以前ヒロアカとのクロスに使った『ガレ魔女』を今度は単品でもう一本。
救済二次が欲しい? だったら書けば良いだろうの精神。
原作未プレイの方にも何となく雰囲気は伝わるように書いたつもりです。
伝わるかな? 伝われ(ゴリ押し)。
…………でもこれ救済になってるかなぁ(小声)。
「―――これで、前回の『予言』は終了だね」
カチリ、と電源が切られて、聞こえていたニュースが途切れる。
静かになったラジオを一度、埃を払ってから彼女は振り返った。
『不死の魔女』キットカット。
男と名乗れば男にも思われる、長身に中性的な顔立ちの若々しい見目を備えた黒髪の魔女。
その端正な顔に浮かぶのは、平生から崩れぬ微笑みと微かに滲んだ主への労わり。
「すぐに次の『予言』をするかい、巫女様?」
「…………そうじゃの」
そんな彼女の顔を見上げながら、ぼんやりと応答するは『巫女』と呼ばれた金髪碧眼の少女。
気もそぞろなその様子に、肩を竦めたキットカットからは「しょうがないな」と呟きが漏れた。
「一時期に比べたら、眠くなるぐらいに平和なのは同感だけどねえ。一応、大事な仕事なんだからシャッキリしてくれないとみんな困っちゃうよ?」
「あ、ああ、うむ……分かっておる……」
冗談めかした諫言にむにゃむにゃ応えながら、少女の視線は窓の外へと向けられる。
そこから覗くのは一面の青空と、遥か下に小さく見える灰色の街並み。
───タワーオブヴァルプルギス・1618r。またの名を『巫女の間』。
魔法によって幾重にも守られた『存在を知らなければ認識すらできない部屋』。
とある高層ホテルにひっそりと設けられている、『巫女様』の仕事場兼自宅。
それは彼女が人々にとってどのような存在であるかを示す、実に簡明な物差しでもあった。
「ほら、いつものペンデュラム持って。ボクはいつも通り外を見張ってるからさ」
「……うむ、頼む」
そんな『巫女様』に、だらしない妹を見るような目を向けるはキットカット。
傍のテーブル上に投げ出されていた、どこかくたびれたペンデュラムを手に取り、未だ上の空な少女の手に握らせたところで彼女は部屋を後にする。
離れる背中を見送った後、残された少女はやがて気を入れ直すように軽く頭を振った。
―――『予言の巫女』もしくは『予見の魔女』。
それらの呼称が少女を飾り立てたのは、数十年の昔。
意識を持って目を閉じれば、数日、数ヶ月、時には数年先の出来事をその眼に『視る』。
当人の認識では"ちょっとした特技"であったそれを
そもそも人という人から隠れていた自分をどうやって見つけたのか、と件の魔女は少女に尋ね。
返った答えは、貴女に会っている自分が『視え』た、との一言。
結果、隠遁に耽っていた当の魔女が、己が魔女であるとすら知らなかった少女を引き回す勢いで表(?)舞台に立たせた末が今の状況であった。
されど少女の『予見』は、単に未来の光景を『視る』力などでは無かった。
少女が『視た』未来は、当人が再度『視ない』限り、ほぼ確実に訪れる未来となるのだから。
仮に思わしくない未来が『視え』たとしても、それが回避される様が『視え』るまで『予見』を繰り返せば事は済む。
見ようによっては彼女が全世界の未来を決めているとも言えるのだ。厳重に保護される対象にもなろうというものである。
―――大戦、大災害、大飢饉、疫病の流行……
少女が重ねた『予言』で回避されてきた悲劇は、この百年で既に数え切れない域にある。
尤も、人為的なものを除けば少女が『視な』ければそれらが起きた、という証拠もまたどこにも存在しないため、未だ胡乱な目を向ける者もまた僅かながら存在している。
そうした考えを抱く者こそ、彼女を擁する組織『ソサエティ』に反目する人間であり……少女の居所に敷かれた防護策が奇々怪々な代物となっているのも仕方の無いことであった。
