サモナイ4 in ロロナ Part3(完)。
ちなみに作者が竜の子の中で一番好きなのはミルリーフです。
……じゃあ書けよ? コーラルの方が書きやすかったんですもん。
───そこは見渡す限りの花畑だった。
足元から地平線の彼方まで、どの方向を向いても延々と続く鮮やかな花。
誰でもが一目で現実ではないと気付いてしまう、まさしく『夢のような』光景。
「…………」
歩く足の感覚ずらおぼろげで。
微かな眠気に瞼をくすぐられ。
それでも歩みだけは緩めずに。
迷いなく進むは地平線の先、ぼんやりと浮かぶ遠い人影。
「……っ!」
やがて向かってくる『少年』に気付き、『少女』もまた動き出す。
互いの顔が見える距離、声の届く場所まで近付いて。
「……ライさん」
「よう、エニシア」
少年は相好を崩して、少女は頬を上気させて、言葉少なに挨拶を交わす。
幻想と見紛うこの場所が、慣れ親しんだ待ち合わせ場所だとでも言うように。
「思ってたより早く、また会えたな」
「私はずっと待ち遠しかったです。毎日あなたに会う事を楽しみに眠っていました」
細く、小さな手を合わせて、儚げに笑うエニシア。
少女の纏う物憂げな空気を振り払うようにと、ライは口の端を吊り上げてもう一度笑った。
「オレもだよ……今日は泣いてる暇なんかねーくらい話してやっからな?」
「……うんっ♪」
それは夢か幻か。世にも不思議な二人だけの世界。
「この前は……オレが宿屋の店主をしてるって話をしたっけな」
「うん」
「それでなんだけどつい最近さ。すっげー……すっげーヤツに出会ったんだ」
「……どういう風に?」
「まあ、出会ったつーか……ウチの前に行き倒れてたんだけどな」
「……えぇ!?」
幻想の如き空間に独り、瞳を泣き濡らしていた少女。
見ぬふりは出来なかった少年は、故は分からずも手を差し伸べて。
「げっそり痩せた顔で『な、なにか食べ物を……』って言われてなあ。とりあえず店の余りモンを気が済むまで食わしてやったんだけどよ」
「う、うん」
「そいつがまあ……すげえんだよ。ワケわかんねー方法でワケわかんねーモンを作るんだ」
「……?」
「最初は、パイだったな」
「パイ? パイって……お菓子のパイ?」
「ああ。……でっけー釜に小麦粉やら何やら放り込んで、かき混ぜてたら……パイになるんだよ」
「え……パイってそうやって作るものなの?」
「ちげーよ、普通はな。でもそいつはそれで焼き立てほかほかのパイを作っちまえるんだ。しかも食ってみたら結構うめえし……」
「わぁ……」
互いに何処に住んでいる何者なのか。
現実にどれほどの距離があるかも知らず、ただ夢の中で交わされる時間。
「で、その後に作ったもんが、また本当にとんでもねーんだ」
「……何を作ったの?」
「…………子供」
「……えっ?」
「オレの腰の高さもねーくらいの、ちっちゃい子供を二人。そいつが言うには、人工生命体らしいんだけどよ」
「えっ、えっ……えぇ!?」
「パイから飛躍しすぎだろと思ったぜ。それにそいつら、店員として使えるなんて言い出してな。
半信半疑ながら使ってみたら……しっかり働くんだよ、これが」
「……さ、流石に嘘……だよね?」
「オレもどっちかってーと嘘だと思いてえ。なんなんだよアレ。いやマジで……」
どうやら現実では深窓に佇んでいるらしい少女に、少年は今宵も俗世を語る。
話題には事欠かぬ日々に振り回される彼も、この時ばかりは苦難もまた幸いとしながら。
「……そいつ、『名も無き世界』から召喚されてきたらしいんだ」
「あ……」
「そんで、召喚されたときの事故で召喚石が砕けちまって、帰れなくなったんだと」
「…………」
「その割には、ぽやーっとしてて、悩みなんて全然無さそうなんだけどな」
「そ、そうなんだ……」
