※元小説ID:320090 投稿日:2023年07月05日(水) 12:00 一部改稿あり
深紫の微笑み、絵画の世界に花開く。
ずっと投稿間隔空けてるし、生存報告でもしようかな。
折角なら最近プレイしてたアトリエシリーズで何か書こうかな。
というわけで『リディー&スール』を題材に短編を一つ。
※注意:単体の短編として投稿した際、タグには「ホラー」を含めていました。
───虹色の空に、浮かぶ小島。
歪曲した縁から零れ、色彩豊かな虚空へと注がれていく青い水。
薫風は甘やかに香り運びて涼し。
黄金の陽射しを浴びて開くは深紫の花弁。
頭の上から、足の下まで、現実には決して存在し得ぬ夢景色。
そう此処は、誰かが望んだ天つ国。
『天海に■■■■■』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「また来たよー」
「また来たねえ」
無秩序で、不安定なようで、調律された作品の如き土を踏みしめ歩くは二つの人影。
かたや優し気な微笑みを他方へと浮かべ。
こなた隠しきれぬ悪戯心を笑みに乗せて返し。
「―――てりゃっ!」
「きゃっ!? す、スーちゃん!?」
「リディ―のお腹ぷにぷにー。さてはまたこっそりお菓子食べてたでしょー?」
「う……スーちゃんだって、どうせまたつまみ食いしてたんでしょう!?」
「あたしは食べた分ちゃんと運動してるし。こもりっぱなしのリディ―と違って」
「わ、私だって毎日腕立てとかしてるんだから!」
「…いや、三回とか五回とかじゃ運動のうちに入らないから」
「んぐぅ……」
幻想に包まれたような世界に、他愛無いやり取りが響き渡る。
とはいえ湛えられていた静謐を乱す彼女達を咎める者もまた、ここには存在し得ない。
「はー……無駄なことしてないでやることやろうよ。そのために来たんでしょ?」
「えー、ちょっとぐらい良いじゃん、遊んでたって」
「そんなこと言って、どうせまた気が付いたら仕事が溜まってるんだから」
「仕事……そうだねえ、溜まってくねえ」
柔らかな草の上へと寝転んだその口から、どこか感慨深げな呟きが漏れる。
険のある表情でそれを見下ろしていた少女もまた、ふっと息を吐き、虹色の空へと目を向けた。
「……渋うにスープでしのいでた頃が嘘みたいだよ。何日も仕事が無いのも当たり前だったのに」
「……良いことじゃない。その頃に戻りたい、とは思わないでしょ?」
「…………」
「……スーちゃん?」
「う、うん、思わない思わない。ちょっと忙しくて面倒くさいなんて思ってない」
「…もう、スーちゃんったら」
かつては碌な仕事もとれず、名ばかりの錬金術士だった二人。
それが今では国の中でも有数の錬金術士と謳われるに至るなど、当時の自分達が耳にすればさぞ仰天することだろうと、笑い声が揃う。
「……スーちゃん、忘れたわけじゃないよね?」
「……勿論。夢はでっかく、『国一番のアトリエ』ってね」
……否、歓喜しただろうか。
指先すら届かぬとしていた目標に、確かに手を掛けているその姿に。
「…分かってるなら早く素材採取しようよ。その為にこの世界に来たんでしょ?」
「うん、まあ、そうなんだけどー……リディ―、やっといてよー」
「何で私だけやらなきゃいけないの」
「あ~…ほら、日々頑張ってる妹への慰労とか。あと、間食で弛んだお腹」
「うっ! ……も、もう、しょうがないなあ」
付け加えられた一言が効いたのか、小声で何事か呟きつつ少女はくるりと周囲を見渡す。
そして、何かを探すかのように小島の上を歩き始めた。
「……んしょ。この子と……あ、この子もかな」
草を、花を、あるいは土を。
淀みなく伸ばされる手が、幻想を形作るそれらを間引くように『採り』上げていく。
何かに導かれるように、何かの囁きに耳を傾けるかのように。
少女の手に乗せられていく『彼ら』からは、歓喜の声すらも響くようで。
「……はい、集めてきたよ、スーちゃん」
「わーい、ありがとー、リディー! …うん、やっぱりここで集めると違うよねえ」
やがて、少女が腕から下げた籠の中に、小さな『世界』が出来上がる。
差し出されたそれを受け取ったもう一人は、少女と同じ輝きを湛える瞳にそれらを映し、僅かの沈黙を経て満足気に頷いた。
「まあ、品質が段違いだもんね。…でも、素材の質に頼ってばかりも良くないよ?」
「う、わ、分かってるって。……リディーはいつもそういうんだから、もう」
少女からの金言にぶつぶつと言い訳を溢しつつ、集められたそれらを手慰みに弄る彼女。
かさり、かさりと素材を掻きわける音が、幻想の世界に小さく響いた。