……とはいえ、と。
幼い頃から『予見』の補助に使ってきたペンデュラムを握り、少女は小さく辟易の息を吐く。
ここ十数年程、その目がそうした方向での剣呑な未来を『視た』ためしは無く。
各地に燻ぶった紛争の種は粗方片付けられ、数日天候が崩れた程度で食い扶持を失うような民も最早この世界には残されておらず。
そろそろ、この『巫女』という仕事を縮小しても良いのではないだろうか、と。
そして『ソサエティ』に属する魔女達にも───そろそろ改めて自身の『最初の願い』について本格的な助力を頼んでも良い時期ではなかろうか。
そんな思考を漠然と抱きながら、少女はゆっくりと瞳を閉じて。
「…………え?」
一瞬、『視え』た景色に少女は息を止めた。
「え、あ……やっ!?」
反射的に再び『予見』しかけて、慌てた少女の手からペンデュラムが放り投げられる。
カチャンと音を立てて壁にぶつかり床に転がったそれを、彼女は呆然と見つめた。
───『視え』た未来は、再び『視る』まで変化しない。
稀に例外こそあれ、百年を費やし突き止めた事実が少女の頭を巡って。
……みえた。
少女の口が、声を伴わぬまま言葉を紡ぐ。
みえた。
みえた、みえた、みえた。
ずっとずっと、見たかった。
ずっとずっと、『視た』かった。
何度も何度も泣きながら『視て』、諦めかけていたものが。
「……今の音、どうかしたかい、巫女さ―――」
物音に気付いたキットカットが開けた扉に、少女は弾かれたように顔を向けた。
その時、彼女の視界に入っていたのは、その長い腕の下に覗く廊下で。
「え……? あ、ちょ―――っ!?」
言い訳を、理由を、少女が考えるよりも先に、その身体は駆け出して。
驚き目を丸くするキットカットを、刹那遅れて伸ばされた手をスルリと躱し。
「ちょ、ちょっと巫女さ―――ユリィカぁっ!!?」
背中に届いた声も聞かず、少女は真っ直ぐにホテルの外へと飛び出していくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───はぁっ……はひっ……はあぁ……っ!」
力一杯、全力で走ったのなんて、いったい何十年振りだろう。
あっという間に息が上がって、足もお腹も喉の奥もギシギシ痛い。
「こ、こんなこと、ならっ……たまには身体、動かしとくんだったよぉ~……」
夕暮れの空の下、ひんやりした空気を必死に吸いながら、重くなってきた手足を動かして。
ずっと身体を動かす機会を避けていた過去の自分に恨み節を流した。
百年前、オババ様がわたしに飲ませたらしい『
キットなんかこの前、凄くカッコヨク屋根の上を飛び跳ねて渡ったのに……うう、今はとにかくさっき『視え』た場所に辿り着くことだけ考えよう!
…………というか本当に今更だけど何てモノ飲ませるんですか、オババ様。
せめてどういう薬か説明してからにしてほしかったです。
「はっ……はあ……『ガレリア雑貨店』……っ?」
『視え』た未来を頼りに、辿り着いた店舗の名前を読み上げる。
その響きに頭の奥がチリチリと燻って、それで気が付けた。
ガレリア───あの日の宮殿と同じ名前。
これは偶然? それとも……何かの因果なの?
「……っ」
それでも考える時間も惜しくて、息も整わないまま小さなお店の扉を押し開く。
途端にフワっと香った古い木造の匂いと埃に、ちょっぴり咽そうになって。
「───ん? ああ、いらっしゃい」
(…………あ……っ)
ひゅっ、と喉が鳴って。
扉を開けた姿勢のまま、見開いた目が潤むのが分かった。
……間違いない。
間違いじゃ、なかった。
真っ黒なフード付きローブ。
そこから覗く赤毛に赤い瞳。
ぶっきらぼうな声も、ちょっと心配になるくらいに曲がった猫背も。
全部、ぜんぶ……
(ナ、チ……ぃっ!)