俄かに表情を陰らせた少女に、何故か遠い目で語る少年。
すぐに晴れたにせよ、事故の話に心を痛めるは彼女もまたリィンバウムに生きる者である証か。
「っ……あの、その人って、男の人? それとも女の人?」
「ん? 女だな。見た目は俺達とそう変わらねーけど、実際には結構年上らしい」
「……髪の色は?」
「桃色……つったらいいのかな? ちょっとオマエの髪に似てるかな」
「…………帽子を被ってる?」
「帽子? 被ってっけど……何だよ、急に何でそんなこと───」
「それって……
「…………へ?」
「「「…………」」」
此処を夢の中と認識した上で逢瀬を重ねていたライとエニシア。
二人と、その声と、後は花畑しか存在しない筈、目覚めれば忽ち消え去る、その世界に。
「何で店主さんがここにっ!?」
「こっちのセリフだあーっ!?」
三人目の来訪者、異世界の錬金術士ロロナの姿があったとさ。
「あっれえ……? 期待した効果となんか違う……なんでだろう……?」
「なんでだろう、じゃねえよ……」
「ええと……ロロナさん、でしたよね?」
「うん。エニシアちゃん、でいいかな?」
「は、はいっ」
しきりに首を傾げるロロナに、呆れ声と共に胡乱な目を向けるライ。
他方、この異常事態を意外にすんなりと受け入れている様子のエニシア。
狭い世界しか知らない自覚がある分、許容範囲が広いのだろう。
元々が所以不明の奇跡の中、何が起きてもおかしくはないとは彼女の言だった。
「それじゃあここは、店主さんとエニシアちゃんの夢の中、ってこと?」
「オレ達はそう思ってたな。……実際どーかなんて分かんねえんだけど」
「ふーん……この世界だと、夢同士が繋がるってことがあったりするの?」
「いや、少なくとも俺は聞いたことねえ」
「私も、その、深く考えたことは……」
「……なんか、お邪魔しちゃったみたいで、ごめんね?」
「えっ? ……い、いえ、そ、そんなことは……っ」
「そもそも人の夢ん中にどうやって……錬金術か。マジで何でもありだよな……」
ロロナから目配せ一つ。ほのかに頬を染めたエニシアが小さく首を振る。
そんな乙女達のやりとりに気付いているのか否か、肩を竦めたライが独りごちる。
「なんだか最近、不思議な夢をよく見るから、もっとしっかり夢に入れるようになる道具を作ったつもりだったんだけどね。どうしてこうなったのかなあ……」
「それで他人の夢に入っちまったのかよ。……また部屋ふっとばしてねーだろうな?」
「わ、私だってそう何度も失敗しないよ! ……たぶん」
「ふ、ふっとばす?」
「ああ、後で話すつもりだったんだけどな? こいつ、オレの宿を一部屋丸ごと爆破しやがって、今は改めて弁償として働かせてる最中なんだよ」
「……その節はどうもご迷惑を……」
「…………」
苦笑しながら頭を掻くロロナ。圧倒されっぱなしのエニシア。
そんな二人を暫く見比べていたライは、不意に何かに気付いたように声を上げた。
「っ! なあロロナ? お前、夢の中に道具を持ってくることはできそうか?」
「えっ? うーん……寝るときに持っておけば、もしかしたら?」
「そっか。それと、一日一回食い物が出てくるバスケットを作ってるって言ってたよな?」
「『幸せのバスケット』のこと? それならこの前できたばっかりだけど……」
「……っ!? ライ、それってひょっとして……!」
ロロナへと繰り出される質問から、彼の意図に気付いたエニシアが目を見開く。
驚きに満ちたその顔を見遣り、ライはもう一度にやりと口角を上げた。
「前にオレが料理人もやってるんだって話をしたら、食ってみたいけどウチに来るのは無理だって言うからさ。そんならここで料理を作っちまえば良いんじゃねえかってな」
「ゆ、夢の中で!?」
