「……今よりも強くなる為、私の下で
「はい!お願いします!」
学校からの契約書に印鑑を押せば契約成立。一時的なものとはいえサー・ナイトアイの事務所の一員として働くことになる。
一般企業での
それは同時に同級生達との歩みから逸れる事を意味しており、授業の多い1年生ならば尚更のことだ。
その上で貴様はやるのか、とサーは視線だけで雄弁に問いかける。
「皆と歩みを合わせていてはトップになれない……」
「……」
「そう思っていました」
「……ほう」
一瞬の失望が覆る。貴様も彼と同じ道を選ぶのかと思ったサーだったが、今は違うのだと緑谷は語る。
「育つペースも方法も人それぞれ、ミリオ先輩が仰っていた様に僕に必要なのは“経験”だと思いました」
「ミリオが?」
「はい。A組にインターンについての説明をしてくださった時に……」
幼馴染の爆豪と自分を比較した時、二人の成長曲線はまるで異なるだろう。美しい曲線を示すのが爆豪ならば、自分の成長曲線はジェットコースターもかくやと言わんばかりの急成長だ。
時間をかけて研ぎ澄まされた爆豪とオールマイトに個性を授かって一年も経っていない緑谷。この時間という違いはあまりにも大きい。
才能や性能の差があったとしても埋められないのが熟練度というものだ。その差を短期間で埋めたいと思うのなら、より濃密な時間を過ごすしかないだろう。
緑谷の答えはサーにとって予想以上だった。
若者にありがちな焦燥や増長からインターンという手っ取り早そうなものに飛びついただけだとばかり思っていた。
しかし問答をしてみればこれだ。焦燥に駆られた思いつきでも無ければ増長した自信過剰な所もない。今の自分に何が必要なのかを正しく理解し、自らの手で道を切り拓こうと必死になっているだけだった。
「……それと、ですね。ここに来たのにはもう一つ理由がありまして」
「む?」
これは有望株かとも思った所へ緑谷がまだ言葉を続けた。ついさっきまでの堂々とした様相はどこへやら、急に顔色をうかがいながら口をモゴモゴさせ始めた。
チラリと視線を向けられたのはミリオとバブルガール。どうも彼らが居ると話し難いらしい。
サーは二人に退室するように頼み、やがて二人だけの部屋となった。
「それで?そのもう一つの理由とは何だ」
「その……オールマイトの個性についての話なんです」
「……言っておくが
恐る恐る切り出された内容に顔を顰めながらも答えることは出来ない、と言い切る前に緑谷の目が死んだ。一瞬にしてスンッ…と消えるハイライト。アハ体験かな?
ちょっと想定していない反応……というかオールマイトファンとしての質問だと思っていただけに緑谷の変化に目を向いて驚いてしまう。積み重ねた経験も個性による【予知】も意味をなさない。
「……まず、これから僕が話すことに嘘偽りは無いと思ってください」
「あ、ああ……」
かと思えば急に何やら覚悟を決めた面構えでこちらの目をしっかりと見てくる。一体なんだというのか。サーは困惑している。
「オールマイトの個性【ワン・フォー・オール】についてですが」
「待て待て待て」
第一の爆弾投下。『何故かバレてるオールマイトの個性』というサーにしてみれば核爆弾並の破壊力を持った一言。
流石に聞き捨てならないワードを最初から投げ込まれた事で一発目からもう許容範囲を超過している。座っていたデスク周辺の物をなぎ倒すのではと思う勢いで立ち上がりかけた。
「何故知っている……!?というか貴様……!!」
「あ、僕が後継者です。はい」
「…………は?」
「体育祭をご覧になられたのか分かりませんが、間飛くんは【ワン・フォー・オール】とは無関係デスネ……」*1
「────」
続いて第二と第三の爆弾を一気に射出。某カードゲームのカタパルトなタートルさんもニッコリな連続爆撃だ。もうやめて。二人のライフはなんかもう色々とゼロよ。
サーは背景に宇宙を背負った。もしかしてこれが“膨大な情報を無理やり流し込んで動けなくする”とかいうやつだろうか。緑谷はヒロアカから呪術廻戦に移籍して五条悟にでもなって来たのかしら。
