崩れ落ちるビルが一瞬にして細切れになる。脳無こそ取り逃したものの、そのまま落とせば甚大な被害が確実なソレが瞬く間に瓦礫へと変貌していく。
遠くで何人ものヒーローや市民がエンデヴァーの実力に驚かされているが、戦場にいるホークスからすればたまったものではない。細切れにされたとはいえそれなりのサイズを残している瓦礫を【剛翼】で支え、或いは砕いていく。
「みじん切り荒いですよ!均等に切ってもらわないと」
「喋るより動きに神経を使うんだな!」
「いや羽減らし過ぎると飛行性能下がるんですって!」
「それは悪かった……ッ!」
しかし脳無にはそんな事はどうでもいい。他人にどれだけの被害が出ようが死人を出そうが関係ない、目の前にいる
鬱陶しい横槍を入れられる前に喧しいトリを殺すか、とでも考えたのか視線がホークスへと向いた。
脳無の行動が起こる前に阻んだのはエンデヴァー……ではなく、駆けつけた他のヒーロー。地上から遠距離攻撃を放って加勢すると声を張り上げている。
拳状の砲撃を繰り返され、ダメージよりも鬱陶しさが勝る。
「邪じゃっ……邪魔!」
「ッ……!?マズイ!」
脳無が不機嫌そうに呟いた瞬間、全身から白い異形の怪物が現れる。咄嗟に炎を放ったエンデヴァーだが、一手遅れた。
ここまでで確認できた脳無の個性は五個。
【肩部のジェット機構】による飛行と【変容する腕】による飛行の補助及び伸縮・分裂攻撃。伸びた腕で攻撃する際の補強を果たす【筋肉増殖】と鉄筋を振り払う程の【パワー】。そこに何度焼かれても死ぬ気配のない強力な【再生】。
そこに六個目……全身から白い体色の脳無を放った辺り分裂と言うよりは体内に【格納】していたと見るべきだろう。
「何なんだコイツは……!」
「……ハァァ」
言語を解し目的を持ち、邪魔者を嫌って数を増やしてばら撒く。間違いなくこの脳無には
報告になかった脳無の特徴は炎では隠せないほどにエンデヴァーを動揺させていた。
「もウ……う撃たない……のカ?ね熱っっせ熱線」
「……」
「そそれとも撃うてないない……?」
エンデヴァーの個性【ヘルフレイム】はあらゆる炎熱系個性の最上位とも言える力を秘めている。反面使い続けるうちに体内に熱が篭もり、徐々に身体機能が低下してしまうというリスクも抱えている。
継続戦闘能力ではオールマイトにこそ劣るものの、短時間であればオールマイトと同等の戦闘力を有しているとすら言われている。
だが戦闘が長引けば【ヘルフレイム】の熱は敵だけでなく己自身にも牙を剥き、限界を超えれば死すら見えてしまう。
そのリスクを誰よりも分かっていたからこそ、彼は個性婚に手を出したのだ。篭もる熱に負けることの無い、最強の火力を保ち続けられるヒーローを作る為に。
「出し惜しみは命取りか……!ならば!」
「力を、あア新たナおっおっ俺の強ヨサを……試ためさせてテくレ!!」
「【プロミネンスバーン】ッ!!!!」
「ッッッ!!?」
──太陽の如き業火が解き放たれる。
後先を考えない、全身からの放出。一直線に放たれたソレは脳無の身体を焼き尽くした。
「残ネン」
……千切られた一部を除いて。
「エンデヴァーさんッッ!!」
(首を……千切って投げていたと───!?)