「そ、そんなこと出来るの?」
「分かんねえよ……やってみなくっちゃな」
不敵に笑ったライに、目を白黒させるロロナとエニシア。
散々に驚かせてくれた意趣返しも含まれていると、某錬金術士は気付いているか否や。
「調理道具はオレが何とかするさ。毎晩包丁握って眠ってやる」
「絵面が怖いっ!? ……それじゃあ、一日一回水が出る杯と、あとは永遠に燃える蝋燭もあると良さそう? ええっと、それから……」
「……そんなモンまで作れんのかよ」
「ら、ライ……っ」
「ん?」
袖を引かれたライが振り向いた先には、不安げに揺れるエニシアの瞳。
嬉しさと、困惑と、申し訳なさの混じった───出会ったばかりに見せていた表情。
「……やる前から諦めてたら、何も出来やしないだろ?」
「……っ!」
「そうそう、やってみれば意外と何とかなることもあるよね」
「だからさ。オマエは期待して待っててくれよ」
「……うん! ……っ!?」
エニシアの頷きに答えるが如く、三人の視界に白い閃光が差し込んだ。
瞬きを繰り返しながらそれは広がっていき、やがて花畑を白く染め始める。
「わわっ、な、何!?」
「……目が覚めてきてんだな」
「…………」
初の体験に慌てるロロナを余所に、ライとエニシアは静かに見つめ合う。
微かに寂しさを浮かべつつも、互いに別れ際には笑顔を見せあうべく努めて。
「次にいつ会えるか分かんねーのがキビシイとこだよな」
「私はそれでもいい。毎日わくわくしながら眠ることができるから」
「そっか……」
「今日もすごく楽しかった……ありがとう、ライ、ロロナさん」
「えっ、あ、うんっ」
「ははは……」
視界が白く包まれる。
花畑も、互いの顔も既に見えず。
それでも言葉だけは、最後の瞬間まで届くことを二人は知っている。
「待ってろよエニシアっ! 約束だぜ!」
「はいっ! 約束です、ライ───!」
むくり、と。
まだ薄明りの差し込む部屋で、彼は起き上がった。
弾かれるように寝床を離れ、身支度もそこそこに部屋を飛び出し。
ある部屋の前で立ち止まって、ドアノブに手を掛けたところで俄かに逡巡。
思い直して手を離し、代わりに軽く握った手の甲で、扉を叩き。
扉の向こうから、少し待つようにと慌てた声で返され、己の判断に安堵して。
「……店主さん」
「ロロナ……」
扉を開けたロロナと、ライは暫し見つめ合う。
やがて、ふっと笑ったロロナは、しっかりと『それ』を口にした。
「私、頑張ってみるよ───エニシアちゃんの為に!」
「……っ! ああ、ありがとなっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───大したものだ、小僧」
武骨な鎧から、静かに響く軋み音。
ただただ血河を流す戦いの為にと誂えられた巨大な斧が、ゆっくりと持ち上げられた。
斧を握るのは、眼光鋭く戦域を見回す一人の男。
歴戦の跡をその武具に、面構えに漂わせるその男と、対峙するは一人の少年。
「そいつはどうも」
「……ふっ」
眼前に仁王立ちする本物の武人を前に、少年は不敵な態度を崩さない。
その姿に、つい先刻、己が手にある戦力を伝えて投降を促したことを男は僅かに恥じた。
「貴様がそのつもりなら仕方があるまい。我らは全力を以て『竜の子』を頂くとしよう」
「ああ、そうしな。オレ達も絶対にコーラルを渡さねえけどな」
斧を、剣を、互いに体の中心に構え、目の前の相手へと向けて。
周囲で起こる剣戟と、暴威を纏い吹き起こる魔力が、二人の髪を揺らした。
「…………だが、その前に一つ。貴様には聞いておかねばならんことがある」
「何だよ? …………いやまあ、予想はつくけどな?」
互いに得物を真っ直ぐに突きつけたまま、しかし示し合わせたようにチラと視線を動かして。
