アーカイブ・ドロップアウト   作:カムラン

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はい、アビドス対策委員会編です。
けど本筋には関わらずちょびっと出るだけなので、合わせて二話で終わります。
でも一万文字超えなので割と長いです。頑張りました。


スケバンSMGちゃん好き(唐突な告白)。





幕間:Banshee flying in the desert sky
Raid on Gehenna


 

 

 

──シャーレでの激闘からそれなりの日が過ぎた。

 

ㅤその間、ワカモと友人になるという予期せぬ出来事を経たものの、カサネは割と平和な日々を過ごしていた。

 

ㅤ相も変わらず書類の量は減らないし、睡眠時間も最近は三時間を切り始めたくらいだが、それでもカイザーPMCを始めとした同業他社との利権争いに明け暮れていた一年前と比べれば楽な方である。

 

ㅤあの頃は大変だった。

ㅤ大隊規模での銃撃戦や、街中での戦車戦、互いの重要拠点を狙ったミサイルの撃ち合いに加え、自爆型ドローンがマーケットの空を飛び回る光景──あれらを忘れることは一生ないだろう。

 

ㅤあの頃のカサネは連日連夜、文字通り何徹もして全軍の指揮を執っていた。おそらく自分の寿命が十年ほどは縮んだに違いないと確信するくらいには、大変な経験だったと思う。

 

ㅤあの時の苦労と比べれば、今押し寄せている仕事の波も大したことない。

ㅤ連邦生徒会長失踪の影響により治安が悪化しつつあるキヴォトスにおいて、実力も信頼もあるA.D.Cへの様々な依頼が多数舞い込んできており、彼女の失踪以前よりも仕事の量は倍近く膨れ上がっているが。

 

ㅤ兎にも角にも、客観的に見た実際の自分がどうあれ、”そういうことにしよう”とカサネは決めている。

ㅤでないと気が抜けてぶっ倒れそうだった。

 

 

「……ああ、疲れた。いっその事、この紙の山燃やしてやろうかしら」

 

 

ㅤ今日も今日とて、カサネは明け方前からパソコンと睨めっこをしていた。眼精疲労から来る頭痛に顔を顰めながらも、キーボードを叩くその手は止まらない。せめてもの対策としてブルーライトカットのメガネを付けているが、あまり役立っているとは言えなかった。

 

 

ㅤそんなカサネが今やっているのは、現在A.D.Cが進めている諸業務のペーパーレス化に関する資料の作成だ。

 

ㅤ彼女にとってこの世で最も見たくないのが書類の山である。

ㅤ一枚一枚、上から下まで確認して認可の押印をするその作業が苦痛で仕方がない。

 

ㅤ部下に手伝わせればいいのでは?──と、モモトークで仕事の愚痴を吐いた時にワカモから言われたが、やむにやまれぬ事情があってそれは不可能に近い。

 

 

ㅤA.D.Cでは、学校を中退したり停学になったりして行き場を失い、ブラックマーケットに流れ着いた少女たちを隊員として雇用している。戦闘員の多くがオートマタで構成されるカイザーPMCとはその点において差異がある。

 

ㅤ元スケバンやら元ヘルメット団やら元傭兵やら、A.D.Cはとにかく血の気の多い少女たちの集まりなので、お世辞にも勉学に優れているとはいえなかった。

 

ㅤもちろん全員が全員というわけではないが、それでも九割くらいの隊員は、机に向かって書類の山と戦うよりも、身体に鞭打って過酷な戦闘訓練に励むことを好んでいる。彼女たちはペンやパソコンなどよりも、ライフルやタンクをこよなく愛しているのだ。

 

ㅤつまるところ、事務作業に関してだけは殆どの部下が役に立たないのであった。むしろ変に触らせたら余計に仕事が増える有様だ。

 

ㅤいわゆる中間管理職的立ち位置の者がいないせいで、カサネにかかる負担はかなり大きかった。それでもこれまでやってこれたのは、戦闘職の子達よりも幾分か事務作業に適正のある子が多かったオペレーターチームの助力があったからだ。

 

ㅤしかしA.D.C事務作業の八割以上を執り行っている現在、このままでは自分の身が持たないとカサネは危機感を覚えていた。過労で死ぬことだけは嫌だった彼女は、日々の書類整理と同時並行的にペーパーレス化を本格的に進めていた。

 

ㅤこれで書類倉庫の圧迫も業務効率も改善されるだろう。そうであって欲しいと願う他ない。これでもしダメだったら、カサネは自分の健康を諦めるしかない。

 

 

「……(ソフトウェアとツールの導入は何とかなりそうだけど、問題は事務が出来る子が少ないことね。紙を減らしたところで処理出来る子が居なかったら私の忙しさは変わらないし、早い内にどうにかして良い人材を見つけないと)」

 

 

ㅤペーパーレス化に必要なシステムの導入については、滞りなく進んでいる。

 

