時を遡って……何か前回から時を遡ってばっかりだな。時を遡って緑谷が物間を追いかけ始めた頃。
間飛の予想通りと言うべきか、物間が逃げた先には心操と庄田が待ち構えていた。まず三人がかりで緑谷を倒すことにしていたらしい。
三対一なら勝てるという話でもないだろうが、攻撃力の面で貢献出来る個性を持っているのは庄田と【コピー】してる可能性がある物間の二人。心操も捕縛布を練習はしているようだがまだまだ不慣れなのか緑谷でも簡単に回避出来る。
オマケに心操の強みである『【洗脳】を警戒してコミュニケーションが取れなくなる』という事態も、単独で殴り込んだ緑谷には無意味。口を閉じて戦い続ければそれで済む話だ。
故にここでもまた一方的に殴り勝てるかと思われたその時だった。
「っ……!?」
「なんかヤベエ!!離れろ物間!」
「あ……がぁっ……!?」
突如緑谷の身体から黒いナニカが伸びてきたのだ。
何が起こっているのか分からない心操達は緑谷の新技を危惧して離れたけれど、その緑谷本人も黒いナニカによって苦しんでいるのか低い唸り声を上げて悶えた。
誰が見ても明らかな異常。これは訓練云々の話ではないと判断した庄田が緑谷を助けようと動いた。
「何が起こっているのか分からないが……とにかく助ける!!」
「ちょ、庄田!?」
「……合わせる!!」
「心操まで……ああもう!」
庄田に続いて心操まで救出に動いてしまっては自分も動かざるを得ないだろ!と悪態をついて物間も加勢する。
もしや個性の暴走かとあたりをつけた庄田と心操は緑谷の意識を失わせることにした。この手の場合は気絶させれば収まることが多いと聞いている。
デタラメに振り回される黒い触手じみたソレらを避けながら緑谷本人の元に庄田が近づいていく。
「一撃打つことが出来れば……!」
彼の個性【ツインインパクト】は雑に言えばト○コの釘パンチか呪術○戦の逕庭拳のようなもので、一発の打撃に遅れて任意のタイミングでより強力な打撃を打ち込む。ソレを顎先にでもあてられれば簡単に気絶させられるのだが、近づけば近づくほど黒い触手は激しさを増す。
下手に飛び込んだせいで物間や心操の手助けが入るのも難しく、選択を間違えたことを理解してしまう。
このまま万事休すか、と思われた。
「緑谷ァ!!」
「ッ……心操……!?」
「……!緑谷君!返事をしろ!」
心操が声を張り上げて緑谷の名を呼んだ。そう、彼にだけはもっと手っ取り早い手段が許されている。
「……っ!うんっ……───」
「おお……あれでもかかるんだ」
「な、何だったんだ今のは……」
【洗脳】を受けて意識が抜け落ちた緑谷。同時に黒いナニカはシュルシュルと緑谷に向かって縮んでいき、最後には肉体に潜り込むようにして消えてしまった。
これはまず本人に話を聞くべきだな、と意見が一致した三人はひとまず緑谷を起こした。心操の【洗脳】は軽いショックで解除可能なのだが、恨みを込めた物間の強めのチョップで起こされていた。
「痛た……あ、ありがとう……」
「まったく、君達A組は本っっっ当にトラブルを持ち込んでくれるね!?さっきのアレはなんなんだい!?」
「身体に異常は無いか?どっか痛むところあるか?」
「いや、大丈夫そう」
「あまり無理をしない方がいい。尋常ならざる気配だった」
幸い健康状態への影響は無かったようで、本当にただの暴走のようなものだったらしい。
カメラ越しに一部始終を見守っていた教師達も一安心。ならば訓練は続行、しかしもう一度暴走した時は緑谷を脱落扱いにする……という形で戦闘が再開された。
(……一瞬見えた筋骨隆々のスキンヘッドの人は多分、そういうアレだよね)
距離を取って再開された訓練の中、緑谷は暴走している間に見えた不思議な光景を思い返していた。
よく分からないけれどかなり焦った様子で何かを喋っていたけれど、ぼんやりどころか水中にいる時のように聞こえてくる声では何を話していたのかも分からない。
ただ漠然と自分の中に新しい何かが加わった……いや、解禁されたことだけは分かる。
恐らくあの黒いナニカはあの人の個性じゃないか?と。
それを悟った緑谷の顔は──
「…………」
「……何か緑谷の顔がスンッってなったんだが」
「あれ?【洗脳】かかった?」
「多分違うな」
──表情が死んでいた。
事情を知らない三人はなんのこっちゃという不可思議な現象だったが、緑谷には思いっきり心当たりがあるのだ。それも元No.1ヒーローから受け継いだ個性という飛びっきりの厄ネタが。
多分使おうと思えばある程度は使えるっぽいけど、使ったら使ったで『それis何!?』と質問責めにあうのが【予知】の個性が無くても分かる。
かといって引っ込めたままだと変にムズムズしてまた同じような事になりそうだし、と緑谷は葛藤していた。
(間飛君いつも言ってたなあ……『歴代継承者の個性まで持ってたら俺の手に負えねえな!ガハハ!』って……)
アイツも【予知】持ってたっけ?言ってることがドンピシャで的中しとるやんけ。
もしこれが歴代継承者の個性だというならあと八人……オールマイトと初代は無個性(と同じ)なのであと五個の個性が宿っていることになる。
え?もう【ワン・フォー・オール】一つで持て余しまくってるのにもう六個追加とか正気ですか?
