個性伸ばしに必殺技開発。コスチューム改良やほんのちょっとの恋バナやオタトークを積み重ね、汗と涙と血反吐と血反吐と血反吐を流して来た。血反吐の割合多いな。
バスに揺られて辿り着いた先は国立多古場競技場……ヒーロー仮免試験の会場だ。
「緊張してきたぁ……」
「多古場でやるのか」
「はい吸ってー吸ってー……吸ってー」
「吐かせろよ」
ヒーロー仮免許。取得者は緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使可能となる。それ即ちヴィランとの戦闘や事件、事故からの救助といった行動をヒーローからの指示や許可なく出来るようになる。
大抵のヒーロー科では二年生以降に取得を目指すのが一般的だが、雄英高校では今回一年生でも取得に向けて動いている。
六月と九月に二度の試験が行われるので、雄英でも例年通りであれば二年の六月に試験に臨むはずだった所を度重なるヴィラン襲撃によって一刻も早く自衛出来るようにするべきだと決められた。
当然雄英以外の学生達は歳上ばかり。初めて、もしくは二度目の試験にやる気と緊張が入り混じる二年生か、もう後がない為に険しい顔をしている三年生だ。
「っしゃあ!!なってやろうぜヒヨっ子によォ!!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!!」
しかし例外というのはどこにでもある。
「「「Plus ……ultra!!」
「……え?誰?」
「はぁ……勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああしまった!!」
「どうも大変ッ!」
「失礼ッ!!」
「致しましたァ!!!」
反動をつけ、音を立てて手を横につけ。勢いよく振り下ろされた頭がガァン!!と地面にまで届く。
暑苦しさと真面目さを足して二で割るどころか二乗したような、一々動作が大きく喧しい男子生徒。彼の姿を……否、彼の
「……東の雄英、“西の士傑”」
「注目度合いは
「“夜嵐イナサ”か……いやなのと同じ会場にあたったな」
爆豪と間飛が冷静に呟き、相澤は初対面のはずの受験生の名を零していた。
丸刈り頭につり目の三白眼。ハキハキとしたよく通る声とテンションの高さは『如何にも青少年です』という印象を与える。
謝罪の為に下げた拍子でぶつけた頭から血が流れ出しても動じることも無く、笑顔で話を続けている。
「てか先生知ってるんですか?」
「ありゃあ強いぞ。お前らの年の推薦入試……トップの成績で合格したにも拘わらず入学を辞退した男だ」
「間飛よりッスか!?」
「……どっちを強いと評価するかは人によるだろ。少なくとも俺は間飛の方が上だと思うが」
上鳴の質問から何故か間飛に飛び火し、何か褒められて照れる間飛。普段滅多に口に出して褒めてくれないだけに相澤からの評価は雄英でも素直に嬉しかったりする。
故に、少なくとも雄英高校にて一度はトップの成績を収め、大好きだと言っていた雄英高校を蹴ったという不思議な経歴の持ち主であれど相澤から『強い』という評価を下された夜嵐に対し、A組達は警戒することにした。
緩みかけていた雰囲気がピリッと引き締まったかと思われたその時、またも横から声がかかる。
「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」
「ゲッ……」
「テレビや体育祭で姿は見てたけど……こうして直で会うのは久しぶりだな!!」
露骨に嫌そうな顔をした相澤に対し……。
「しないのかよ!ウケる!!」
のっけから求婚した。*7
彼女はスマイルヒーロー【Ms.ジョーク】。【爆笑】という個性によって近くの人間を強制的に笑わせ、思考力や行動を鈍らせるという余りにも狂気に満ちたヴィラン退治を行うという。
ニコニコを通り越してHAHAHA!と笑う彼女もまた教師。連れているのは傑物学園高校の二年生だ。
「おお!本物じゃないか!!」
「すごいよすごいよ!テレビで見た人達ばっかり!」
「一年生で仮免か……」
本人達は忘れがちだが、彼らはかつてのオリンピックに相当する場所で活躍していたのだ。
彼らに向けられる視線はライバルを見るものに限らず、羨望や嫉妬などの複数の感情が込められている。傑物高校の受験生ははたしてどちらなのか。
