「……すいません、取り乱しました」
「ううん、それより大丈夫?勢いをつけて倒れてたから頭とか打ってない?」
父ちゃんや母ちゃんが言ってた尊死ってマジだったんだな。推しからのファンサだけで気絶するとは思わなかったぞ……。
そんでやっぱり推しが尊くてヤバい。
2次元の方々だとかヒーローの方々に性癖をねじ曲げられた自覚はあるが、俺の好みの根源にあるのはリューキュウさんだ。もう何もかも大好き。
今も心配そうに俺の身体を見回しているが、20cmの身長差から見える景色が良過ぎる。一見つり目のクールビューティーなのに中身が頼れる優しいお姉さんとかマジで最高。
「間飛くんホンマに大ファンなんやね……」
「うん、滅茶苦茶ぎこちない」
「零シャラップ」
何で僕だけ……?とか傷つくでない。お前は分かってて弄りに来てるのが見え見えなんだよ。その半笑いが答えだわ馬鹿野郎。
気を取り直して自己紹介から。皆は俺が気絶している間に済ませたらしいので俺1人だけだが。
「雄英高校1年A組、間飛移です。ヒーローネームは【
「IXA……ね。よし、覚えた。よろしくね」
「はい!」
一々動作が可愛くて美しいのやめて??口元に指を当てながら微笑まれるだけで心臓が危ういのです。
はい早速ですが切り替えます。ここからはインターンで真面目な話になるのでキッチリしますとも。
まずヒーローの主な役割として『避難誘導』と『救助活動』と『ヴィラン撃退』の3つがある。リューキュウは『ヴィラン撃退』をやや重点的にしており、他の2つも積極的に行うこともあるらしい。
彼女が特に意識しているのは“視野の広さ”で、初動を遅らせない為にもいち早く情報を取り入れるべきだと語った。
それで言うなら俺は少し得意な部類に入る。
個性伸ばしで獲得した探知能力のお陰で半径500m内の視覚情報は獲得出来る。
「聞いて!私ね、リューキュウのお陰で判断力が上がったの!」
「ふふっ、そうね。ねじれの判断力……特に“出力調整”の判断速度は目に見えて成長してたね」
「出力調整……」
「間飛ちゃんが一番悩む課題ね。ケロ」
「体育祭の録画見たけど移ヤバかったし……ねえ?」
それはそう。俺の作った必殺技の大半は過剰な威力になっちゃったからなあ……一応加減は効くけどそれの見極めはまだまだか。
発動型と異形型の複合型であるリューキュウは五感がただの人間よりも少し……いやかなり鋭い。コウモリの超音波に驚いたとかいう話もあったはず。
そういう感覚を駆使したり経験則から判断速度を上げられるんだろうが、俺の場合はまず人に向けて打った事が少ない。まずはそれから手をつけるべきだな。
「……ところで間飛君、ちょっといい?」
「はい?」
「職場体験の時はミルコの所に行ったって聞いたけど……インターンは行かなかったの?」
「えーっと……それ、は……」
……これ言っていいのか?
ミルコがインターン候補から外れた理由はただ1つ。本当なら自宅とは違う宿泊先か事務所での寝泊まりをさせなければならないのに、ミルコが面倒くさがって自宅に招き入れたからでーす!*1とか言っていいのか!?
でも尋ねられたら答えないわけにはいかない。口止めもされてなかったしええやろ。
「……あの人何してるの」
「移ゥ!?それ多分食われる寸前だったよ!!?」
「わー!えっと、わ、わー!?」
「お茶子ちゃん落ち着いて。人語じゃなくなってるわよ」
「……えっと、ね?そういう事しちゃうと退学とかになっちゃうから」*2
上から順番にリューキュウ、零、麗日さんに梅雨ちゃん、そして波動先輩。何か食われるとか言われてるけど何でよ。ミルコそういうの滅茶苦茶不慣れっぽかったですよ?
