ギガントマキアの入眠からおよそ一時間半。連合との戦いによって傷ついた身体のまま彼は平然と起き上がっていた。
彼の個性郡はタフネスや耐久力に長けていても再生能力を持っている訳では無い。罅割れた皮膚からはジワジワと血が流れ落ちており、何度も炎を受けた箇所は炭化してさえいる。
それでも体力さえ回復してしまえば改造によって与えられた自然治癒力が発揮される。既にいくつかの傷は塞がっており、少なくとも流血のし過ぎによる失血死なんて静かな終わり方はしない。
「後継……何処へ……?」
まだ完全には認めていないけれど、このまま育っていけば主の後を継ぐに足る者へと化ける。複数の個性で低下した知能ではなく、彼の本能とも言える忠誠心が志村転孤という一個人を評価していた。
だというのにその肝心の後継者足りうる青年の姿がどこにもない。こういう時は何らかの指示を残して欲しいものだ、とやや不満げに眉を顰める。
まあそこも含めて未熟と言わざるを得ないか、なんて一人勝手に納得したマキアはいつものように一つの個性を使用する。
「匂いが、する」
その個性とは【犬】。読んで字の如く犬のように鋭敏な嗅覚を得られる個性であり、そこにオール・フォー・ワンへの忠誠心が混ざりこんで主の場所を匂いで辿るというやや変態チックな技術を獲得していた。
巨大な鼻をスンスンと鳴らし、既に覚えてしまった後継者の居場所を探ろうとして……。
「主の匂いが……?主の匂い、が……二つ……?」
後継者ではない。敗北したと聞いたはずのオール・フォー・ワンの匂い。片方は腐敗臭や薬品臭のキツさに顔を顰めたくなる酷い匂いをしており、もう片方は……なんと言うか、乳臭い?
「薬品と腐敗……赤子の如き乳臭さ……これはいったい……?」
言うまでもなく薬品と腐敗の匂いがするのはハイエンド脳無に身体を移したオール・フォー・ワンの個性因子であり、赤子の如き乳臭さを放つのはタルタロスの奥底でオギャってるオール・フォー・ワンだ。どっちがマシだろうか。
何にせよ黒霧から聞いた話だけでは判断出来ない。一度自分の目で確かめる必要がある。
それはそれとして。
「今ゆくぞ後継ぃぃいいっ!!!」
アレはアレで結末を見届けなければ。ギガントマキアは泥花市に向けて進撃を開始した。
◇
その頃泥花市はどうなっているのかというと。
「……これ、俺一人でやったようなもんか」
「だな」
「もしかして俺……最強になった!?」
「誰も否定出来ねえな。オールマイトを量産出来る時点で言い訳のしようもなく最強だろ」
立ちはだかる異能解放軍を軒並み殴り飛ばし、用事が済んだウォールマイト達を解除してサー・ナイトアイ達と合流。片手の指を全て失った義爛と再会を果たしていた。
泣いて縋るトゥワイスを宥めつつ、お前ら何やらかしたと尋ねる義爛。結構限界が近い間飛にお前何やったらあんなことになるんだと問い詰めるレディ・ナガンに、やめたげてよと先輩を宥めるトガヒミコ。
プロヒーローと公安と雄英生徒とヴィランの集まりだというのに、その場に流れる空気はとても穏やかなものだ。
「……で、こっからはどうすんだ?今度は俺らをとっ捕まえるか?」
「荼毘」
「分かってんだろリーダー。コイツらはヒーローで、俺達はヴィランだ……そこにいる友人はさておき」
「あっあっあっ……川の向こうに……ジャージ着た聖徳太子ががが…………」
「しっかりしろ!?聖徳太子がジャージ着てるわけないだろ!!?」
「…………さておき」
前言撤回。一部だけ別の意味でヤバいことになってました。
ウォールマイトだの何だのでコミカルに振り切っていた空気を少しでもシリアスに戻したかった荼毘だが、実は睡眠時間が一時間半しか取れていなかったらしい間飛のせいでご破算に。哀れ荼毘。
一瞬はピリッとした空気になったのに換気が余りにも早い。ピリッどころかグンニャリした空気になってしまった。
