歴代継承者に対して緑谷が語っているのは、緑谷の内側にいるだけでは知りえない大量の情報。
緑谷はオールマイトと間飛から幾つかの情報を伏せられているものの、ほとんどの事情を聞かされている。例えばピザパとかピザパとか、あとピザパとか。
彼が知る情報を羅列すると『オール・フォー・ワンの現状』と『間飛移の個性と個性の成り立ちについて』と『神野区でのヴィラン連合及び
それら全てを死んだ目で淡々と語る緑谷と、どこぞの『ちょっと待てい!?』ボタンのように一々ストップをかける歴代継承者達の様子を以下Dieジェスト……失礼、ダイジェストっぽくお送りしよう。
──
(僕の同級生に間飛移って人がいるんですが、彼の個性が【フィジカルギフト】と【瞬間移動】の二つありまして。問題なのは……いやどっちも凄く強いんですけど。気になるのは【フィジカルギフト】ですよね?)
『……【瞬間移動】の能力は大体察せられるが、そのフィジカルナンタラというのは何だ』
(えーと……簡潔に言うと血縁関係がある人物にだけ継承出来る【ワン・フォー・オール】みたいなものです)
『ええ……?』
『待て待て!?あの坊主そんなにヤベエ個性持ってたのか!?』
『…………ああ』*1
彼の【フィジカルギフト】と【ワン・フォー・オール】には細かい違いが多いが、最も異なる点は三つだ。
継承者に血縁関係という条件が存在する事と、継承するものが先代の個性因子か経験値かという事……そして二つの個性から生まれた【ワン・フォー・オール】に対して最初からそういう個性として生まれた【フィジカルギフト】という事。
しっかりと把握している訳では無いが間飛から聞いていた【フィジカルギフト】について知りうる情報を語った。
(その人は既にオールマイトと同じくらいのパワーを持ってて、そこにもう一つの【瞬間移動】で500m内なら基本秒殺出来る実力があります)
『500……メー、とる?』
『それはつまり、その小僧を中心に直径1km内全部が間合いってことか?』
『エッッッッグ』
『四ノ森先輩の口調がッッッ!?』
彼の口から語られた内容はどこの戦略兵器の話ですか?と首を傾げたくなるバケモノパワーをこれでもかと伝えていた。
見たことないから出来るか分からないけど、と自信なさげに言うが瞬間移動かめ〇め波連続で撃ってくる某サ〇ヤ人みたいな事出来るかも?とか聞いたらそうも感じる。
聞けば自分達の目の前にいる九代目より上の実力だとか。マジで?
『……【ワン・フォー・オール】と同じで誰かが残した希望ということは?』
(無いですね。だって間飛くんは徹頭徹尾『え?何ソレ……知らん……怖』って感じでしたし)
『こういうのって一般家庭からポンと生えてくるものなのか?』
『むしろ個性としては【フィジカルギフト】の方が真っ当な成り立ちしてますよ』
うん、貴方達が受け継いできた【ワン・フォー・オール】は個性が二つ混ざって出来てるからね。むしろ異端なのはこっちの方だね。
──
『……あの死柄木弔は、私の孫なんだ』
(孫……!?継承者のお孫さんが何故オール・フォー・ワンに……)
『奴はそういう嫌がらせをするだろうな。忌々しい……!』
『でもよ坊主、迷ったらダメさ。気持ちは分かるけどお前にはやらなきゃならない事が』
(何でオール・フォー・ワンに反旗を翻したんだろうと思ったらそういう事だったんですね)
『『ちょっと待て』』
七代目もとい志村菜奈。彼女が悲痛そうな表情で語った真実に対し、緑谷は爆弾発言でラリーを返した。避けられるかンなもん。
全部拾ってたらキリが無いからと色々スルーしていたがそれはさすがに見逃せない。テメェ今なんつったくらいの勢いで三代目と六代目がストップをかけた。
(えっ?な、何がですか……?)
『あのヤベエ小僧がオール・フォー・ワンに反旗を?何がどうしたらそうなるんだ』
『七代目の前で言うのは憚られるけど、あんな憎悪と憤怒の塊みたいな彼が何故……?』
(……さあ?)
『知らないのかよ!?』
(そ、そんなこと言われましても!?間飛くんがス〇バで一緒にフラペチーノ飲んで仲良くなってたくらいしか知りませんよ!!)