“真堂”と名乗った男子は近くのA組の手を取りながらスラスラと労いの言葉と意気込みを並べる。その対応は当然爆豪にも向けられるが。
「……フかしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」
「右に同じ。猫被りが上手いッスね」
「ちょっ、爆豪はともかく間飛もかよ!?すんません無礼で……」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
爆豪はさておき、どことなく覚えのある雰囲気を感じ取った間飛までもが握手を拒否。切島が慌てて間に入り頭を下げようとするが、真堂は不敵に笑って二人の対応を許した。
(同類……いや違うな。狡猾さへの嗅覚が利くらしい)
「悪いね。俺貴方みたいな人、嫌ってほど見てきたんで。狩る側のつもりでいると狩られますよ?」
有名税で揺らぐほど弱くはないぞ、と暗に警告を飛ばす間飛。しかし間飛以外に
「……ひょっとして、言ってないのか?イレイザー……」
「言う必要も無い」
ソレが何を示していたのか。A組達が理解するのは事が始まってからだった。
◇
「えー……ではアレ、仮免のヤツをやります。あー……僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠よろしく」
滅茶苦茶人多いな……。異形系っぽいのからパッと見じゃ何の個性か分からない人まで。コスチュームは十人十色って感じだが、こんだけ人が多いと目立つやつは目立つな。
壇上で「眠い辛い帰りたい」と愚痴る公安委員を大丈夫かと心配しつつ、これから行われる試験の説明に耳を傾ける。
この場に集められた1541人一斉の勝ち抜け演習を行うとの事。長ったらしい社会情勢や世間からの声を一通り語った後、条件達成者
1541分の100……一割にも満たない狭き門を潜り抜けて尚、それが第一の関門でしかないと。
「で、その条件というのがコレです」
「ボール……?」
公安の人が取り出したのは手のひらサイズのボールと同じくらいのサイズのセンサー……あ、ターゲットね。
ターゲットを三つ身体のどこか常に晒されている場所に取り付け、三つ全てのターゲットが発光すると脱落と。
ボールが当たった場所のターゲットが発光して、三つ目のターゲットにボールを当てた奴が倒したという判定になる。で、二人倒したらクリア……か。
これいやらしい試験だなおい。
渡されるボールが六つって、配布されたボールだけだとターゲットを六つまでしか光らせられないんだろ?
ってことは一人で同じ人間のターゲットを三つ発光させるなんてのは非推奨。むしろ二つ発光してる奴を狙えと言わんばかりの仕組みじゃねえか。
マジの蹴落とし合いって感じだ。
箱型のホールが展開されるとUSJを思わせる様々な環境のドームが外側に広がっていた。無駄に凝った演出だが、楽しむ余裕はちょっと無いな。
「皆!あまり離れずひとかたまりになって動こう!」
「……悪い、俺パス」
「えっ」
「フザけろ遠足じゃねえんだ」
「えっ」
「俺もだ。大所帯じゃ却って力が発揮できねえ」
「えっえっ」
緑谷なりに何か考えがあるんだろうが、俺は単独行動させてもらおうか。普通に巻き込みそうだし。
それに……緑谷が警戒してんのは体育祭で情報が割れてるって事だろ。プロヒーローでもないのに手札がある程度知られてるんだから、そりゃあ対策ぐらい立ててくる。
ならば尚更俺は単独で動きたい。【瞬間移動】の俺相手にわざわざ挑む奴は広範囲攻撃か拘束力に長けた奴しかいねえだろうしな。
「……ははっ、狙いが分かりやすいなおい」
群れから出てきた哀れな子羊を狙う狼がたーくさん釣れやがる。想像よりも結構多いな。そんだけ自信があるのか、どさくさに紛れて漁夫るつもりでいるのか。
どちらにせよ関係ない。
『3……2……1……』
『START!!』
──全員叩きのめせばいいんだろ?*8
切島「間飛どうしたよ」
間飛「……昔あんな感じの先輩に弄り倒された」
障子「なるほど……」
間飛「試験中出くわしたらぶっ飛ばしとくわ」
障子「……殺さないようにな」
切島「さすがにそこまでは……しない、よな?」