ㅤカサネはキヴォトス最先端の技術力を誇るミレニアムサイエンススクールに、A.D.C社専用の文書管理ソフトウェアと自動仕分けや電子化ツールの開発を依頼していた。かなりの額を払ったが、彼女達の技術力の高さを思えば端金といえる。

 

ㅤ普通に発売されているソフトウェアを使っても良かったのだが、現在でもA.D.Cには敵対企業が多く存在している。もしもサイバー攻撃でも喰らおうものなら、目にも当てられない状況になるのは事理明白だ。

 

ㅤなのでセキュリティのしっかりした自社専用のものを作ってもらおうと考えたカサネは、事務の経験と知識のある部下を数名向かわせ、A.D.C総帥の名のもと正式な依頼をミレニアムに出した次第である。

 

 

ㅤあれから僅か二ヶ月しか経っていないが、流石はミレニアム生というべきか、もうそろそろ完成するという連絡が今朝方入った。

 

ㅤカサネもプログラミングの知識はあるが、本職といっていい彼女たちに比べれば素人同然である。変に見栄張って自分でやるよりも、その道のプロに任せた方が断然良いだろう。

 

 

「……元ミレニアムの健康優良不良少女とか何処かに居ないかしら」

 

 

ㅤA.D.Cはゲヘナ自治区を拠点に活動していた時期があった。本拠地をマーケットへ移してからはそうでもないが、ゲヘナに居た頃は隊員の過半数が元ゲヘナ生だった事もある。

ㅤその影響で今でもかなりの数の隊員がゲヘナ出身で、その次にレッドウィンター、百鬼夜行、山海経、ミレニアムなどと続き、最も少ないのがトリニティだった。

 

ㅤカサネが今欲しているのはパソコンに強い人材。パッと思い当たるのはやはりミレニアムだが、何処の学園の出だろうが構わない。とにかく事務作業の出来る子が欲しい。

 

ㅤこうなれば、それなりの時給に設定した事務アルバイトを募集するのも一つの手かもしれない。機密にあたる重要なデータはこれまで通り自分や事務を兼任するオペレーターチームがやって、データ入力や備品管理などの一般事務をアルバイトに任せればかなり負担が減る。

 

 

「各自地区の平均時給も調べないと……──あら?」

 

 

ㅤ机上に置いていたスマホの着信音が鳴った。

ㅤ誰からだろうと携帯を手に取って見ると、画面にはとある部下の電話番号が表示されていた。

 

ㅤその下の名前は『G-015』と、隊員それぞれに支給しているスマートフォンの識別番号がある。”G”の頭文字が付いているということは、ゲヘナ郊外にあるヘリコプターやドローンを格納しているA.D.Cの航空基地に駐在している隊員からの電話だろう。

 

ㅤカサネはすぐに応答ボタンをスワイプして、携帯を耳に当てた。オペレーターを挟まずに直で連絡をしてくるとは、何か基地に問題でもあったのだろうか。彼女は一抹の不安を抱きながら、部下の声に耳を傾ける。

 

 

「もしもし、こちら青山。何か問題でもあった?」

 

『ハッ、執務中に御無礼致します! ゲヘナ航空基地から総帥に至急のご報告がありまして、直接お電話させて頂いた次第です!』

 

「(お願い神様、これ以上私の仕事を増やさないで!!)……緊急だと言うのなら別に構わないわ。早く報告を聞かせて」

 

 

ㅤ電話の向こう側はやたらと騒がしかった。よく耳をすませば聞こえてきたのは発砲音や爆発音──嗚呼、どうやら天におわすであろう我らが主は非情にも自分を見捨てたらしい。彼女は思わず頭を抱えた。

 

ㅤそもそもカサネは根っからの無神論者である。

ㅤ彼女は「神様が居るのなら、どうして世界は平和にならないのだ」と思っているタイプの人間であった。だが、自らもヘイローという神秘的なものを宿す身としては、物質的な現実のみがあるとする唯物論的な考えは持っていない。

 

──とはいえ、仮にこの世界に神なるものが居たとしても、宗教学校の性質の強いトリニティ出身のくせして信仰心の欠片も持たない彼女に、神様が慈悲を与える余地など無いのである。

 

 

『現在我々は、所属不明の武装勢力と目下交戦中! おそらくカイザーの息のかかった傭兵かと思われますが、戦況は芳しくありません! 至急援護を求めます!!』

 

「敵戦力の構成は?」

 

『パーシングが八両と、大型のオートマタが二機、加えて中隊規模の兵が進撃中、装甲車も確認されています! 既に格納庫と滑走路は抑えられ、我々は管制塔とターミナルビルからの防戦を強いられております』

 

 

ㅤ確かに、状況はよろしくない。

ㅤおそらくオートマタを先鋒にパーシングで固め、その後ろを中隊規模の戦力が進んでいるのだろう。対してゲヘナ航空基地に配置しているこちらの戦力は、あまり多いとは言えない。

 

