁も無い異世界に呼び出されたと思ったら、帰りたかったら言うことを聞けと要求されるのだ。彼女にとって理不尽の代名詞であった
そんな技術体系が当たり前に使用されていると聞いた時、さしものロロナも背筋を震わせた。
主に利用されているのは四つの世界。
『機界ロレイラル』、『鬼妖界シルターン』、『霊界サプレス』、『獣界メイトルパ』。
それ以外の世界、ロロナの居た世界を含めた無数の世界は一纏めに『名も無き世界』と呼ばれ、それらからの召喚は基本的に技術が確立されておらず、未熟な召喚師の起こす『召喚事故』などで偶発的に発生するとのこと。
リィンバウムに生きる人々にとって、異界の住民『召喚獣』は一纏めに従僕、悪く言えば家畜。
特に現地の人間と身体的差異のないロロナならば、わざわざ申告でもしない限り召喚獣の扱いを受けることはない、と早々に知ることができたが、そんな彼女ですら旅路の中で『相応の』扱いを受ける召喚獣を目にする機会に困ることはなかった程である。
そのような扱いを受ける同胞が嫌というほど目に入るのだ。例え正当な契約を順守する召喚師の元でも召喚獣が不信感を抱くのは自明の理。
人は召喚獣を見下し、召喚獣は人を忌避する。
そうした種族間の軋轢が遥かな昔から続いている世界。それがこの異世界リィンバウムである。
「───だから、この宿に来たときは、すっごく驚きました」
「で、あろうな」
長い、ともまだ言えない旅路で培ってきた知識と自らの認識を語ったロロナ。
流石に常のように明るくは振る舞えなかった彼女に、代表として頷いたのはセイロンだった。
この場に居合わせた者の中でも、セイロンは『鬼妖界シルターン』の龍人。
リビエルは『霊界サプレス』の天使。
アロエリは『幻獣界メイトルパ』の獣人である。
そんな三人に守られ、仕えられていると見える少年コーラルも、角のような突起を頭に持つことから何らかの世界の召喚獣であることは明らかだ。
しかしロロナが見る限り、この宿に集まる一同は互いに、まるで旧知の友人の如く接している。
時折、隅に集まっては自分に聞こえないようにぼそぼそと相談しているのが気になるところではあったが、それなりの事情があるのだろうと思い、突っ込んで聞くようなことはしていなかった。
異世界で過ごした経験は、彼女にもそういった分別を身に着けさせるに至っていたのである。
「確かに召喚術はそういう技術だよね……」
「ミントとオヤカタのような関係を築けるのなら、それが一番なのだがな……」
第三者の目から召喚術の印象を語られ、目を伏せるミントとアロエリ。
帝国の召喚師という肩書を持つミントは、やはり多くの召喚獣を使役してきている。
特に彼女の菜園を今も管理しているのは、『オヤカタ』と名付けられた『幻獣界』の住民だ。
基本的には「ムイムイ」としか喋ることの出来ない種族なのだが、同じ『幻獣界』の住民であるアロエリには意思疎通が可能らしく、主であるミントを心から慕っていることが判明したのはつい先日のことであった。
「……ふむ。そういうお主の世界では、やはり錬金術は広く知られた技術なのか?」
「え? いやあ……少なくとも私の居た国には私も含めて三人しかいなかったです」
「そうなのか?」
鬱々としてきた空気の転換を狙ってか、それとも単純な興味からか、この世界の『召喚術』からかの世界の『錬金術』へとセイロンが話題の変化を試みる。
どこかほっとした様子で流れに乗ったロロナは、しかし先とは毛色の違う苦い表情で答えた。
「うん。私と、私の師匠と、私の弟子の三人」
「さながら門外不出の技術ではないか」
「まあ、やれることを考えたら妥当なような……」
「簡単には教えられない、みたいな規則があったわけ?」
「う~……それがその……私はむしろ色んな人に広めようとしたんだけど……」
「師匠に止められたとか?」
「そういうわけでもなくって……」
訪ねるごとに、ばつが悪そうに項垂れていくロロナ。
その様子に、一同の頭の中で徐々に疑問符が膨らんでいく。
やがて彼女はそんな視線に負けたように、懺悔のような呟きを溢した。
