※元小説ID:312235 投稿日:2023年03月24日(金) 14:11 一部改稿あり
世界に愛と平和と何かをもたらす魔法少女達のお話。
連載中の作品の息抜きとして、一度頭空っぽにする目的で書いてみました。
○リキュア系列ひとつとしてまともに視聴したことないけど、大体こんな感じですよね?
「―――おっはよー!」
うららかな朝の陽射しの中を、キラキラとした笑顔を湛えた一人の少女が駆け抜ける。
彼女の名前は『
ごく普通の家庭に生まれて地元の中学に通う、どこにでもいる十四歳の少女。
温かな茜色の髪に薄紅の瞳、学校指定の制服に身を包んだ彼女の、その真っ直ぐな性根をうつすような声音が先を歩く人影の元へと届けられる。
「あら、おはようございます、愛実さん」
その声に応え、栗色の長髪を揺らし振り返るは、目にした者にたおやかな印象を与える微笑みを浮かべた少女。
こちらの名は『
愛実と同じ中学に通う、やはりありふれた経歴を持つ少女だ。
その立ち振る舞いから多くの人間が彼女をいわゆる上流階級の生まれであると予測するが、特段そうした教育を受けてきたというわけではなく単に当人の気質によるものである。
「……ん、おはよう」
そんな彼女の背中から、二人より一回り小柄な少女がひょいと顔を出す。
目を隠すように伸ばした前髪の下、その口元に微かにうかがえる程度の笑みを作って。
「……あ、フォーちゃんも居たんだ。和美ちゃんに隠れてて気付かなかったよ」
「ええ、私もついさっき偶然に顔を合わせましたの」
一瞬遅れて目を丸くした愛実に、和美がころころと笑いながらそう言った。
『フォーちゃん』と呼ばれた三人目の少女もまた、そんな二人の様子に髪の下で目を細める。
「愛実さんは今日も元気だね。……昨日は「帰ったら数学の宿題……」て言って沈んでいたように見えたけど、大丈夫だったの?」
「えっ? …………あ、あははっ」
「愛実さん……」
己を見上げる少女の言葉に、愛実の朗らかな笑顔がピシリと凍り付く。
容易に由を窺えるその変化振りに、額を抑えた和美から呆れ混じりの呟きが漏れた。
「だ、大丈夫っ、今日の数学は三限だし、休み時間にどうにか、すれば…………うん」
「……って言ってるけど、どうにかなる量なの?」
「……少々、厳しいでしょうか」
乾いた笑いから希望的観測へと移行、暫しの思考に沈んだのち、消沈。
あらゆる意味で分かり易い表情の変化に、顔を見合わせ苦笑する二人。
それは彼女達にとって、特に珍しくもない朝の一幕で。
ごくごくありふれた日常の中の一コマで。
ここから先も、代わり映えのない一日が待っているのだろうと―――
「「「―――っ!?」」」
そんな想いを微塵に砕いたのは、空に響き渡る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ハーハッハッハ、壊せ壊せぇっ!」
「「「イェッサーッ!」」」
爆音、悲鳴、破砕音。
崩れ落ちる建物と蔓延する狂乱の中に響き渡る、あまりにも場違いな哄笑。
長銃が如き火器を手に色彩豊かな商店街に破壊をばらまくは、黒スーツに身を包む奇怪な男達。
そんな彼らを指揮しながら、荒れ果てた交差点に堂々と立つは一つの人影。
軍服にも見える衣装の袖から覗くのは、毛深いというには限度のある獣の手足。
頭部があるべき場所に鎮座するのは、狼の類と思しき獣の相貌。
人間には決して有り得ない鋭い犬歯の並ぶ口を呵々と開き、
「ハッハッハ……さぁて、進捗はどうだ!」
「はい、隊長っ!」
その一声で周囲にいた黒スーツの一人が機敏に駆けつけ、淀みのない動きで敬礼。
下手な軍隊をも想起させる風情のまま、狼頭の異形へと口上を読み上げる。
「主目的たる宝石店からは既に商品の持ち出しを始めており、他の店舗からも続々と現金の回収を行っています! 事前の交通網封鎖も効を奏しており、現地警察機関等妨害が入るまでには目標の七割は達成出来る見通しであるとっ」
「七割か……まあ、上々だが―――」
部下の報告に一度満足気に頷いた狼男は、しかし何かに気付いたようにぴくりと耳を動かす。
