非単一な短編まとめ   作:非単一三角形

4 / 29

※元小説ID:320090 投稿日:2023年07月05日(水) 12:00 一部改稿あり


 深紫の微笑み、絵画の世界に花開く。

 ずっと投稿間隔空けてるし、生存報告でもしようかな。
 折角なら最近プレイしてたアトリエシリーズで何か書こうかな。
 というわけで『リディー&スール』を題材に短編を一つ。


※注意:単体の短編として投稿した際、タグには「ホラー」を含めていました。



天つ国の絵空事(原作:リディー&スールのアトリエ)

 

 

 ───虹色の空に、浮かぶ小島。

 

 歪曲した縁から零れ、色彩豊かな虚空へと注がれていく青い水。

 

 

 薫風は甘やかに香り運びて涼し。

 

 黄金の陽射しを浴びて開くは深紫の花弁。

 

 頭の上から、足の下まで、現実には決して存在し得ぬ夢景色。

 

 

 そう此処は、誰かが望んだ天つ国。

 

 

 『天海に■■■■■

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「また来たよー」

「また来たねえ」

 

 

 無秩序で、不安定なようで、調律された作品の如き土を踏みしめ歩くは二つの人影。

 

 かたや優し気な微笑みを他方へと浮かべ。

 こなた隠しきれぬ悪戯心を笑みに乗せて返し。

 

 

「―――てりゃっ!」

「きゃっ!? す、スーちゃん!?」

 

「リディ―のお腹ぷにぷにー。さてはまたこっそりお菓子食べてたでしょー?」

「う……スーちゃんだって、どうせまたつまみ食いしてたんでしょう!?」

 

「あたしは食べた分ちゃんと運動してるし。こもりっぱなしのリディ―と違って」

「わ、私だって毎日腕立てとかしてるんだから!」

 

「…いや、三回とか五回とかじゃ運動のうちに入らないから」

「んぐぅ……」

 

 

 幻想に包まれたような世界に、他愛無いやり取りが響き渡る。

 とはいえ湛えられていた静謐を乱す彼女達を咎める者もまた、ここには存在し得ない。

 

「はー……無駄なことしてないでやることやろうよ。そのために来たんでしょ?」

「えー、ちょっとぐらい良いじゃん、遊んでたって」

 

「そんなこと言って、どうせまた気が付いたら仕事が溜まってるんだから」

「仕事……そうだねえ、溜まってくねえ」

 

 

 柔らかな草の上へと寝転んだその口から、どこか感慨深げな呟きが漏れる。

 険のある表情でそれを見下ろしていた少女もまた、ふっと息を吐き、虹色の空へと目を向けた。

 

「……渋うにスープでしのいでた頃が嘘みたいだよ。何日も仕事が無いのも当たり前だったのに」

「……良いことじゃない。その頃に戻りたい、とは思わないでしょ?」

 

「…………」

「……スーちゃん?」

 

「う、うん、思わない思わない。ちょっと忙しくて面倒くさいなんて思ってない」

「…もう、スーちゃんったら」

 

 

 かつては碌な仕事もとれず、名ばかりの錬金術士だった二人。

 それが今では国の中でも有数の錬金術士と謳われるに至るなど、当時の自分達が耳にすればさぞ仰天することだろうと、笑い声が揃う。

 

 

「……スーちゃん、忘れたわけじゃないよね?」

「……勿論。夢はでっかく、『国一番のアトリエ』ってね」

 

 

 ……否、歓喜しただろうか。

 指先すら届かぬとしていた目標に、確かに手を掛けているその姿に。

 

「…分かってるなら早く素材採取しようよ。その為にこの世界に来たんでしょ?」

「うん、まあ、そうなんだけどー……リディ―、やっといてよー」

 

「何で私だけやらなきゃいけないの」

「あ~…ほら、日々頑張ってる妹への慰労とか。あと、間食で弛んだお腹」

 

「うっ! ……も、もう、しょうがないなあ」

 

 付け加えられた一言が効いたのか、小声で何事か呟きつつ少女はくるりと周囲を見渡す。

 そして、何かを探すかのように小島の上を歩き始めた。

 

 

「……んしょ。この子と……あ、この子もかな」

 

 草を、花を、あるいは土を。

 淀みなく伸ばされる手が、幻想を形作るそれらを間引くように『採り』上げていく。

 

 何かに導かれるように、何かの囁きに耳を傾けるかのように。

 少女の手に乗せられていく『彼ら』からは、歓喜の声すらも響くようで。

 

 

「……はい、集めてきたよ、スーちゃん」

「わーい、ありがとー、リディー! …うん、やっぱりここで集めると違うよねえ」

 

 やがて、少女が腕から下げた籠の中に、小さな『世界』が出来上がる。

 差し出されたそれを受け取ったもう一人は、少女と同じ輝きを湛える瞳にそれらを映し、僅かの沈黙を経て満足気に頷いた。

 

「まあ、品質が段違いだもんね。…でも、素材の質に頼ってばかりも良くないよ?」

「う、わ、分かってるって。……リディーはいつもそういうんだから、もう」

 

 少女からの金言にぶつぶつと言い訳を溢しつつ、集められたそれらを手慰みに弄る彼女。

 かさり、かさりと素材を掻きわける音が、幻想の世界に小さく響いた。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 俄かに。

 

 二人の間に静寂が舞い戻る。

 他の音源を持たぬ世界が、ともすれば時を止めているかの如くに。

 

 

「……これで、また暫くは大丈夫だよね」

「……うん」

 

「今度からは、時間があるときにどこかで集めておこうね。いつもここの素材を使ってばかりってわけにもいかないし」

「…………」

 