「……私の教え方が悪くて、誰も身につけられなかったの。初めは凄く簡単な調合をやって見せて後で同じことをさせようとしたんだけど……それで調合に成功してくれたのは一人だけで……」
「……その一人というのが唯一の弟子、というわけか」
「本当に教え方の問題だったのか、元々が突飛すぎるせいなのか……」
「わたくし達には何とも言えませんわね……」
この世界の召喚術と比較すれば、お世辞にも広く普及しているとは言い難いらしい錬金術。
習得難度故か、はたまたあまりに『常識外』に過ぎる為か……ともあれ自分達が抱いた反応は、かの世界基準でもそう珍しいものではなかったと知り、再び複雑な顔になる召喚獣一同。
「あんたも相当とんでもないけど、あんたの師匠ってどんなもの作るわけ?」
「えっと……例えば『ちむちゃん』達は、師匠が作った『ホムちゃん』達を目指して作ってるよ。ホムちゃん達はちゃんとお喋り出来るし、身体もずっと大きいんだけど……その辺りが私と師匠の差っていうか……」
「……こいつらも大概だと思うけどな」
「「ちむ~?」」
会話の内容を理解しているのかどうなのか、視線を向けられて首を傾げる二体。
なお、どうやらあれから女性陣の間で決まり事ができたらしく、今はミントとポムニットの腕の中で無自覚な愛嬌を振りまいていた。
「あとは、若返りの薬。そろそろ四十肩が辛いとか多分そんな理由で二十代の身体に若返ってた」
「……は?」
「それから老化するのは面倒臭いって言って、不老長寿の薬も」
「…………はあ!?」
「しかも三十路になった私なんて見たくなーい、とか言って無理矢理同じ薬を私にも……」
「いや、ちょ……はああっ!!?」
まるで天気の話でもするかのように告げられていく、あまりにもあまりな情報の弾丸。
理解の遅れる頭に次々と追撃を受け、碌な反応もできずに叫ぶばかりになるライ。
尤も、彼以外の反応も似たようなもので、一様に驚愕を張り付けた顔で硬直していた。
「そ……そういえば昨日、見た目と年齢が一致してないみたいな話を……」
「じゃ、じゃあ……あんた、年取らないわけっ!?」
「まあ、多分……師匠が作ろうとして作れなかった薬なんて無いだろうし」
リィンバウムでも人間の寿命はロロナが居た世界の人間と大きな違いはない。
一部の四界の住人には機械兵士や霊魂等、寿命の概念が乏しい種族も居るには居るが、それでもなお『若返り』『不老』という単語への驚愕は界の境を越えていく。
……当のロロナは先ほど以上にぐったりと項垂れているのだが。
「す、すごい事じゃないですかっ!?」
「まあ、そうなんだけど……せめて自分で選ばせて欲しかったなって。……あともうちょっとだけ早く召喚されてれば逃げられたのになあ……」
「……確かに『永遠の生』を強制してきたとなると、何とも無体な御仁であるな……」
「丁度、その薬を飲まされた瞬間に召喚されたのか……」
「うん。気が付いたらこの身体だったんだ。こうなる前はもうちょっとこう……寄せられるものもあったんだよ? ホントだよ?」
胸の下に両手を添え、虚空を持ち上げるような仕草を見せたロロナが一層深いため息を吐く。
それを目にして「ああ……なるほど。分かる気がする……」と同じポーズで深く頷くリシェル。
人類の夢を実現したという話からと思えば、あまりにあまりな着地点。
真剣に嘆き、頷く二人に、どう反応していいやら分からず目を逸らす男性陣であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、そういえば今日はお店休みだって言ってたっけ」
その日、身につき始めた癖で早朝に目を覚ました彼女は、そう呟いた。
「んー……休みかあ……どうしよっかなあ……うーん」
もともと何か当てがあってこの町に来たわけでも、旅をしていたわけでもない。
客も店員も宿泊客も誰一人居ないがらんとした宿の中で、ロロナは一人唸った。
「ちむ~」
「ちむちむー」
訂正。三人(?)で唸った。
「……というか、みんなどこに行ってるんだろ?」
店主であるライに、その息子(?)コーラル。
加えて、扱いとしては宿泊客であるセイロン、リビエル、アロエリ。