ㅤそもそも彼女たちはあくまで航空機を運用する部隊であって、D.U.で奮闘した第一大隊の戦闘員らのような直接戦闘は管轄外である。

ㅤその訓練もあまりしていないのに、未だに基地全体を占領されていないだけ寧ろよく持ち堪えていた。

 

 

「了解。すぐに部隊を向かわせるわ。どれくらい持ちそう?」

 

『救援が来るのであれば、何日であろうとも命をかけて基地を守り通します!!』

 

「その意気は買うけど、本当に危なくなったら基地は捨てて逃げなさい。”命は大事に”よ、分かった?」

 

 

ㅤカサネにとって部下の命ほど大事なものはない。彼女たち無くして今の自分は無いのだから当然だ。

ㅤ保有航空機の大半をあそこで保管しているので、正直それらを喪うことはかなり痛いが──部下の命をわざわざ天秤にかけるほどでもなかった。

 

ㅤ命は大事に。

ㅤそれもまた、カサネの掲げるA.D.Cの社訓である。

 

 

『ぐぬぬぬ……おのれカイザーめ!! 協定違反だぞコノヤロー!! かかってこいやあ!!! 皆、総帥が救援を出してくれるってよ! ここが私たちの踏ん張りどころだ!!』

 

『オー!!』

 

「(聞いてないわね、これ……)」

 

 

ㅤだが、部下たちのカサネへの忠誠心の強さは人並み外れていた。社訓は大事だ、自分たちの命も勿論大事だ。けれど彼女たちにとって、その何倍も大事なのがカサネである。万が一には、命をかけてでも尽くしたいと考えていた。

 

ㅤカサネが部下たちに感謝しているように、部下たちもまた彼女に感謝しているのだ。ドロップアウトし、もはや惰性で生きて行く他なかった自分たちの道を正して、先行きの見えない暗い世界から救ってくれた大恩がある。

 

ㅤそれに故に航空基地の守備隊に、基地を捨てるなどという考えはハナから脳内に存在していなかった。彼女たちは、この基地の放棄がA.D.Cにどれだけの損害を与えるのか、この場所で働くからこそよく理解していた。

 

 

ㅤ一際大きな爆発音が轟いたあと、通話が切れる。しかしカサネは慌てることなく、机のボタンを押して警報を鳴らした。耳を劈くアラートがビル内に鳴り響き、待機していた戦闘員らが慌てた様子で出撃体制を整え始める。

 

ㅤその光景を監視カメラで眺めながら、カサネは大きなため息をついた。

 

 

「……あー、疲れた」

 

 

ㅤどんよりした空気を纏いつつも、しかして彼女の脳内では航空基地守備隊の救援作戦が着々と構築されつつある。ここから基地までの距離はかなりあるので、取れる選択肢はあまり多くないが──部下の命がかかっているのだ、全力で助けに行くしかない。

 

 

ㅤカサネは銃を携えて部屋を出た。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「──頭を守って衝撃に備えろ!!ロケット来るぞ!!」

 

「了解っ!」

 

 

ㅤ時を同じくして、ゲヘナ航空基地守備隊。

ㅤ滑走路と格納庫を奪われてしまった彼女たちは、管制塔とターミナルビルに立て篭もって敵の攻撃を凌いでいた。圧倒的劣勢、しかし気概と根性だけは優勢と自負している。

 

ㅤ敵の兵士がランチャーを構えているのを目にした守備隊の指揮をとる少女は、大きな声を上げて警戒を促した。

 

ㅤ既に粉々と化したガラス張りの玄関に撃ち込まれたロケット弾は、エントランスで爆発し──しかし隊員らは身体を伏せていたことによって、大したダメージにはならなかった。

 

 

 

ㅤチッ、と指揮官は舌打ちをする。

ㅤ戦闘開始から三十分も経っていない。予期せぬ奇襲に慌てふためいて、すぐに本部へ連絡が出来なかったことは痛恨の極みであった。

 

ㅤ管制塔は最初にオートマタとパーシングによる集中砲火を受けて、今や倒壊寸前である。その際に通信機器が尽く破壊されてしまい、連絡しようにも物理的に出来なかった。

 

ㅤそのような状況下でカサネに連絡できる時間を何とか作れたのは、まさに不幸中の幸いである。

 

ㅤ多忙な毎日を送る総帥の手を煩わすことは彼女にとって恥そのものであったが、恥じ入る気持ちよりも、敬愛してやまないカサネに基地を任された者としての責任の方が勝った。もはやなりふり構わっていられる状況では無いのである。

 

「クソッ、一体どこのどいつだコノヤロー!」

 

「今は敵の所属なんてどうでもいい! どこかに対戦車ミサイルはなかったか!? ジャベリンはどこだ?」

 

「第一大隊じゃあるまいし、ウチにそんな代物ありませんよお!」

 

「アパッチが使えたらなぁ……ああ、アタシらはここで死ぬんだぁ……」

 

