「ううむ……まだ見つからんとは」
日本某所。相も変わらず目に悪そうな薄暗い室内で忙しなくモニター表示を切り替えてはため息と呟きを零す一人の悪党。
どこかの平原や山の中を映す画面に目的の存在はこれっぽっちも姿を見せず、何度見返しても手がかりひとつ見当たらない現状に嫌気がさしたのかやや乱暴な手つきでウインドウを閉じてしまった。
苛立っているというよりは疲れが滲んでいるソレはゆっくりと椅子を軋ませながら振り返る。
「ダメじゃ先生。マキアがどこかに行ってしもうた」
「……参ったね」
「用心しとるのか回収されたのか……何にせよワシらからも見つけられんのではどうしようもあるまいよ」
彼らが頻りに口にするマキアという単語はとある人物を指している。
ギガントマキア
オール・フォー・ワンが最も信頼を寄せている直属の部下の一人であり、複数の個性を与えられて尚自我を失わずにいられる唯一無二とも言える存在。
異常な体力の原因となる【耐久】を始めとして【痛覚遮断】や【巨大化】に加え、【犬】に【エネルギー効率】に【剛筋】【土竜】とゲームの能力を組み合わせるように最適な個性を与えられた。
その中の【巨大化】の個性によって普段でも3m程の体躯を誇るのだが、そんな人物が自然の中に上手く紛れ込めるとも思えない。何かを警戒して地中に隠れているのか、或いは先手を打たれたかのどちらかだろう。
前者ならさておき、後者であった場合は大変困る。何せ現状のドクターとオール・フォー・ワンに許された手札は限りなく減らされており、先日エンデヴァー襲撃に使ったハイエンド個体の脳無も帰ってきていない。
出来れば無事でいて欲しいのだが、それを保証してくれる存在などこの場には
「それで?君はそろそろ考え直す気になったかい?」
「黒霧」
「…………」
「やれやれ……忠誠心が強いから重宝していたんだけどね。これじゃあ使い物にならないかな?」
少しでも動く素振りを見せれば殺す。と言わんばかりの拘束を受けた黒霧がそこにいた。
【ワープゲート】を開いて逃げるよりも早くオール・フォー・ワンが動ける以上、拘束された黒霧に出来ることは全くと言っていいほどない。
オール・フォー・ワン達が彼を捕まえたのは全くの偶然であり、何やらギガントマキアに細工をしようとしていた所に居合わせた脳無によって確保されてしまった。
当然ながら連絡も逃走も許される訳もなく、裏切った死柄木弔を再教育する為の手伝いをしろと持ちかけられている。
断れば死は免れないであろう脅しに近い命令に対し、黒霧が出した答えは。
「すいません。命令権が志村転孤に移ってるので無理です」
「……ドクター、命令権ってどうやったら書き換えられるんだい?」
「命令権を持っとる奴から命令されん限りは移らんぞ?だから渡すのはまだ早いとあれ程……」
やっぱ生きて帰れそうです。嘘ついてすいませんでした。
◇
所変わって自由連合とギガントマキア。彼らは互いに殺す気満々で戦っており、両者共に軽くないダメージを負っていた。
「ぬぅ……強い!!」
「強いと分かったんならさっさと黙って欲しいんだがなァ!!」
「否!!如何に強くともお前はまだ未熟!故に見極めねばならんのだ!!」
「石頭が……!」
荼毘の炎や転孤の【崩壊】をメイン火力に据え、その他のメンバーがアシストに回るというスタイルで立ち回っている。
どうにも頑丈でタフなマキアには荼毘や転孤の攻撃すらイマイチ効き目が薄く、効いてはいるようだがダウンを取るには程遠い。薄皮一枚とは言わないが生命に手が届くにはまだまだ時間がかかりそうだ。
しかし何故今になってギガントマキアが動いたのかは疑問が残る。
何せオール・フォー・ワンは既にタルタロス送りにされ、複製された個性因子を元にハイエンド個体の一体を流用して何とか再起を図っているのだ。
じゃあ何でオール・フォー・ワンの方じゃなくて志村転孤の方に来たんだよ、という話になる。
普通に考えればオール・フォー・ワンが一応健在(?)なのだからそちらに向かえばいいものを、とっくに反逆者となった転孤の方に来た理由がさっぱり分からない。かつては『究極の指示待ち人間』なんて評価をされたほどなのに。
というわけで少しマキアの視点を簡潔に纏めてみた。
◇◇◇◇◇
・主が負けそう!?なのに隠れろとはどういうことか!とはいえ命令された以上は従わねば……
↓
・うう……主が負けてもうた……許さん。許さんぞオールマイトォ!!
↓
・そろそろ自分の出番かな?アレ?何かもう戦ってない?出遅れた?
↓
・何か知らん間に主が負けてるし捕まってるし……ん?黒霧?お前何しに来た?