後者の三人については揃って出払うことも多いが、その際に纏っていることが多い剣呑な空気はロロナも感じとっていた。
「多分、コーラル君に何か秘密があると思うんだけど……今度、一回だけ聞いてみようかな?」
種族も年齢も性格もまるで違う三人が、『御子様』と呼び慕っている少年。
どこかの国の王族か、貴族か───頭に浮かんだ放浪癖の王様と怒りっぽい幼馴染を一旦、横に置いて───などと考え、だとすれば何か複雑な事情があるだろうと軽く納得し。
聞いて教えてもらえなかったら、それはそれで仕方ない。
一宿一飯の恩返しもそろそろ返済し終えるし、その後は「そんな人達も居たな」で終わる話。
そんな結論を出した彼女は、近く始められるだろう再びの旅路へと意識を向けて。
「……そうだ。また行き倒れないように『アレ』作っておかないと……でも、何日もかかるような調合を調理場でやったら流石に迷惑だよね。……よいしょっと!」
何度か錬金に使った大釜の前に立ったところでそれに気付いたロロナは、調理場から宛がわれた部屋へと釜の運び出しにかかった。
気合一声、持ち上げた大釜をゆっくりと移動させ───そのままでは扉を通せないなど、暫しの悪戦苦闘を経つつ───どうにか運び込むまで小一時間。
「ふう……あとは素材が……う~ん、だいぶ少なくなっちゃったなあ」
額に滲んだ汗を拭き拭き、部屋内の調合の準備を整え、次に移るは素材の選定。
コンテナ代わりのカゴを取り出し、中身を眺めた彼女は、どこか寂し気にそう呟いた。
思わず、という調子で漏れた言葉の意味は、単純な素材の数のことではない。
元より旅路の中でも使えそうな素材は見掛ける端から拾い集める癖がついているロロナのこと。素材不足が見えてくるなどそうそうあることではない。
それでも『少なくなった』と言ったのは、召喚されたときに持っていた素材のことであった。
植物や鉱石など似通った性質を持つ素材は数あれど、世界を隔てれば細かな違いは数知れず。
それだけに、見慣れた、使い慣れた素材は元の世界の思い出にも直結するもの。
それが目に見えて少なくなっていくことが、ロロナに一抹の寂寥感を与えていて。
「……しょうがないよね。使わないとどんどん悪くなっていっちゃうだけだし」
ぶんぶんと首を振り、彼女は選んだ素材を釜へと投入する。
誰も居ない宿の中に、再び「ぐーるぐーる……」という掛け声が響き渡るのだった。
「───ちむっ、ちむっ」
「……わっ!? ど、どうしたの、ちむちゃん?」
「ちむむっ、ちむー!」
調合に専念するなか、どれほどの時間が経っただろうか。
ぱたぱたと全身で異常を訴えるちむちゃん(雄)に視界を遮られ、ロロナは驚きに手を止めた。
「ちむっ、ちちむっ!」
「ついてきて欲しいの?」
「ちむーっ!」
「……まあ暫くは大丈夫かな」
釜の様子を確認、作業の中断を受け入れ、案内されるままに宿の外へと出るロロナ。
敷地の境まで近付いたあたりで、宿の周囲に集まる見慣れない人影が彼女の視界に入る。
「あれ、お客さんかな? 休店日って書いてある「ちむーっ!!」の、に……!?」
ロロナの呟きを遮ったのは、人影の中から響いたちむちゃん(雌)の悲鳴。
流石にただ事でないと駆け出した彼女が見たのは、奇妙な出で立ちをした人物に摘み上げられるちむちゃん(雌)の姿であった。
「…………」
「な、何ですかあなた達!? ちむちゃんを離してあげてくださいっ!」
「ち、ちむぅ……」
「…………」
「ああっ、ちむちゃん!?」
「ぢむっ! ちむむぅ……」
摘まみ上げた奇妙な生物を首を傾げて観察していた人物は、ロロナの姿を認めた瞬間、無造作にそれを放り投げる。
その体躯に対し高所から地面に叩きつけられたちむちゃん(雌)が、涙目で足を引きずりながらふらふらとロロナの元へと歩み寄った。
「こ、こんな子に乱暴して恥ずかしくないんですか!?」
「…………」
「そんな仮面までして何やってるんですか? 仮装ですか? かっこいいと思ってるんですか!」
「…………」
普段お人好しと能天気を体現するロロナとて、こんな様を見せられれば黙ってはいられない。
本当に珍しく、眉を吊り上げ食って掛かる彼女を、件の人物は相対者に感情の動きを伺わせない仮面の向こうで見下ろして。