「総帥が来るんだ、死なねぇよ! 救援来るまで持ち堪えればアタシたちの勝ちなんだ! ほら撃て撃て!!」

 

 

ㅤA.D.Cの主力攻撃ヘリであるAH-64アパッチ。

ㅤ青空を駆ける騎兵としてキヴォトスを飛び回った一年前の戦いを経験している古参の隊員たちは、皆あのヘリに対して強い愛着を持っている。

 

ㅤ格納庫さえ守り通せていれば、あんな連中アパッチで一網打尽にしてやるのに──と、悲嘆にくれる隊員を指揮官は叱責した。

 

ㅤ確かにいざとなればカサネの為に死ぬ覚悟は出来ているが、だからといってハナから死ぬつもりで戦うつもりはない。ヘリがなくとも、やれることはまだあるのだ。

 

ㅤ守備隊はエントランスのソファを盾に、ターミナルへ着々と前進してくる敵集団に弾幕を張って対抗していた。

 

 

 

「(救援はまだか……?)」

 

 

ㅤカサネに連絡してから体感二十分。

ㅤまだ救援は来ず、加えて敵戦力はほとんど削れていない。

 

ㅤ徹底抗戦を選択した守備隊は、現在に至るまでなんとか敵戦車三両を大破させ、オートマタの脚部に向けて放ったバズーカが一機を行動不能にしている。

 

ㅤしかし未だ五両もの車両が健在のパーシングの鉄壁は崩せず、肝心の敵歩兵は両手で数えるほどしか倒せなかった。敵が装甲車を盾にしているせいで、彼女たちは中々歩兵に対して有効射撃が与えられなかったのである。

 

 

ㅤこのままではジリ貧。

ㅤ航空基地守備隊──無人航空隊及び航空戦闘隊を便宜上そう呼ぶが──に残された弾薬も残り少なかった。

ㅤ彼女たちは直接戦闘を行う部隊ではないので、弾薬といっても各々が常備している程度しかない。

 

ㅤ加えて、この基地に貯蔵している弾薬の大半はライフル弾ではなく、アパッチのM230 30mmチェーンガンに使う対装甲榴弾(M789 HEDP)焼夷弾(M799 API)などであり、とてもじゃないがヘリが使えない今の状況では全く役に立たなかった。まあ、そもそも格納庫に隣接する弾薬庫も既に敵の手に渡ってしまっているのだが。

 

 

『こちらイージス・ディフェンス戦闘指揮所です! 守備隊、戦況はどうなってますか?』

 

「最悪だよクソッタレ! あのファッキンパーシングのせいで歩兵が狙えねぇ! このままじゃ蜂の巣だ」

 

 

ㅤ彼女はタタタタと自らの重機関銃を撃ち続ける。

ㅤ弾薬の尽きた隊員も出始めてきた。「弾無いなら逃げろ」と命令するも、しかしこのまま帰ってなるものかと、敵に一矢報いてやろうと鉄パイプを持ち出して戻ってくる有様である。

 

ㅤつまるところ、守備隊は崖っぷちに立たされていた。

 

 

「指揮官! やばいですやばいです! やつら一斉に突撃してきましたぁ!!」

 

「本部、救援はまだか!?」

 

『いま特殊作戦隊が全速力でゲヘナに向かってます! あと少しだけ、何とか持ち堪えてくだ──え、それは本当ですか?』

 

 

ㅤオペレーターの声色が変わった。

ㅤ明らかに何かがあったと察しつつも、彼女たちは視線は前方から逸らさず、速力を上げて進んでくる戦車と敵兵への攻撃を続ける。

 

 

ㅤそれにしても、真っ先に特殊作戦隊が来るとは予想外の情報だった。

 

ㅤ特殊作戦隊とはA.D.Cの中でも特に選りすぐりの精鋭が集められた、対テロ及び対ゲリラ戦に特化した部隊である。

ㅤしかしその性質上、普段どこで何をしているのかやメンバー構成、保有武装などの情報はカサネしか知らないので、彼女たちと顔を合わせたことのある隊員は少ないだろう。

 

ㅤ特殊作戦隊はカサネが最も信頼を置いている隊だ。

ㅤ彼女たちはA.D.Cの創設にも携わり、総帥のカサネを今に至るまで支えてきた最古参の猛者でもある。

 

ㅤ決して人数差は埋まらないが、そんな精鋭の彼女たちが来てくれるのであれば、まだ自分たちには希望が残されている。

 

ㅤ指揮官は折れそうになる心を何とか保ち、士気が低下し始めた仲間に向けて声を貼り続ける。

 

 

「みんな聞いたな? 我らの頼れるエリート様が基地に助けに来てくれるってさ! あと五分は死ぬ気で守れ! でも死ぬなよ!」

 

「めちゃくちゃな命令してる自覚ある指揮官? 」

 

「うっさい! さっさと銃を──ってうお!?」

 

 

 

 