息の切れた口をはくはくと動かして、出そうとした声は詰まって出てこない。
それが何だかおかしくなって、口元を緩ませながら店の中に一歩進んで。
「……何、あんた? どっかで会ったことある?」
「…………え?」
懐かしくて堪らなかった声で紡がれた一言に、縫い付けられたように足が止まって。
不思議そうに、迷惑そうに向けられた眼差しに、背筋が凍り付いた。
……からかおうとしてるわけじゃない。
照れ隠しでも、ない。
彼女は本当に本心から、わたしを『知らない』と言っている。
「……ナチ……ナチ、だよね……?」
「え? あ、ああ……確かにワタシの名前はナチルだけど……何いきなり呼び捨てにしてるわけ? アンタ誰だよ?」
続いた言葉で今度こそ、現実を突きつけられた。
人違い。
他人の空似。
可能性が高いのはそんなところ。
考えてみれば、さっき『視え』たのは彼女の姿だけ。
それが私の知ってる『ナチル』だって証拠はどこにもなかった。
それが『視え』た途端、驚いて『予見』を途切れさせちゃったのはわたし。
もっと先までちゃんと『視て』いれば、ここまで分かってたかもしれないのに。
単に、単なる、わたしの先走りと……勘違い。
「あ、は……う……ううっ」
「え……お、おい、大丈夫か?」
困った顔で、でも手を差し伸べてくれる姿が、記憶の中のナチのままで。
「うあ、あ……あああああぁぁぁ……っ!!?」
「うわっ、ちょ、何だよオマエ!? 店ん中で泣くなってぇ!?」
塞ぎかけた傷口を抉られたみたいに、堪えようとした涙が溢れ出した。
心が痛い、喉も痛い、頭も足も何もかも痛くて堪らない。
ナチと同じ顔のナチルを慌てさせちゃってるのも、すごく申し訳ない。
けど……噴き出してしまった心を止められる気がしなかった。
―――ナチ……どこに居るの、ナチ?
本当に、本当に消えちゃったの?
わたし、ずっと探したんだよ? 百年間ずっと、ずっと―――
「「「―――ご無事ですかっ!?」」」
「え、なっ……ぎゃっ!?」
「……えっ?」
轟音と共に店内に飛び込んできた大きな背中に、一度涙が引っ込んで。
それが馴染みのある
「……まったく、急に一人で走っていくなんて、一体何が『視え』たのかな? まあ後はボク達に任せなよ、巫女さま」
「え、あ……キット……!」
「……み、みこさま……? あぐっ、うげっ!?」
黒々とした笑みのキットカットに睨まれて、竦んだ耳にナチ……ルさんの呻き声が聞こえて。
わたしがそっちに目を向けたのを見て、背中から手を離した彼女がそちらに歩み寄っていく。
……どうしてキットが……あ、そっか、わたしを追いかけてきたんだ。
何も言わずに出てきちゃったし、それは……あれ? でも護衛人形達さっきから何して───
「さて……そう大した人物には見えないが『予言の巫女』がボクに説明すら無しに駆け出すような手合いだ。暴れる前にさっさと『対処』させてもらうとしようか」
「……はぁ!?」
「…………えっ」
冷たく続いたキットの言葉に、さあっと血の気が引いた。
気付いたら護衛人形達も、それぞれゆっくり腕を振り上げて……あ、あぁっ!?