「…………シャアッ!」
「うわわっ!?」
「「ちむ~~!?」」
奇妙な沈黙の後、得られた返答はこれまた奇妙な掛け声を上げての飛び掛かり。
振り被られたギラリと光る金属の爪のような武器に、後ろに倒れるようにして身を躱すロロナ。
「…………」
「…………」
「…………」
「わわっ! な、何か集まってきた!?」
彼女の悲鳴に応えるかのように、姿を見せたのは同じような出で立ちをした五、六人の人影。
風変わりな仮面で顔を隠すのは共通。手には如何にも殺傷力の高そうな得物の数々。
「…………」
「…………」
「あ、あはは……なんか、まずそうな雰囲気……」
仮面を見合わせ、微かに頷き合う彼ら。
慌てて立ち上がったロロナから見えた、仮面の目出し穴から覗く冷酷な瞳。
日頃から暢気ではあれ、危機感が欠落しているわけではない彼女。この後に迫る展開にも容易に想像がついたらしく、苦笑いのままじりじりと後退って。
「「ちむ……」」
「うー……しょうがないなあ」
その足元には、痛めつけられたせいもあってか、怯えて身を寄せ合うちむちゃん達。
いよいよ口をへの字に曲げたロロナは、渋々といった様子で小さな玉を取り出した。
「弱いものいじめする子には、おしおきだよっ!」
取り出した玉を頭上へ一投。
玉を追って上を向いた彼らの視界を埋めたのは、弾けるように広がる桃色の光であった。
「「「───えええぇーーっ!!?」」」
「わわっ!?」
突如響いた叫び声に、釜の前で飛び跳ねるロロナ。
直後、部屋に迫った慌ただしい足音と共に、彼女の部屋の扉が荒々しく開けられた。
「ロロナっ!? オマエか!?」
「何がっ!?」
血相を変えて飛び込んできたライに、ロロナが身を竦ませる。
やや遅れて、どやどやと部屋の前に集まってきたのは宿の住人一同および協力者達。
「『これ』よ、食堂に置いてあったこの変な球っ!」
「あ、そういえば」
「やっぱりオマエか……というか、その様子だと忘れてやがったな?」
同じく部屋に飛び込んだリシェルが、ライの手に乗せられた青く透ける球体を指差す。
うっすらと中に何らかの影が見えるそれは、手の上で時々飛び跳ねては彼を驚かせていた。
「うん。宿の周りに変な人達がいたから……ちょっとね」
「変な人達……」
「確かにまあ、どうひいき目に見ても質の悪い連中には違いないが……」
呆れたように言ったグラッドが球体に顔を近付け、中の人影を改めて観察する。
そこには揃いの仮面にギラつく武器を振り回す幾つもの人影が、指人形のような大きさになって球体の中で暴れていた。
術理は分からずとも、人の手で為されたとすれば実に残酷極まりないとも言える所業の顕現。
同情するような連中ではないにせよ、一体何があってこうなったのかと彼は困り顔で尋ねる。
「だってその人達、ちむちゃんを苛めてたんだよっ、ひどいでしょっ!?」
「「ちむ~……」」
「成程、死刑ね」
「死刑だな」
「万死に値しますわ」
「そのまま刻んで肥料にしちゃおっか」
「姉さん!? アロエリさん!? リビエルちゃんにミントさんまでっ!?」
グラッドからの問いに憤慨を露わに答えるロロナ。力強い即答で支持する女性陣。
瞬時に般若の気配を背負った姉達、および心優しい女性達の豹変にルシアンが悲鳴を上げた。
「人を空間ごと圧縮するとは……全くなんという術か……」
「す、すごい……うわっ」
虫を見る目になる女性陣の傍ら、球体を見定めたセイロンが慄きと共に息を詰まらせる。
同じく顔を近付けた瞬間、中の者達が反応したのか、今までより僅かに大きく飛び跳ねた球体にコーラルが身をのけ反らせた。
「私のとっておきだからね。名付けて『ぷちおしおき』っ!」
「……どこらへんが『ぷち』なんだ?」
「それはほら、『ぷち』っと潰せそうでしょ?」
「……っ!」
「お、おお……思ったより恐ろしい由来であった」
「流石にそれは……寝覚めが悪すぎんぞ」
「……弱った頃に安全な場所で出してやって取り調べをするとしよう。……正直言って、この手の奴らが何か話すとも思えないけどな」
ロロナを含めた女性達から溢れる怒りに、若干どころではなく引き気味の男性陣。