──そうして指揮官が仲間に発破をかけた瞬間、突如として敵集団の居る滑走路から大きな爆発音がする。

 

 

 

ㅤドーン、という地響きと共に黒煙が立ち昇る。

ㅤ凄まじい衝撃波がターミナルビルの僅かに無事だった窓ガラスを粉砕し、屋内に潜む隊員たちの髪を突風が揺らした。

 

ㅤ腕で目を覆いながら、指揮官は険しい顔をして爆発が轟く前方を見る。

 

 

「な、何が起きたの……?」

 

「……これは……」

 

『守備隊! 無事ですか? よかった、もう大丈夫です。警戒態勢を維持したままその場で待機してください』

 

 

ㅤ見慣れたオペレーターが再び通信を送ってくる。ホログラムに映るその顔は安堵に染まっており、守備隊に安心するようにと伝えてきた。

 

ㅤ指揮官は彼女に詰め寄って、今の爆発の正体を訊ねる。

 

 

「オペレーター、今の爆発はなんだ?」

 

『総帥の命により、火力支援隊がアビドス・ミサイル基地からトマホーク巡航ミサイルを四発発射しました。今ので敵の大半を無力化出来たはずです』

 

「総帥が……?」

 

 

ㅤ確かに、高速で発射される巡航ミサイルなら遠方からであっても迅速な救援は容易いだろうが──それにしても滑走路へのダメージも気にせずにそれを撃たせるとは思わなかった。

 

ㅤ指揮官は呆然と目前の光景を眺め、拳を握りしめる。

ㅤもしかしたら助けが間に合わないかも、といった彼女の一抹の不安は今ので爆風と共に完全に吹き飛んだ。

 

ㅤ総帥は私たちを見捨てなかったのだ。

ㅤ決死の表情を浮かべていた仲間たちも、みな一斉に喜びの声を上げた。

 

『位置情報を確認します……はい、特殊作戦隊の基地到着まであと三分。第一大隊は一時間で到着する予測です。先ほど総帥もヘリでそちらに向かわれましたので、ご安心ください』

 

「……流石にもうダメかと思ったんだけどな」

 

 

ㅤオペレーターからの情報に耳を傾けながら、指揮官はぼんやりと呟く。

 

ㅤ黒煙が晴れて敵の姿が見えてきた。あれだけ厄介だったパーシングは大破炎上し、オートマタも機能を停止しているようだった。歩兵もあちらこちらに倒れている。

ㅤもはや大勢が決したことは誰の目から見ても明らかだった。

 

ㅤ喜びと誇りを噛み締める彼女の肩を、仲間のひとりがポンと叩いた。

 

 

「やったね、指揮官。今日は祝杯を上げようか」

 

「未成年のくせに酒を飲むな、ってこの前総帥に言われたばっかなんだが?」

 

「あはは、別に酒じゃなくても良いじゃない。コーラやピサでも買って、航空隊の皆で祝勝パーティしようよ」

 

「……そう、だな。そうしよう。きっと総帥もそれくらい許してくれるはずだ」

 

 

ㅤようやく到着した特殊作戦隊が、滑走路を突き抜けてターミナルビルに走って来るのが見える。

ㅤ彼女達をゲヘナ航空基地守備隊は歓喜の声で迎えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「──さて、と……酷い有様ね」

 

 

ㅤゲヘナ航空基地に未確認敵集団が奇襲を仕掛けてから、約一時間半。ブラックマーケットから私用のヘリコプターで飛んできたカサネは、地上に降り立つやいなや、自らの視界に飛び込んできた基地の状況に眉をひそめた。

 

ㅤ辺りに散乱する多数の薬莢、オートマタや戦車の残骸、そして守備隊と特殊作戦隊によって拘束されている兵士たち──ミサイル着弾によって大きくえぐれた滑走路を避けながら、カサネは部下たちの方へ進む。

 

ㅤ回転翼から発生した風は彼女の外套の裾をパタパタと揺らしている。黒い半長靴が鳴らすコツコツとした音に気付いたらしい部下たちは、一斉に整列してカサネに敬礼を送った。

 

 

「みんな、お疲れ様。怪我はない?」

 

「はい! 多少のかすり傷はありますが、全員無事です。」

 

「よろしい。あとは第一大隊が引き継ぐから、あなた達はゆっくり休みなさい。負傷した者は救護班の所に」

 

「了解しました! 救援、感謝致します」

 

 

ㅤ疲労困憊であろう守備隊は、しかしそれを表に出さずテキパキと動き始める。そんな彼女たちの代わりに、カサネよりも少し先に到着していた第一大隊が敵兵士の監視と基地の警備の任を引き継いだ。

 

ㅤ重い責任がのしかかる仕事なんてしたくないと、カサネは常日頃から天に願っている。普段ならA.D.Cに依頼があっても自分が出ることは少ないのだが、今回のような緊急事態ともなれば話は変わる。

 

 

ㅤ基地はどれだけ損傷しているのか?