『もっと受け入れ難い情報が出てきたな?』
『ああ!四代目が宇宙猫状態に!?』
色々と間飛から聞いていてもこの辺りの詳細はあまり知らない。緑谷が知っているのは『何か一緒にフラペチーノ啜ってたら仲良くなってて、オール・フォー・ワンに猜疑心が湧いた』という事だけ。
それ以上に間飛が何かをしていたとしても緑谷は聞いていないし、もう一度詳しく教えてとせがんでもまったく同じ内容が返ってくるだけだろう。
志村菜奈は自分の孫を殺してでも止めて欲しいと頼むつもりでいたのだが、何か知らんうちにフラペチーノで浄化されてた模様。ス〇バって凄い。
『い、まの彼は……何を……?』
(オールマイトと間飛くん曰くですが、オール・フォー・ワンの遺産を壊すとか何とか言ってどこかに行ったようです)
『これ俺達の出番あるか?』
『まあまあ、奴が生き残ってたらあるさー』
呆然としていた志村菜奈がペタンとへたりこみ、少女のように声を上げて泣く姿を咎める者はいなかった。だってスペースキャット状態に片足突っ込んでるし。
──
『す、すまない……グスッ……それで、転孤が反旗を翻してどうなったんだ?』
(ヴィラン連合のメンバー達と、その時拉致されてた間飛くんとオールマイトと一緒にオール・フォー・ワンをぶっ飛ばしました。今はタルタロスの奥底にいるとか)
『……マジ?』
『えっ?ここまでやってきてオール・フォー・ワン討伐に【ワン・フォー・オール】がほぼ関わってないとかマジで?』
『……くくっ、ざまぁないなあの野郎』
既にラスボスが討伐済みなのは本当に聞いてない。いや一応オールマイト越しに薄ら感じてはいたのだけれど、まさかもう豚箱にぶち込まれてるのは想定外が過ぎる。
もしかしたら古い身体を捨てて死柄木弔を乗っ取るのでは……とも思っていたのだが、その死柄木弔は志村転孤に戻って元気に遺産破壊に勤しんでいる。アレ?マジでもうエンディング一直線?スタッフロールもうそこに用意してます?
『……いや、兄さんがそう簡単に諦めるとは思えない。まだ何か企んでるかもしれない』
(え、でも無理じゃないですかね)
『奴を甘く見るな。奴ならばそのタルタロスから脱獄してきてもおかしくは───』
(だってタルタロスで精神崩壊引き起こして幼児退行してるらしいですよ?)
『『『ハァ!!?』』』
おっと今日一デカイリアクション。これは先程から一人落ち着いていた二代目も声を荒らげて驚いている。そりゃそうか。
考えてみてほしい。ゲームかマンガか、はたまたアニメか。そこに出てきた悪辣で最凶のボスキャラが色々垂れ流しにしてオギャバブしてる姿を。
ラスボスの姿か……?これが……。
大抵の人はそんな感想に至ると思われる。万が一、億が一その光景がしっくり来るキャラがいたらそれはもうハジケリストにどっぷり浸かってるキャラだ。暫定ボー〇ボと同じ扱いだ。
『お労しや兄上……』
(さっきお話した通り間飛くんの【フィジカルギフト】を【ワン・フォー・オール】と勘違いしてたみたいで……)
『囮になるって言ってたから誤解させようとしたんだろうな。まあ【瞬間移動】と超パワーが自分の把握していないところで生まれていたらそう思うだろうが……』
『だがそれだけで幼児退行するほど精神的にもダメージを負うのか?』
(何か弟を見間違えたショックで自滅したとか言ってましたよ?)
『キッッッショ。何で自滅してんだよ』
『ああ……どんどん初代の情緒がズタボロに……』
ドンドン緑谷の目は死んでいくし歴代継承者は無いはずの胃がキリキリするような感覚がするし、孫が救われたと判明した志村菜奈以外誰も得してないんじゃないだろうか。
話すべきことは話した、とようやく一息ついた頃には無いはずの肉体が疲れているような感覚に陥っていた。なんなら肩で息してる人とかいるし。
何か【ワン・フォー・オール】っぽい一般人がいるわ知らんところで継承者の身内が助けられてるわ、挙句の果てに本来自分達が成すべき事すら代わりにやってもらいました……なんて受け入れ難いとかそれ以前の問題だ。
もし自己嫌悪や罪悪感で死ねるのならば緑谷の中にいた歴代継承者はこの短時間で全員消えていただろう。オールマイトなら五、六回は輪廻転生してもおかしくない。
まだゲンナリしているが黙ってても仕方ない。初代が疲れ果てた顔で再び口を開いた。
『要約すると……【ワン・フォー・オール】のソックリさんな個性を持った子供が死柄木、じゃなかった志村転孤を救った上にオール・フォー・ワンも倒してくれてた……で、あってる?』
(大体は)
『うん、そっか……そっかぁ…………』
『この短時間で随分と草臥れたな』
『可哀想さー……』
認識したくない現状だが認識しないことには始まらない。いっそ一度緑谷から飛び出して総出で土下座したいくらいの気分なのだが、さすがにこの領域に他人を引きずり込む方法はないだろう。
かといって何もしないのも座りが悪い。彼らに出来ることは緑谷に伝言を頼むくらいしかなかった。
『次会う時にさ……お礼と謝罪をしておいてくれないかな?』
(お礼……と、謝罪?)