目線のやり取りを経て、駐在軍人という立場から球体を運び出したグラッドは、背中を突き刺す幾つもの視線に冷や汗をかきつつ足早に駆けていくのだった。
「…………あの人達、コーラル君を狙ってきたんだよね?」
「っ!?」
「ぬっ……!」
「オマエ、どうしてそれを!?」
球体に囚われた連中の処遇を巡る喧噪から暫し。
虚を突くようなロロナの発言に、コーラル、セイロン、ライの三人が息を飲む。
「何となくそうかなって。初めはお忍びの王子様とかかなーって思ってたけど、そう呼んでるのがみんな召喚獣の人達だったから、もっと複雑なんだろうなって思って聞かないようにしてたんだ」
「……だとよ、セイロン?」
「……深慮、痛み入る」
「…………」
俄かに警戒を解き、息を吐くセイロンとコーラル。
彼らの緊張の理由は複雑の一言では済まないところにあるのだが、それでも二心を感じさせないロロナの姿は救いにもなっていたのだろう。
「にしても思ったより色々考えてたんだな、お前」
「むっ、どういう意味かなあ?」
他方、ライの軽口にわざとらしく頬を膨らませてみせるロロナ。
目が笑っているあたり、自分でも普段からの短慮な行動に覚えはあるのかもしれない。
「……もし、力になれそうなら協力するよ? 行き倒れてた所を助けてもらった恩もあるし」
「ふむ……しかし、其方のような童女に危険を強いるわけには……」
「私、実際の年齢はもうちょっと上だし。それにそれを言ったら店主さん達こそ……」
「……何にせよ、店主殿に決めてもらうとしよう」
「オレに?」
「我らは元より好意に甘えている身。彼女を同志に迎え入れるか否か、決める立場にはあるまい」
「…………」
「一応、私見を述べさせてもらうなら、未だ底の見えぬ『錬金術』は勿論、彼奴らに一人囲まれて無事でいるような人物だ。我らにとって大いに助けとなろう傑物には違いなかろうな」
「そりゃ確かに」
重ねられたセイロンの言葉に、ライは軽く笑って頷いた。
上目遣いに見上げてくるコーラルと目線を通わせた後で、彼は結論を口にする。
「───頼む。手貸してくれ、ロロナ」
「うん! 貸してあげるっ!」
笑顔で手を差し伸べあい、固く握手。
これが、至龍の御子を巡る戦いに、異界の錬金術士が加わった瞬間であった。
……そんな二人の顔前に、一筋の黒煙が漂う。
「…………あっ、ああああ~~~っ!?」
「ど、どうしたっ!?」
突如、素っ頓狂な声をあげたロロナに驚くライ。
慌てふためく彼女の視線をなぞれば、長時間放置されて黒煙を吹き始めた釜が鎮座していた。
「この釜……部屋に運び込んでたのか? つーか、この黒い煙は……」
「う、う~……駄目っ、手遅れだー!? みんな逃げてーっ!」
「「ちむーっ!?」」
「て、手遅れ……?」
「御子様っ!」
釜を覗いて数秒、固まる面々を掻き分けるように飛び出していくロロナとちむちゃん達。
咄嗟にコーラルを抱えて部屋を離れるセイロン。ちむちゃんを追って駆けだしていく女性陣。
結果、その場に残されたのは、呆けていたライ一人だった。
「お、おい……何が───」
何が起こるんだ。───そう言いかけたライの視界が光と煙に包まれる。
彼が最後に見たのは、爆音と共に跳ね飛ぶ大釜と、四散する宿の調度品であった。
『ロロナが仲間になった』(システムインフォ)
サモナイ側のシステムで再現するとしたら固有スキルガン積みになりそうですね。
衛星攻撃α・βみたいな扱いで、S級召喚並の威力と範囲の特殊攻撃「テラフラム」とか。
そしてネタにしました『トトリ』のロロナの超必、『ぷちおしおき』。
初見時、『ぷち』ってそういう意味かよ、と突っ込んだプレイヤーは作者だけではないはず。
あとアストリッド師匠って大体こんな感じですよね(風評被害?)。
結果的に幼児化しちゃったロロナには流石にちょっと悪いと思ってそうな気配こそありますが、最初から14歳化に成功してたら全く悪びれなかったんだろうなあという熱い信頼があるのです。
しかし改めて見返すとサモンナイト側の事情が世紀末過ぎる件について。
なにが
次Partでサモンナイト4 × アトリエ短編は最後になります。