リカバリーガールにこってりと叱られた後、間飛を含むA組の四人は相澤の元を訪ねていた。
一人一人が異なる課題を抱えている為、A組の生徒が同時に四人も来るのは珍しいなと教師達もチラチラとにわかに視線をやっては気にしてない素振り*1をしていたりもする。
昼食という名の十秒チャージを終えて手が空いていた事もあり、ひとまず話を聞くことにしたらしい。
一通り緑谷と間飛の意見を聞いた後、相澤は口元に手を当てて悩みだした。
「……難しい話だな。俺達プロでも意見が割れる」
「そうなんですか?」
「ああ。それこそオールマイトがいい例だ」
世間がNo.1ヒーローと持て囃すオールマイトだが、時には彼も苦戦したり長引いたりもする。最強の名を持っていても出来ないことはある。
そうした時に市民がオールマイトの事を絶対に心配しないかと言われるとそんなことは無い。
「ビルボードのトップに名を連ねる方であっても心配されるもんだ。何せそこらを歩いている人間は何も分からないからな」
「……」
「そんで、そうした事例はプロ同士でもよく起こる」
ヒーローと一括りにされている彼らだが、実際は個性や素質から得手不得手がハッキリしている為に活動内容を絞っている事もよくある話だ。
例えば合宿に来てくれたプッシーキャッツのように『救助』に特化させたヒーロー。それこそUSJのように環境で対応は異なるのだから、自分の個性や能力を最大限に活かせる環境での活動を重点的にするのは当然だろう。
例えば間飛が職場体験で向かったミルコ。彼女はほぼ『撃退』に全てを費やしており、戦う以外に能がないと言われても否定するどころか喜んで肯定することだろう。
役割がまるで異なる両者。現場で積んだ経験も違うのなら感覚も認識も全く異なるものになる為、傍から見て大丈夫なのかと思うこともある。
「ヒーローを役割毎に分けるべきだという議題は定期的に上がっている。求められる要素が違い過ぎるからな」
「初めて聞きました……!」
「そりゃそうだ。議題に上がってすぐに『プロなら両立して然るべき』で取り下げられてる」
「……デスヨネ」
そして互いは互いの得意分野では自分よりも得意な相手に従う。
戦闘能力のあるヒーローが避難誘導!と指示を出せばそちらに回るし、援護を頼むと言われたらできる限りの手を尽くす。
救助に長けたヒーローがこの辺りと範囲を決めればその範囲を探し回り、この人からと怪我人を渡されれば受け取った者から運んでいく。
それぞれに得手不得手がある以上、どうしたって任せられる役割は違う。無論、必要とあらば問答無用で手を出すが自分の役割でないものに無理に手を出すべきでは無いという考えは一定数存在する。
「そもそも間飛が攫われた件についての結論を出すなら『負けた
「でも……っ」
「自惚れるなよ」
では今回の合宿襲撃はどうか。
そんなもの議論するまでもなく全ての役割を担うべきだったのは雄英高校だ。決して合宿に参加していた生徒達が背負うべきことでは無い。
確かに間飛とそれ以外の生徒で認識は大きく食い違っていたし、それが原因で間飛は皆の心配を蔑ろにしたし皆は間飛に八つ当たりをしてしまった。
けれどその全ては他でもない雄英高校に向けるべきであり、生徒同士でギスギスする必要は無い。
「……まあ、言いたいことは分かるよ。帰ってきて開口一番に『何かすんごいの倒して来ました!』とか言われてイラッとしたし」
「その節は大変申し訳ございませんでした」*2
「何してるの……?」
態度はクソだったけど。間飛の態度は褒められたものではなかったけども!彼も被害者(のはず)なのだ。
「教師として情けない話だが、俺はそこに手を出す余裕がないし……何より不向きだ。合理的にでも呑み込めないからそうなっているんだろ?」
「……はい」
「だったらまずお前達で話し合え。俺を挟む前に生徒同士で話し合って、それでも解決できなかったらもう一度俺のところに来い」
以上だ、と相澤は話を切り上げてパソコンへと視線を戻した。
◇
「こっちの方がフランクに出来そうだったから……」
「そのガベルはどこのヤオモモ製だおい」
「うわ、これ思ったよりデカい音鳴るな」
「聞いて?」
いや硬っ苦しいよりはいいだろうけどさあ!俺にしては『やらかしたなあ……』ってそれなりに反省してたのにコレはないでしょ!?
というか緑谷達だって流石にこれは……え?相澤先生に窘められて思うところがあったから、文句は言えない?お願いだから言って?