緑谷?今のところ『もうどうにでもなーれ☆』状態ですが。諦めが人を強くしてくれるよ。やったね。
ちなみにサー、しっかり間飛を後継者と思い込んでいたものだから尚更傷が深い。
なまじ間飛の実力やリスペクト精神があり過ぎたせいか、体育祭で轟に使った『見様見真似デトロイト・スマッシュ』をオールマイトから教わったものと思っていた。サーの感覚が正しければ間飛のアレはオールマイトの技を68%ほど再現出来ていたという判定だった。
「間飛くんの個性は【フィジカルギフト】と言いまして……その、ぶっちゃけ【ワン・フォー・オール】の類似品みたいな能力でして」
「ふぃじ、かる……ぎふ、と……?」
「……本人に聞いた方が早いかもしれません」
待ってあげたまえ。情報の洪水をワッと一気に浴びせかけるのは。あまりのメンタルダメージにメガネがずり落ちかけているじゃないか。
しかし緑谷は(本人にそんな気は一切ないけど)攻撃の手を緩めない。サーの疑問を尽く無視してスマホに手を伸ばし、登録していた連絡先をタップ。電波を通じてコール音が鳴り始める。
一秒、二秒と経過した後にコール音が途切れ、スピーカーモードに変えられたスマホから間飛の声が聞こえた。
『はいはい、何の御用ですか緑谷さァん』
「ごめんね間飛くん。いま何かしてた?」
『いや何も?自室で柔軟運動してただけ』
「間飛……か」
『……ん?他に誰かいるのか?』
「えっとね?今、僕インターンに参加したくてサー・ナイトアイの事務所に来てるんだけど……ほら、
『……あー、そういう事?』
例の件、だけで何事かを察した間飛。コホンと咳払いをしてから、そこにいるだろうという想定で間飛は電話越しにサーに向けて語り始める。
『えー、まずサー・ナイトアイ。そこにいらっしゃいますか?』
「……ああ」
『はい、お返事ありがとうございます。単刀直入に言いますと俺とオールマイトの間には何の関係性もありません。精々教師と生徒ぐらいですかね』
「【フィジカルギフト】というのは……?」
『それは俺の曽祖父から受け継がれてきた個性です。ざっくり言うと『血縁のある人間にしか受け継がせられないワン・フォー・オール』みたいな個性です』
第四の爆弾も発射。とうとうキラーなクイーンも超えたぞ。やったな。
元々【ワン・フォー・オール】とは2つの個性が混ざって生まれた個性。【力をストックする個性】と【個性を与える個性】が混ざり合った末に生まれたという超常黎明期でもイレギュラーと言っていいルーツなのだ。
如何に個性特異点なんて都市伝説すら流布される現代とはいえ、そんなイレギュラーと同じような個性が一個人から生まれるものだろうか?
「……にわかには信じがたい。あの力はたった一人からたまたまで生まれるようなものではないはずだ」
『その辺は俺も分かりませんが、全世界の人口は80億人以上ですよ?ランダムガチャだったとしても似たような個性が生まれる確率は十分だと思いますよ』
もちろんまるっきり同じ個性ではない。継承条件だとか継承内容だとか差異は色々とあがるのだが……傍から見るとほとんど同じ個性にしか見えない。そりゃあサーも疑いもするだろう。
しかしだ。サーの深読みには悪いがマジでたまたま生まれただけの個性なんですよ。
例えばだがビルボードチャートトップ10のヒーローの個性で考えてみよう。
エンデヴァーの【ヘルフレイム】の場合、炎熱系個性という括りならば山ほど存在する。彼は精密性と火力に秀でているだけで能力自体はそこら辺に転がっているものの延長線上である。
ミルコの【兎】の場合、そもそも動物の能力を持った異形型個性なんてありふれたものでしかない。脚力という分かりやすい強みを得た武闘派というだけで、個性単体では何の珍しさもないのだ。
ではベストジーニストの【ファイバーマスター】やクラストの【シールド】はどうだろう。
完全に同じ能力はないだろうが類似した能力ならば有り得る、とは言える。なぜなら轟焦凍の【半冷半燃】と氷叢零治の【氷操】は仕組みは違えど似たような現象を起こせる、という事例があるのだから。