ㅤ敵兵の正体と所属はなにか?

ㅤ何の目的があって基地を襲ったのか?

 

 

ㅤきっとカサネが執務室でふんぞり返りながら果報を待っていようが、これらの重要なポイントは優秀な部下たちがキチンと報告してくれるだろう。

 

ㅤ事務作業が出来なくとも、彼女達の勤勉な働きぶりは長いこと目にしている。それをカサネは最高指揮官としてよく理解しているし、上司として強く信頼もしている。そこに関して疑いや不安はない。

 

 

──だが、あくまで一般隊員でしかない彼女たちでは対処出来ないようなことも、今回の事態にはあった。

 

 

 

「総帥! 基地の入口に”風紀委員会”が現れました。責任者と会わせて欲しいと、総帥をお呼びになられております」

 

「風紀の誰が?」

 

「委員長の空崎ヒナです。どうやら彼女一人で来られたようで、他の風紀委員の姿はありません」

 

「……」

 

 

ㅤその名を聞いて、カサネは思わず苦い顔をした。

ㅤ荒くれ者やテロリスト揃いのゲヘナ学園の治安を守る、風紀委員会。そのトップに経つ空崎ヒナという少女は、紛うことなきゲヘナ最強の生徒である。

 

ㅤカサネは彼女と面識があるどころか、過去に一度だけ真正面から戦ったことがあった。もちろん勝てなかったのだが、あの時感じた恐怖は未だカサネの身体に染み付いている。

 

ㅤ嫌いとか憎むとか。そういう類の悪感情は抱いていないが、ワカモと友達になる前までは彼女と並び、空崎ヒナはカサネにとって”出来れば会いたくない相手”筆頭に名を連ねていた。

 

 

「通しなさい……ああ、いえ、私の方から行くわ」

 

「了解しました。ターミナルの応接間を空けておきます」

 

「えぇ、お願い」

 

 

ㅤなぜそんな大物がこんな場所に来たのか。それはこの場の惨状を見れば分かりきったことだった。

 

ㅤいくらこの土地の権利をA.D.C社が保有しているとはいえ、ここはゲヘナ自治区。彼女達たちが管轄する域内でこんな派手な戦いを繰り広げたのだ。

 

ㅤ銃撃戦程度なら何も言われないだろうが、今回は巡航ミサイルまで使ってしまっている。アビドス自治区からミサイルが発射されたことは確認済みだろうし、着弾による爆発音も基地周辺の市民からの通報を受けているはずだ。

 

 

ㅤつまるところ、一般隊員では対処出来ない問題とは──風紀委員会への状況説明であった。

 

ㅤ事の経緯を説明すること自体は彼女たちでも出来るのだが、その責任があるのは部下ではなく総帥のカサネである。

ㅤ風紀委員会のトップがわざわざこんな郊外のエリアまで足を運んできているのだ。この場で最も位の高いカサネが応対するのは当然だった。

 

 

ㅤ基地のゲートの向こう側に、久方ぶりに目にするヒナの姿がある。彼女はいつもの仏頂面で、自身を出迎えに来たカサネと軽めな挨拶を交わした。

 

 

「久しぶり、カサネ」

 

「(雰囲気が怖い……)えぇ、ヒナさん。お久しぶりですわ。ご壮健で何より」

 

 

ㅤカサネはヒナの事が苦手だ。

ㅤというのも、一年前に彼女と戦った際の怖い印象が固定されたままだからである。

 

ㅤワカモの場合は何度も何度も顔を合わせていたので、ある程度彼女の為人を理解出来る余地があった。だからこそ彼女に突然友人になりたいと言われても、戸惑いはあれど忌避感は抱かなかった。

 

ㅤしかしヒナに関してはあれ以降一切顔を合わせていないのもあって、カサネは彼女がどんな人間なのか全く知らないままだった。ただ単にゲヘナ最強の風紀委員長という肩書きを通して見る他、彼女を推し量る材料を持ち合わせていない。

 

ㅤつまりカサネにとって、空崎ヒナは依然として恐怖の対象なのである。

 

 

「それでヒナさん、本日はどのようなご要件で?」

 

「あなたも分かってるはず。あまり無駄なやり取りをする時間は私に無い」

 

「……ふふ、ごめんなさい。先程の戦闘について事情聴取に来られたのでしょう? もちろん嘘偽りなくお答えいたしますわ。そこ、ゲートを上げなさい」

 

「はっ!」

 

 

ㅤ基地入口のゲートがゆっくり上がる。

ㅤヒナは警備の隊員に会釈をすると、基地の中に入った。カサネはそんな彼女の横に並んで、来客室を備えるターミナルビルに向けて歩き始める。

 

 

「他の風紀委員の方々はいらっしゃらないので?」

 

「皆はパトロール中よ。私は出張帰りで、たまたま近くに居たから来ただけ」

 

 

