アーカイブ・ドロップアウト   作:カムラン

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三周年を機に始めたブルアカ初心者先生なので、設定キャラの口調が変かもしれませんが、どうかご容赦ください……


序章:Sensei Encounter
The President Is Missing


 

 

 

 

 

ㅤ学園都市キヴォトス。

ㅤ幾多もの学術機関とその自治区で構成されるこの都市には、多くの不良たちが集う無法地帯が存在していた。

 

 

ㅤブラックマーケット──違法事業のフロンティア、あるいは様々な理由で学園から退学した不良たちの拠り所だ。

 

ㅤその区画の一角には、ネオンライトが妖しげに灯るビルが建っていた。

ㅤ二十階建てで、窓は一切ない。しかしよく目を凝らせば、四方八方に向けて二十ミリ機関砲(Vulcan)の銃口が外を覗いているのが分かる。

 

ㅤ去年改築されたばかりの完全武装ビル型要塞「イージス・ディフェンス」は、既にこのブラックマーケットのランドマークとして世間に知られていた。

ㅤ屋上に配置される多連装ロケット砲(MLRS)は東西南北に向けて、警戒態勢を維持している。

 

ㅤそんな危険極まりないビルの最上階には、このビルのオーナーでもある少女が普段執務を行っている部屋があった。内装は非常に簡素で、中央に来客用のテーブルとソファが置かれているのを除けば家具の類や装飾の類はほとんどない。

 

ㅤ壁の縁を通るLEDの間接照明と天井の大きなシーリングライトの光の下では、カーキ色の軍服に身を包む少女が優雅な雰囲気で紅茶を呑んでいた。

 

 

ㅤ過労死ラインが見えてくるほど働き詰めている毎日。書類整理に追われ、睡眠時間は三時間あれば良い方だ。そんな不健康な日々を送っている彼女にとって、午後のティータイムは唯一といっていいほど安らかな休憩時間であった。

 

ㅤ茶葉は渋めのダージリン、付け合わせは部下に買ってきてもらったトリニティの超人気店で売っているフィナンシェ。まさに至福の時間。疲れきった精神が和らぐような気持ちに、彼女は大人しく身を委ねる。

 

 

「……ふぅ」

 

 

ㅤどうせ後三十分もすれば、悪夢に等しい書類整理の時間が待っているのだ──今くらい、ゆっくりしてもいいではないか。

ㅤそう考えていた彼女であったが、しかし生憎、世界はあまり彼女という人間に優しくないようだった。

 

 

「──総帥! 大変です大変ですッ!!!」

 

 

ㅤ口に広がるフィナンシェの甘い風味に頬を緩ませた途端、執務室の重厚な扉が乱雑に開かれる。

ㅤバンッ、と大きな音を立てながら入ってきたのは見慣れた部下の一人。一心不乱に走ってきたのだろう。

ㅤ肩で息をしながら書類を抱えている部下の額には、大量の汗が流れていた。

 

ㅤもうこの時点で既に彼女は耳を塞ぎたくなる衝動に駆られていたが、上司としてのプライドと責任感には勝てず、落ち着いた様子で手に持っていたティーカップを机に置いた。

 

 

「騒々しいわね……そんなに慌てて一体どうしたの?」

 

「たたたたた大変ですよ!大変なことになりましたよ総帥!!ああ、キヴォトスはもう終わりです!!」

 

「”た”が多いわよ、あと煩い」

 

 

ㅤ一体どうしたというのだろう。

ㅤ彼女は目の前の部下のただならぬ様子に首を傾げた。落ち着くように言っても、こちらの声は聞こえていないのか、自分の世界に入って絶望したかのような顔を浮かべている。

 

ㅤはあ、とため息をついて彼女は強めに手を叩いた。

 

 

「す、すいません! 火急の要件がありまして!」

 

「見ればわかるわよ、そんなの……それで、どうしたの? またカイザーPMCが襲撃してきたの? それならさっさとバルカンかMLRSで一掃しなさいな。どうせ今回も大した規模じゃないでしょう」

 

 

ㅤ呆れ半分、休憩時間を邪魔された苛立ち半分を込めて部下に言った。何のための完全武装かと言わんばかりの威圧を総身に浴びた部下は、まるで石像のようにピシッと固まる。

 

 

ㅤ“カイザーPMC”とは、キヴォトス各地で金融や製造など様々なビジネスを行っている複合企業カイザーコーポレーションの傘下組織だ。

 

ㅤPMCという名の通り民間軍事会社であり、彼女が率いている民間軍事会社「イージス・ディフェンス・カンパニー」ことA.D.Cにとっては不倶戴天の敵対企業である。

 

