たった数時間で終わったヴィラン連合との……魔王との戦い。長く続いた【ワン・フォー・オール】と【オール・フォー・ワン】の因縁はその日のたった数時間で報われた。
やはり爪痕は大きく、戦闘の余波は周囲の惨憺たる有様を見れば嫌でも人的被害を想定せざるを得ない。
「ふんっ……!!大丈夫です、必ず助けます」
「この下にも二人います!あっちにも!!」
「了解!!急げ!」
建物の倒壊や地形を砕くのが当たり前の攻撃が飛び交っていたけれど、それにしては被害そのものは少ない部類だったりする。
というのもオール・フォー・ワンと戦っている時、周囲への被害が大きい攻撃のほとんどを間飛と増やされたジャックガムによって防がれていたのが原因だ。悪夢と呼ぶには流れた血は少なく、それでも流れたことに変わりはないが。
遅ればせながら到着したマスコミ達は破壊の跡を映像に残しながら、少し先に到着したヒーロー達の人命救助をバックに被害状況を報道する。
元凶となった魔王オール・フォー・ワンは
その間彼の意識はあったものの、呆然とした様子で何かを呟くばかりで抵抗する素振りは見せなかったとか。
「我らがヒーロー達の手で!邪悪な伝説は討ち果たされました!ありがとうございます!!」
「ああ……うん、そうだね」
「ちっと逃がしちまったけどなー」*1
「ミルコ君もうちょっと真面目に演技して!?」
「うるせー。やる気出るかよンなもん」
攫われて怯えていた生徒も無事に保護された。*2我らがヒーローが守る未来は安泰なのだとマスコミは無責任に煽る。
取材班の言葉にオールマイトが苦笑いしていたのはご愛嬌。本当はその拉致されていた生徒が一番ぶん殴ってましたよと言いたくなるのをグッと堪えていたりする。ミルコ?口裏合わせに不貞腐れてますが。
そして
◇
「死柄木弔……志村の孫、か」
オールマイトとグラントリノ、塚内の三人は一室にて情報交換を行っていた。
多くの事が解決し、同時に多くの謎とタスクを残したあの戦い。一番の巨悪を倒すことは叶ったもののやるべきことは山積みだ。
そしてオールマイトとグラントリノにとって重要な事……志村菜奈の孫である志村転孤と死柄木弔がイコールの存在だった、というもの。
「しかしそれは本当なのか?いくら本人の口から言われたとはいえ、信憑性があるとは……」
「……私もそう思ったんだが、あの時の彼は心底どうでもいいという風だった。おそらく彼は私など眼中に無い」
オールマイトの先代【ワン・フォー・オール】継承者である志村菜奈は夫を殺されていた。それ故に矛先が我が子に向く前に、と先んじて子供を手放した。
その徹底ぶりはオールマイトにもグラントリノにも『自分の死後にあの子に関わらないでくれ』と言い残すほどだ。
故人との約束から家族との交流を絶った結果、平穏に生きて欲しいと突き放した血縁を利用されるところだった。
「……あの坊主には感謝しねえとな」
「ええ……まったくです」
先代の孫との殺し合いは間飛の手で止められた。憎悪の矛先は逸らされ、挙句友人として彼の心を開いてくれた。志村菜奈を覚えている二人には感謝してもしきれない程の功績。
フッ、と笑い合う二人だがそれはそれとして何してんだアイツと思わなくもない。
何せ公表されることはないがヴィラン連合とゲームしてピザ食ってたらしいじゃん。アホか。
何でオール・フォー・ワンが死柄木弔の離反を把握してなかったのか調べていたら、どうも連絡と監視を兼ねていたモニターがゲームで塞がっていたとか。オマケに監視カメラやマイクの類は死柄木弔の指示で黒霧が排除してた。裏切る気満々で草も生えない。
「おかしいとは思ったんですよ。何かピザの配達員とすれ違いましたし……!!」
「おお……突入したら滅茶苦茶ピザの匂いしてたしな」
「ええ……?」
お陰で腹が減って仕方なかったわ!!とはミルコの談。
雑談もこれくらいにしてまた動かなければならない。何せオールマイトの
「こんなにも希望を持って次を見据えられるとは……夢にも思いませんでした」
それでも大丈夫だろうと、今の彼は胸を張って言える。頼もしい次世代が育っているのだから。
「あ、そういや雄英から連絡来とったぞ。何か家庭訪問に行ってこいとか」
「……え?そういうのって面と向かって通達されません?」
「そういうもんだろうが……少し早めに顔を合わせなきゃならんから早よ行ってこいって事だろ」
「間飛の坊主の所に頭を下げにゃならん」
◇
グラントリノから連絡を受けたオールマイトが相澤と合流し、向かった先は間飛の家。それも間飛が一人暮らししている方ではなく、間飛の家族が住む家だ。
インターホンを鳴らし簡素に自己紹介を述べるとすぐに玄関から鍵が開けられる音が聞こえた。やや大きめのドアがゆっくりと開けられ──オールマイトは息を飲んだ。
「どうもすいませぇんウチの子が……!!」
「お師匠、様……?」
「はい?」
そこにいたのは志村菜奈にそっくりな女性だった。いや見た目は割と全然違うのだけれど、纏っている雰囲気が懐かしい感覚を思い出させてくれるような……。少なくとも開口一番に思わず零してしまうくらいには似ていた。
停止した思考回路が言葉を紡げずにいると、横にいた相澤から軽く肘で小突かれて再起動を果たす。失礼しましたと何とか体裁を整えて今度こそ間飛の実家へとお邪魔した。
「あれ?何で先生が家に?」
「……お前もこっちに居たのか」
「ウチの爺ちゃんに呼ばれまして。『ウチの孫がー!?』って発狂してたとかで……」