ㅤそれは良かった、と彼女は内心胸を撫で下ろす。

ㅤトリニティの正義実現委員会などでもそうだが、風紀委員会においてA.D.Cは要注意団体として注視されている。

 

ㅤ各学園は市民保護の観点から、ブラックマーケットで活動している企業の過半数を要注意団体としてリストアップしている。創設間もなくカイザーPMCとやり合うほど急激に力をつけたA.D.Cなんて、目をつけられるに決まっていた。素行不良の生徒を集めて傭兵にしているともなれば尚のこと。

 

ㅤ持ちつ持たれつの関係でありたいカサネは、各学園との関係に軋轢を生むような事態は避けたいのだが、あちら側が手を出してくるなら総帥として相応の対応を取らねばならない。

 

ㅤ特に風紀委員会は一年前に起きたカサネとヒナの戦い以後、A.D.Cを杞憂する声が強い傾向がある。

ㅤ不意のアクシデントを避けるためにも集団での接触は嫌だったので、ヒナだけが来たと聞きカサネは安心した。

 

 

「それにしても巡航ミサイルまで使うだなんて……一体何があったの?」

 

 

ㅤ滑走路を通る途中で、ヒナがそう聞いてきた。

ㅤ改めて見ると酷い光景だ。第一大隊と共に来た工兵隊が必至に戦車の残骸を片している傍らで、多数の兵士が隊員たちによって拘束されている。一人一人取り調べを行っているようで、定期的に包囲の輪から連れ出されているようだった。

 

ㅤその光景を横目に、カサネは短く答える、

 

 

「──詳しくは応接間で話すわ。どうぞ入って」

 

「わかった。失礼する」

 

 

ㅤ敵の攻撃の影響か、あるいはミサイル着弾の衝撃波によってなのかは分からないが、応接間の扉を開けるとギィィと軋む音が鳴り響いた。

 

ㅤ部屋に入ると、そこには先程の隊員がコーヒーを用意して待っていてくれた。室内はさほど広くなく、革製のソファが二つ対面に置かれている。

 

ㅤ二人はそこに腰掛けて互いに顔を合わせた。

ㅤ話を始める前にカサネは傍に控えていた部下を一瞥し、退出を促す。その意図はしっかり彼女に伝わったようで、部下はカサネとヒナに敬礼をすると応接間から去っていった。

 

ㅤ静寂に包まれる空間の中、まず口を開いたのはヒナだ。

 

 

「この辺りの住民から多数の通報があった。加えて流れ弾が原因の家屋損傷も確認している──記憶が正しければ万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)がA.D.Cに基地建設の許可を出したのは、そちらから『周辺地域の治安維持に無償で協力する』と提案してきたからだったはずだけど……?」

 

 

ㅤ彼女はカサネを問い詰める。

ㅤ航空基地のすぐ近くに居を構える数名の住民から声をかけられたヒナは、基地に入るよりも前に自らその被害の程度を確認していた。ある家では戦車のものと思われる砲弾が車や外壁を破壊し、またある家では負傷者さえ出ていた。

 

ㅤ敵集団が管制塔を狙った際に外したものが、敷地を飛び越えて住宅街に着弾してしまったのだろう。

ㅤカサネ達がやったことではないことはヒナも分かっているが、やはり治安維持活動を行う風紀委員会としては口出しせざるを得なかった。

 

「ヒナさん、釈明をさせて頂戴。まず私共はゲヘナとの契約を違えるつもりは毛頭ありませんわ。住民の方々に要らぬ心配を与えてしまったことは誠に遺憾ですが、今回の襲撃は我々にとっても予期せぬ出来事だったことは、どうかご了承くださいまし」

 

「補償する考えはある?」

 

「もちろんお支払いするわ。近日中に謝罪行脚もね」

 

「……なら良い」

 

 

ㅤ何がともあれ、基地内での戦闘が原因となって一般人の被害者が出ていることは確かだ。謝罪行脚や補償金支払いにカサネは不満も異論もない。本来なら敵集団にも同様のことをさせたいが、それはかなり難しいだろう。

 

 

「敵の身元は?」

 

「ごめんなさい、そこはまだ……。被害者が居るなら風紀委員会も無関係じゃないし、事の詳細が判明次第そちらに共有しますわ」

 

 

──などと言いつつも、カサネは既に敵の正体をほぼ察していた。

 

ㅤ彼らの所属はカイザーグループではない。

ㅤそもそもカサネたちは大元のカイザーコーポレーションと休戦協定を結んでいる。

 

ㅤ連邦生徒会の介入と仲裁によって成立した手前、いくらグレー企業な彼らとて社会的信用を損なうような真似は流石にしないはずだ。

 

ㅤでは何処の誰なのかといえば、業務実態のないペーパーカンパニーが集めた傭兵、あるいは所属を偽造したカイザーPMC兵士だろう。

 

ㅤ休戦協定はカイザーPMCとA.D.Cの戦闘に関しては禁じているが、双方が民間軍事会社ということもあり、他の企業や傭兵まではそこに含まれていなかった。

 

