前回の感想がほぼ『間飛何したお前……』でお草が生えましてよ。
一体間飛が何をしたと(トガちゃんと氷叢から目を逸らしつつ)
訓練場β。市街地を模したフィールドに集まった21名の生徒達に対し、ターゲット役を担うのはたった2人の女性。片方は自分達とそう年齢が変わらないというオマケ付きだ。
これは生徒であっても……否、未熟な生徒達だからこそ舐められている事に腹を立てるだろう。
「あの……鬼ごっこと隠れんぼって、歓迎会とか……レクリエーションみたいな奴っすか?」
「いいや?本気も本気、対ヴィランを想定したものと思ってくれていい」
「それにしちゃあ何か……可愛らしくないっスか?」
しかしそれ以上に困惑が上回っているのは聞きなれた遊戯が訓練だからだ。どんなに高く見積もってもせいぜい小学校低学年で賞味期限を迎えてしまうお遊びを訓練と呼ぶのは難しい。
ましてや1人は押しも押されぬプロヒーローとはいえ、もう1人はヒーローですらない10代の少女だ。これを本気と思えるはずがない。
これが相澤に『たまには』と頭につけて開始するならまだ信頼出来たが、会って数分の相手の提案に疑問を持つのは当たり前だろう。
「私とトガの2人で隠れつつお前たちに攻撃をする。こっちは安心安全のゴム弾とスタンガンだから安心して怪我してくれ」*1
「俺達の勝利条件はなんです?」
「私達にこのテープを巻き付けたら勝ちです。訓練でもよく使う確保証明のテープですね」
「1分経ったら動き出してくれ。それまでにここを離れて隠れておくからな」
始まるというのならどうしようもない。疑わしくはあるがやると言うのなら挑むしかない。
A組の過半数が困惑しているが、何人かは真剣な顔で冷や汗をかいていた。特に顕著な反応を見せるのは思案をめぐらせている爆豪と緑谷に、どうやったら勝てるんだこれと頭を抱えている飯田の3人だ。
タイマーから特徴的なアラートが鳴って訓練開始。この訓練場のどこかにいる渡我被身子とレディ・ナガンにテープを巻き付けなければならない。
「……これクソゲーだろ」
「そうかぁ?」
「半分野郎!さっさと防壁作れ!」
「……ッ!分かった!」
開始直後、爆豪の要請に思考を挟まず轟が氷結を使用。冷気が迸り、ひと息で巨大な氷の壁が生み出される。
何故そんな事を?と誰かが口にするよりも早く、一発の銃弾が爆豪の正しさを証明した。
「…………え?」
「デスヨネー。スナイパーの……ましてやレディ・ナガンの前でぼんやりしてたら脳天撃ち抜かれるわな」
「やっべえ!?これホントにクソゲーか!!?」
「お前ら気をつけろ!上から来てもおかしくねえぞ!」
レディ・ナガン。【ライフル】と名付けられた個性は自身の右腕の肘をライフルの銃身に変形させ、自身の毛髪から弾丸やスコープなどのアイテムを作ることも出来る。
彼女が撃つ弾丸には特性を持たせることが可能で、貫通力に特化させたり曲がる弾丸を放ったりとどこぞのスタンド使いもビックリな性能をしている。まああっちはリボルバーなのか光線銃なのかよく分からん見た目をしているが。
理不尽とすら表現される彼女の狙撃能力はその弾丸作成もだが、やはり大部分を占めるのは本人の技量だ。少しでも隙を見せれば一撃を捩じ込んで来るだろう。
咄嗟に張った防壁は真上の防御は出来ておらず、見えていなくとも当てずっぽうで放り込んでくる可能性は高い。
このまま氷壁の中に閉じこもっていれば負けることは無いだろうが、かといって勝つことも出来ない。トガも警戒すべきなのだろうが、その前にレディ・ナガンをどうにかすべきだ。
「ナガンに向かわせる人数は絞るべきだ!全員で防御を固めておかないと1人ずつ落とされる!」
「間飛ィ!出久!行くぞ!」
「え、僕も!?」
「もうちょい話し合ってくんねえかな!?」
飯田が全員に指示を飛ばしていると、爆豪が2人に声をかけて我先にと飛び出した。2人も突然の呼び掛けに驚き、しかし遅れる事なくついて行く。
弾丸が貫通して来た方角とは反対側の壁を一部砕いて防御の外に出る。氷に囲まれた安全圏から出たはずなのに、一歩外に踏み出すと背筋に冷たさを感じるような張り詰めた空気が満ちていた。
──そして弾丸の警告が足元に突き刺さる。
「やっっっっべぇ!!?もうバレてる!!」
「う、嘘でしょ!?一体どこから……!」
「チィッ……!最初の一撃の時点で曲がる弾丸だったか……!」
氷壁を貫いていたことから貫通力に特化させた弾丸とばかり思っていたが、まるで考えが甘かった事を突きつけられた。曲がる弾丸ですらあの壁を貫く程度の威力は出るらしい。