視界に入る光景に男は眦を吊り上げ、少年は遠い目になった。
「ちきゅうぎーっ!!」
「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああぁっ!!?」」」
「あの娘は何者だっ!?」
「……だよなあ」
武具に身を固めた屈強な兵士達が、冗談のように空を舞い、悲鳴を散らす。
その爆心地に一人、敵味方問わず注目を一身に浴びる少女の姿があった。
「何なのだあのバカげた威力の爆発は!?」
「ど、どうやら召喚術ではないようですっ!? 詠唱の隙が全く───ぎゃああっ!!?」
隠れ里『ラウスブルク』を襲った一味の幹部級が一人、戦斧を振るう将軍レンドラー。
および彼の率いる兵士達によって構成された元軍人の一団、『剣の軍団』。
『竜の子』コーラルの奪取を掲げ、遂に彼を擁する一団の拠点であった『宿』を暴いた彼らが、強襲を仕掛けたのが数分前。
そんな彼らは今、
「えーと、次は……」
「ぐっ……い、今だ! 次の爆弾を取り出す前に───ぐはあっ!?」
「当然、そういった隙については我らが援護するぞ?」
爆発の間隙を狙った兵士が、セイロンの蹴りの一撃を受け地面に転がる。
『竜の子』の守りにロロナを加えた彼らの戦い方は至って単純、彼女が手にしたカゴから爆弾を取り出し投げるまでの間、その身を守るだけだ。
尤も、余りにも常識外れな爆弾の威力に加えて練達の召喚師の扱う術と異なり、被害に敵味方の区別がない───爆弾なのだから当たり前だが───ことから他に手が無かったともいうのだが。
「りゃあああぁっ!」
「そこですわっ!」
「……ピィッ!」
援護として続くのはアロエリの射撃、リビエルの召喚術、竜の姿になったコーラルの魔力放射。
凶悪な爆撃を止めるべく遮二無二襲い掛かる兵士達であったが、いずれもその刃が彼女の元へと届くことはなく、次々と戦闘継続が困難な程度に打ちのめされていく。
「小僧、もう一度聞くぞ。……あの娘は何者だ? 以前相まみえたときには、あのような非常識な存在は居なかったはずだろう?」
「……こないだ雇った、ウチの店の従業員だよ。オレ達の事情もオレが知る限りの事は知ってる」
文字通りの『壊滅』、『敗走』も近いだろう有様に、両手が空いていれば頭を抱えただろう顔を浮かべたレンドラーから、疲れと困惑に満ちた問い掛けがこぼされる。
そんな彼に少なからぬ同情心が湧いたか、答えるライの言葉は端的ながらも真に迫っていて。
「……つまり貴様と同じ底抜けのお人良しで、途轍もない力の持ち主、というわけか」
「まあ、そうだな。オレもあいつも、相当なバカには違いねえよ」
「いやはや、敵じゃなくて本当に助かるな」
「上級召喚師が魔力を絞り出して起こすような威力の爆発を、ホイホイ起こしちゃうんだもんね」
「もし彼女が敵だったらと思うと、悪夢でしかありませんわ」
「丁度その悪夢を相手に見せてるところだけどね……」
威力だけなら、この世界に存在する召喚術にもそれに比肩するものが無いわけではない。
しかしそれら高位の召喚術は得てして術師に多大な負荷を強いるものであり、まかり間違っても連射連撃がきくような───きかせていいような代物ではないのだ。
暴威の向こう、ロロナの周囲を固める面々は警戒を保ちつつもしみじみと、己が敵対する側ではなかった幸運を噛みしめていた。
「……しかしその籠は一体どうなっているのだ? さっきから明らかに容量以上の物を取り出しているように見えるのだが……?」
「そういえば……まあでも、あれも錬金術で作った籠なんじゃない?」
ロロナの手にあるのは、精々ピクニックに行く際に弁当を入れる程度の大きさの籠が一つのみ。