「……ま、待って違う、違うの、キット!? 勘違いで人違いだったのぉっ! お、お願い!! おねがいだからっ、ナチにひどいことしないでえぇっ!!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――うぅ……キットのばかぁ……」
「…………イヤ、これに関してはキミが悪いとボクは思うけどなあ」
そこは無残に破壊され、木片、石片、ガラス片に散りばめられた店内。
護衛人形達が駆け回る姿を横目に、確保された
その隣には、ぐすぐすと鼻を鳴らして俯く『巫女様』ことユリィカの姿。
ご立腹の主に「しかし」と苦笑を深めたキットカットは額を押さえて抗弁する。
「あの『予言の巫女』様が、突如脇目もふらずに駆け出したんだよ? すわ大災厄か、と誰だって判断すると思うんだ。なあ、キミ?」
「……え? あ、まあ……確かに?」
苦み走った表情で水を向けられ不承不承に頷くは、顔を青痣に腫らした赤毛の少女、ナチル。
何か言いたげに、しかし怒りよりもずっと深く悲しみに暮れた様子の少女に視線を向けた彼女は喉まで出かかった言葉を呑み込み、代わりに質問を口に出した。
「えっと、コイツ……いえ、この子が本当に
「…………一応最高機密なんだけどね。まあ、ボクの方から言っちゃったし今更か」
ふう、と溜息を吐き、キットカットは俯く少女の肩に手を乗せる。
そうして痛みに歪んだ顔から胡乱な視線を向けるナチルへと、声に力を込めて宣言した。
「この御方こそ『国家元首の命を束にしようとも吊り合わない』とまで言われる全人類にとっての最重要人物『予言の巫女』こと、ユリィカ・ド・ソレイユ様だよ」
「…………この子が?」
「……この子が」
「……本気で?」
「本気で」
はああっ、と長い溜息が二人分重なる。
自分の頬に手を当てたナチルは、直後走った鈍い痛みに顔を歪めた。
「っ、痛……!」
「あ……ごめん、ごめんねえ、ナチ……ル、さん」
「…………勘違いでボコられたことに関しては、その巫女サマに免じて忘れてやるよ」
「……そうしてくれると実に助かるよ」
ペコペコと下げられる
暫しの沈思の後、彼女は頬から額へと手を移して下がっていた眉を吊り上げた。
「ただ、勘違いの原因ぐらいは……あ、でも、機密云々は聞きたくないし……」
「……安心するといい、巫女様の素顔以上の機密なんてこの世に存在しない」
「…………いや、安心できるかっ!? ……っ!?」
痣で膨らんだ瞼をくわっと見開き反論した直後、走った痛みに悶絶するナチル。
それを愉快そうに眺めた後で、キットカットは傍らのユリィカに顔を向けた。
「まあともかく、それについてはボクも聞いておかないとね。いったいキミは何を『予見』して、どうしてまた一人で飛び出していったりしたんだい?」
「……っ、それは―――」
キットカットに促され、たどたどしくユリィカは話し出す。
自分が『視た』もの、みたかったもの。
百年前の『親友』と、百年抱き続けた想い。
長年の付き合いたるキットカットは「まさか」という表情で目を見開き。
対してナチルの顔には話が進むごとに困惑が広がっていった。
「…………いや、絶対人違いじゃんか」
百年前の人物と自分が双子と見紛うほどに似ていた。
普通の人間がそう言われれば当然抱くだろう感想をナチルが呟く。
「……いや、そうとも言い切れないね」
一方で、手を口元に当てたキットカットが虚空を見つめながらそれを否定する。
……話しながらまた泣き出してしまったユリィカの背に手を添えながら。
「ボクや巫女様のような高位の魔女は大体が不老の存在だからね。百年間、姿形を変えずに生きていたとしても何も不思議じゃないんだ。その友人様も魔女だったようだし」
「……マジで?」