迫る触腕。高まった高熱はエンデヴァーの動きを鈍くさせ、回避を許さない。
しまった、と思った時には遅かった。
◇
「親父……」
「轟……!」
「轟くん……!」
雄英高校ハイツアライアンス。共同スペースのモニターに映っている地に落ちたNo.1ヒーロー……轟焦凍の父親。だらりと瓦礫に身を委ねて倒れる様は死体にも見えてしまう程に弱々しく、生きているのかすら定かでは無い。
ヘリから撮影される映像は街全体を俯瞰しており、白い脳無に怯えて逃げ惑う市民と立ち向かうヒーロー達の姿が収められている。
この光景に思い出されるのは三ヶ月も前となった神野区の戦い。一歩間違えればこうなっていたと突きつけられた世間は改めてあの日の幸運を理解し、現実に恐怖する。
「【赫灼熱拳】を三回、それも最後のヤツはあれで終わらせるつもりで撃っただろうから……限界に近いだろうな」
「間飛くん!」
「いや……いい。悪いな緑谷」
「轟くん……」
現実的に見ればそんな意見が出てくるのは当然だ。エンデヴァーの個性については市民にも広く知れ渡っており、ましてやヒーローを目指す雄英生ならばそのリスクまで理解している。
その上で現在、エンデヴァーが酷く追い込まれていることは轟にも分かっている。同時にそれで終わる男ではないことも。
「あ……!」
「……ダメ、か」
「そんな……」
倒れていたエンデヴァーが炎を噴出して勢いよく起き上がり熱線を放ったが、最小限の動作で回避されて逆に凄まじいパワーで掴み、振り抜かれてしまう。地面、瓦礫、建物を抉るように振り回されて放り投げられたダメージは決して少ないとは言えない。
映像越しで彼が戦っているのは九州。今から出立したとて着いた頃にはエンデヴァーが死んでいてもおかしくは無い距離だ。どうする事も出来ない。
縋るように間飛を見る麗日のような者もいるが、今から加勢しに行きますと言って雄英がそれを許すはずもない。せめてオールマイトに行ってもらえればとも思うが彼もまた活動限界で向かうことは出来ずにいる。
このままでは──……誰かが口にするまでもなく、全員の胸中に不安が渦巻いたその時だった。
「…………え?」
画面に一瞬だけ映った
◇
……ざまあねえなNo.1。情けない姿で寝っ転がりやがってまあ……それでもオールマイトを超えるなんてよく言えたもんだぜ。
「ヒヒーローか……?」
「冗談。言語は解しても頭は悪いらしい」
ハイエンドっつったか?あのドクター曰く最高傑作らしいが、最高傑作でもこの程度か。俺とヒーローを見間違えるなんざ馬鹿げていて話にならねえよ。
ってか親父殿は目が見えてんのかね。こっちを見てもろくに反応を返しやがらねえ。せっかく顔を出してやったんだから愉悦の一つくらいさせてくれりゃいいのに。
「誰……だ……?」
「モーロクしてんなぁエンデヴァー。血が目に入ってまともに見ることも出来ねえか?」
「……」
「ま……どうせ見えても見ちゃくれねえんだろうが」
これじゃあ来た意味も半減しちまうな。せいぜい情けない顔でも晒してくれたら少しは溜飲が下がったってのになあ……。
ああ、律儀に会話を待つくらいには知能があったか。悪いなハイエンド。
「おオお前まエ……強ヨいか?」
「弱いわけねえだろ。さっさとかかってこいよ肉袋」
ッ……なるほど速い。挑発にノータイムで殴りかかってくんのはいいが、改造された俺でもちょっと遅れるな。面倒な奴だ。
だが生憎だったな。テメェに何を搭載されてんのかは知ってんだよ。【変形する腕】に【筋肉増殖】を足す時は一瞬遅れるし、テメェ自身の【パワー】は【筋肉増殖】がなけりゃ俺と同等程度だ。
【肩のジェット】は連続使用時間に限界があるし、お得意の【再生】は頭部を潰しちまえば無意味。手札の割れたテメェはそんなに怖かねえよ。