ノリノリでガベルやらなんやらを作ったと思うと色んな意味で泣けてくるんですが。心配してくれてたんちゃうんかい。
カンカァン!!とガベルを鳴らして静粛に……いや本当にうるせえなそれ。想像の数倍は音デケェよ。もうちょっと弱めにしてくれないか。
「えー……それでは第一回、間飛と我々の認識の擦り合わせを行います」
「それっぽい……!」
……もう、なんでも良いや。*6
「ではまず概要の確認から」
雄英の強化合宿にヴィラン連合が襲撃をかけまして。俺達はヴィランと戦って抵抗し、その過程で爆豪と常闇が攫われたのでそれを取り返す為に緑谷と轟と障子と協力して誘拐犯を追いかけまして。
最後の最後で何とか二人を取り返したのはいいけど俺が代わりに持ってかれまして。アジトで謎の個性から解放されたけど逃げなかった……と。
「質問なんですが、何故ここで逃げなかったのですか?間飛さんなら逃げられたと思うのですが……」
「あー、はい。あの時点だとヴィラン連合の目的が分からなさ過ぎて、少しでも何かしらの情報を得てから逃げようと思ってたんだ」
「……なるほど、言われてみれば確かに彼らの目的は不明でしたわ」
USJで殺してやる……殺してやるぞオールマイト!してたらしいが、だとしたらオールマイトがいるのかも分からない一年生の強化合宿に乗り込む理由が無いからな。
もしや別の目的でもあるのかと探りを入れたかったんだよ。結局は既に雄英高校はどうでもよかったようだが。
ついでに付け加えるとオール・フォー・ワンと死柄木弔で目的が違ったのもある。オール・フォー・ワンは雄英高校を狙って、死柄木弔は俺個人を狙っていた。それも向こうに行くまでは分からなかったしな。
「……じゃあ逃げようと思えば逃げられた、ってのは間違いないのか?」
「ん?そうだな、特に個性対策もされなかったし」
「その時点でヒーローに頼る事も出来たんじゃないか……?」
「……考えなくもなかったけど、ヴィラン連合が街中に解き放たれる事を考慮すると無理だったな」
仲良くなったし、とは絶対言わないけども。打ち解ける前でもそのぐらいは考えた。
荼毘と死柄木弔の個性は確実に広範囲に被害が出るし、他のメンバーも殺人に躊躇は無いだろうことを思うと迂闊な真似は出来ないだろ。
その場で全員ぶちのめせば良かったって?これだから爆発さん太郎は……。
アイツら全員ぶん殴った所でどこからか脳無が山ほど出てきたら面倒な事にしかならないでしょうが。事実黒霧以外にも転送手段をあの魔王様(笑)は持ってたしな。
あの場でヴィラン連合の全貌も分からなければ目的も不明だったんだ、慎重に情報収集に動くのは妥当だろ。
「……今度はこっちから聞いてもいいよな?」
「ええ、何をお聞きされますか?」
「それじゃあずっと不思議に思ってたんだが……何で俺が自己犠牲の精神持ってる人みたいな扱いになってんの……?」
「……えっ?」
俺の基本的なスタンスは自己犠牲なんざ真っ平御免でしてよ?
相澤先生が議題に上がると言っていたように、俺だって『出来ることだけをしている』だけなんですが。そこに高尚な自己犠牲なんてこれっぽっちもありませんよ。
あ、何人か口元パッカーンで頭ポッカーンになってら。ハハッ、ワロス。
「その様子だと何人かそう思ってたらしいな……?」
「い、いやだってよぉ……オイラは常闇や障子から聞いた感じそんな風だと思ってたぜ?」
「うちも……」
「……すまない。努めて冷静に事実を話したつもりだったのだが」
「誤解を与えてしまったらしい。すまなかった」
俺とA組より先にA組内で齟齬があるやんけェ!?
先に『これらの件は水に流そう』という結論が決まってる以上茶番なんだが、まさか本当に茶番だとは。本当に先に話し合うべきだったわ。
大方爆豪の代わりに間飛がー的な話し方をしたんだろうなあ……。それは向こうが勝手に予定を変えただけだったのに。
「……皆に心配かけたことはすいませんでした。次はもうちょっと上手くやるわ」
「僕達もごめん……色々と軽率だった」
これで円満解決。これからはまた仲良くやろうね!とは上手くいかないだろうけど。
これ以上拗れたりはしないんだ、また少しずついつも通りに戻していけばいい……はず。
「で、この裁判所セットどうすんの?」
「そうですね……サポート科の方にでも持っていけば材料になるのでは?」
「……あっ」
「?」
「