三名のクリアが出た頃、緑谷達は戦っていた。
傑物の真堂による【揺らす】個性。雄英の防御の堅さに一度大きく崩すべきだと考え、必殺技【震伝動地】を発動。
多少の反動を覚悟で放った最大威力は緑谷達を分断し、地形を大きく変化させた。
未だに続く集中砲火の中緑谷は──
「ヤバ驚嘆〜ちゃけパないって」*1
「ちょ、危ないですって!?」
……現見ケミィ(本物)と何やらわちゃわちゃしていた。何してんの貴方達。
元を辿れば先の通り、緑谷達は真堂の一撃で大きく分断されてしまい一人囲まれてしまっていた。
そこで孤立した雄英生を叩こうとした所、同じく雄英と並ぶエリート校である士傑高校が一人、現見ケミィと遭遇。お互い狙われる立場ということもあって手を組むことになったようだ。本物にしろ偽物にしろケミィさんとは出くわすのね。
しかしこの二人、妙に噛み合いがいい。
というのも現見ケミィの個性は【幻惑】。口からモヤを吹き出してその中に幻惑を作り出し、人物であれば喋らせることまで可能な代物。
彼女が作り出した【幻惑】を囮に緑谷の超パワーで撹乱しつつ、包囲網を抜け出そうとしていた。
「……ゆーえーヤバくね?緑谷一年とかマ?」
「えっ?えっと……その……」
「ウチら士傑でもあんまし居ないよ?そのヤバパワー」
同級生から『底抜けのアホ』と評価される程楽天的なケミィは素直に驚かされていた。
遭遇してから協力し出して僅かな間だが、自分の個性で援護しているとはいえあまりに判断が的確過ぎる。
ケミィに頼んで己の【幻惑】を作り出し、そちらに視線を向けさせた所で足元や身体の末端を狙った風圧攻撃で時間を稼いだり。それでも執拗に攻撃を重ねた者には即座に近づいて蹴り飛ばしたり。
はっきり言って一つ下の後輩とするにはあまりに優秀が過ぎるのだ。
……まあケミィ本人は「何かこの子めちゃくちゃすごーい」くらいの感覚なのだが。
「緑谷!!無事かうおっ!?士傑の人!?」
「瀬呂くん!大丈夫!味方!」
「そ、そうか……」
「デクく──士傑の人ォ!?」
「やまびこじゃん。ウケる」
瓦礫の陰でようやく落ち着いた時、分断されていた雄英生の内二人と合流が叶った。後ろに当たり前のようにいるケミィに瀬呂も麗日も一瞬怯み、取り敢えず味方だという緑谷を信じることに。
本当か?とケミィを警戒しようとしたが、麗日の反応への反応で瀬呂は察した「……多分そういうの考えない人だ!」と。*2
「……引き続き、協力をお願いしてもいいですか?」
「ん?モチ。むしろこっちからヨロヨロ〜って感じ」
「何か作戦あんのか?」
「うん。このメンバーなら、絶対いける!」
そもそもこの試験はどこぞの脳筋共でもない限り、投擲によるターゲットの発光は有効では無い。それで合格してる奴らもいたけど本当は有効じゃ無い。拘束して確実な状態でターゲットを発光させるべきだ。
緑谷が最初に纏まって動くべきだと判断したのは、A組の中に広範囲多数制圧を可能とする者が多かったから。手を組めば即座に全員合格も夢じゃないと思えるほど。
軸に成り得る轟や間飛、上鳴の離脱はかなりの痛手だった。しかしここでケミィと手を組めた事でその心配も薄れた。
「現見さ「ケミィでいーよー?」……ケミィ、さんの個性で【幻惑】を作って貰えますか?出来れば、僕か麗日さんを」
「りょー」
「そしたら瀬呂くんと麗日さんで……」
出る杭を叩くのは当然かもしれない。しかし出る杭は出るだけの何かがあるのだ。
歳下の獲物と侮った包囲網に、反撃の時間だ。
◇
少数行動組、爆豪を追いかけた切島と上鳴。こちらも囲まれてしまっているのかと思えば……。
「き、切島ァ……!!」
「ガタガタ騒ぐなうるせえ」
「……ふん」
士傑高校二年、肉倉精児によって追い詰められていた。
彼の手が掴んでいるグロテスクな肉団子。時折ピクピクと蠢くそれの正体が切島であるなどと、そうなるまでの現場を目にしていなければ爆豪も上鳴も認識出来なかっただろう。
個性:【精肉】
揉んで肉体を変化させてしまう能力。他人の肉体は丸める程度が限界だが、自身の肉体に限っては自由度が高い。切り離しての操作や寄せ集めての肥大化など、グロテスクな見た目とは裏腹に使い勝手の良い個性だ。
両腕の肘から先を変化させ、巨大な指を作り出した肉倉の攻撃を切島が受けてしまった事で、転がることさえ出来ぬ肉団子にされた。
「雄英高校……私は尊敬している。御校と伍する事に誇りすら感じていたのだ……それを!