ㅤ今まで何度彼らと戦ってきたか、もはや数えるのも馬鹿らしい。カイザーと聞けば無意識に銃を構えるくらいには、彼女も部下たちも多くの血を流してきている。

 

ㅤこのビルが武装しているのはカイザーPMCからの襲撃に備えるためであって、威嚇のためのハリボテであってはならない。襲撃とあらば訓練通りに迎撃体勢へ移ればよい。

 

ㅤブラックマーケットにおける事実上の警察組織であるマーケットガードでさえも、彼女たちの支配地域には絶対に近寄らないのだ。それほどの抑止に繋がる強力な戦力を持っていることは、他ならぬ彼女だからこそよく分かっていた。

 

ㅤだからわざわざ自分の所へ来なくとも、交戦状態となれば嫌でも執務室を出なくてはならないので、こんな騒がしく入ってくる必要はないはずだ。

 

ㅤ彼女は部下にそう伝えると、背を向いて椅子に座り直した。妙にザワつく意識を宥めるために、飲みかけの紅茶を口に運ぶ。

 

 

「ふぅ……そろそろ残りの書類を片付けないとね」

 

「あのー……別にカイザーが攻めてきた訳じゃなくてですね」

 

 

ㅤキヴォトスが終わる? 馬鹿馬鹿しい。

ㅤたかがカイザーPMC如きに滅ぼされるくらいなら、とっくの昔にキヴォトスは滅んでいるだろう。

 

ㅤ現在の連邦生徒会の体制は磐石といっていい。

ㅤテロや銃撃戦が日常茶飯事なキヴォトスであるが、それでも学園都市が崩壊しないのは連邦生徒会の存在があるからといっても過言ではない。

 

ㅤ生徒会長直属でキヴォトスでも有数の実力を誇る“SRT特殊学園”や防衛室直属の“ヴァルキューレ警察学校”の存在もそうだが、そもそもそれらを率いる連邦生徒会長自体、正に超人と呼ぶに相応しい卓越した能力の持ち主だ。

 

ㅤ少なくとも彼女が健在である限り、キヴォトスが終わるようなほどの事態が起きるとは到底思えない。

 

 

「総帥! 聞いてくださいって! ホントに大変なんですってばー!」

 

 

ㅤ連邦生徒会長と彼女は仲の良い友人である。だからこそ、会長に対しては彼女も相応の敬意と信頼の念を向けていた。

 

ㅤそんな連邦生徒会長であるが、仕事量も責任も自分とは比較にすらならないであろうに、以前知り合った時に交換したモモトークに送られてくるメールの数々はごく普通の女の子で、そのギャップに思わず驚いたことはまだ記憶に新しい。

 

ㅤ各学園全生徒の代表として頂点に立つその重責たるや、察するに余りある。きっと自分なんかよりもストレスが溜まっているに違いない。

 

 

「……(そういえば、会長ちゃんとは最近全然会えてなかったわね。そうだ、今度の休みにお茶でも誘って──)」

 

「連邦生徒会長が失踪したんですよー!!」

 

「ブフォッ──!?」

 

「わあ、噴水みたい……じゃなくて! 大丈夫ですか総帥──!!?」

 

 

ㅤ予想だにしない言葉を聞いて驚いた彼女は、勢いよく紅茶を吹き出した。キラキラと輝く飛沫に素っ頓狂な呟きを残した部下は、直後に慌てた様子で床に転げ落ちた彼女に駆け寄った。

 

ㅤ紅茶が変なところに入ってしまったのか、口を抑えて咳をする彼女の背を部下が撫でる。

 

 

「ご、ごめんなさい。はしたなかったわね……」

 

「いえ! むしろご褒美です!! もっと近くに居ればと現在進行形で後悔してるくらいですよ!!」

 

「え?」

 

「あっいえナンデモナイデス」

 

 

ㅤ早口過ぎてよく聞こえなかったが、品のないことを言っていることはわかった。普段ならば小一時間説教をくれてやるところであったが、今はそれよりも気になる事がある。

 

ㅤハンカチで口とテーブルを拭いて、再び彼女は椅子に座った。部下も元の立ち位置に戻り、先程とは打って変わって真面目な表情をしている。

 

 

「それで──彼女が、あの連邦生徒会長が失踪したっていうのはどこからの情報なの?」

 

()()()()()高校二年生まで築いてきた人間関係をリセットしてきた今の彼女にとって、連邦生徒会長は数少ない友人のひとりだった。

 