「【赫灼熱拳】」
「……!!?」
おーおー、よっぽどあのクソ野郎の炎が恐ろしかったか?まだ牽制の弱火でしかねえのに滅茶苦茶飛び退いてんじゃねえか。
俺なりに掴んだ炎の使い方。溜めて放つってのも案外間違ってなかったらしい。なるほど威力も反動も段違いに変わってくる。
しかしまだ【ヘルスパイダー】とか【ジェットバーン】みてえな使い方は難しいな。その辺はおいおい習得するしかねえか。
目の前のこいつもちょっと前の俺と同じだな。馬鹿の一つ覚えで触腕を振り回すか掴んでぶん回すかしか使い方を知らねえ。攻撃の起点になるのがその触腕だけなら俺でも避けられる。
「う鬱陶ウししイ!!」
「当たらねえからって癇癪起こすなよ……見苦しいぞ?」
とはいえ当たればヤベエのは変わらない。あのクソ野郎みたいに空中戦に付き合ったりしなけりゃコイツはそこまで強くねえが、攻撃力が低いというわけじゃない。それこそクソ野郎をダウンさせたのがいい証拠だ。
「しゃあねえ、まだ使う気はなかったが……」
「もモもっとト強クく!俺レおれの強サを試たメさせろロ───グッ!?」
「……あ?まだ起きてんのか」
「誰かは知らんが……加勢、感謝する……!」
……マジか。致命傷じゃねえとは思ったがまだ立てるのか。そのまま寝てりゃいいものをまだ戦う気でいやがる。なんなら俺に任せりゃいいものを自分が主戦力で戦うつもりらしいな。
「なあ……テメェのフルパワー、もう一発撃てるよな?」
「……ッ、当然だ!」
「いいぜ、だったらお膳立てしてやるよ!」
霞んだ目で拝みやがれ。これが俺の辿り着いた答えだ。
「それは……?」
「っはああ……まだ、不慣れなんだよ」
───赫灼熱拳・燐
壊理との個性訓練がこんな形で花開くとはな。俺の中に眠っていたお母さんの力が目覚めなきゃ出来なかった芸当……エンデヴァーをも超える超火力を無反動で放てる
適当に放った炎でさえハイエンド脳無を吹っ飛ばす破壊力。そら、テメェの全力を出すのにお誂え向きな場所があるだろ?
「お゙お゙お゙ッッ!!!」
「ッハ!!行けよエンデヴァー!喋る死体程度に負けてくれるな!?」
そうだ。それでこそテメェだよエンデヴァー。
ろくに前も見えてなかろうが痛みでようやく意識が保てていようが、俺に夢を見せたのはテメェのその在り方だ。眩いほどに見せてくれやがった世界で生きるその力だ。
「……コッチ見てる暇があるのか?ホークス」
「チッ……!」
そう睨むなよ鷹野郎。奴の勝利を願ってんのは俺も同じなんだからよ。
そら、さっさと上まで連れてってやれ。太陽のいる場所はそこだろう?
「おおおおおおおおおおおっ!!!」
「【プロミネンスバーン】……ハハッあんな特大火力、まだ撃てたのか」
やっぱりムカつく奴だよ。最後の最後まで、貫き通しやがるクセに……他人にはあんな事を言いやがるんだからな。
「0点だ……随分と酷いスタートを切った」
「でも、この勝ちは絶対に、絶対にデカイはずです……!で、君は……誰かな?」
「はぁ……少しくらい気を抜いてくれりゃいいのによ」
抜かりねえ奴だな本当に。まあほっといてくれよ。俺はそこの脳無をぶっ殺しに来ただけなんだから。
「そいつ、ちゃんと死んでるよな?」
「……?脳無の事か?」
「ああ。死んでるんならどーでもいい……黒霧さん」
またいつか、だ。エンデヴァー。
燈矢「……んだよ」
転孤「いやあ?」ニヤニヤ
トゥワイス「別にィ?」ニヤニヤ
マグ姉「何も?」ニヤニヤ
ガム姐「ないけど?」ニヤニヤ
壊理「おかえりっ!」
Mr.「すぐ治してあげような」
壊理「うんっ!」
燈矢「大袈裟だって……」
黒霧(お兄ちゃんしてますね……)ホロリ