↓
・ほーん……主の後継(大嘘)の手伝いをして欲しいって?まあ後継次第やな!確かめたるわ!
◇◇◇◇◇
大体こんな感じ。
オール・フォー・ワンの方に行かなかったのは主の匂いを辿れなかったからだ。*1ラジカセ?ああ黒霧が回収しましたが何か。
その結果マキアにとってオール・フォー・ワンはすでに亡き者扱いとなっており、せめて後継となる人物に手助けせねば!と張り切って登場したわけだ。そうはならんやろ。
「あいたたた……まさか【メイクラバー】が一撃で破れるなんて……コレそんな簡単に破れるものじゃないのよ?」
「ガム姐大丈夫か?」
「ええ。殴られたダメージじゃなくて吹っ飛ばされた後のダメージだもの」
ちなみに周囲の人間はそんなに気にされていない。時々鬱陶しいことをされるからイラッとはするが、所詮はそこ止まり。優先的に潰さなければならない程のものでは無いと思われている。
コンプレスの【圧縮】で削り取ろうにもまずコンプレスが近づける隙がなく、マグネの【磁力】はマキアに使ったところでほとんど無意味。ジャックガムの【メイクラバー】やトゥワイスの【二倍】は基本一発で壊されるので無いも同然。
荼毘の炎か転孤の【崩壊】ですら表皮を傷つけるのが精々なのだ。ジリ貧なんてものでは無い。
じゃあ何故戦っていられるのかというと。
「だ、大丈夫……?」
「んー……まだそこまでキツくはないけど、そうね。お願い出来る?」
「うんっ!」
連合の(暫定)一員である壊理ちゃんによって治療が施されているからだ。
彼女の個性によって肉体を巻き戻し、ダメージや疲労をリセットすることで戦闘の継続が叶っている。何度も何度も荼毘を生贄にして練習した甲斐があったようで、とりあえず暴走はしなくなったようだ。
時間にして数秒もない僅かな間にジャックガムとコンプレスが全快。優しい手つきで壊理ちゃんを撫でながらお礼を言うと、再びギガントマキアに向かって走っていった。
「……荼毘さん」
二人を見送った後の彼女の視線は青い炎へと向いている。死をも超克した偏執の炎は死を超克する前の肉体へと戻り、逃れられない肉体への苦痛は消え失せている。
自分に出来ることはこんな事しかないから。それ以外のことはひたすらに祈るしかない。
「妹分から熱い視線が来てるぞ?」
「ハッ、そりゃ手が抜けなくて大変だな」
「手ェ抜くな。そんな余裕ねェだろうが」
「抜いてねえよそもそも。そんな余裕があるように見えてんのかお前は」
一方最前線を張っている魔王候補(だった)二人は軽口を叩きながらも攻撃の手を緩めようとはしない。これまで足踏み状態で停滞していたところに現れたオール・フォー・ワンに繋がるヒントを前に、撤退の二文字が選択肢として現れることは無かった。
両手から放たれる炎がマキアを微かに押し戻し、転孤の手が極僅かな間でマキアの皮膚に亀裂を入れる。しかしそれらを腕の一振りで跳ね除けてしまえるのがギガントマキアという存在だ。
ガオン!!と大きく横薙に振るわれた剛腕は空振りに終わったというのに、掻き乱された空気が二人を弾き飛ばしてしまう。
「こンのっ……!?馬鹿力が!!」
「っ……ぶねぇな!」
「まだだ……まだ認める訳にはいかぬ……!!」
現時点ではまだマキアの方が強い。転孤も荼毘も広範囲の大多数への攻撃力は十分にあるのだが、圧倒的な個人への対抗手段がないのだ。特にマキアのような耐久力を持つ者やオールマイトのようなパワーを持つ者相手ならば尚更。
それを差し引いても相手が悪いとしか言えないけれど、オール・フォー・ワンという個人戦力の究極形を見たあとでは言い訳には出来ない。
「なら、分かるまで殴るだけだ」
「……というかコイツをどうする気だよ。もうあのクソッタレな魔王の跡を継ぐつもりなんざないんだろ?」
「はあ?」
何を当たり前なことを、という風に転孤は笑う。
「ンなもん決まってんだろ。アイツの部下の手でアイツの企みを全部ぶち壊す。これ以上おもしれえ事があるか?」
「……違いないな!」
君たち何だかんだ仲良いね?
──主の匂いって何?
マキア「雰囲気だ。気配や風格、後は体臭そのものだったりを指す。我が主の気配は忘れんぞ」
──じゃあ『何か違う』って思ったのは何故?
マキア「……主の匂いが二つあってな。片方は後継候補だとすぐに分かったが、もう片方は腐敗臭や薬品臭の強さからして偽物だと思っている」
──あっ……(察し)
AFO「……ドクター、鼻のあたりがムズムズするぞ」
ドクター「んん?……くしゃみをしようとしておるようじゃな。はて、何故くしゃみなんぞが出る?」