ㅤもしも本当にそんな大切な友人の一大事だというのであれば、嘘やおふざけは一切許さない。タチの悪い冗談ならバルカンで蜂の巣にしてやるつもりで、彼女は部下に問うた。

 

ㅤその気迫は凄まじく、肌を突き刺すような鋭い視線が部下に向けられた。しかし彼女は怯むことなく、ハキハキとした声で答える。

 

 

「ハッ。連邦生徒会 首席行政官の七神様です。長らく連絡が取れず行方も分からなかったので失踪と判断したとのこと」

 

「なるほど……あの子が」

 

 

ㅤ連邦生徒会において、第二の地位に就く首席行政官。彼女の脳裏に会長に次いで気苦労の多いであろう人物の顔が浮かび上がった。

ㅤその名前が真っ先に出てくるということは、この部下は虚言を吐いてはいないだろう。

 

 

ㅤ連邦生徒会長の失踪──とんでもない事態だ。

ㅤ彼女自身の安否も気になるが、キヴォトス全土へ齎す悪影響の方も心配である。連邦生徒会の機能不全、それはすなわち彼女たちが統括している各所への電力供給や指揮命令系統などが一気にストップすることを意味している。

 

ㅤこの事実がもし公になれば、SRTやヴァルキューレを怖がっていた犯罪者連中が勢いづくことは間違いない。それなりに多方面から恨みは買っているだろうから、政治的空白状態に陥っているD.U.での大規模な争乱が起きる可能性もある。

 

ㅤもっと彼女を気にかけておくべきだった。そんな後悔を胸に隠し、続けて部下に訊ねる。

 

 

「首席行政官は何と?」

 

「七神首席行政官殿は緊急事態マニュアルに準じ、以後、会長代行としてその業務を兼任することになりますが、その上で我々へ正式な依頼をなされました。今回の依頼内容はコチラに……加えて、彼女から『可能な限り迅速な返答を求めます』との言伝を預かっております」

 

 

ㅤ彼女の机に、一枚のプリントが差し出された。

ㅤバインダーでしっかり綴じられたソレを受け取り、一字一句を見逃さないように慎重に読む。

 

ㅤ執務室に静寂が訪れた。

ㅤカチ、カチ、カチと机上のアナログ時計の秒針が動く音だけが響いている。

 

 

ㅤ会長代行からの依頼はふたつ。

ㅤ連邦生徒会庁舎たるサンクトゥムタワー周辺区域の哨戒と、連邦捜査部シャーレオフィスビルの警備だ。

 

ㅤサンクトゥムタワーについてはともかく、気になるのは『連邦捜査部シャーレ』という謎の部活。彼女はキヴォトスで生活してそれなりの年数を過ごしているが、シャーレに関しては聞き覚えが全くない。

 

ㅤわざわざそんな辺鄙な部活のオフィスビルを守れなんて、変な依頼だ──そう考えつつも、返答時間が切羽詰まっていることを思い出した彼女は、プリントを置き部下に視線を移した。

 

 

「わかった、クライアントには私から連絡しておく。貴女は今すぐに部隊配置をお願い」

 

「出撃規模はどうなさいますか?」

 

「そうね……第一大隊のうち二個小隊をそれぞれサンクトゥムタワー哨戒班とシャーレ警護班に分けて、残りは第二大隊と一緒にうちの防衛に回しなさい。火力支援隊と航空諸隊、機甲隊は戦闘準備のまま待機。私もすぐに向かいます」

 

「は、はいっ! 分かりました!」

 

 

ㅤドタバタと執務室を走り去っていく部下の背中を見送りながら、彼女は固定電話のダイヤルを押した。連邦生徒会の番号など一々見なくとも分かる。

 

ㅤ受話器を耳と肩で押さえながら、彼女自身も出撃の用意を始める。分厚いマントを羽織り、近くに立て掛けてある愛銃を背負う。もちろんマガジンも忘れずに持った。

 

 

『はい、連邦生徒会でございます』

 

「こちら民間軍事会社“イージス・ディフェンス・カンパニー”です。七神リン首席行政官殿からの仕事の依頼について返答をしたいのですが、彼女に回していただけますか?」

 

『……失礼、お名前をお伺いしても?』

 

──青山カサネ

 

『っ! はい、少々お待ちください』

 

 

ㅤ電話が待機状態になる。聞きなれたメロディを受話器越しに聞きながら、彼女──民間軍事会社“A.D.C”総帥の〈青山カサネ〉は、自らのエグゼクティブデスクに備え付けられたボタンを乱雑に押した。

 

ㅤ直後、ビルの各所からアラームがけけたたましく鳴り響いた。あらゆる部屋の天井や廊下に取り付けられた回転灯が、A.D.Cにおいて「出撃準備」を表す赤色に染まる。

 