そして到来を予期するかのように、その肉食獣特有の視線は人影の無い通りの奥を貫いた。
「―――そこまでよっ!」
未だ混乱の坩堝にあった商店街に、福音となって響くは少女の声音による凛とした宣言。
続いて瓦礫の後ろから飛び出した三つの人影に、狼男は口端を上げた。
「来たか―――『ピュア戦士』達よっ!」
その単語により、その場にいた全ての者から噴き出した感情が商店街を包んだ。
黒スーツの団員達からは、隠しきれない驚愕と恐怖が。
逃げ遅れ、彼らに追い立てられていた人々からは歓喜と期待が。
そして威容を崩さぬ狼男からは、困難に立ち向かう者特有の豪気が、だ。
「―――よくもこんな朝早くから、酷いことしてくれちゃってぇ」
「まったくです。せめて放課後にして欲しいですわ」
「……彼らも懲りないね」
喧噪の中に降り立ったのは、それぞれ独特な出で立ちをした少女達。
愛らしい顔に浮かべた鋭い視線で正面に立つ狼男を睨み付けつつ、無数の視線の中で三者三様の名乗りを上げた。
「全ての命に等しき愛を!『ピュアラヴァー』!」
「全ての命に等しき平和を!『ピュアピース』!」
「全ての命に等しき恐怖を。『ピュアフォビア』」
「…………イヤ待て待て待て!?」
物言いが入った。
それはもう全力のツッコミが割り込んだ。
なんなら狼面悪幹部のアイデンティティを投げ捨てんばかりの『ソレ』が、俄かに広がりかけた混沌の中に静寂を作り上げた。
「……何よ?」
「何ですか?」
「あ、いや、お前らは良いよ? 『
じっとりと細めた目で睨む二人の少女に、狼男は片手の掌を掲げつつ弁明(?)した。
「……問題なのはお前だよっ!? 何、自分は関係ありません、みたいな顔してんの!? つーか何なの『
破壊や混乱を掲げ、世を乱すことに精を尽くすバリバリの悪の組織幹部をしてツッコミせざるを得なかった物騒過ぎる口上。
世の為、人の為、神だか天使だかに選ばれたはずの『ピュア戦士』がそれでいいのかと、狼男は諸々複雑な心境を抱きながら気炎を上げる。
「…………
「何をっ!?」
返答になっているのかいないのか。
微妙な沈黙の後に帰ってきた言葉は、輪を掛けて不穏な空気を孕んだモノであった。
ストレートに「倒す」とか言われた方がまだ安心(?)である。
「……というか何今の声。聞いただけで背中に氷でも張り付いたみたいに悪寒が走ったんだけど? さっきの口上の時はもっと普通だったじゃん。……内容は別にしても」
「ひ、ひいぃ……っ」
「た、隊長ぉ……っ」
毛皮の下で鳥肌が立つ感覚に腕を擦る彼の背後で、その部下達もいっそ情けないまでの及び腰。
少なくとも正義の味方に対して悪の組織の団員が見せて良い姿ではなかった。
「……よし、今の内に行くよ、二人ともっ!」
「え、ええ、行きますわっ」
「……均す」
「「「う、うわああぁっ!?」」」
そんな浮足立った団員達へと、襲い掛かるは正義の味方達。
……何か間違ってるかと問えば何も間違ってないんだが情けとか無いんかお前ら。
「『ラブ、パーンチ』っ!」
「「「ぐわあぁぁっ!?」」」
桃色の光を集めた拳に、数人の団員が宙を舞い、白い煙となって消えていく。
『ピュア戦士』の魔力により、彼らを構築する悪の心が浄化された証左である。
「『ピース、キック』っ!」
「「「ぐはあぁぁっ!?」」」
黄色の光を集めた脚が、同様の結果をまた数人の団員にもたらす。
黄色を基調にするひらひらした衣装のスカートが捲れ上がるが、見えてはならない領域は決して露わにならない安心の鉄壁仕様だ。
「……『
「「「ィギいィiiaア゛ァァasgh;weっッッ!??」」
淀み渦巻く黒い『ナニカ』が一瞬にして地面を埋め尽くし、そこから伸びた無数の針───否、捻くれた突起が、団員達の身体を抉り穿つ。
それは見た目以上に凄まじい痛みを伴うのか、腕や脚、酷い者は頭部の半分を失うも尚死ぬこと叶わず、虚ろに開けた口から魂を削られるかの如き叫び声を漏らし続けた。
「―――だから三人目ぇっ!?」
再び狼男が声を張り上げる。若干以上に震え声。
