愛知県泥花市。そこは異能解放の思想を掲げる人間達のみで構成されており、市街地の中心部には彼らの最高指導者であるリ・デストロのタワーまで建てられている。
市民の一人一人が来るべき時とやらに向けて訓練を積んだ戦士でもあり、そこいらのチンピラ程度ならば軽く捻ってしまえる。
今日この日をもってヴィラン連合を潰し、我ら異能解放軍の“再臨祭”といこうじゃないか……なんて幹部達から聞かされていたが、何やら雲行きが怪しいらしい。
それでも私達は最高指導者に命を捧げた身なので!と誰もが胸を張ってリ・デストロの為に戦い、死ぬことを許容していた。
でも一つだけ贅沢を言っていいのなら。
「「「「「SMASH!!」」」」」
「「「ギャアアアアアア!!?」」」
……今回だけ、逃げてもいいですか?
悲痛な表情でぶっ飛ばされながら、市民達は何もかも手遅れだった事を噛み締めていた。
事は数分前。コンプレスに【圧縮】してもらってオールマイトに運ばれる前の話だ。
「いいかい?泥花市にどれほどの敵が待ち構えているか分からない。ほんの数名の少数精鋭かもしれないし、市民全員が敵かもしれない」
連合が聞いた話では『泥花市に来い』としか言われていないので、いざ着いたところで何をどうすれば義爛を解放して貰えるのかなんて分からない。
なので義爛がいると思わしき場所を確認しつつ、敵対勢力が何人いるのかを探る必要がある。
なので彼らが取った作戦はこうだ。
「まずトゥワイス君の【二倍】で囮の連合を作る!囮にどれだけの人数が接触したのかを見てから行動を決めよう!」
「……最初からアンタが殴りゃいいじゃねえか」
「そーだそーだ。全員ぶん殴れーわははー」
「間飛はちょっとでも寝とけ。疲れてんだろ」
何か一名狂いかけてる気がしなくもないけどスルーしつつ……敵の勢力を確認する為にうってつけな使い捨ての複製された連合を突入させ、襲撃してきた人数を確認次第戦闘開始。
下手に一般市民を巻き込んでしまえば『ヴィラン連合と一緒になってオールマイトが襲ってきた!?』という核爆弾レベルのスキャンダラスな光景になってしまう。
せめて巻き込んでいい相手と巻き込んじゃダメな市民が区別出来たらなあ……と思いながらも無い物ねだりを自覚しているオールマイト達はすぐに出立した。
泥花市についていざ囮のメンバーを行かせてみたところ……。
「……多分、市民全部異能解放軍ですねこれ」
「だねえ……」
「区別しなくて済むじゃねえか。よし、トゥワイス」
「おう!」
「───焼き払え」
間飛さん、それ今のNo.1の個性じゃないと無理でっせ。そこの元No.1だと薙ぎ払うのが精一杯……いや実現できるのもおかしな話だけども。
間飛の指示を受けたトゥワイスは張り切ってオールマイトを増☆殖*1させる。あっという間に某龍球マンガもビックリなメタルク○ラ的な光景に。
数えるのも馬鹿らしい程に増えた元No.1ヒーロー。一周まわって安心感どころかコズミックな気分になるのでSANチェック入りました。具体的には転孤君がうわっ……みたいな顔してます。
「「「「「私達が来たァ!!」」」」」
「は!?オールマイ……いや何アレ!?」
「やべえ!!とうとうオールマイト増えた!!」
「クソォ……!馬鹿げた説だと思ってたのにマジだったのかよ!オールマイト複数いる説!!」
「何それそんなのあんの!?」
「ほら、全国各地飛び回ってたから……ね?」
「ああ確かに」
言うてる場合やないで。
最後の馬鹿はさておき異能解放軍のリアクションの大半は『ごもっともで……』と同情したくなるくらい錯乱してばかりで、これ別の意味でペンペン草も残らないんじゃなかろうか。
横一列にズラリと並んでひたすらSMASHをぶっぱなすだけの作業。肉体が限界を迎えたなら替え玉一丁!くらいの感覚でオカワリが来る。
自分達が売られた喧嘩なんだけどなあ……と思いながらも電話口の向こうで散々バカにしてくれたリ・デストロを思い出し、転孤達は『いいぞもっとやれ』だの『元No.1のちょっといいとこ見てみたい』だの囃し立てた。煽るな。そんで乗るな脳筋。
「クハッ、クハハハハハハ!!見ろ!人がゴミのようだ!!」
「移くんがお労しいことに……」
「オジサン若い子があんなんなってるの見るの忍びないよ……休ませたげて?」
「ヴィランの私が言うことじゃないけど、あの子にもうちょっと優しくしたげて?」
「あの坊主は出来ることが多いからって背負い込むタチだからなあ……」
壁のように並んだオールマイト……ウォールマイトの後ろではとち狂ったように間飛が高笑いをあげている。トガは勿論のことコンプレスやマグネ、合流したグラントリノにすら心配されてらっしゃる。