いや確かに寝てたら引っ付いて来たりすることもあったけど……と漏らした途端、更に皆から注意が飛んできた。なんでやねん。
「何かされそうになったらすぐに逃げてね?……せっかくのファン取らないで欲しいなあ」
「……移さ、本当にいつか刺されるよ?」*3
「ミルコさん絶対狙っとるやつやん……!」
「ウサギなのに肉食系なのね」
「……ッ」*4
よく分からんけど警戒が足りないらしいのは分かった。でもこんな戦闘力しか取り柄のない男に惹かれるとは思えないんですがね……。
「……リューキュウさん、ミルコの好みって確か」
「『私より強い奴!』って言ってたね」
「まずいのでは?」
「まずいねえ」
「どうするんです?古参ファン持ってかれますよ?」
「……いっそ抱き込んでなし崩しに私のサイドキックに持っていこうかな」
「問題発言ですよね???」
◇
インターンに来た1年生3人が初めにするのは自己紹介、その次に実力を知るための模擬戦だ。
実際のところは模擬戦とは名ばかりの確認であり、今の貴方に出来ることを教えてくださいなという意図がある。サイドキックを抱えるようになれば最初に直面する課題でもある。
3人の個性はそれぞれ【蛙】・【
「……っとと、こんな風に浮いたりとかも出来ます」
「いい個性じゃない!よく鍛えてるのね」
「あ、ありがとうございます!」
フワフワと重力の枷から解き放たれたウラビティがゆっくりと床に着地する。リューキュウから見た彼女の能力はとても優れたものとして映っていた。
あらゆる存在を重力から解放し、ある程度のキャパシティこそあれど一度に複数の物体や生物を動かせるのは救助活動において喉から手が出る程求められる。
人1人に出来る事には限りがあり、その限度を大きく引き上げてくれるのだから評価しないわけがない。
「フロッピーも凄いじゃない。異形型は戦闘力に傾向しがちだけど、それだけのサポート力があれば引っ張りだこになるよ」
「ありがとうございます。でも決定打に欠けちゃうわね……」
「それは仕方ない部分もあるんじゃない?プロの中にはそういう人も結構多いよ」
フロッピーもまた同じく高評価。火力至上主義とすら言われる昨今で補助に秀でた人員というのは意外と少ない……というか、優秀な人員はサイドキックとしてとっくに確保されてしまっている。
もしくは補助とは言っても特定の個性にしかほとんど意味がなかったり、合わせられる人物が限定されたりというパターンも多い。
フロッピーの場合は個性によるサポート性能ではなく、本人の資質によるものが大きい為に汎用的なサポートが可能だろう。もしこのまま育っていけば新人の教育役に相応しい頼もしさを得るだろう。
「IXAは……うん、言うまでもないよね」
「──こっからワープ挟んで……っこう!!」
「うひゃあッ!?す、凄い威力してらっしゃるぅ……」
「すごいすごーい!でも、あのね?過剰だと思うの」
「加減しますよちゃんと。こう、手刀で首筋をトンッ!って」
IXA?凄いね、としか……。
普通に考えてみろ。オールマイトクラスのパワータイプが瞬きしてる間に目の前に来るんだぞ。こんなもんサイドキックで抱えられる奴なんかいるか。
何が出来ますか?と聞けばオールマイトみたいな事に【瞬間移動】を絡められるので一騎当千を体現したみたいになりますよ、と返ってくる。お前もう独立してろよ。
今だって氷叢零治……ヒーローネーム【カルドル】*5が作った氷の壁を平気そうな顔で片手間に砕いている。
「うーん……来てもらってなんだけど、IXAには何か学びになることあるかなあ?」
「いやいや買いかぶりすぎですって!俺の課題はあれです、他のヒーローとの連携がイマイチなんですよ」
「へ?そうなの?」
これは自分の手に負えないかも、なんて思い始めたところに間飛が困ったように言い出したのは他人との連携に対する苦手意識だ。
今までの間飛は自分に出来ることは自分が、出来ないことは他人に任せようというスタンスで来た。
そうなると彼の戦い方は自分一人で片付けるか自分以外にやってもらうかの2択になり、自分と他の誰かで対応するという結論になりにくいのだ。
心操や爆豪の時のように単発の連携は出来たとしても、最初から最後までしっかりチームワークを活かせるかと言われると難しいだろう。
偶然ではあるがスタイルの異なる5名のヒーローとヒーロー志望がいる。連携をスムーズに行えるようになりたいと思うのならば、この環境は間飛にとって有り難いものである。
「……そうね。オールマイトも基本は1人で動いてた。後は……ミルコとかホークスみたいなサイドキックがついて来れない人も1人で動いているね」
「でも俺、自分に出来ないことは他人に頼る主義なんで。そう考えると必須の能力っスよね?」
「それはもちろん!特に救助活動の現場では1人じゃどうしようもない時なんていくらでもあるよ」
究極の一個人なんて存在しない。1人で何百人ものヴィランを倒せても1人で救える人数には限界がある。最初から最後まで無理やり自分一人で動こうとするのではなく、誰かを頼れるようになるべきだ。
「よし……それじゃあ、早速街に出てみましょう。ヒーローとしての活動始めるよ!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
心配要らないかな、と優しくほほ笑むリューキュウの言葉にインターン生達は元気よく応えた。
──間飛について、どう思います?
氷叢「僕のヒーローです」
トガ「私のヒーローです!」
心操「俺のヒーローで、ライバルです」
小大「ん(大好きな友達だよ?)」
発目「(色々都合が)いい人です!!」
ミルコ「おもしれー男。私ンだ!!」
リューキュウ「古参ファンで、第2の原点かな?」