御歳幾つかは存じ上げませんがお身体は大事にしてくださいな。孫に発狂とか言われるって何したんだアンタ。
生徒を守れなかった自分達が悪いからツッコミを入れることはしないが、相澤の脳内ではスーパーボールのように室内を跳ね回るご老人を思い浮かべていた。
テーブルを挟んで向かい合い、切り出されるのはやはり先日のヴィラン連合による拉致被害の一件についてだ。
「すいませんウチのバカが!!」
「痛ってぇ!?叩くなよ!!」
「……えっと、悪いのは守れなかった我々であってですね」
……謝罪に来たはずなのだが、何故自分達が謝られているのだろうか。その子事件解決のMVPなのでむしろ褒めてあげてください。
しかし間飛の母は一向に譲る気配がなく、今回の拉致についての責任は自分の息子が悪いの一点張り。これには別の意味で手こずるなと相澤もオールマイトも密かに嘆息した。
とりあえずやたらいい音を立てて唸りを上げる手のひらを止めてもらって、何故そう思うのかを尋ねることに。
「……移、ちょっとどっか行っといてくれる?」
「俺当事者なのに!?」
「アンタの事を話すから恥ずかしいかと思って気を使ってるんだけど」
「移、二階に逃げマース」
いや、その子当事者……と止める間もなく間飛の姿が消えた。早速【瞬間移動】使いこなしてんなおい。
一つ咳払いをし、口をお茶で潤した後に語り始めた。
「移は昔、もっと弱々しい子だったんです」
「……何か、あったのですか?」
「……多分ですが【フィジカルギフト】の影響です」
「!!」
間飛移という子供は臆病で慎重で、人の顔色を窺うような人間だった、と。
このヒーロー飽和社会において個性とは一定の評価基準が設けられており、人によって価値観こそ違うものの善し悪しは早いうちから無意識に刷り込まれる。
大人ならば便利そうだとか邪魔にならなさそうなものを良しとするだろうが、無邪気な子供達の間では派手さや強さこそが全て。間飛の【瞬間移動】は本人以外は何一つ動かすことが出来ない地味な個性と弄られ続けた。
本人は軽い弄りを繰り返された程度、という認識だったけれど。大人から見たそれらの扱いは明らかにジョークの範疇を超えていた。
「小さな否定の積み重ねが続いて……私達がどうフォローしてもあの子の中では自分が一番下に来るようになってしまいました」
「……」
「だから【フィジカルギフト】を受け取る時も、少しでも早く強くなりたいって……」
二年に渡る継承作業の強引な短縮も同じ。最底辺からの脱却を夢見た果てに辿り着いたのは、結局また同じ立場。
かつて渡我被身子に請われて何ら躊躇うことなく血を差し出したこともあったのは、誰かに求められているのが嬉しいからだ。
その性質故か、間飛と同じように自分を嫌っていたり自責思考を持つ人物に深く共感し、僅かな時間でそういった人物に仲間と認定されやすくすぐに打ち解けてしまう。
そして彼にとっては無価値な自分が嫌いなので、他人の為に手を尽くすことで自分に価値を与えたい……メサイアコンプレックスの典型例のような状態になっていた。
「それで【フィジカルギフト】の継承が終わった後にようやくあの子は明るくなって……」
「お母さん……」
「何とか友達が作れるようになって、ちょっとずつ話ができるようになって……段々面倒な方向に進化して……!!」*3
「おっと?」
流れ変わったな。思わず口に出しそうになった。
「何か【フィジカルギフト】と相性が良過ぎてジェネリックオールマイトみたいになるわ、元の【瞬間移動】も相まってドラ○ンボールみたいになりだして……!!」*4
「お母さん?お母さん!?」
「コップってそういう壊れ方するんだ……」
間飛母、怒りのコップクラッシュ。それ以上いけない。
ようやく皆と対等になれた!と喜んでくれて明るくなったのは親としても嬉しいし安心した。それはそれとしてそうはならんやろ。*5
親戚のツテを頼って広い田舎の山奥で思う存分に個性を使わせたこともあった。フラストレーションの発散になればと私有地を貸してもらって好きなようにやってみろと両親監督の元【フィジカルギフト】の試運転をさせた。
何このサイヤ人……?
【フィジカルギフト】継承完了から一週間。使いこなすどころか【瞬間移動】との親和性が良過ぎてシンプルに将来彼にボコられるヴィランの事を心配した。初見殺しの極みみたいなことすんな。
両親から感染ったのか雑食オタクでもあった彼は暇な時を見つけてはマンガやらアニメやらゲームやらの必殺技を真似た。頼むから北○神拳はやめろ。スプラッタ路線に行かないでくれ。
「良くも悪くも親の想定を上回って行く子なんですよ……本人から聞いたんですが攫われる瞬間も『自分なら最悪逃げられるし捕まってもいいや』とか思ってたらしくて……」
「それ、は……なんというか……」
馬鹿だろ。*6謝罪する側だから決して口には出さないけど、そう思った。いや馬鹿じゃん。
今の間飛移という人間はやや過小気味に自分を評価する程度に卑屈な癖に、妙なところで自信満々というまあ確かに陰キャっぽいけど……な仕上がりとなった。どうしてそうなる。
「まあ……私どもとしてはこれからもウチの馬鹿をよろしくお願いします、としか……」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
今度こそ守らせて頂きます、と相澤は締め括る。
……でもアイツ自分からどっか行くんだよなあ。
間飛母「あら……失礼しました!オホホ…」
オールマイト(ヒエッ…こういうところもお師匠様ソックリ!!)
相澤(……血、出てなくないか?)