けれどもそこから取り出される爆弾は、時に彼女が両手で抱え上がるようなものまで飛び出し、戦闘が始まってから取り出された分だけでも同サイズの爆弾が軽く五つ以上。
錬金術に仰天させられることには慣れてはきたが、いよいよ物理法則も超越してくるのか。
そんな彼らの声に気付いたロロナは、手は止めないままにあっけらかんと答える。
「え? ううん、カゴは普通のカゴだよ? 宿に置いてあるコンテナとカゴの中を繋いでるだけ」
「「「………………んん?」」」
爆発を戦場に提供する傍ら、ロロナは彼女の言葉でそのカラクリを説明する。
宿の自室には作成した道具や集めた材料を詰め込んだ大容量コンテナが置いてあり、このカゴはそのコンテナと内部の空間を繋げているので、いつでも必要な道具が取り出せるのだ、と。
「まあ、奥の方にしまい込んじゃってると、取り出すのに時間かかったりするんだけどね」
「え、あ……いや、そうじゃなくて……」
「空間を繋ぐって……そんなこと、いったいどうやって……?」
「どうやってって……こう、『がちゃっ』と」
「『がちゃっ』と、かあ……」
「…………あっはっはっは! 最早その術理を考えることすらバカらしいな!」
「セイロンが投げた……」
「気持ちは分かりますわ……」
遂に呵々大笑と開き直るセイロン。
一団の中でも知恵者を自負し、また年長者でもある彼は気苦労も多いのだ。
「でも、そんなに凄い爆弾を、そんなに沢山作って、誤爆したら大変じゃありません?」
「うん。何度か大変な目に遭ったよー……」
「……誤爆したことがあるのかっ!?」
「ひえええっ!!?」
「味方でも十分恐ろしいじゃないのよーっ!?」
「───しょ、将軍、これ以上の戦闘はもう……っ!」
「……オレの力ってわけじゃねーし、あんま強くは言えねーけど……どうするよ、レンドラーのおっさん?」
「ぐぬうう……」
部下からの報告、さらにはライの言葉を受けて苦々しく唸るレンドラー。
誰の目からみても敗色濃厚、そして彼はそんな状況で徹底抗戦を断行するような男ではなく。
「……『剣の軍団』、撤退を───」
「───そこまでだ!」
撤退を口にせんとしたレンドラーの声を遮り、戦場に制止の声が響く。
すわ援軍か、と振り向いたライ達は、しかし視界に入った一団に首を傾げた。
「な、何だあいつら?」
「……今まで見たことねー軍団だな」
「……あ、あれはっ!?」
戦場を一望できる小高い丘の上、『剣の軍団』とは明らかに毛色の違う武装集団の姿。
全員が全員、仮面で顔を隠し、身を包んでいるのは統一された衣装。
それぞれの手には鉤爪や投具、短剣など、いかにもな武器に漲らせた殺気。
されど何よりもライ達の視線を集めたのは、その集団の中で武器を向けられ、恐怖に震えているひとりの女性───
「───ポムニットっ!?」
「も、もうしわけ……ございません……」
「その場に武器を置け。召喚石もひとつ残さず捨てるのだ……逆らえば、この娘の喉笛をかき切るッ!」
悲痛に叫んだリシェルに、両脇を抑えられたポムニットが唇を噛む。
ライ達がその姿を確認したと判断したらしい集団の中から一人、静まり返った戦場に男性の声が響き渡った。
「……何のつもりだ、貴公ら」
突然姿を現した集団に、驚いていたのはライ達だけではない。
呆然と彼らを見上げる『剣の軍団』兵士達を背に、レンドラーが怪訝な表情を隠さず、先の声の主と思しき先頭の人物を睨み付ける。
「我が輩はこのような姑息な手段をとれなどとは命じておらんッ!!」
「そのとおり。しかしそれよりも優先するべき命令が我々にはあっただけ」
レンドラーの憤懣を込めた一喝にも動じず、仮面の男は淡々と言葉を返した。
「『将軍』殿が三度も続けてしくじるはずなどなかろうが、その時はお前たちのやり方でお助けしてさしあげろ、と」