「…………」
「…………」
俄かに。
二人の間に静寂が舞い戻る。
他の音源を持たぬ世界が、ともすれば時を止めているかの如くに。
「……これで、また暫くは大丈夫だよね」
「……うん」
「今度からは、時間があるときにどこかで集めておこうね。いつもここの素材を使ってばかりってわけにもいかないし」
「…………」
「……スーちゃん?」
いつの間にか手を止まっているその姿に、少女は小首を傾げ問いかける。
見つめる少女の視線の先で、その手にはいつしか白く力が込められていた。
「…………やだ」
真一文字に結ばれた口から、零れたのは微かな呟き。
「絶対……ぜったいに、また来るから」
籠を握る手をふるふると振るわせて。
「だって……だってここなら、この絵の世界に、来さえすれば……」
くしゃりと歪ませた顔で、彼女は心のままに叫ぶ。
「―――また
「…………スーちゃん」
僅かに困ったような目で見つめて、ゆっくりと少女は口を開く。
一度、瞬きを挟んだその顔に、流れる『雫』が一筋。
「私は、もう『リディー』じゃない。分かってるんでしょう、『
「……っ!」
『リディー』の顔を伝うように流れるは、一滴の『黒』。
『スール』は一瞬、それを目に映し……半ば反射的に顔を背けた。
「……本物の
「ひ、ぅ……っ」
カチカチと、小さく歯の鳴る音が漏れる中で。
浮かべていた微笑みの上へと、注ぐように広がりゆく『黒』。
「『私』はこの絵そのもの。この絵の作者、『ロジェ』と『スール』の想う、『リディー』の姿。それはかつては殆ど『リディー』だったけれど―――」
カサリ、と。
少女の足から飛び出した、
「
「うあ……ぁ……」
カサリ、カサリとにじり寄り。
顔を覆い蹲る『妹』を、見下ろす『少女』。
「……どうして、見てくれないの?」
ポタポタと水音を立てて、『少女』から零れ落ちていく『黒』。
同じく『黒』に染まる腕がゆっくりと、しかし有るべき際限を侵し伸び始める。
「ちゃんと『私』を見てよ、『スーちゃん』?」
伸ばした『腕』を巻き付けるが如く浮かべて。
生やした『脚』を呼吸に上下する喉元へそえて。
『黒』に塗りつぶされた顔に、白く残った『口』が囁くように言葉を紡ぐ。
「スーちゃんのせいで、私は
「―――おバカだなあ、相変わらず」
風も吹かない虹の空へと手を伸ばし、少女は独り呟く。
『腕』も、『脚』も、『顔』も、作者達が
「この世界に入るのも、出るのも、絵の前に立った
そうあるべく描かれた『顔』に、そうあるべくされた微笑みを浮かべて。
掲げた手の先に広がる空を、眩しげに見つめて。
「スーちゃんがそう望まない限り、『私』は怒ったりしないのに」
温かな光が満ちるよう描かれた世界の中で。
『リディー』であることを望まれた『少女』は、そうあるべく描かれた空の彼方───その先に
「……許してほしいと望めば、それだって叶うのにね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――おい。……おい、起きろ、スー」
「んぅ……? あ、お父さん……」
「お前……またこの絵に入ってたな?」
「…………」
「まあ今更、入るな、とは言わないが……しかし……」
「…………」
「……未だに『不思議な絵』として成立しているんだな、お前にだけは」
「……うん」
「…………」
「…………」
「……リディーは、居るんだな? この中に、まだ―――」
「ねえ、お父さん」
「……何だ?」
「リディーの顔、覚えてる?」
「っ、当たり前だろう。忘れるわけが…………おい、まさか、そういうことなのか?」
「……さあね」
「…………」
「…………」
「……覚えているさ、当然だろう。この絵だって、凡そは俺が描いたんだ」
「…………」
「……なあ、スー」
「ん……」
「この絵を……絵の中のリディーの顔を、
「絵の名前だってそうだ。上から塗りつぶして……
「…………」
「スー。なあ―――」
「ごめん」
「『ごめん』ってお前……あ、おい、どこへ―――」
「仕事、しなきゃだから」
「……スー」
「……」
「……『天海に
失伝した開祖本来の『絵画』は、『
文中の『少女』がどちらを指しているかにご注目。
具体的に何年後とかは決めてません。経緯も未定です。
「別々に暮らすとしたら?」に対し「「やだ!」」と即答する二人は間違いなく共依存。
『両親』という前例がある手前、二人のどちらかに『御不幸』がありでもしたら、こうなってもおかしくないかなあと。
そんな感じで初見プレイ時に降りてきていた構想を、リハビリ兼ねて書き起こしてみました。
……普段何考えてゲームやってんだ