※ぶどうジュースかファ○タグレープかワインを用意してお読みください。
「すまないね……この大事な時期に呼びつけるような事をしてしまって」
「いや、いいんだ。奴の相手をするべきは私だったんだ。今更と言われればそれまでだけどね」
海のど真ん中。長く巨大な橋一本で陸地と繋がるそこは“奈落”を表す神の名を冠する。
───【タルタロス】と。
No.1ヒーローでさえもいくつもの面倒な手続きを経て、入念な検査の果てに立ち入りが許可される。
廊下ひとつドアひとつ……何処を切り取っても厳重な警備が敷かれており、檻の向こう側の者達に人権は無い。常に監視と銃口が向けられている。
地下深くへと伸びる徹底的なセキュリティの大監獄の一室。そこではNo.1ヒーローと敗れた魔王の面会が行われていた。
「頼んでみるものだね。まさかこんなにも早々と君と再会するとは思っていなかった」
「……貴様の頼みではない。私が貴様に会うために頼んだのだ」
「同じだろう?どちらの頼みが通ったにせよ、僕はこうして君と面会が出来ている」
重苦しい空気の中、オール・フォー・ワンは軽い調子でオールマイトと会話をしている。
収監当初は廃人になりつつあると思われていたのだが、どういうわけか二日もしないうちに彼は元の精神状態へと快復していたらしい。
あの時
完全に終わった。それがオールマイトの認識だ。
なのにオール・フォー・ワンはいつも通りのニヤニヤとした笑みを崩すことはなく、オールマイトを嘲笑い続けている。
「……貴様は、何がしたかったんだ」
「?」
「人の理を超えその身を保ち、生き永らえながら……その全てを搾取、支配、人を弄ぶことに費やしてまで何を為そうとした」
オールマイトとオール・フォー・ワンの関係は長い。しかし【ワン・フォー・オール】とオール・フォー・ワンの関係はもっと長い。
それだけの時間を費やしておきながら、彼は終ぞ何かを為し遂げるでもなく奈落の底に囚われた。そこまでして彼が為し遂げたかったものは何なのか。
魔王は英雄の問いかけを「生産性の無い話題だな」と鼻で笑う。彼に曰く、やっている事はオールマイトと同じだと言った。
オールマイトが正義のヒーローに憧れたように、オール・フォー・ワンは悪の魔王に憧れた。たったそれだけのシンプルな話。
理想を抱き、体現する為の力を持っていた。もし理想を永遠に出来るのならば努力は惜しまなかった。己の幸福の為に動いていたに過ぎない。
「……ならば何故、後継など」
「君がそれを聞くのかい?この管が無ければ死んでしまう身体にした君が」
しかし永遠にはならなかった。
オールマイトの登場によって永遠の絶頂は崩れ去り、多くの物を失い手放すことになった。
ならばその願いを次に託したいのは当然の事だろう?とオール・フォー・ワンは嘯く。
後継と言えば、と次はオール・フォー・ワンから尋ねた。
「君は見事な後継者を見つけたものだ!間飛移……アレは君と違って頭がいい。まさか死柄木弔を奪われるとは思ってもみなかった」
「……」
「それにあの個性!!黒霧とは別の方向で使い勝手のいいワープ!なるほど、アレに君のパワーを上乗せされれば恐ろしいものだね」
熱に浮かされたようにオール・フォー・ワンは続ける。
「どんな愚物に渡るのかヒヤヒヤしていたが、あんなにも将来有望な少年に渡るとは……きっと彼の中で与一も笑っているだろうさ!!」
「……違うんだ」
「……何?」
しかし、熱はそこで止まる。オールマイトのたった一言で彼は言葉を止めて何のことだと尋ねた。
既にオール・フォー・ワンは終わった。ならば間飛を巻き込んだままにはしておけない。半ば意図的に作り上げた彼の勘違いを正さねばならない。
「彼は……彼は【ワン・フォー・オール】の後継者ではないんだ」
「……は?」
「本当の継承者は別にいる。彼の個性は【フィジカルギフト】……お前の言う与一も、初代【ワン・フォー・オール】も彼の中にはいない」
「………………」
騙して悪いが、なんてものでは無いけれど。オールマイトは気の毒なものを見る目でオール・フォー・ワンを見据えて話した。
一方魔王は彼の言葉を飲み込めずにいる。
【ワン・フォー・オール】じゃない?アレで?【フィジカルギフト】って何?彼の中に与一はいない?じゃあアレは弟じゃない?