狙撃してきた位置は彼らの想定していた方角から90°くらいズレていると見るべきだろう。さすがにライフルで撃ち放った弾丸をドローンのように自由自在な軌道にできるとは思えない……というか思いたくない。速度や威力の問題を考慮すれば大きくカーブさせているのだろう。
「間飛!お前が探れ!俺とコイツで叩く!」
「探ったら俺一人で叩けるけど?」
「ギリギリの距離で囮に徹してろ!」
「捨て駒かよ!?酷ェなおい!」
「君が姿を見せ続けていればどうしたって君に意識を向けざるを得ない……!それなら僕達で倒せる可能性が高いんだ!」
「あ、意外と考えてらっしゃる?」
爆豪が選んだのは探知能力と回避に信頼のある間飛と、機動力と戦闘力の両立が出来ている緑谷。彼の中では最初からこの作戦が組み立てられていたらしい。
3人の意向が固まった瞬間、間飛の探知範囲に無遠慮な弾丸が入り込んだ。
「ッッッッッ!!?」
「うわっ!?」
「まさか……!」
「怖っわ!え!?こんなピンポイントで飛んでくるとかマジ!!?」
話しながらもそれなりの速度で動き回っているというのに、弾丸は未来でも見たかの如く移動先を狙い済ましていた。咄嗟に間飛が弾かなければ緑谷の側頭部を撃ち抜いていた軌道だった事に戦慄する。
当然だが間飛の探知範囲にナガンの姿は無い。全力の半径500mの中にいないということは余程隅の方に隠れていると思われる。
「直径1kmあんだけどなぁ……どこにいるんだろ」
「適当にワープして探れねえのか」
「そしたらお前らが撃ち抜かれるじゃん」
「否定できない……!」
間飛を索敵に特化させたいところだが、そうなると自分達だけでナガンの狙撃に対応出来る気がしない。発見した後は見せ札の役割に回るとしても、逆に言えば発見するまでは間飛に全てを任せているのと同じだ。
3人の中で狙撃に対応出来るのが間飛一人というもどかしさに歯噛みする。それでもそれ以上の手が打てない以上はこのまま突き進むしかないだろう。
◇
「……マジか。弾くって、ンなことオールマイトか後輩ぐらいしか出来ないと思ってたんだが……最近の子供は凄いんだな」
スコープ越しに見えた光景に思わず愚痴ってしまう。まず早々見かけることの無い状況に笑いすら込み上げてしまう。
訓練場内のギリギリの位置で構えたナガンは手を替え品を替え狙い撃っているのだが、尽くを叩き落とされている。時々氷壁に篭っている生徒達にも牽制として撃ち込んではいるものの、脱落者が出ているかは不明。
正直籠城されるのが一番面倒だった。初手で氷壁を作られた時は感心して口笛を吹いてしまうほど。
しかし忘れてはならない。ナガンには仲間がいる。
『ナガンさん。そっちから見えない所から3人出てきました。障子さんと上鳴さんと……耳郎さん、でしたっけ?』
「……なるほど?索敵2名と電気耐性のある範囲攻撃役か」
『え゙……それ厳しいんですが』
「彼氏とやらにいい所見せたいんだろ?頑張れ」
『かかかかか彼氏じゃないれすが!?』
「分かったから大きい声出すな。バレるぞ」
『ひえっ……が、頑張りまーす……』
無線で連絡を取っている相手は渡我被身子。ナガンを狙撃手とするならば彼女は暗殺者とでも言うべきか。
今回は警棒の形を取ったスタンガンであるスタンバトンを武器としている彼女だが、よーいドンで始まらない勝負であれば彼女の方が自分より強いと評価している。*2
今回の訓練内容はナガンから見てかなり理不尽だと思っている。何せ本来なら早くても2年生後半に行うべき難易度なのだ。
「姿の見えない遠距離攻撃への対応力と、街並みに紛れる狡猾な相手への対応力……手を組んだプロ達でも悪態をつくレベルだな」
狙撃手の位置を知る為の索敵、位置を特定した狙撃手に詰め寄る為の機動力。狙撃手にたどり着くまでに倒れないだけの防御力、近づいた狙撃手を倒し切るだけの戦闘力。求められる要素が通常のヴィランと比べても格段に多い。
そこに渡我というどこから現れるか分からない脅威が存在している事で、迂闊に人員を分けると更なる混乱をもたらされる。
通信が入ったということは動くのだろうと渡我の思考を理解したナガンはひとまず自分に向かってくる3人を撃つ。
「お手並み拝見といこうか。なあ?」
「あのバカがお前に何を教えたのか……確かめてやる」
相澤「……ということでよろしくお願いします」
ナガン「これかなりの難易度だけどいいのか?」
相澤「これぐらいにしないと瞬殺されますよ」
トガ「……まあ、でしょうねえ」
ナガン「マジ……?」
※片方ずつやると間飛の探知に引っかかるか間飛が切島をぶん投げて終わる