「マジさ。そもそも『巫女様』の存在が周知されたのがいつの話かぐらいは知っているだろう?」
「…………あ、ああー……え、ってことは……マジで?」
「マジさ」
にべもなく返される肯定に、ナチルは目を白黒させつつ、振る舞いも相まって同年代以下にしか見えないユリィカに何度となく視線を向ける。
そんな様子に薄く微笑みながら、ふと近寄ってきた護衛人形の手から何らかの書類を受け取ったキットカットが笑みを崩さないままに口を開いた。
「───『ナチル・コルベール』十七歳、ここ『ガレリア雑貨店』にて母親と二人暮らし。ああ、幼少期の写真もついてるか」
「なっ……!?」
つらつらと出てくる自分の個人情報にナチルが目を剥いた。
その鋭い視線を柳に風と受け流し、キットカットはおどけるように手を広げる。
「普通の人間の振りをして紛れ込んでいる不老の魔女……という可能性が一応あったからね。急遽調べさせてもらったよ。まあ、そういった思慮深い手合いでないことは、こうして対峙した時点で明らかだったけどね?」
「……っ」
明らかな侮蔑を含んだ言葉を受け、ナチルの眉間に皺が刻まれる。
未だ薄笑いを続けるキットカットは、不意にその視線を僅かに上に向けた。
「母親の仕事は……工場勤務か。わあ、結構キツイって噂のところじゃないか」
「…………」
「……おやおや、母親をそんなところで働かせながら、自分は不登校かい? 親不孝者だねえ」
「それは……っ」
「……ぐすっ……」
「しかもキミ……認可外の魔法行使は重罪だって知ってるかい?」
「……っ! な、にを言ってるのか……」
「……ひっく……ぐすっ……」
「あはは、頭も足りないとくる。こんな娘を持った君のお母さんが気の毒で仕方ないよ」
「何を……っ! アンタには関係ないだろっ!」
「……ぐす、ひっく……うぅ……」
「…………」
「…………」
「えぐ、ぐすっ……ひっく……」
ナチルが、キットカットが、上げていた気炎を収めて真顔のまま顔を見合わせる。
それぞれ同じ方向に───しゃくりあげるユリィカに顔を向けて、同時に溜息を吐いた。
「……やめよっか。誰も得しそうにない」
「……そうですね」
目を真っ赤に泣き腫らすユリィカを宥めるキットカットに、所在無げにそれを見つめるナチル。
店内の修復を命じられた護衛人形達だけが、ただ静かに働き続ける空間がそこにあった。
「……かの『友人』について聞いてはいたんだ。ボクと出会うより以前の話としてね」
「その……ワタシのそっくりさんは今までに探し出せなかったんですか?」
「努力はしたんだけどね……巫女様の『予言』以上の手段があると思うかい?」
「ああ、それじゃあ……あ、いえ、すみません」
「……察してくれてどうも。でも、正直ボクも
キットカットの腕の中から漏れる泣き声が一際大きくなる。
ますます身の置き所を失くしたナチルが虚空に視線を彷徨わせた。
「思うに巫女様も本音では諦めているつもりだったんじゃないかな。こうも取り乱した姿なんて、ボクですら何十年と見ていないからね」
「…………なんていうか、その、人違いで本当すみませんでした……」
「いやいやいやそれはキミのせいではないよ、うん」
理不尽過ぎる理由で頭を下げたナチルに、慌てて首を振るキットカット。
ついさっきまで険悪に睨み合っていたとは思えない連帯感がそこにあった。
「えっと……それで、ワタシの扱いは結局どうなるんでしょう?」
「……どうしたものかなー。イヤ本当に。……機密を知ったキミを放置はできないけど、巫女様の御心を考えると傷付けるなんて以ての外だ。だけど―――」
そこで言葉を区切ったキットカットが、先程も目を向けた天井に今度は渋面を向ける。
ここでようやくその意図に気付いたナチルが、ばつが悪そうに目を逸らした。