「……スーちゃん?」

 

 いつの間にか手を止まっているその姿に、少女は小首を傾げ問いかける。

 見つめる少女の視線の先で、その手にはいつしか白く力が込められていた。

 

 

「…………やだ」

 

 

 真一文字に結ばれた口から、零れたのは微かな呟き。

 

 

「絶対……ぜったいに、また来るから」

 

 籠を握る手をふるふると振るわせて。

 

 

「だって……だってここなら、この絵の世界に、来さえすれば……」

 

 くしゃりと歪ませた顔で、彼女は心のままに叫ぶ。

 

 

 

 

「―――また()()()()()()()()んだもんっ!!」

 

 

 

 

「…………スーちゃん」

 

 僅かに困ったような目で見つめて、ゆっくりと少女は口を開く。

 一度、瞬きを挟んだその顔に、流れる『雫』が一筋。

 

 

 

 

「私は、もう『リディー』じゃない。分かってるんでしょう、『作者様(スール)』?」

 

 

 

 

「……っ!」

 

 『リディー』の顔を伝うように流れるは、一滴の『黒』。

 『スール』は一瞬、それを目に映し……半ば反射的に顔を背けた。

 

 

「……本物の彼女(リディー)とは違うモノだと、誰より貴女が理解してる。だからこそ目を逸らせばすぐに、()()()()()()()。……それだって、もう、分かってるはずだよね?」

「ひ、ぅ……っ」

 

 カチカチと、小さく歯の鳴る音が漏れる中で。

 浮かべていた微笑みの上へと、注ぐように広がりゆく『黒』。

 

 

「『私』はこの絵そのもの。この絵の作者、『ロジェ』と『スール』の想う、『リディー』の姿。それはかつては殆ど『リディー』だったけれど―――」

 

 カサリ、と。

 少女の足から飛び出した、()()()()が音を立てる。

 

 

()()じゃない、と。どこかで貴女が認識した時、『私』は()()じゃなくなった」

「うあ……ぁ……」

 

 カサリ、カサリとにじり寄り。

 顔を覆い蹲る『妹』を、見下ろす『少女』。

 

 

「……どうして、見てくれないの?」

 

 ポタポタと水音を立てて、『少女』から零れ落ちていく『黒』。

 同じく『黒』に染まる腕がゆっくりと、しかし有るべき際限を侵し伸び始める。

 

 

「ちゃんと『私』を見てよ、『スーちゃん』?」

 

 伸ばした『腕』を巻き付けるが如く浮かべて。

 生やした『脚』を呼吸に上下する喉元へそえて。

 『黒』に塗りつぶされた顔に、白く残った『口』が囁くように言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「スーちゃんのせいで、私は()()なったんだよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――おバカだなあ、相変わらず」

 

 

 風も吹かない虹の空へと手を伸ばし、少女は独り呟く。

 『腕』も、『脚』も、『顔』も、作者達が()()()望んだ『リディー』へと戻して。

 

 

「この世界に入るのも、出るのも、絵の前に立った()()()()()()()()()()()なのに」

 

 そうあるべく描かれた『顔』に、そうあるべくされた微笑みを浮かべて。

 掲げた手の先に広がる空を、眩しげに見つめて。

 

 

「スーちゃんがそう望まない限り、『私』は怒ったりしないのに」

 

 

 温かな光が満ちるよう描かれた世界の中で。

 『リディー』であることを望まれた『少女』は、そうあるべく描かれた空の彼方───その先に()()()()()()()()へと、呟く。

 

 

「……許してほしいと望めば、それだって叶うのにね」

 

 

 

        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「―――おい。……おい、起きろ、スー」

「んぅ……? あ、お父さん……」

 

「お前……またこの絵に入ってたな?」

「…………」

 

「まあ今更、入るな、とは言わないが……しかし……」

「…………」

 

 

「……未だに『不思議な絵』として成立しているんだな、お前にだけは」

「……うん」

 

「…………」

「…………」

 

「……リディーは、居るんだな? この中に、まだ―――」

「ねえ、お父さん」

 

 

「……何だ?」

「リディーの顔、覚えてる?」

 

「っ、当たり前だろう。忘れるわけが…………おい、まさか、そういうことなのか?」

「……さあね」

 

「…………」

「…………」

 

 

「……覚えているさ、当然だろう。この絵だって、凡そは俺が描いたんだ」

「…………」

 

「……なあ、スー」

「ん……」

 

 

 

 

「この絵を……絵の中のリディーの顔を、()()()()()()()()のは何故なんだ?」

 

 

 

 

「絵の名前だってそうだ。上から塗りつぶして……()()はどういう意味なんだ?」

「…………」

 

「スー。なあ―――」

「ごめん」

 

「『ごめん』ってお前……あ、おい、どこへ―――」

「仕事、しなきゃだから」

 

 

 

 

「……スー」

 

 

「……」

 

 

「……『天海に()()()()()』、か……」

 





 失伝した開祖本来の『絵画』は、『(ゆわ)い』など与えずとも(なが)く。


 文中の『少女』がどちらを指しているかにご注目。
 具体的に何年後とかは決めてません。経緯も未定です。


 「別々に暮らすとしたら?」に対し「「やだ!」」と即答する二人は間違いなく共依存。
 『両親』という前例がある手前、二人のどちらかに『御不幸』がありでもしたら、こうなってもおかしくないかなあと。

 そんな感じで初見プレイ時に降りてきていた構想を、リハビリ兼ねて書き起こしてみました。
 ……普段何考えてゲームやってんだ作者(こいつ)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。