「さっきから何なのよっ! 何か文句でもあるわけっ!?」
「文句しかねーよ!?」
苛立ち混じりの少女の罵倒に、狼男もまた脊髄反射で罵声を返す。
「……ならばその文句というのを具体的に仰ってはもらえませんか?」
「色々あり過ぎてアレだが……取り敢えずこんなもんニチアサに放送出来るかぁっ!?」
そして長くはない思考の果てに、訳の分からない発言が飛び出した。
混乱を極めた結果、世界の狭間から変な電波でも受信したのかもしれない。
「ナニあれ? マジでなんなのアレ? もう地獄絵図とかいう次元じゃないんだけど? あんなのお子さま「がんばえー」とか言う前に全泣きなんだけど?」
「……よく分かんないけど、悪の組織の幹部の癖に怖がってんじゃないわよ!」
「それ以前に正義の味方がやっていい攻撃じゃねえよ!? つか『
言い争いの間にも即席地獄に囚われた団員達の悲鳴は鳴り響き、それを耳に、あるいは目にしてしまった全ての者の心に現在進行形で消え難い
……そこには逃げ遅れた結果、正義の味方の戦いを観戦していた一般人も混じっているのだが、その辺を斟酌する気はないのかこいつらは。
「ホラもう既に色んな意味で被害甚大だよ!? この時点で少なくとも正義の味方を名乗って良い輩じゃねぇだろ、あいつ!」
「何だとおっ!」
「私達の友人に対する侮辱は許しませんわよっ!」
狼男の暴言に、眉根を吊り上げ憤慨する二人。
その様は、言葉だけを聞けばなるほど正義の味方に相応しい精神の表れであったが───
「……なら目の前の地獄を直視してから言えやぁっ!?」
「「…………」」
彼の指摘通り、正統派な『ピュア戦士』二人は視線を明後日の方向に向けていた。実に頑なに。
可能な限り
なんなら目の端にだって、粒状の光るものをキラキラさせていらっしゃる。
「「「……あ゛ぁ……ア゛……あaa───」」」
少しずつ、少しずつ響く悲鳴は小さくなり、やがて白い煙となって消えていく。
そこのみに注視すれば、先の二人の技がもたらした結果と同一のそれであると確かに窺えた。
「あ、浄化はしてるんだ……」と、その場の一同の心が俄かに揃う。
「……てかあいつ、本当に『ピュア戦士』なの? もう俺達の戦いも長いけどさぁ……ぶっちゃけこの前まであんなん居なかったじゃん?」
「それは……」
「そのお……」
狼男の一周回った疑問に、二人の少女は歯切れ悪く顔を見合わせる。
そして僅かな逡巡の後、彼女達はそれぞれの背後に居る『何か』へと顔を向けた。
「…………彼女の力は間違いなく『ピュア戦士』と同じものラブよ」
「悪の心を浄化する力もあるし……認めないわけにはいかないピースね」
少女達に応え、現れたのは小動物サイズの喋るぬいぐるみ……のような生物。
いわゆるマスコット枠───もとい、人間の少女に『ピュア戦士』の力を与え、悪に対抗し得る術を与えている天使達だ。
この狼男を含む悪の組織勢にとっては不倶戴天の敵同士、ということになる。
故に彼もまた姿を見せた彼らに半ば反射で犬歯を見せたが……それ以上に『三人目』の話が気になり過ぎたので自制した。
あと「相変わらず語尾が無理矢理だな」とも思った。ノルマなのだろうか。
「彼女が愛実達と出会ったのは三日前ラブ」
「『ピュア戦士』の戦いを目の当たりにして、その力に興味を持ったらしいピース」
「……ほう」
狼男はそれを聞き、頭の奥から三日前の記憶を掘り起こす。
その日も今回のように部下を引き連れ大暴れ、やがて現れたあの二人と戦闘、惜しいところまで食い下がるも手痛い傷を負わされたところで撤退したはずだ。
その時の苛立ちもまとめて思い出してしまったが……一旦それを横に置いて周囲にあった人影の存在を思い出していく。
生憎目立った存在を見掛けた記憶は無かったが、どうやらそこに後の『三人目』がいたらしい。
「……で、そいつ担当の天使サマは何処だ? ここまでの話からして、あいつも『ピュア戦士』になることを望んで、専用の天使が配布されたんだろう?」
言葉の端に込めた蔑みを隠さないまま、彼は近くにいるだろう天使の姿を探す。
「どうせ『フォビアフォビア』言ってるんだろう」とか思いながら。