『うん。巻き込んですいませんでしたって』
(アッハイ)
『しかし……二代目は何かしら知っていたのか?最初の彼ではないが、一人だけやけに冷静だったというか反応が違うというか……』
『……言われてみれば確かに。私の知る貴方であればまず九代目とまともに会話すらしないと思っていたが、最初から目を合わせて会話に応じてくれたのは違和感があった』
爆豪によく似た空気を纏う、しかし決定的に何かが異なる二代目。彼だけは緑谷と会った時から普段の数倍は柔らかな雰囲気で接し、話を聞いている時も基本的に腕を組んだままニヤニヤしていた。
何か知っていたのか?と疑問が湧くのは当然だろう。それに二代目はあっさりと答えた。
『ああ、俺はオールマイト伝いで少しだけ知ってた』
『聞いてないんだけど!?』
『言ってないからな。何せ七代目がオールマイトの中に少しだけ残りたいとか言ってた時に巻き込まれる形で残されて、何故か七代目より長く残留させられてたんだよ』
『……と、リーダーは言っているが?七代目』
どういうことだオラァン的な意思が乗った視線が今度は志村菜奈へと集まる。彼女は言葉ではなくフイッと視線を背けることで答えた。
『そういう事は相談してからして欲しかったかなあ……』
『いや師匠だからってのもわかるさ。でも報告・連絡・相談くらいはしような?』
『仕方ないだろ!?自我が目覚めたのは最近だから相談のしようもなかったじゃないか!』
『何で七代目と八代目はその辺不器用なんだろうな。ちゃんと会話しとけよ』
『急に刺してくるじゃないか三代目……!』
急にわちゃわちゃし出す歴代継承者達。これが魔王討伐の希望の姿かぁ……とか思ってはいけない。それを言い出したらオールマイトだって脳筋だし【ワン・フォー・オール】の詳細をほとんど把握してなかったんだぞ。
一人テンションについていけていない緑谷はぼんやりと『人の中であんまり暴れないで欲しいなあ』なんてどこか抜けたことを考えていた。
すると、突然全員の身体からモヤが広がり始めた。何事か、と思ったがどうやら時間切れらしい。緑谷の身体も半分以上がモヤだったが、既に右腕と頭の上半分程しか形を保っていない。
歴代継承者達も同じことを悟ったらしく、今回の邂逅はここでお開きのようだ。
『九代目』
(はい?)
『今更何を、と思うかもしれないが気をつけてくれ。兄さんの事だ、何を残しているか分からない』
(……)
『もしもの可能性に備えて力をつけるんだ。頼んだよ』
(……はいっ!!)
やがて緑谷の身体は完全にモヤとなり、空に溶けるように解けていった。
『……どうやったら間飛君に直接謝れるかな?』
『無理だろ』
『しかし九代目に任せてはいおしまい、というのもな』
『八木君に頼めばいいのでは?巻き込んだ原因のほとんどは彼にあるようだが』
『……確かに』
『え、いやさすがにそれは……』
『よし、俊典の夢枕に立ってくる』
『七代目ストォォップ!?』
その晩、ちょっと魘されるオールマイトがいたとか。
※二代目は「何かAFO倒したっぽい」ことと「九代目は思ったより優秀」ってことだけ知ってたからニヤニヤしてました。それ以外は他の方と同じく知りませんでした。
志村(いきなりで悪いが俊典、間飛君に御礼と謝罪をしておいてくれるか?)
八木「えっちょ、師匠!?何故!?どうしてここに!!?」
志村(巻き込んですまなかった、ということでお前に動いてもらいたいんだが……出来るか?)
八木「出来ますけどちょっと待って!?い、色々と話したいことがっ……!」
志村(じゃあな)
八木「ししょおおぉぉぉおおっ!!?」
八木「はっ!?……ゆ、夢……?」