ㅤつまりカサネもカイザーも、ペーパーカンパニーを介して傭兵を動員すれば、いくらでも協定を無視して争うことができるのである。

 

ㅤそこまでの大博打を打つつもりはないが、休戦協定の成立後しばらくしてから、明らかにカイザーPMCであろう兵士によるA.D.C保有施設への襲撃が多発していた。

 

ㅤ故に、ゲヘナ航空基地が襲われようが今さら驚くことはなかったが──このことをヒナに話せば、かなりの確率で余計な問題に発展するに違いなかったため、カサネは口を噤む。

 

 

ㅤ休戦協定が強化されて困るのは、カイザーだけではなくてカサネもだった。相手が協定の抜け穴を突くことでしか攻撃できない状況下であるからこそ、今はこの程度の規模で済んでいるのだ。

 

ㅤもしも連邦生徒会によって休戦協定が強化されようとしたら、おそらくカイザーは協定を白紙状態に戻すであろう。

ㅤそれはつまり、全面衝突の再来を意味している。カサネたちも一年前より戦力や資金が増えているし、今度はマーケットの一部区画が壊滅するどころの話ではなくなってしまう。各自地区にも飛び火することは間違いなかった。

 

 

 

ㅤその後もヒナに様々な説明を行っていたカサネであったが、突如として応接間の扉がノックされる。

ㅤしっかりヒナに断ってから、彼女は部下の入室を許可した。

 

 

「お話中のところ失礼致します。……総帥、アビドス基地からの報告です。緊急の要件ではありませんが、総帥の指示を仰ぎたいと」

 

「……(ゲヘナの次はアビドス? 今度は何よ、もう!)」

 

 

ㅤ緊急ではないが、自身の指示を必要とする状況。

ㅤ今度は一体なんだ──と内心で悲痛に叫ぶも、素の彼女の表情が表に現れることはない。

 

 

ㅤ隊員はカサネの耳元に顔を寄せて、小さな声でアビドス・ミサイル基地から上がったその報告を伝える。それを聞いた直後、彼女はいつにも増して怪訝な表情を浮かべた。

 

 

ㅤ対面のヒナを見やる。

ㅤこちらに気を使ってくれているらしい彼女は、コーヒーを飲みながら窓の方に顔を向けていた。

 

ㅤその様子を見るに、おそらく今の報告は聞こえていないだろうが──どうする、彼女にも伝えるべきだろうか?

 

ㅤ黙っていたことがバレた時のことを考えれば、変に隠さず今この場で伝えた方が我が身のためかもしれない。あまり良い関係とはいえない風紀委員会に攻撃材料を与える必要はないだろう。

 

ㅤここは少しでもヒナに恩を売っておくべきか──と悩みに悩んだカサネはため息をつくと、部下に一言「手を出すな」というアビドス基地への伝言を託し、部屋から退出させた。

 

ㅤ再び二人っきりになった空間で、ヒナはどこか疲れたような雰囲気だった。出張帰りと言っていたし、その足で事情聴取をしているのだからかなり疲れているのだろう。

ㅤしかし疲れているのはこちらも同じである。というか今の報告を聞いたことで、カサネは余計に気疲れしてしまっていた。

 

ㅤそんな様子が気になったのか、ヒナはコーヒーを手に持ちながら彼女に訊ねた。

 

 

「何か問題でも?」

 

「えぇ、とびきりに厄介な話ですわ──そういえばヒナさん、先ほどあなたは”他の風紀委員はパトロール中”と言っていたわよね」

 

「えぇ、それがどうかした?」

 

 

ㅤ先程の報告と今の質問に一体なんの関係があるのだろうか。そんな疑問がヒナの双眸にありありと浮かぶ。この件を伝えたときの彼女の取るリアクションはハッキリと予想できて、カサネは戦々恐々としていた。

 

ㅤアビドス・ミサイル基地から寄せられた報告。

ㅤそれは────、

 

 

「……その、ゲヘナじゃなくてアビドス自治区に居るようなのだけど。どこかの誰かと市街地で戦っているみたい」

 

 

「─────は?」

 

 

 

──多数のゲヘナ風紀委員がアビドス市街地で交戦状態にある、というものだった。

 

 

ㅤヒナのコップが一瞬にして砕け散る。

ㅤ彼女の飲みかけのコーヒーが机の上に零れたが、お互いそれどころではない。

 

ㅤ少しでも自分の手が触れたら、それこそ瞬く間に殺されそうなほど猛烈な怒気をヒナは出していた。間近でそのオーラを浴びたカサネは涼し気な顔をしつつも、その内心はガタガタとただ怯える他ない。

 

 

「(ひ、ひぇぇぇ……や、やっぱり伝えなかった方が良かったんじゃ……)」

 

 

ㅤやっぱりこの人怖い。

ㅤ改めてヒナの印象が心に刻まれたカサネであった。

 

 

 

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