「痛ゥ……!1階分は落とされたぞクソッ」
「ご丁寧に天井も閉じられた、か」
入中はIXAによって倒されたが、あと一歩遅かった。気を失う寸前に入中はヒーロー達を落とした床を閉じてしまい、同じ場所への復帰はまず不可能になった。
落ちた先は何処かの広間。家具も家電も装飾さえも最低限の部屋だ。一応ドアはあるので脱出不可能ではないようだが、そのドアの前に3人の人影は土煙の向こうで動いていた。
「おいおいおい……空から国家権力ゥ?不思議なこともあるもんだ」
「よっぽど全面戦争がしたいらしいな……そろそろプロの力見せつけたるわ!!」
「……ルミリオン、先に行け」
「ッ……はいッ!」
恐らくは幹部格。それぞれ黒いペストマスクと普通の布マスク、肩から上を覆い隠すボロボロのてるてる坊主の様な被り物をした男達を見たイレイザーヘッドはルミリオンに先行するように命じる。
ルミリオンの個性【透過】ならば多少強引に突き進んでも被弾する事は無い。訓練の果てに詳細を知らない人間からは無敵とすら評される彼だからこその強引な突破。
0.5秒の逡巡の後、ルミリオンは駆け出した。あまりに無謀な突貫に男達はギョッと目を剥いて驚き、刀と拳銃を構えるも走り出した彼には間に合わない。
「遅い!!」
「うおっ!?」
「チイッ……」
ようやく攻撃動作に移った瞬間、ルミリオンのブーツの爪先が刀の持ち手と拳銃を蹴り上げた。その瞬間を見逃さず
「ファットガム……そのプロの力は目的の為に……!!こんな時間稼ぎ要員、俺一人で充分だ……!!」
「あ゙?舐めてンのか!!」
「いいや俺も残らせてもらおうか。ガキ一人に3人も任せちまうほど情けなくねえ!!」
「ロックロック……いえ、お願いします!!」
雄英ビッグ4と言えどまだ子供。サンイーターだけに負担は強いられないと憎まれ口を叩きながらロックロックが構える。
この2人なら問題ない。眼光を鋭くしたイレイザーがペストマスクの男、窃野を睨みつけて【抹消】しつつボロボロの被り物をした多部の顎を殴りつけた。
【抹消】は残留するのだ。まだ3人の個性が封じられているうちに無力化してしまえと言い、2人を残してドアを潜り抜けた。
「……何か焦ってますか?」
「イレイザー?いきなり何を」
「あの会議の日からやたら顔に出てますよ」
まずは元の道に戻ろうと走る最中、イレイザーヘッドが静かにナイトアイに尋ねた。
死穢八斎會とヴィラン連合が接触した事を話し合った翌日からだ。モニター越しに見える彼の顔は青いというか何かを恐れているように見えていた。
今こうして乗り込んでからもそれは変わらず、頻りにネクタイやメガネを整えようとしている。
これから重要な局面だと言うのに不安定になられては困ると、イレイザーはここでナイトアイにメスを入れることにしたのだ。
現にナイトアイは顔を強ばらせて口をつぐみ、やがて懺悔でもするようにポツポツと語り出した。
「……会議の日、帰るところだったIXAを引き止めて彼の未来を見たんだ」
「何?」
「何故見たのか、と言われると自分でも分からない」
話し合いが終わり1階のエントランスで待機していた間飛達だったが、決行日まではインターンストップだと聞かされた彼らは渋々帰ろうとしていた。
そこをナイトアイが間飛を引き止め、発動条件である『接触しながら目を合わせる』事をさりげなく済ませた。
さあ一体何が見える、といつもの様に人生のフィルムを見つめ───
『な……ッ!!?』
───絶句した。
「あの時……彼には
「……複数だと何かおかしいんですか?」
「考えてみろデク。私の【予知】はこれまで外れなかった。それは複数の可能性を見てその1つが当たった訳じゃない」
「普通は1つしか見えない、と?」
ナイトアイは無言で肯定した。
通常【予知】で見た未来は絶対であり、どう足掻いても変えようのない『いつか現在になる』世界だ。それを彼は【予知】を通して尚、未来が定まらなかった。
何よりもその【予知】全てがノイズに塗れてろくに見えないともなれば困惑は必至。気がついた時には目の前に間飛はおらず、バブルガールに聞けば『固まって動かなくなったから帰ってしまった』との事だった。
今更彼をオール・フォー・ワンの刺客だとは思わないけれど、自分にとって絶対だったものを覆されてしまっては否が応でも猜疑心が出てくる。
そしてそれだけでは無い。
「イレイザー……轟焦凍の兄弟は何人いる?」
「轟……?兄と姉が1人ずついるとは聞いたが」
「私の見た【予知】の中に轟焦凍にそっくりな男がいた」
「……!?」
「白髪の先端部だけが少し赤みがかっている
ノイズに塗れてまともに見ることも難しい無数のコマの中、かろうじて見えたのは白髪の男性が青い炎を構えて間飛と対峙している場面。その前後は何一つ分からず、アレが何なのか探ることも出来なかった。
唯一分かったのはその男と間飛が遭遇するであろう場所がこの地下空間だと言うことだけ。
「じゃあ間飛くんが分断された今って……!?」
「……【予知】で見た場面になっている可能性が高い!」
「そういう事はもっと早く言ってください!!」
思えば何故間飛は合流しなかったのか。彼の探知能力である半径500mは同時にワープの射程でもある。
あの広間にワープ可能なはずの彼が合流する事を諦める事態……それがあの【予知】で見えた場面だとしたら?