自分は弟を間違えた?
そんなことあってはならない。あんなにも求め続けた僕の物を、僕が間違えた。彼の中に与一はいなくて、でも僕は彼の中に与一がいると思ってて。あれ?与一はどこに行った?
こんなにも手を尽くして、こんなにも長い時間をかけておきながら?いざ目の前にしたそれっぽい別物と、求めてやまない弟を見間違えた?この僕が?
十秒程度の自問自答。オールマイトの怪訝な顔も監視カメラの向こう側の警戒心も、極わずかな間だが彼の脳内から消え失せた。
己の弟を野生の脳筋と間違えたというショックからか───
「ばぶぅ……」
「お、おい……?」
「あびゃー」
「オール・フォー・ワンが壊れたあああ!!?」
「ばぁ……?ぶぅぅ……」
「かかか、看守さーん!?何とかしてー!!」
───やっとこさ持ち直した精神が崩壊を引き起こしたとさ。
◇
「申し開きはあるか」
「……えーっと、どれの事でしょうか」
「ん」*1
「じゃあブロック追加ですね」
「うん何か悪いことしたとは思うんだけどね?この時代に石抱きの刑はどうかと思うの」*2
「もしかして……修羅場!?」
「とりあえず関わらない方がいいかもしれない……」
「……何であんなのが普通にあるんだろう?」
一方雄英高校サポート科。足技を使おうかとコスチュームの相談をしに来た緑谷と同じく用事があった飯田と麗日。
やけに静かな室内へと足を踏み入れると江戸時代の拷問を受けてる間飛の姿が。いいぞもっとやれ。
静かにキレているらしい心操と小大と発目に囲まれながらも、この期に及んで自分の何が悪かったのか分かっていないらしい。救いようがねえなコイツ。
じゃあ追加しまーすと既に石は五つ目。おいそれ命に関わるレベルを超えてないか?
さすがにこのまま放置も出来ないので何でこんな事になっているのか尋ねることに。出来れば関わりたくないけど見殺しにするのも気分が悪いのだ。
「ああ緑谷か……お前も一発くらい蹴り入れてやれ」
「まず説明が欲しいかな!?」
「ま、間飛くん大丈夫……?」
「控えめに言って死にそうかな」
「足の色がヤバそうだが……!?」
それ以上いけない、という事で間飛を解放。代わりにそこら辺の椅子に縛り付けられた。拘束は譲れないのね。
「……それで、何であんな事になってたの?」
「パワーローダー先生がいないから話すが……コイツ神野区の時何してたか聞いたか?」
「いや、攫われた後の扱いは聞いていないが」
「ん」*3
自由時間の際に間飛と心操の間で話題に上がったのがヴィラン連合に攫われた後の扱い。何かヤバい事とかされなかったか?と尋ねたところ想定していない答えが返ってきたのだ。
さすがに間飛とてそのまま話すのはアレだな、と多少ぼかして伝えたけれど残念ながらオブラートが足りない。心操にはバッチリ『コイツ割りと余裕ぶっかましてやがったな?』と伝わった。
追求を重ねられて焦った間飛はピザパだのゲームだのは隠し通したけれど、自分からその場に残り続けていたことは暴露してしまったわけで。
「ちょーっと見過ごせない無鉄砲さですよね!!なのでお仕置する事にしました!」
「要するに……
「だ、だからってこれはちょっと……酷いんじゃない、かなあ……?」
まあ言いたいことは山ほどあるけれど。だからといって足の色が蒼白に近づき始めるまで拷問にかけるのは如何なものか。リカ婆いるからセーフ?そうかな……そうかも……。*4