「あー……ラブ」
「えーと……ピースね」
しかし天使達は歯切れ悪く顔を見合わせた。まるで担当少女達の焼き直しの如く。
そして暫しの沈黙を経て、愛らしい姿にそぐわない皺を寄せた顔で口を開く。
「……なんか、その……自力で魔力の扱い方を見つけ出して……それで『ピュア戦士』の力、的な感じのを再現した……っぽいラブ」
「―――じゃあ絶対違うだろうがああぁっ!?」
狼男の慟哭が天を衝く。これで何度目だろうか。
「再現したっぽいって何だ!? お前ら仮にも神の使いだろ!? 魔力の存在すら知らない人間が三日で再現できて堪るかあぁっ!?」
人間は誰しもその身に魔力を宿しているが、九分九厘はそれに気付いていない。
感情に左右されやすいソレは得てして多感な時期の少女が扱うに都合が良く、『ピュア戦士』の殆どがその辺りの年頃の少女であることはこれに端を発する。
……これが悪と正義、両陣営に共通する認識であった。
「ちなみに翌日には『ピュア戦士』姿で会いに来たピース」
「尚更おかしいわぁっ!?」
「それから昨日の晩の、第三回『彼女をピュア戦士と認めるか否か』会議にて仮決定されたラブ」
「滅茶苦茶悩んでるじゃねえかぁっ!?」
二転三転どころか七転八倒な勢いの会議の末に「同じ結果をもたらせるんだし取り敢えず一緒に活動させれば良いんじゃないか?」という意見が出たらしい。
そしてこの場の有様に、先程第四回会議開催が決定したのだとか。天界も意外にハードである。
「……とにかく、これ以上人が来る前に早く終わらせるよっ! 早く……なるべく、はやくっ」
「ええ、無益な戦いを続ける前に。……無益な……ええ」
「お、おう……そうだな」
正義の味方と敵幹部。
三人分の視線がチラチラと、静かに佇む黒服の魔法少女に向けられる。
ちなみにその衣装に媚びた装飾は一切存在せず、傍目には喪服と見紛うばかりであった。
せめてそこはゴスロリじゃないのか。あれじゃグッズ展開も絶望的だぞ。
「ど、どうやら部下達を幾ら差し向けても無駄なようだ! この俺が直接相手になってやろう!」
「行くよ、和美ちゃんっ! 二人の力を合わせれば誰にも負けないんだからっ!」
「ええ、行きましょう、愛実さん。わたし達二人で!」
「……あ、では私も―――」
「「フォーちゃんはわたし達の背中を守っていてっ!」」
「あの黒い奴が二人の背を離れたらそこを狙えっ!」
「「「はいっ、隊長っ!」」」
―――これ以上アレに力を振るう場を与えないようにしよう。
組織の垣根を越え、その場の全員の心が一つになる瞬間がそこにあった。
「「『ラブアンドピースアタック』っ!!」」
「ぐうっ……な、なんのこれしき……」
桃色と黄色、二色の光が収束、渦を巻き、狼男に向け放出される。
浄化の力を秘めた光の奔流を受け止めた彼は、地に落ちようとする膝に懸命に力を注ぎ―――
「……では私も―――」
「あ、ダメだー! 二人掛かりの攻撃とか耐えられるわけなかったわーっ!」
「「「隊長がやられたー! もーダメだー! 撤退っ!」」」
カクンと膝を落とした彼の影が、そのまま呆気なく光に呑まれ倒れ伏す。
光流が過ぎ去ったその場所でプスプスと白い煙を噴き出す彼を、一挙に駆け付けた黒スーツ達が一糸乱れぬ動きで抱え上げ、潮が引くように去っていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――いつもより早く解決できましたし、三限の授業に間に合いそうですね」
「うー……やっぱり、行かなきゃダメ?」
その後、魔法の力で元通りに修復した商店街から足早に離れた三人。
嬉しそうにそう言う優等生な和美に、微妙な顔になる愛実。
「……愛実さんは、学校に行くのが嫌なの?」
「えっ、あ……えっと、そういうわけじゃ……」
そんな彼女を、隣から黒い瞳が上目遣いに射貫いた。
答えに窮した愛実へと、表情を隠す黒髪の向こうから、続く言葉が放たれる。
「学校に通える―――私にとってはそれだけで
「ふぐぅ……っ」
「……フォーちゃん」
