え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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破滅思考は寝れば治る事がほとんど

 

 

 

 筒美火伊那(レディ・ナガン)は限界だった。

 

 偽り(ハリボテ)の社会を維持する為に歯車に堕ちた英雄。それがレディ・ナガンとしての在り方だった。

 

 ヒーローへのテロを謀計していたとあるグループ、ヴィラン組織と癒着し名声と金を得ていたヒーローチーム……ヒーローへの信頼を揺らがしかねない人間を法の裁きと幾つもの手続きをすっ飛ばし、裁かれる罪と共に消してきた。

 

 命乞いを切り捨てて抵抗を磨り潰して、その手をひたすらに血で汚し続けた。

 

 歯車(彼女)が狂いそうになったのはなんてことは無い日常の一コマだった。

 街中で子供達に握手をせがまれる……ヒーローならよくある話。それが彼女に闇へと堕ちるトリガーになりかけていた。

 

『……偽り(ハリボテ)、か』

 

 笑顔で差し伸べた手に幻視した汚れに思わず手を引いた。吐き気を堪えておぞましさを呑み込んで、それでも笑顔で手を握ってくる子供達にぎこちない笑みを返した。

 

 本当に自分の行いは正義だと胸を張って言えるのか。今一度自分に問いかけても答えは返ってこない。

 

 

 こういう時、彼女は決まってとある人物に相談をもちかけていた。やたらテンションがウザったくて変な知識ばかり持っているメカニック……一人称がバラッバラでツッコミが追いつかない時があるヘタレ。属性がやたら多かった男。

 

『おい……時間あるか』

『……?えっ、ワタクシ!?』

『お前以外いないだろう』

『そうだけども……ナガンさん忙しいんじゃ?』

『だからこそ諸々すっ飛ばしてここに来たんだろうが。愚痴に付き合え』

『アッハイ……ゴメンよケイちゃん……アテクシ他の女性とお話ししてくるね』

『シンプルにキモイからやめろ』

 

 ……まあ、かなりやかましい人物だった事は確かだ。

 

 なんと言うか達観したような視点で物を語り、時には相手が上司だろうが取引先だろうが淡々と詰め寄るという理解し難い人柄だった。

 そして人の悩みにもズバズバ切り込むものだから人によっては傷口を抉られただけで終わることも。

 

 今の自分には荒療治くらいで丁度いいと理解しているからこそ、ナガンはあえて彼の首根っこを掴んで愚痴に付き合わせることにした。

 

『それで……話is何?』

『……色々ボカすが、仕事で嫌なことばかりやらされて精神的に参ってる。この前なんか反射的に個性を構えそうになった』

『んん……想像以上に重症ですな。ははーん、さては公安から暗殺依頼でも来たかァ?なーんてな!!そんなヤベー組織なわ……けぇ……?』

 

 ついでに言うとその馬鹿は思ったよりも勘が鋭い。本人はジョークのつもりで宣ったのだろうが、それが現実の話にドンピシャで的中しちゃった時はどうすればいいんだろうね。

 

 ナガンの無言の肯定にだんだんいたたまれなくなった男は静かに口を閉じ、気まずそうに『マジで……?』と確認してくる。

 

『正義って何なんだろうな……』

『ええ……?朕の馬鹿みたいな妄想がドンピシャでナガンさんが哲学者みたいな事言い出しちゃった……現実?』

『……実際お前はどう思う。綺麗なものだけを見せ続けるのは洗脳と何が違う』

『洗脳ねえ……』

 

 悪人達を秘密裏に消して消して消し続けて……綺麗なものだけを見せ続けて。極一部の犠牲の元に維持される社会に何の意味があるのか。

 

 正義の味方というチープな輝きに釣られたかつての少女は公安の語る現実に染まり、薄く脆い虚像を踏み砕いて真実に蝕まれる。そんな世界の為に戦う必要があるのか。

 

 懺悔のようにナガンは語った。

 

 腕を組んで黙りこくったまま話を聞き届けた男はひとつため息を吐いて一言、ナガンに問いかけた。

 

『ナガンさんさぁ……馬鹿なの?』

『は……はぁ!?』

『いや違ったわ。ごめん、馬鹿だわ』

『断言に変えるな!』

 

 訂正。問いかけじゃなくて断言でした。

 

 呆れたように男は話す。

 

『あのねえ、この世は白か黒しか無いって思ってらっしゃる?表か裏か、闇か光か。ンなわきゃないでしょ?』

『……しかし』

『寧ろ俺の経験上、悪にしろ正義にしろ100%振り切れてる奴の方がよっぽどヤバいからね?持て囃されてるオールマイトとか俺からしたら狂気の沙汰よ?』

『きょ、狂気……』

 

 男曰く、人間は何かに全てを費やすことなどまず不可能なのだという。どんな聖人でも腹が減れば物を食うし、どんな悪人でも喉が渇けば水で喉を潤す。最低限の生命活動すら擲っていられる人間などどこにもいないのだと。

 

『考えてもみなさいよ。この世は何から何まで清く澄み切ってなければならない!とか大真面目に言ってる奴を』

『……宗教かよ』

『桜の木の下には……ってのとは違うけどさ、大抵の綺麗なものは誰かしらの頑張りで出来てるもんでしょ。トイレだって誰かが掃除しなきゃ汚ねぇんだから』

『いや例え方。もう少し別のものにしてくれよ』

 

 秩序というのは『まさかこんな事はしないだろう』というある種の信頼で成り立つものだ。もしナガンの言うように表も裏も全てを詳らかにしたのなら、秩序ではなく力がものを言う世界となるだろう。

 

 だって誰も信頼出来ないから。

 

