え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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弾かれた男

 

 

 

 文化祭当日。AM7:50

 

 

「さて、行くか」

「うん!」

 

 朝早くから学生証を持って外出許可を取り付けた俺と緑谷は雄英高校を出て買い出しへと向かっていた。

 俺達A組の出し物は10時からで、こうして外に出る余裕は正直ない。しかしそうも言ってられない理由がある。

 

「8時から開いてるのは有難い!さっと行ってパッと戻らなきゃね」

「まさか夜になってロープがボロボロな事に気づくとはなあ……もう少し早けりゃ八百万さんに創って貰えたんだが」

「しょうがないよ。パワー型の個性持ちに酷使されてたんだし」

 

 それは演出で使用するアイテムの一つ、ロープが度重なる練習の中で不安を覚えるくらいには解れていたのが原因だ。

 青山と緑谷の二人で道具の点検をしていたのだが、夜11時半になってそれが判明。その時すでに八百万さんは就寝しており、朝から頼むのも酷な話だろうということでこうして買い出しに出ることになった。

 

 それならどっちか一人だけでいいんじゃないかと言われそうだがそちらにも理由がある。

 

 最初は緑谷が一人で行く予定だったんだが、今回の文化祭の警備としてレディ・ナガンが参加しているらしい。

 彼女の戦闘スタイルに合わせた警戒態勢が敷かれ、センサーカメラをアチコチに配置しているので迂闊に踏み入ればほぼノータイムで彼女の【ライフル】が火を噴く。

 

 それを出かける直前になって聞かされた緑谷が慌てて俺を頼ってきたのでついてくる事になったんだが……。

 

「じゃあ俺一人で良かったんじゃないか?」

「ロープがどのくらいいるのかとか分からないでしょ?」

「……それもそうか」

 

 どんなロープかも分からないし、二人で行っても悪いことは無いしいいか。

 

 

 

 この時はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 AM8:30

 

 

「クッソ、センサー回避に手間取るわロープまだ出されてねえわで変に時間食ったな」

「急げ急げ……!」

 

 朝練で使っていたらしいあの『発目製篭手(エアフォース)』もつけっぱなしな緑谷と、ようやっと買い物を終えて雄英へと戻っていた。あの店員滅茶苦茶眠そうだったけど大丈夫だったんかな……?

 

 ビニール袋をワサワサと振り回しながら走っていると、不意に曲がり角で誰かとぶつかりそうになってしまった。

 

「っと、すんません」

「おっと……気をつけたまえよ。ゴールドティップスインペリアル*1の余韻が損なわれる所だったじゃないか」

 

 ゴールド……ナンタラっていうとアレか。八百万さんが一回だけ飲ませてくれた何か高級な紅茶。てか余韻って事は今飲んで来たってこと?じゃああそこの小さい家って民家じゃなくてカフェか何かか。

 

 緑谷も同じ事を思い浮かべていたようで、ボソリとこれまた同じようにあの家が喫茶店的なものだと気づいた事を呟いた。

 

 そしたら何かぶつかりかけたロングコート不審者が反応してきたんですが。

 

「“ソレ”が何なのか知らなければその発想には至らぬワケだが……君はわかる人間かね!?若いのに素晴らしい!」

「あ、いえ……僕じゃなくて友人が詳しくてですね。その人が淹れてくれたから知ってたんです」

「ほほう、そんな高貴な友が……」

 

 ……待て。コイツらコートの下に色々隠し持ってやがるな。小さい方はともかくとしてロングコート不審者の方は……スタングレネードの類を持ってンな!

 

「緑谷!離れろ!」

「えっ!?ちょっ……!」

「ッ、ジェントル!」

「何ッ……!?」

 

 奇行と言われても仕方ない突然の指示だったが、幸い緑谷は訳が分からないけれど、といった顔で従ってくれた。咄嗟に飛び退いた事で5m程の距離が開く。

 

 そして向こうも気づかれたと気づいたらしい。小さい方の女が決定的な名でロングコート不審者を呼んだ事で緑谷の疑念は消えた。

 

「まさか……あの動画の!?」

「……ラブラバ、カメラを回せ」

「十中八九次の狙いは雄英(ウチ)だろうな」

「察しの良い少年だ……そう!私こそが救世たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル!!」

 

 バサリと外套を脱ぎ捨て、世直しを謳う小悪党が姿を現す。

 

 チッ、推察されてる能力そのままなら面倒くせえな……!

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ジェントル・クリミナル……本名、飛田弾柔郎。彼は元ヒーロー志望にして夢に手が届かなかった落伍者だ。

 

 彼に何が足りていなかったのか?彼とヒーローを分けた理由は何なのか?