「あやつが、そう……命じたのか……」
交わされるやり取りから窺えるのは、主義主張と指揮系統の違い。
本意ではないのだろう戦い方、それでも集団としての至上目的にどちらが近いと言外に問われたレンドラーが憤怒の呻きを漏らす。
「……あのー、ちょっと」
「ん? 何だ、きさ───うぉっ!?」
そんな一触即発の空気の中に上がった、どうにも気の抜けた声。
敵味方の視線が一斉に集まる中、仮面の男を驚愕に仰け反らせたのは、何やら酷く毒々しい色の巨大爆弾を両手に抱えたロロナの姿であった。
「これ、乱暴に捨てたら爆発しますし、そおっと置いてもいいですか?」
「…………う、うむ。早く……いや、慎重に置けっ」
短い沈黙の後、素直に頷く仮面の男。どうやら戦場を引っ掻き回した暴威も見てはいたらしい。
下手に急かして炸裂されてはかなわないとでも思ったのか、仮面の男の慮るような発言が元で、武器を構えた集団が少女を見守る奇妙な時間が発生する。
「……何だよ、その見るからに危険そうな爆弾は?」
「ものすっごい毒を撒き散らす爆弾だよ。数日間はこの近くに誰も近づけなくなるくらい───」
「そんなモンを店の傍で使おうとすんなっ!?」
「あ」
「……やっぱり味方でも恐ろしいんですけど?」
「あははは……」
宿を襲撃してきた集団に応戦しているのが今の状況である。
つまりライ達の背にはすぐ傍に宿があるわけで。……というかそれ以前に、どう考えても街中で使っていい爆弾ではない。あな恐ろしや錬金術士。
「き、貴様は爆弾を全部置けっ!」
「えっ。ぜ、全部?」
「全部だっ!」
「うー……分かりました」
心なしか動揺の滲む仮面の男の声に従い、ロロナは慎重な手つきで件の爆弾を地面に下ろした。
そのまま男達の監視の下、手にしたカゴの中から取り出した爆弾を地面に並べ始め───
「………………もう、いい。いいからお前は動くな。両手を挙げて頭の後ろで組め」
「え? あ、はい」
「……なんなのだあの娘は」
色とりどり、大小様々、蚤の市が如く並んでいく爆弾に、仮面の男から煤けた声の静止が入る。
どう見積もっても自分達をあと二、三度は壊走させられるだろうその数に、レンドラーが改めて悲観的に呟いた。
「……よし、そのまま動くなよ」
全員が武器を捨て、抵抗の意思を放棄したと判断し、仮面の男達が動き始める。
狙いは当然ながら、三人の御使い達に守られるコーラルだ。
「……っ」
「く、そぉ……っ」
コーラルに近付く男達、未だ刃を向けられるポムニット、不安げに見つめるリシェル達。
御使いとしての使命と心情の板挟みに呻くアロエリと、無言を貫くセイロン。
「やめてくださいまし! わたくしのことなんか気にしないで!?」
その状況に、耐え切れずに叫んだのはポムニットだった。
後ろ手に掴まれ、首に刃先を当てられたままで、それでも彼女は必死に抗戦を訴える。
「構わず、こいつらをやっつけちゃってくださいまし!!」
「……やかましい!」
「あぐっ!?」
「ポムニットぉっ!?」
その動きを鬱陶しく思ったか、仮面の男の一人が武器の峰でその背を打ち据える。
痛みに喘ぐ彼女の悲鳴を聞いた瞬間、なりふり構わず駆け出したリシェル。
「……シャアァッ!」
「リシェルっ!?」
元より生粋の召喚師であるリシェルが、武器も召喚石も持たずに殺しを生業とする者達の前へと飛び出していく───それはまさしく羽虫が火中に飛び込むが如き愚行であった。
「う……おじょうさまっ!?」
同時に、刃をぎらつかせて動き出した仮面の男達は、その無防備な背中へと凶刃を向ける。
痛みに一瞬瞑った瞳でポムニットが見たのは、己を真っ直ぐに見つめるリシェルと、その身体に振り下ろされようとする刃。
(───!)