『というか本人に尋ねればいいのでは?今日はオールマイト結構暇してると思いますよ』
「……それ、は」
「間飛くん、それもうやってる。オールマイトに手紙出してる」
『手紙ぃ?直接電話とか面と向かってじゃなくて?』
それにしたって何故こんなにも回りくどい事をしているんだと間飛は問う。本人同士ではなく継承者(真)と一般通過部外者*2を巻き込んでまでする事なのか。
現役として各地を駆け巡るヒーローだったこれまでならさておき、今のオールマイトは引退宣言も出して後進の指導に専念したいと発表しているのだ。時間など作ろうと思えばいくらでも作れる。
それをわざわざ人を介してやるような事ではないのでは?という真っ当な指摘だ。
『……まあとにかくです。俺は嘘をつく理由もなければ隠し事をするつもりもないので、俺は継承者じゃなくて緑谷が継承者ってのは否定しませんからね』
「あ、ああ……」
『それじゃ切りますね。……いっぺんあの脳筋シメた方がいいか?』
終わり際に物騒な言葉が聞こえた気もするがきっと気の所為だろう。気の所為だろうけどオールマイトの無事を祈ろう。南無。
静まり返る事務所。沈黙が痛いとはこういうことかーなんて現実逃避中の緑谷。だってかける言葉も見当たらないしなんかもう可愛そうだし。最初の怖さはどこへやら、今のサー・ナイトアイはそれこそくたびれ切ったサラリーマンのような哀愁を漂わせている。
そろそろどうにかした方がいいかな?と口を開こうとして、サーが先に口を開いた。
「……私は、【ワン・フォー・オール】はミリオに継がせるべきだと思っていた」
「……え?」
「体育祭で間飛を見た時はホッとした。『ミリオじゃなくても彼になら任せられる』と」
オールマイトと緑谷が出会ったあの日、オールマイトはサーにも報告をしていた。その内容は『無個性の中学生に譲渡することを決めた』というもの。
しかし蓋を開けてみれば後継者と思われる少年は明らかに【ワン・フォー・オール】とは別の力を持っており、その上オールマイトと同等のパワーを使いこなしていたのだ。
オールマイトと間飛の間で何らかの伝達ミスでもあったのだろうと判断し、ミリオとはまた別の優秀な後継者を探し出していたのか……と、謝罪することを決心していた。
それがどうだろう。開けた蓋の中身は無関係、ようやく開けられた本物の蓋の中身はまだまだ未熟でオールマイトには程遠い少年だった。
「……私が貴様と会ってみたいとミリオに言ったのは、貴様が【ワン・フォー・オール】と無関係だと思っていたからだ」
「……!」
「オールマイト程では無いがいいヒーローになると……そう思っていた」
「ありがとう、ございます……」
力なく項垂れながらサーは緑谷を褒める。仮免試験での記録を見た彼の素直な評価は有望株だな、の一言に尽きる。
けれどそれが【ワン・フォー・オール】継承者であるならば話が変わってくる。
サーはゆっくりとハンコを持ち上げると、書類にストンと印鑑を落とした。突然の契約に緑谷の方がついてこれていない。
「えっ……」
「貴様が【ワン・フォー・オール】継承者だと言うなら、まだまだ未熟と言わざるを得ない」
「は、はい!」
「だからこそ、貴様にもあの少年くらいは出来るようになってもらいたい。いいな?」
「……!はいっ!」
サー・ナイトアイは嘘をつかない。自分の目で見て『いいヒーローになる』と思ったのなら、緑谷を否定することはしない。
ならばせめて自分の手で、少しでも後継者として相応しくなれるようにしてやるべきだとサーは決意した。
緑谷にとって忘れられないインターンが始まる。
「そしてオールマイトに話を聞かねばな……!」
「それは……まあ、はい」
「間飛にも聞かねばならん!ええい、これなら本当に早く会っておくべきだった!」
「サー!終わりました!?」
「ミリオか、いいところに来た。緑谷に案内をしてやれ」
「合格してた!?いつの間に!!?」
緑谷「第一の爆弾!」
サー「待て待て」
緑谷「第二の、第三の爆弾ッ!」
サー「(宇宙猫状態)」
間飛「オマケに第四の爆弾」
サー「」←キャパオーバー
オールマイト「悪寒がっ……!?」