「……魔女にとっては一目瞭然なんだよ。さっきも言ったが、認可外の魔法行使は重罪……職務を全うするならキミを連行せざるを得ない。どうせ天井裏には証拠も山程転がってるだろう?」
「う……」
「法に照らせばキミは二度と日の目は拝めない……なんて言ったらこれだ。見なよ巫女様の顔」
「……おおう」
促されて覗き込めば畢竟、当事者である自身の方が心配になる程の絶望に満ちた顔を向けられ、場違いな感慨を抱く羽目になるナチル。
キットカットもまた、彼女と違い殴られたわけでもないのに痛みを堪えるように頭を抱えた。
「…………これは此処だけの話だけど。巫女様が本気で望まれるというなら大概の無理は通せる。少なくともキミをしょっ引かずにすむ理由なら、数日あれば作ってしまえるね」
「……ひょっとしてヤバイ話してます?」
「まあね」
「アッサリ認めんなよ……それで?」
「だから、そうだね……その数日の間だけでも大人しくしていてもらえるかな? キミの罪が公になってしまうと流石に揉み消すのも厳しいからさ」
「…………うへぇ」
「巫女様……ユリィカ、キミもそれで良いよね?」
「……ん」
ぐしぐしと顔を拭って、ユリィカが支えられながら立ち上がる。
店内を───護衛人形達の成果を確認したキットカットは、初めの調子を取り直して告げた。
「もう言うまでもないだろうけど、今日の事は他言無用だ。キミの詳しい処遇についてはこちらも熟慮の必要があるので、二、三日待っていてくれたまえ。それではっ」
「あ、はい」
呆気にとられるナチルから視線を外し、徐に空中に文字を描き始めるキットカット。
それが転移魔法の準備だとは知らず、ナチルは振り向いたユリィカと目を合わせた。
「何て言うか、その……頑張れよ、ユリィカ」
「……っ!?」
『巫女』というのがどんな仕事形態であるのか、ナチルは知らない。
それなりに気苦労も多いんだろうな等と思って一言、労わりを口にしただけである。
ナチルは知らない。
その微笑みが、ユリィカが
ナチルは目にした。
泣き腫らしたユリィカの目から、再び滝のような涙が零れ出す瞬間を。
「ナ゛チ゛ぃっ―――」
ナチルは耳にした。
転移の光に遮られた、叫びに近いユリィカの声を。
「…………あ、これ、やらかしたか、ワタシ?」
遥か遠くから、中性的な魔女の非難がましい視線が突き刺さる幻覚を感じつつ。
固まった微笑みから零れたその呟きは、見事に修繕された店内に消えるのであった。
真End前の復活アルムーンっぽい世界がアルステラ時代まで進んだらIfなイメージ。
ユリィカって結局ナチルさんの抱えてた事情や魔女の実態も殆ど知らない筈+マダム・マルタの態度から魔女同士は何かしらの繋がりがあるものと考えそうなので、消えてしまったナチルさんの手掛かりを求めてそこらの魔女に吶喊しそうだなと思ったのです。
その結果『未来視』能力が露見、こちらの世界にも『ソサエティ』爆誕。
ただし『滅び』に直面した世界ではないので、かつてのアルステラに比べれば規模は小さめ。
それでも正しく運用されれば幾らでも権力は集まってくる。
これならナチルさんも権力盛り盛り巫女ユリィカに囲われてなんだかんだで幸せになれる、筈。
この世界には
……でも閉じていた世界が進んじゃってるので、このユリィカにとってのナチルさん(本物)は一人孤独に力尽き朽ち果てた後ということに(ry
ナチルさん救済って、誰を救済すれば良いのかという哲学染みた問題に突き当たるんですよね。
・最初のナチルさん
・転写されたナチルさん
・名を忘れるナチルさん
これらが厳密には全部別人な上、揃いも揃って途方もない苦労を抱え込みなさるから困るんだ。
いっそ
…………そもそも復活アルムーンのユリィカからはナチルさんの記憶が消えてるっぽい?
それじゃ救いを作れないだろ、いい加減にしろ。