「ハッ……!勝手に期待して勝手に失望しただぁ?くっだらねえなァ!!」
「特に!貴様だよ爆豪ォ!!」
ウゾウゾと組み上げられた肉が指の形を取り、肉倉の声と共に動き出す。
矢のように射出された肉塊。触れられれば切島と同じ末路を辿るそれを前に、爆豪は微塵も怯まない。口の端を歪めて獰猛に笑い、全ての肉塊を睨みつけたまま一呼吸のうちに全てを吹き飛ばす。
「ぐおっ……!」
「新技の乱れ撃ち……名付けて【
「……お前、方々から同じ理由で嫌われてんな」*3
五本の肉塊を指向性の【爆破】が散らし、分裂した肉が肉倉へと戻る。
乗せられた。自分らしくもない突貫をしたことを自覚し、いつものペースへと戻す。
一方爆豪は苛立ちと闘志を滾らせている。そもそもの話、爆豪からすれば肉倉の言葉全てが言いがかりでしかない。
会ったこともない人間が雄英というネームバリューに期待を寄せ、いざ会ってみて『雄英生はそんな事しない!』と解釈違いだと抗議されようが無関係だ。厄介オタクかな?
「ペラペラペラペラと……口先だけじゃなくて行動で示してくださいよ!先輩ィ……!」
「いいだろう……私が手折り、気づかせてやる!」
五本でダメなら数を増やすまで。肉倉は腕のほとんどを肉塊へと変化させ、指の数を増やす。
「もぉ……こんな戦闘不毛でしかねえよ。さっさと終わらせちまおう!」
「ぬっ」
攻勢に出るかと思われたその時、上鳴が何かを射出。パシュパシュという音からさほど質量のある物では無いだろうが、分からないまま問題ないと決めつけて受けていい訳では無い。
攻撃も防御も肉塊に任せているが、本人が動けないことは無い。素早く攻撃の軌道を見切ると横に跳んで回避。
しかし正体不明の遠距離攻撃は意識を割かれる。爆豪よりも先に上鳴を仕留めるべきかと考え始めた。
「俺を無視すんなや!!」
「……してないが?」
それを見透かした爆豪が無視された事に怒り、再び【徹甲弾】を放つ。こちらは上鳴の飛び道具とは違って速度も密度も段違い。回避ではなく防御を選択せざるを得ない。
そして無視などしていない。
(如何に飛び道具があろうと、この場で貴様から目を離すわけがなかろう!)
彼らが戦っている場所は高架道路。ひっそりと肉塊を一つ操作し、高架下を回らせて背後からの不意打ちを狙っていた。
肉塊が爆豪の背中へと迫り──
「舐めとんのか」
「な……!?」
──左手の【爆破】に散らされた。
戦いの中でも彼の目は肉倉の企みを見逃さない。無数の肉塊の動きを全て観察しており、その内の一つが明後日の方向へと動いたのを見ていた。
そしてもう一つ。爆豪が見ていたのは肉倉の
遠隔操作を可能とする個性は己の射程内で操作をする場合、高確率で視線が操作対象へと向く。余程の熟練者か自動操縦でもない限り、現在地や状態の確認の為に目視で確認しているのだろう。
肉倉の視線が己の背後へと向けられた瞬間、肉塊が背後に来たことを察知していた。
「こんな子供騙しで俺に勝てるわきゃねえだろうが……!!」
「ちっ、ならば次の手──」
「終わらせるって言ったッスよねえ!?」
バチィッ!!
「がっ……!?」
想定以上の対応能力に固まった一瞬を上鳴は逃さない。上鳴には不可能なはずの電気による狙い撃ちが肉倉の身体を撃ち抜いた。
コスチューム改修によって追加された上鳴の新装備。右腕に装着されたソレの正体は【ポインターとシューター】であり、上鳴の【放電】を一直線上に収束してくれる。
射程10mという制限はあるけれど、無差別の【放電】にある程度の指向性を持たせられることによって他者との共闘・連携がより簡単に行えるようになった。
集団戦における上鳴はもう足でまといにはならない。
「上出来だアホ面ァ!!」
「褒めるんなら名前で呼んで!?」
決定打にはならずとも感電による硬直は残る。気合いや根性だけで防げる物とは違い、全身を強制的に強ばらせた一撃は続く爆豪の攻撃への対処を許さない。
爆ぜる手のひらを叩きつけられた肉倉は意識を失った。
「っつう……スマン!足引っ張った!」
「いーって!てかやべぇ!?転がされてた人達が起きてきちまった!」
「コイツに転がされてた連中だ。今更怖かねえわ」
肉倉のターゲットを上鳴が点灯させている間に切島が……肉倉によって肉団子にされていた受験生が解放された。
助けられたことに感謝はしても、まだ試験は続いている。無数の視線に爆豪は手のひらの火花で応えた。
緑谷「…………」チラ
ケミィ「?」
緑谷(コスチュームが際どい!!)
ケミィ(うちのおっぱいガン見しててウケる)
瀬呂(緑谷……!分かるぞ……!)
麗日(……うちやってあるもん)