ちなみにサー・ナイトアイとレディ・ナガンは義爛探しに回ってくれている。二人で大丈夫かって?HAHAHA、護衛に増☆殖した間飛が五名ついてるので
今頃二人とも『こんなもん増やして良かったのか……?』とダイナマイトを見つめる世界的な賞の名前になった人みたいな顔してるよ。
というかこれ巻き込まれてないの?ジリジリとタワーに向けて進んでるけど、画面外で某愉快なパーティーゲームくらい人がぶっ飛ばされてるよ?という疑問には分身の間飛が相殺してるからセーフとお答えしよう。
原作と呼ばれる世界線ならこんな事になるはずもなく。死に物狂いでボロ雑巾のようになりながら何とか捩じ伏せていたのに。戦いは数と質だよと言わんばかりにウォールマイトに任せきりだけどいいのかしら。
「トゥワイスまだいけるか?」
「よゆーよゆー!!」
「よし、やれ」
「アイアイサー!」
とりあえず慈悲がないことだけは分かった。
◇
裏社会で生きてるもんだから闇のブローカーなんてそれらしい肩書きを貰っちゃあいたが、所詮は人員の仲介人でしかなかった。
だったら悪党でも悪党なりに筋を通してやろうとしてきたのに、まさかこんな横槍で客のデータを持ってかれちまうとは夢にも思わなかった。
世間は連合の事を好き勝手に宣ってやがるが、俺からしたら闇に堕ちてからもあんなに真っ当にしていられる連合の方が羨ましいね。
裏社会で仲間を大事に出来るってのはそうそう出来る事じゃねえ。どいつもこいつも自分の身が危うくなれば綺麗さっぱり年単位の付き合いも切り捨てちまう。
正直に言おう。俺はアイツらが助けに来てくれると聞いて嬉しかったんだ。ああ、俺の見る目は何も間違っちゃいなかった……ってな。
拷問だの指落としだのと酷い目にあったが、俺は何一つ後悔してねえ。こんなところに乗り込もうとする愛すべき馬鹿達と関係を持てた事に感謝すらしてるんだ。
こんな市街地を一望できるタワーを建てられるような奴らが相手でも、アイツらが負けるはずがねえ。
うん、負けるはずが無いとは思うんだが。
「アイツら見えねえしオールマイトが増えてる気がすんのは俺がおかしいのか???」
「……いや、私達も正直驚いている。分倍河原仁……トゥワイスの個性がこんな事を出来るとは」
「は?アイツがアレやってんのか??トラウマはどうした?てかどこでオールマイトなんか測った?てかお前らヒーローだろぉ!?何ブローカー助けに来てんだ!!?」
「質問が多いな。後でゆっくり答えてやるから今は黙っておけ」
何アレェ……?ジ○リでああいうの見たことある気がするぞ……?もしくは進撃の○人。どっちにしろヒーロー側の光景じゃねえだろアレ。
見てみ?横一列にズラリと並んだオールマイトっぽい奴らが足並み揃えてパンチ打つだけで人が紙くずみてえにぶっ飛ばされてるぞ?どこのディストピアだよ。
つかサー・ナイトアイとレディ・ナガンが来てるって、本当にアイツら何した!?まさか俺なんぞの為に自首しやがったか!?
「ンなことするか。そもそも公安でも意見が割れてる連中なんだ、自首されたからって豚箱送りに出来るものか」
「……そうなの?」
「それだけオール・フォー・ワン討伐と無力化の、ヴィラン組織を潰して回った功績がデカすぎる」
……そういやそんな事してたな。
アイツらの報告って雑把だからどこのヴィラン組織潰したのかよく把握できてねえんだよな。異能解放軍とオール・フォー・ワンを除けば一番ヤバそうな組織は……どこぞの異形型排斥集団だっけか?それこそシンパが何千単位でいたっていう。
「数百人規模の組織を四つと何千人規模の組織を二つ。それが奴らの功績だよ」
「思ったより暴れてたのかアイツら……」
道理で気に食わねえ取引先が幾つか消えてたわけだ。笑うしかねえな。
ん?だとしたら今のアイツらはお尋ね者というには微妙な立ち位置ってことか?半分ヴィジランテみたいなもんだと思ってたが、そんだけ功績挙げてんなら娑婆で生きていけるんじゃねえのか?
……いや、無いか。社会は脱落者に厳しいしな。
「よし、拘束が解けた。早くここから離れるぞ」
「何かあるのか?」
「普通に巻き込まれるからな」
「……おう」
それはそれとしてアレ味方なんだよな?信じていいんだよな!?
「後継は……何処へ……?」
「……匂いが、する」
「主の匂いが……」
「……主の匂い、が……二つ……?」
トガ「う、移くん……?大丈夫です……?」
間飛「ん?ああ。余裕よ余裕」
転孤「本当かよ。危なっかしいんだが」
間飛「なあに……実に清々しい気分さ……!歌でもひとつ歌いたいようないい気分だ……!!」
トガ(ダメみたいですね)
転孤(ダメみてえだな)
間飛「最高にハイ!!ってやつだァ!!」
荼毘「壊理、アイツ治せるか?」
壊理「わ、わかんない……」