確かにIXAはこの突入メンバーの中でも最上位の実力だ。しかし彼は強者であっても無敵では無い。友人を、教え子を、前途ある若者を死なせてなるものかと全員の足が早まった。
「……ああ、ここに居たのか」
「ッ!!?オーバーホール……と脳無だと!?」
「そう騒ぐな。神経が苛立つ……!!」
しかし、死神というのは身構えている時には来ないものだ。死神の存在を忘れた時に……最悪のタイミングにこそソレは訪れる。
◇
……えー、こちらIXA。絶賛孤立しててぼっち・で・fu○k!?状態なんですが。ちょっと合流よりも優先して対処しなきゃいけない事がありまして。
「……Who are you?」
「何で英語なんだよ」
「どちら様ですか?」
「日本語で言い直さなくても分かってるっての」
なーんか目の前に見覚えのある黒いモヤが出てきたなあ、と思ったら中から見覚えのない人が出てきたんですよね。すわ新手かとも思ったが目が合った瞬間に『何だお前か』って言われてとりあえず連合の奴らなのは確定したんだけども。
俺、こんな奴知らねえんですが。
そんなキレーな白い髪にオサレな赤い毛先の男とか知らんが?ンだこのイケメ……誰かに似てんなお前。
「あー……俺だよ、荼毘だ。荼毘」
「……あっ、確かに体格は一致してるわ」
「判断基準がキモイな?」
「能力の問題だ。許せ」
え、これ荼毘とかマ?お前って全身に酷い火傷やら縫合痕やらがあって『何で生きてんだコイツ』みたいな身体してたんじゃ?
「聞いてねえのか?ここにいたっつう娘」
「何か貴重な個性を持ってるっぽいとしか」
「ソイツが【巻き戻す個性】ってのを持ってて……暴走したついでに妙なバグを起こしたんだよ」
「バグ……?」
荼毘曰く、コイツは一度死んだも同然みたいな目にあっていたのに3年ぐらい経ってから何故か目を覚ましたのだとか。
それがどうもあの
それを執念や愛憎やらと感情論だけで何とか生き延びていた荼毘。そこに浴びせられた巻き戻しの能力を死がすぐそこにある肉体が死から遠ざけようとし、年齢としてではなく『肉体を健全な状態に巻き戻す』方向に捻じ曲げたのでは、と。
「じゃあ、今のお前はただただ治っただけって事か?」
「……一応少しは若返ってるはずだ。少し背が縮んでねえか?」
「あっ、7cm縮んでら」*1
「クソ!170切ってやがる!」*2
高校生かお前は。俺は高校生だけども。
というか、若返ったせいか若干子供っぽくなってるか?ダウナー気味なテンションではあるが、前に比べりゃ全然明るくなったっていうか……ツッコミ役としての適性を得た的な。
何やら『復讐の計画が……』とか『変装どうすりゃいいんだコレ』とか言ってるけど、そもそもお前何しにここに来たんだよ。
「あ?そりゃあお前、神野区ン時に脳無をパクられたらしいから殺しに来たんだが」
「……脳無がいるのか」
「どこかにな。黒霧のマーキングに反応があったとかでまた来たんだよ」
また……ってことはやっぱりその娘さんは連合の所にいるのか。何で持っていったん?何か腹立ったから?ならしゃーないわ。
そうだよなあ。荼毘はともかく転孤が今更個性破壊の為に策を弄する必要なんてないし。その不安だった荼毘もこんなんなってるから多分大丈夫だろ。最悪オカマ2人が何とかしてくれてるはず。
「あ、俺も聞きてえことがあるんだが……トガヒミコって知らねえか?」
「トガッ……ヒミコがどうしたよ?」
待て待て待て。危ねえな。てか何故荼毘がトガちを──……合宿ン時にいたな!?まさか連合の一員、いや潜入か何かしてたのか?だとしたら何でだ?
とにかく、何にせよトガちと俺の関係を知られてもいい事はないだろうしここは誤魔化すしかねえ。
「いやな……連合の奴ら、特にオカマとトゥワイスがうるせえんだよ。思い出したように心配だーって」
「うわあい罪悪感」
「知らねえならいいんだ。悪かった」
「ミみ見、見つけたァ!!」
「あ?」
「ん?」
荼毘の話に付き合っていたのに誰だよ……って、脳無か。本当にパクられてたんだな。しかしアイツ今喋らなかったか?
「……おいおいおい、まさかテメェ音本か?」
「ほぉ?よク分かッたな」
「ネモト?何だそりゃ」
音本ってのは死穢八斎會の構成員の一人であり、オーバーホールの側近として仕えていた男の名前だとか。
荼毘はその音本がまだ人間だった頃に聞いた声と目の前の脳無の声が同じだったから気づけたようで、じゃあアイツはその音本と脳無が混ざってる状態ってことか?
するとソイツは歪に笑ってご丁寧に語ってくれた。
オーバーホールの個性によって人と人を融合させることも可能であり、人格を持たない脳無であれば自分の部下をベースに脳無と合体させる事で忠実かつ自立思考が可能な脳無を生み出せるんだとよ。
「ドクターが聞いたら泣きそうだな」
「気持ちわりぃ……さっさと仕留めてオーバーホールぶっ飛ばしにいかねえとな」
「ほざケぇ!!貴サマらはコこでシぬんだよォ!!」
荼毘は青い炎を、俺は拳を構えて迎え撃つ姿勢に切り替えた。
エリ「何で消えなかったんだろ……」
荼毘「根性と執念。あと未練」
黒霧「それで済んだら学者涙目ですよ」
転孤「個性なんて大半そんなもんだろ」
※要は傷だけ治って残り分で少し若返ったという結果に。今の年齢は21歳になった。