『……というか、ナガンさん本当にそんな高尚な考えをお持ちなのですかねえ?』

『なんだよ』

『オイラの知るアンタは可愛いものが好きなのがバレたくないっていう、やけに等身大な───』

『レンコンになりたくなけりゃそれ以上は言うな』

『さーせんっしたァ!!?』

 

 突然とんでもない事を言い始めた男に思わず【ライフル】を突きつけたがきっとナガンは悪くないだろう。この男は変なところで鋭い代わりに変なところでデリカシーというものがない。

 

 舌打ちしながら銃身を引っ込めて続きを促す。不安そうに確認してくるので『もっかい突きつけられたくなけりゃさっさとしろ』と脅すと背筋をビシィッ!と伸ばして話し出した。

 

『えー……要はですよ?アンタ、疲れてんだろ』

『……この迷いが疲れによる一時的なものだと?』

『だって普段のアンタならこんな事に迷わされないでしょ。『誰かがやらなきゃいけないなら私がやる』の精神で突っ走ってた人が何を今更』

 

 お前の中の私はどうなってるんだと聞きたくなる言い様に顔を顰めてしまう。多分ろくな答えが返ってきそうにないな。

 

 男からすれば強靭なメンタルとバイタリティのナガンに何があったらこうなるのか、と別のことに困っている。

 だって今回だけやけに突発的ではないか。うっかり的中させてしまった汚れ仕事を昔からやっていたのなら、これまでにこんな悩む素振りを見せたことは無い。何故今回だけこんなに……と疑問に思うのも当然だろう。

 

 彼の中で出た結論は『疲れてメンタルがヘラってるな?』というもの。そうでもなけりゃ誰かから個性攻撃を受けてるとしか思えない。

 

『……じゃあ、手ぇ出してみ?』

『?』

『ここにパーで』

『こうか?』

『ん、ほい』

『……?何がしたいんだ』

 

 どうもナガンに伝わってないなと悟った男はナガンに手を出すように言うと、出された手をひょいと掴んで握手する。上下に軽く振られる手を不思議そうに見つめながらナガンは聞くが。

 

『今さ、俺手握ってるけど拒絶反応なくね?』

『……………………あ』

『あんたから言われなきゃ汚れ仕事の存在なんか知らねえし、そもそもアンタの手は綺麗だろ。この肌触りといい細い指といい……えっ?これ本当にヒーローしてる人の手?』

『…………はは、なんだそりゃ』

 

 彼はこの場でナガンの憂いを『気の所為!』とバッサリ切り捨てた。あの時あんなに血に汚れて見えた手を軽く握られて、拒絶や不快感なんてこれっぽっちも湧いてきやしない。

 

 何をそんなに難しく考えていたのか。人を殺して正義を為した罪は自分だけのもの。たかだか握手した程度で誰かに汚れが擦り付けられるなんてことなんか無い。

 現に彼の手は血の汚れがついたりなんかしていない。ただちょっとオイルの汚れが……オイルの汚れ?

 

『お前の手の方が汚ねえじゃねえか!?』

『あ、そういや洗ってなかった』

『巫山戯んな!……クソっ、こいつに励まされたのが何かムカつく……!!』

『やーい、アンタの悩みアテクシ程度〜』

『あ゙あ゙!?』

 

 気がついたら悩みなんてどこへやら。いつもの様に腹を立てて男を追いかけ回していた。やたらすばしっこい為中々捕まえられないが、それでもその間は悩みを忘れて純粋な気持ちに戻れていただろう。

 

 ヒーローにありがちな話だ。積み重なる現実にかつて夢見た原点を見失うことなんて。

 原点が見えなくなったなら、原点を抱いたあの日の事を思い出せばいい。そこだけは決して譲れないからこそ原点なのだから。

 

 

 

 

『待てやこのっ……無駄にいい身体能力しやがって!』

『マイ趣味は筋トレなのですよ!フゥーハハハ!!あっちょっ、ライフルはやめてもろてェ!!?』

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

(……思い出したら腹立ってきたな)

 

 一歩間違えれば自棄を起こしてヴィランにすら堕ちていたかもしれない過去。忘れたくは無い思い出だが何でこんな時に思い出すかね。

 

 恐らくアイツに色々仕込まれたであろう間飛移という生徒。先程から撃った弾丸を叩き落とすという曲芸じみた神業をやってのけているが、アレは囮役(デコイ)か?

 さっきから姿を見せない2人が今のうちに接近しようとしてるんだろうが……面倒だな。アイツから目を離すとアイツにやられそうだ。

 

「……まあ、ヒーローってのは一芸じゃ務まらないことを教えてやるか」

 

 音がした方向からして既にかなり近くに来ている。もう一発ライフルを撃ったら準備するか。

 

 

 ガシャッ、と音を立ててベルトから引き抜かれたのはトガが使用しているものと同じスタンバトン。70cm程のそれを展開すると右腕の【ライフル】を解除。

 無骨なプロテクターつきのグローブに手を突っ込み、振り返る。

 

「思ったよりも早かったな?」

「当たり前だ。ンな事に手間取ってられっか」

「(そんな事……って、普通なら辿り着くことさえ難しいんだがな)そりゃ頼もしいね。じゃあ、始めるか」

 

 狙撃を取り上げられた程度で負けるなら、とっくにどこかで野垂れ死んでる。レディ・ナガンは好戦的に笑って受けて立つ構えをとった。

 

 

 






トガ「やたら濃い人もいるんですねえ」
ナガン「……アイツの苗字間飛(・・)なんだよ」
トガ「…………え?」
ナガン「あのバカも随分モテていたが、まさか息子の方もモテモテとはなあ……お前とか」
トガ「ちょっ……情報が多いですぅ!?」
ナガン「アイツの父親……私が把握してる限りでは同時に15人くらいに取り合われてたぞ」
トガ「ヒエッ」

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