 同級生達と比較した時、彼は学力や慎重さといった部分もそうだがそれ以上にとある欠点が彼の足を引っ張っていた。

 

 それは『周りを見る事が出来ない』というあまりにも基本的な部分。

 

 ジェントルの個性【弾性(エラスティシティ)】は触れた物に弾性を付与する能力。どんなに硬い物質であろうともゴムのような柔らかさと反発力を与えるのだ。

 彼の能力は空気すら例外ではなく、不可視のトランポリンで空中を跳ね回ることを可能とするのだが……一番の欠点は他人に見えないのだ。

 

 彼自身にしか存在を把握出来ないトランポリンなど、他人からすれば迷惑極まりない。それこそヒーローの妨害にすら成り得る。

 

 自己満足の夢から始まった彼の力は、彼以外を弾いてしまう。

 致命的なまでに他人との協力に向いていない、それがジェントル・クリミナルの欠点。

 

 

 ……しかし、だ。他人と協力する事が出来ない=弱いとは限らない。

 

 

「想像以上に厄介だ……!」

「君達がそれを言うのかね!?【ジェントリーリバウンド】であんな威力が出たのは初めてだよ!」

「テメェこそ何が『暴力的解決は好みじゃない』だよ。普通に殴りかかってきてんじゃねえか」

「手段を選んでたら勝てる気がしないからな!」

 

 間飛が面倒だと評した彼の実力自体は本物。他人と協力が出来ないなら一人で戦えばいい、自分以外全てを倒せばいい。彼の本領は単独でこそ発揮される。

 

 外套を脱ぎ捨てると同時に空気に弾性を付与。【フルカウル】で飛びかかった緑谷を跳ね返し、その威力に本人すらも驚いてしまった。

 それを見た間飛は超パワーの使用を半分封じられたようなもの。考え無しに放てばそっくりそのまま衝撃波が返ってきてしまう。

 

 また、ジェントルは切り札でもある【ラバーモード】を即座に切っていた。

 

 彼の相棒であるラブラバの個性【愛】は愛を囁く事で最も愛する者一人だけを短時間パワーアップさせる、という単純にして脅威的なバフ能力。

 愛が深ければ深いほど与えられるパワーも強くなるのだが、現在の強化率は数十倍にも上る。

 

「オールマイトには程遠いが個性を併用されて面倒くせえ!」

「まさか【ラバーモード】を切って尚、押し切れんとはッ……!?」

 

 それでもだ。それでもオールマイトクラスのパワーを持つ生徒二人を相手に凌ぎ切るのが精一杯だった。この時点で大抵のヴィランやヒーローなら簀巻きにされて転がされてもおかしくない。

 

 賞賛すべき実力……だが、彼のパワーアップにはタイムリミットが存在する。このまま戦い続ければジェントルが負けるのは目に見えている。

 

 故に。

 

三十六計逃げるが勝ち(ジェントリートランポリン)!」

「微妙に間違えてんぞアイツ」

「間飛くん、そうじゃない!逃げられた!」

 

 彼が逃走を選択するのは当然の帰結だ。ラブラバを抱えて大きく跳躍するとトランポリンを連続させてその場を離れた。

 

 

 

 

「ええい!まさか私的ヤバそうな生徒トップ2と出会すとは!想定外を通り越して神を呪いたくなってきた!」

「ジェントル……今回は撤退しましょう!?さすがにマズイわ!」

「しかしだな……ッ!?」

 

 

「判断が遅いな。体育祭見てたんなら俺の個性知ってんだろ?」

 

 

 距離を取って安堵した瞬間、何も無い場所に現れる間飛。範囲500m内に彼がいる限り安心することは許されないのだ。

 

 防壁を張ろうと弾性を付与しようとしても間に合わない。コンマ一秒早く間飛の手がジェントルの襟首を掴んだ。

 

「緑谷ァ!」

「ぬ───おおおおおおっ!!?」

「ジェントル!」

 

 ラブラバを上へと放り投げ、抵抗される前にとジェントルを思い切りぶん投げた。彼の個性がなければまず死んでしまう可能性すらある威力で。

 

 眼下では緑谷が全身にスパークを迸らせながら駆けており、投げ飛ばされたジェントルを追いかけている。

 

「ちょ……危ないじゃない!というかジェントルをどうするつもり!?」

「どうも何も、ヒーロー仮免がヴィラン捕まえて何が悪いってんだ。ただでさえ文化祭を中止にされるかもしれねえのに」

「何よ!そんな事くらい(・・・・・・・)で!」

「……やっぱ俺、お前ら嫌いだわ」

「はあ!?何よそ──がっ……」

 

 ギャンギャンと喧しく吠えるラブラバ。ポカスカとコミカルな擬音が聞こえてきそうな抵抗を続けていたが、あえなく拳藤から教わった手刀で意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 

「ぬぅ……ッ!?【ラバーモード】が……!」

「いた!」

「おのれ……ラブラバに何をした!」

 

 雄英近くの麓に何とか不時着を果たしたジェントルだったが、身体から力が抜けていってしまう。何が、と思うよりも早く緑谷が来た瞬間に全てを悟った。

 

 ラブラバが捕まった。

 

 近くの木に手を当てて弾性を付与。力が全て抜け切る寸前で思い切り蹴り飛ばし、グニャリと変形させて緑谷の方へと叩きつける。

 

「うわっ!?こんな使い方も出来るのか……!」

「私の夢を!彼女の思いを踏み躙らせてなるものか!私はまだ、何も成し遂げてはいないのだから!!」

 

 最早自分一人だけの夢では無い。単なる自己満足の域はとうに抜け出した。

 

 たった一人、己を信じて付いてきてくれる彼女の為に。ジェントルは最後の一瞬まで抗い続ける。

 

 

 

*1
紅茶の新芽にある金色の先端部分を「ゴールドティップス」と言うらしい。そこに英語で「皇帝」という意味のインペリアルをつけた架空のブランド品と思われる。






ジェントル「ヤバい威力出た……」
ラブラバ「あ、あわわ……」
間飛「うっわ……酷ェ」
緑谷「……っは!?一瞬意識飛んでた!」

※威力がヤバすぎて道路が抉れてちょっと引いてる3人の図。


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