「でも真面目な話、コイツは自分の意思であそこに残って……俺達に心配をかけたんだ。何度も繰り返されても困る」
「……それは」
「だから言ってるだろ?俺なら大丈夫だったのに、って」
間飛の言い分は単純明快。自分ならいつでも逃げられたし戦いになってもどうにでもなるから心配する必要は無い、というもの。
彼の中では自分は最適な役割を与えられ、まっとうしただけだという事になっているのだ。それが何故怒られているのかが分からない。
それを聞いて緑谷達は絶句し──同時に怒った。
緑谷は無言で縛られた間飛の傍に近づいてスネを蹴った。結構思い切り。
「痛っっっってぇぇ!!?」
「……今のってフルカウルも」
「ああ、乗ってたな」
殺意が凄い。感覚が死んでいた間飛の足に激痛を走らせるくらいには強めに蹴ったらしい。
そのうち椅子ごとひっくり返るんじゃないだろうかと言うくらいに悶える間飛に対し、緑谷は声をかけた。
「間飛くん!!」
「ちょ……待って……!!死ぬほど痛ェ……!?」
「……心配、したんだよ」
「緑谷君……」
未だに彼の中で彼自身の位置づけはかなり底に近い。自己犠牲の精神とは程遠いが、その実何かあったら自分が何とかすればいいという傲慢で己を顧みない思考が根強く残っている。
そして同時に『分かってくれているだろう』という理解の押しつけもあった。
実績や信頼によるものではなく、どうでもいいと思われているが故の無責任な投げっぱなし。ややネガティブな方向で『アイツなら大丈夫だろ』と思われていると思っていたのだ。
「僕達は君が傷ついたら悲しいし、どうでもいいなんて思ってないよ……」
「……ん」*5
「…………!!」
だから緑谷達に出来ることは伝える事。
間飛はどうでもいい存在じゃなくて、適当に危険な役割を押し付けていいなんて思っていないと。
彼の中の価値観を覆し、少しでも自分を大切にしてもらう。自分で自分を大事に出来ないのなら、周りの人間が大事にしてあげる。それしか出来ない。
もし緑谷が強過ぎる焦燥感に駆られていたのであれば、緑谷が歩いていたであろうイバラの道。自分が、自分で、と全てを一人で背追い込もうとするある種無責任な優しさ。
自分が歩いていたかもしれない道を間飛が歩いているのなら、緑谷はそれを止めてやるべきだと間飛を止めるのだ。
シンと静まる空気の中、間飛はゆっくりと口を開いた。
「それは謝るけどリカバリーガール呼んできて来んね?足の感覚無いなった……」
「わあああ!?ごごご、ごめんなさいッ!!?」
「まずいぞ!?麗日君リカバリーガールを!」
「リカバリィィガアァァァルゥゥゥ!!?」
「原始的な呼び方やめろ!?電話使え電話!!」
まだ溝は埋まりきってはないけれど、埋めようとする努力は始められた。穏便と言うには少々痛々しい話し合いも、いつかは笑い話に出来ればいいなという淡い願望を持ちながら。
どこか距離を感じていたが、彼もA組の一員なのだから。
看守「……幼児退行ですね」
オールマイト「ええ……?」
AFO「オギャア……」
オールマイト「オギャる宿敵なぞ見とう無かった……ッ!!」
間飛「何で石抱きの刑スターターキットがあんの?」
発目「さあ?昔からあるらしいですよ!」
緑谷達(((雄英怖っわ……!?)))
それでは皆様ご唱和ください……
愉悦ゥ!!