さらりと告げられた言葉に、またそれを言わせてしまったと罪悪感を抱き崩れ落ちる愛実。
気遣わし気に伸ばされた和美の手を、黒髪黒目の少女は僅か一瞥するに留めた。
「「…………」」
そんな少女達の様子をまた渋い顔で見遣るは、宙に浮かぶ二体の天使。
「……『ピュア戦士』と認めるに当たって、彼女の経歴を調べたけれど……ラブ」
「こうくるとは夢にも思わなかったピースね……」
見下ろす彼らの瞳に映るは、見た目だけなら何のことは無い仲良し三人組な少女達。
普通の人間の目には映らなくなる魔法を纏いながら、互いの渋面を確認する。
「まさか、あれで…………
「少なくとも『この顔にピンときたら110番』されるタイプではないから……あ、ラブ」
それはいわゆる『社会の闇』の深奥に秘された情報であったが、愛らしいマスコットに見えても彼らは神の端くれ、人間ひとりの過去を調べる程度は朝飯前であった。
……どうやら語尾を忘れずに付けるよりも。というかやはりキャラ付けなのか。
「それにまあ……無軌道に無辜の人間に被害を及ぼすタイプではないラブし……」
「……元々、なりたくて犯罪者になったわけでもなさそうピースからねえ……」
調べる過程で彼らが目にしたのは、天界に生きる天使達が目を背けたくなる『地上の闇』。
されど其処より這いずり出でた少女が振るうは、見た目こそ悍ましくも確かに正義に連なる力。
ここ数日で腕組みと遠い目が固定されつつある天使が、辟易を込めた声音でポツリと呟く。
「ちょっと、こう……インターなるネットのアンダーなグラウンドの隅っこに『
少なくとも一般人が『ピンとくる』可能性は皆無だろう。
どっちがよりヤバイかと言えば間違いなく後者の方がヤバイのだが。
「……二人が居ない間も私がこの街の平和を守るから。安心して」
「う、うん……」
「それは、いいのですけれど……」
儘ならぬ想いを抱えた天使達が見守る中、少女達のやり取りは続く。
儚げに微笑む年下の少女を前に、感情の定まらない顔を見合わせる学生二人。
暫し二人の間で視線の応酬が行われた後で、意を決して口を開くは押しに負けた和美であった。
「その……この前、フォーちゃんの元に現れた方々に関しては……?」
「…………ああ、それなら大丈夫」
目を泳がせる和美が言及したのは、先程戦ったコテコテの悪の組織とは別の存在である。
そもそも彼らは少女達が本格的に駆けつけられない場所や状況には現れない。
何かしらの矜持か、はたまた天界との取り決めでもあるのかは彼女達にとっては定かでないが。
ではいったい何者を指しているかといえば―――アンダーな某所にて、
「次からは、
「「…………」」
「「…………」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――同時刻。
付近某所。
「……また一斉に退職者が出たのか」
「ええ……」
威厳ある口髭に片眼鏡を瞬かせた男が、その威厳を萎ませるように頭を抱える。
その言葉に応えた女性もまた、沈痛な表情で辺りを見渡し、溜息を吐いた。
広々とした空間の中、まばらに立ち尽くす黒スーツの男達。
その部屋の中に備え付けられた大型モニターが三人の少女の姿―――とりわけ黒味多めな一人に注視した映像を流し続ける。
「所詮は小悪党から作った量産品とはいえ……あれを見ただけで戦意を喪うか」
「…………」
モニター越しの視線がちらと正面に向けられ、残った団員達が身を寄せ合う。
それにますます頭痛を覚え目を伏せるこの男こそ、この『悪の組織』の総帥であった。
「……其方も逃げたいのなら止めんぞ?」
「……御冗談を」
腹心の女幹部に掛けた言葉は、軽口にしては真剣味が強く。
それを感じながらも首を振って応える姿に、苦み混じりに口端を上げ―――
『
「「っ!」」
瞬間、スピーカーを通して聞こえてきた
そっと二人が目を向けたその先には、何やら物々しい出で立ちをした男達へと向けられる極寒の眼差しが映し出されていた。
『な、何だよこれっ!? 何なんだっ!?』
『や、やっぱり駄目だっ! 手を出しちゃいけなかったんだっ!?』
『あああぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサ―――』
『
『あ゛あ゛ア゛ァaaa―――』
『いやダッ!? イヤダア゛ぁ―――』
『おガアサンっ!? オガぁサ―――』
―――しん、と。
痛みを幻視するほどの耐えがたい静けさが場に広がる。
全てを映したモニターは今、どこかやり遂げた風情で立つ少女を捉えていた。
「……ぶっちゃけワシも怖いからな。つーか、何アレ? いやマジで」
―――悪の組織の総帥を自称し、天界に弓引く彼もまた並の存在ではない。
個として持つ力、魔力についても神々が警戒する程なのだから当然である。
そんな彼をして理解不能―――否、
悪の心、などというものを利用する術に精通する彼だからこそ、件の少女が起こしている現象について誰よりも理解するに十分な下地を持っていた。
主にあのドス黒く、禍々しく、この世の絶望と狂気を煮詰め、深淵を汲み取り凝固させたような魔法が誕生し得た背景をだ。
どこにでもある『悪』を無限に集めたところでああはならない。
ありふれた『悲劇』を、『憤り』を抽出したところであんなモノが生まれるものか。
運命そのもの、或いは世界そのものを『妬み』、『憎み』、塵も残さず喰らい尽くす、そうでもできぬ限りは決して満ち足りぬ―――そんな地獄の最下層から這い出たような『渇望』でも土台に据えぬ限り、あんな結果は有り得ない、と。
しかし同時に彼の思考は、そこで聳え立つひとつの壁に阻まれるのだ。
彼の持つあらゆる知識、あらゆる知見を集めても傷一つ刻めぬ思考の壁に。
「―――それが『浄化』の力を持ってるって…………どないなっとんねん」
あの魔法が見た目に応じた方向に染まった何某であったなら、彼にとって驚きはすれど障害にはなり得ないはずだったのだ。
ところが地獄、煉獄といった言葉を幾度連ねても尚足りぬだろう蓋を開けてみれば、飛び出していたのは彼の掌上にある力とは真逆に位置するソレである。
見た目がどうあろうと、土台にあるものが何であろうとも、その実態が正義に属するモノ……に限りなく近いナニカである以上、彼にとって障害以外の何者にもなり得ない。
その心中を簡易に表せば、「そうはならへんやろ」の一言に尽きた。
……『闇落ち』させて寝返らせる? どうやって?
あれは清らかな世界で生きてきた人間に絶望を教え込むことで初めて成立するのだ。
下手したら己より絶望の底、というものを知り尽くしていそうな少女に何をどう仕掛けろと。
人間の悪辣さ? 醜さ? ……そんなの実地で習いましたけど? とか返されそう。
悲哀? 慟哭? ……ああ、アレって美味しいですよね? とか言われたらどうしよう。
『うん……みんな、
『『『…………』』』
モニターを見上げれば、見事に『浄化』された悪人達を前に満足げに頷く少女の姿。
……そう、『浄化』だ。
絵面がどうとか生まれた経緯がどうとか、何もかも無視して持ってくる結果は『浄化』なのだ。
晴れ晴れとした顔をしたあの男達も、これからは非合法なアレコレになど見向きもせず真っ当な人生を歩み始めることだろう。
『社会の闇』にどっぷり膝まで浸かっていた悪人達を、見事に更生させる。
それはまさしく『正義の味方』に相応しい行いではないか。……結果だけ見れば。
……まあ、ちょっとした『恐怖』によって『均された』可能性が無くも無いが。
「…………どないせえっちゅうねん」
己の遥か上を往く『悪』由来の力で『滅悪』の力を振るう存在。
何千年と他者の悪意を貪り存在してきた『悪魔』は、初めて全身全霊で頭を抱えるのであった。
・
・
相手を
Q. 結局彼女何なん?
A. さぁ? ┐(´ー`)┌ 大して設定固めてません。短編だし。
長編にするなら設定しっかり決めるところからですね。……そんな予定無いけど。
プリティでキュアキュアな二人とは何の関係もございません。……ないですよ? ないってば。
ところでなんか最近は三人だったり五人だったりするらしいですね。
せめて一作ぐらいまともに見てみるべきかなあ。