ㅤバタバタと廊下を走る音や、指示を送る叫び声が壁越しに聞こえてくるのとほぼ同時に電話の待機状態が終わり、“もしもし”と声が入った。

 

 

「お久しぶり、リン。先ほど部下から聞いたわ。もちろん快く協力させて頂くつもりよ」

 

『本当ですか……! ありがとうございます……!』

 

「各学園は彼女が失踪したことは知っているの? ニュースはよく見ているつもりなのだけれど、どこも報じていなかったし……」

 

ㅤ連邦生徒会長の失踪とそれに伴う連邦生徒会の機能不全なんて、それこそキヴォトス全土を揺るがす大事件だ。毎日のように起きてるテロや銃撃戦など比較にもならないだろう。

ㅤいかにもクロノススクールが好みそうな特ダネだが、しかし今朝のテレビやネットニュースを見たが、普段通り「○○でテロが起きた」という見飽きたネタしかやっていなかった。

 

ㅤ一体どういうことかとカサネが訊ねると、リンは少しため息をついて答えた。

 

『……生徒会長が音信不通となってから一週間が経ちますが、大規模な混乱が予想されるため、まだ各自治体にはお伝えしておりません。しかし我々はサンクトゥムタワーの制御権確保が難航しているので、知られるのは時間の問題かと』

 

「たしか会長ちゃんが制御権を持っていたんでしょう? あと数日もしたらライフラインが途絶する可能性もあるわね……」

 

 

ㅤ発電所も送電施設も上下水道も、キヴォトスに存在するあるゆるインフラ施設はサンクトゥムタワーにおいて管理されている。しかし、その制御権は連邦生徒会長のみが有しており、その彼女が居なくなったということは、今現在キヴォトスの都市管理は放置状態となっていることを意味する。

 

 

ㅤふう、と息をついて気合を入れる。

 

ㅤ先行き不安とはまさにこの事だ。

ㅤD.U.の治安維持に協力するのは全然構わなかったが、今後のキヴォトスを思うとやはり不安極まりない。

 

ㅤ治安はどうなる? そもそも会長は無事なのか?

ㅤカサネは眉間に皺を寄せて考え込みながらも、電話の向こうに居る後輩を安心させようと声色明るく語りかけた。

 

 

「とりあえず今から急いでD.U.に向かうわ。二個小隊、合わせて約百人の戦闘員よ。これなら不良如き事足りるでしょう?」

 

『はい、本当に感謝致し──え? 先輩も出るんですか?』

 

「Of course, 大切な友人の後輩からの依頼だもの。それに、定期的に戦わないと腕が鈍ってしまうわ」

 

『それは……頼もしいですね』

 

「ふふ。また後で会いましょう」

 

 

ㅤ挨拶を交わして、受話器を置く。

ㅤカサネは僅かに残った冷めてしまった紅茶をクイッと飲み干すと、振り返って執務室の外へ出た。扉の前には先ほど出撃準備を命じた部下が直立不動で立っている。

 

 

「第一並びに第二小隊、出撃準備完了いたしました」

 

「オペレーターは?」

 

「そちらも恙無く、戦闘指揮所に配置済みです」

 

 

ㅤカサネは自信満々に答えた部下の肩を「よろしい」と軽く叩く。変態チックな部分もあるが、数多くいる部下たちの中でも彼女はかなり優秀な部類に入る。

 

ㅤ今回の依頼が無事に終わったらご褒美でもあげようかしら、と考えながらカサネはエレベーターに向かった。

 

 

「──さて、さっさとD.U.に向かうわよ。後輩が待ってる」

 

 

 

ㅤそんな連邦生徒会長の失踪を知った彼女が部隊を率いてD.U.へ赴いたのは、キヴォトスの外から『先生』が招かれるわずか十数日前のことであった。

 

 

 







主人公簡易紹介

◆青山カサネ
ㅤ元トリニティ総合学園所属。18歳。色々あってトリニティを退学したあと、ゲヘナにて民間軍事会社を設立。ブラックマーケットへの移転後、カイザーコーポレーションなどの敵対企業と熾烈な争いを繰り広げている。
ㅤ退学して人間関係をリセットした後は共に着いてきた同級生、連邦生徒会長や便利屋と仲が良かった。現ティーパーティーは直の後輩でとても仲が良かったが、長らく会っていない。
実は有能上司ムーブが得意なだけのアホの子


カサネちゃんイメージ図(私服)
【挿絵表示】
キラキラ鱈メーカー3 (✦絢瀬様)より


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