本当なら喜ばしい事なんだろうけど、これまでに何度も【ワン・フォー・オール】の制御に苦しんできた身としてはこれ以上増やすのは勘弁願いたいんですが、としかならない。
なんて考え事をしていると、目の前を物間の飛び蹴りが通過した。視界に飛び込む蹴りにギョッと驚いて思わず大きく飛び退いた。
「戦いの最中に考え事とは余裕だね!」
「っ……!?」
図星を突かれ押し黙る。相手が目の前にいるのに関係ない事への思考にリソースを割いていた自覚がある。
不可思議な現象に不安や恐怖を感じるのが当然だとしても、目の前の相手から目を背けて思考に耽けるのはあまりにも失礼だ。
緑谷は謝ろうと口を開きかけ、そこに物間が被せるように言葉を続けた。
「試したいんだろう!?試せばいいさ!僕達は君のアレを乗り越えた上で勝ってやるとも────!!」
「………………ありがとう」
ひねくれた性根を持っていようがヒーローを目指す一人の少年である事に変わりは無い。高い壁を前にして臆するはずがなかった。
物間の言葉に緑谷の迷いが晴れ、再び先程の黒いナニカが放出された。
「行くぞ!!」
「来い!」
……しかし、だ。物間が何も考えずにそんな事を言ったわけでもなかった。
もしアレが緑谷の個性から派生したナニカだった場合、発現したばかりの状況で使いこなせないのではないか?と予想していた。
下手に普段から使っている超パワーを振り回されるくらいなら、発現したての不慣れな個性を使わせた方がまだ勝ち目があるんじゃないか……物間はそう考えていた。
まあつまるところ、この時の物間は熱い闘志だとかアオハル的なアレコレではなく九割以上が打算で占められた行動だったのだ。
突発的なヒラメキによる行動だったこともあり、他の二人にはそんなことを話していない。物間一人がほくそ笑みながらの戦闘再開となったのだが…………。
「くそぅ……!!発現したばかりなのに何故そんなに使いこなしているんだい君はァ!!」
「あはは……」
「投獄されてからも元気だなアイツ」
「言いたいことは分かるけどな。あんなもんよく使いこなせるよ本当に」
残念なことに黒いナニカだけに拘らなかった緑谷により、いい感じにコンボを決められて捩じ伏せられた。三対一で返り討ちに遭っては言い訳のしようもない。
気絶した庄田と黒いナニカで縛り上げられた二人を投獄して無事終了。5-0の完全勝利で幕を閉じた。
◇
全試合A組の勝利。今回の対抗戦はA組の完全勝利で終わった。
教師達からの評価としてはA組は振れ幅の大きさによる不安定さを何とかするべきだと言われ、B組は想定から逸脱しただけで総崩れになってしまう点に気をつけるように言われていた。
だがそれ以上にツッコミが入ったのは緑谷だった。
「……多分お前も分かってないんだろうが、何なんだアレ」
「凄く黒いのが顕現していたが」
「暴走していたが技名は?」
相澤の指摘はともかく、そこの真っ黒中二病コンビはちょっと静かにしようね。
間飛で慣れていたわけではないが超パワーと別にもう一つの能力を持っていればやはり目立つ。それこそ間飛だって超パワーとワープを両立しているのは【フィジカルギフト】と【瞬間移動】の二つを持ち合わせているが故に出来ているのだ。
では緑谷も同じように何かしら別の個性を持っていたのか?という疑問が出てきても何もおかしくはない。
特に事情を知る間飛や爆豪なんかは【ワン・フォー・オール】とは別に緑谷自身の個性が目覚めたのか?と疑っている。
チラリとオールマイトに視線をやれば小刻みに顔を左右に振るだけで心当たりは無さそうだ。
「その……僕にもまだハッキリわからないです」
「……まあ個性はまだ分からねえ事も多いと言うし、そうなるか」
「すいません」
新たに増えた面倒事に緑谷も間飛もオールマイトも顔が死んでいる。逆に相澤だけは教えることが増えたな、なんてほんの少しやる気を出しているようにも見える。
緑谷個人への言及もそこそこに、総評は締め括られる。しかし湧いた疑問がそう簡単に収まるはずもなく、結局質問責めにあうことからは逃げられそうにもない。
(これどう誤魔化したらいいんだろう……もう話してもいいんじゃないですかねオールマイト)
(アレがもし歴代継承者の個性とかだったら一気に難易度上がるな。初代が曽祖父ちゃんと同じほぼ無個性だとしても七人の個性が出てくんのか……)
(出久のヤツまた強くなりやがった……!あの変な黒い奴を使いこなせるようになれば尚更か……面白ぇ!!)
尚、肝心のオールマイトはほとんど何も知らない模様。おい脳筋。
五代目「すぐ戻っていっちゃった」
七代目「早かったねえ」
初代「やっぱあの子何かおかしいって」
二代目「ファーwww」
三代目「そんなことある?」
六代目「今時の子って凄いんだなあ」
四代目「もう使いこなしてた……」