時間がゆっくりと流れるような錯覚の中、ポムニットの視界は端から緋色に染まっていった。
「……!?」
彼女自身の他に変化に気付いたのは、『竜の子』たるコーラルただ一人。
召喚師の家に仕えるしがない使用人であるはずの彼女の身より噴き出したそれは、決して人から放たれるはずのない異色の魔力───
「でやあああぁッ!!」
「……けえぇいッ!!」
事態を動かしたのは、戦場に乱入した二つの剣閃だった。
リシェルの身体を引き裂いたはずの刃を弾いたのは、一人の少年が振るった一振りの大剣。
一方、ポムニットの身より放たれた魔力は、彼女の腕を掴んでいた男が斬り倒されたがために、彼女もまた姿勢を崩し、それに伴って幻のように霧散していた。
「……アルバ!? それに、シンゲン!?」
「貴様ら、いつの間に!?」
「貴方たちがあのお嬢さんに気を取られている間に近づいただけですよ」
「三味線の人……」
「今のは鬼妖界のサムライの技……やはり、ただの道化者では無かったか」
「ちゃんばらの芸をやるのは好きじゃないんですがねえ」
三味線の柄に仕込んだ刀を抜き放ち、飄々と語る男、シンゲン。
先日、宿を訪れた客のひとりに過ぎなかったはずの彼が鉄火場へと踏み込んできている事実に、居合わせた面々が敵味方問わず瞠目する。
「さあ、急いでみんなのところまで戻って!」
「う、うん…」
「アルバくん……どうして……」
「どんな時でも、暴力によって非道を行う者を許しちゃいけない……それが『巡りの大樹』自由騎士団に属する者たちの誇りであり、おいらにとっての騎士道なんだ!!」
庇われたリシェルの、彼の主治医を務めたミントからの問いに、アルバは完治した足で強く地を踏みしめながら高々と宣言する。
年齢こそライやリシェル達とそう変わらない彼だが、これでも世界中を巡り、弱きを救い強気を挫く誇り高き騎士団の末席に所属する騎士である。
足の骨折とその療養を理由に、騎士団から一時置いて行かれる形になってしまっているが、その騎士道に陰りは無かったのだ。
「……あ、あれっ? ポムニットは!?」
「なっ!?」
「……おや?」
ようやく気を取り直し、周囲に目を向けたリシェルが困惑の声を上げる。
続いてシンゲンと、彼と対峙している仮面の男が『それ』に気付き、少なからず目を見開いた。
それもそのはず、二人の足元にまだ倒れているか、でなければ起き上がっているかというところだろう彼女の姿がどこにも見当たらないのだ。
その身を戦域から逃がすことこそ互いに勝利・敗北に直結する状況。咄嗟に両者は真逆の思惑で消えた彼女の姿を探し───
「ね、姉さん……あそこ……!」
「へ……? ええっ!?」
自分の元へと駆け寄るルシアンの指差した先を見たリシェルが、更なる驚愕に絶句した。
何しろそこには彼女の探していた人物が、未だ
「……え、えぅ……!?」
起き上がれない、というよりは己の状況についていけていないというべきか。周囲をおろおろと見回すポムニット。
図らずも
「そ、空飛ぶ絨毯……?」
「……こんなモン持ってるとしたら……」
「…………(てへっ)」
頭上を通る絨毯を見上げる仮面の男達に囲まれ、手を頭の後ろに組みながらすまし顔をしているロロナへと、三々五々に向かうライ達の視線。
……やがて注目に気付いた彼女は、無抵抗を装ったまま、にやっと笑みを返した。
「ははは…………
「……かかれッ!! まとめて、始末をしてしまええぇぇッ!!」
「……そうしてくれればこっちも分かり易くていいぜ」
人質を、優位性を失った仮面の男が、なりふり構わずに叫びを上げる。
ライ達もまた、足元に落とした武器と召喚石を回収し、応戦の姿勢を取った。
「さあ、テメエら覚悟しやがれ!!」
「将軍……」
「…………」
再び始まった戦場を、レンドラーは押し黙ったまま睥睨する。
その視線が捉えるのは、青き理想を声高に語り、大剣を振るう少年の姿だった。
(これ以上は)続かない。
サモナイ4を未プレイの方が読んでいたら、突如POPしたとしか言えないシンゲン&アルバ。
書きたいとこだけ書くと、こういう事態が起きるんですよねえ。せやなしかたなし
すごく半端なとこまで書きましたが、連載断念の理由はPart1の後書きに書いた通りです。
続きが気になったという方はサモンナイト4原作を、どうぞ。
しかしサモンナイトは人数が多い……多い……!
一つの場面で発言するメイン格キャラが多すぎて作者の作風に合わない、というのも断念理由の1割ぐらいにはあるかもです。
Q. どうやって夢の中に入ってきたの?
A.
Q. この後の展開は?
A. ロロナ対策にギアンがトトリを召喚して泥沼、というプロットを考えたりもしました。
それは流石にちょっとどうかなと。でもそうでもないと蹂躙して終わりになってしまう。
きっとラウスブルクの結界だって目じゃないよ。だって