「あー……その、なんだ。義爛にも話しはしたんだが……お前らヴィラン連合の扱いに困ってるんだよ公安は」
「……ヒーローがヴィランの扱い方に困るのかよ。捕まえて豚箱にぶち込めばそれで終いだろ?」
「いや勿論マグネやジャックガムは前科がハッキリしてるから逃げようはないんだが」
「「本当に申し訳ない……」」
ヴィラン連合の中で犯罪歴がハッキリと判明しているのはオカマ二人組ぐらいだ。転孤や荼毘は後処理の上手さからか被害者がいたのかもわからず、トゥワイスとコンプレスはそもそも経歴を追うことさえ難しかったようだ。
じゃあ雄英襲撃や合宿襲撃はどうなのかと言われても、首級である転孤が半洗脳状態にあった事を考慮すると彼らも被害者では?という論調が公安内部に生まれつつあるらしい。
なのでこの場でヒーローが仕事をするとすればマグネとジャックガムの二人限定でしか出来ないのだ。
「……でも、そうね。私は自首するわ」
「ガム姐!?何言ってんだいきなり!!」
ほんのり剣呑な空気が戻り始めたけれど、再びそれに待ったをかけたのはジャックガム。肩を竦めながらレディ・ナガンの方へと歩み寄っていく。
「ここらで一度清算しなきゃいけないと思ってたのよね。と・く・に強姦関係の
「……何?」
「あら、公安のお仕事のお陰よ?しがないサラリーマンがあっという間に外道扱いになったんだもの」
ジャックガム曰く、元々同性愛者でもそれなりに理解のある会社に勤めていた所に冤罪を被せられたことでヴィランに堕ちた……いや、堕とされたのだとか。
彼が犯したとされる罪は強盗致傷に殺人未遂、それと殺人に加えて数多くの少年に対する強姦だ。
しかしその強姦だけは全てが冤罪だと言うのだ。
「正確には何人ヤったって言われてるの?」
「……私が知る限りでは58人だ」
「ああ、本っ当にご丁寧にぜーんぶ擦り付けてくれやがったのねあのクソ上司……!!」
「っまさか……通報者のあの男が犯人、なのか……?」
「そ。殺人未遂二件ってのはその上司を殺し損ねた時のヤツよ。九人中七人殺せただけスッキリしてるけどね」
強盗致傷だけは言い訳出来ないけどね、と自嘲しながらも彼は手錠を受け入れる。それが真実にせよ虚偽にせよ一度調べ直す必要があるが、それでも強盗致傷の罪でしばらくは牢獄送りだろう。
仕方の無いことだと分かってはいるけれど、連合の誰もが顔を顰めて……或いは涙をこらえてジャックガムを見つめていた。
「ガムさん……どこか行っちゃうの?」
「……大丈夫よ。ちょっとお叱りを受けてくるだけだもの」
「マグネはどうする?お前も自首するのか?」
「ガムはともかく、私は情状酌量の余地がないもの。悪いけど私は自首できないわ」
「だろうな」
それじゃあ一足先に、なんてウインクを送りながらジャックガムはナイトアイとナガンによって連行されていった。丁重な扱いをされながら。
「……シリアス通り越してしんみりしちまったが、間飛の方は何とかなったか?」
「ええ、なんとか。比較的無事だった民家で寝かせてきました」
「ほぼ白目剥いてたもんな……怖ええよ……」
そのころ間飛はドロップアウトしてました。そりゃそうか。
何やら幻覚まで見え始めていたのでこれはマズイとベッドに放り込み、トガが少し横にいる内にストンと寝入ってしまったそうだ。
もう生きてるのか分からないくらい静かな寝息をたてているらしく、余程のことでも起きなければまず目が覚めることはないだろう、と。
「あ」
「グラントリノ?どうされました?」
「いや……お前ら、黒霧はどうした?」
「……わからねえ。一ヶ月前から別行動になって、それっきり音沙汰無しだ」
ふとグラントリノが声を上げた。何事かとオールマイトが尋ねるとヴィラン連合の一人である黒霧の姿が無いことに気づいたのだ。
それに転孤達が返せるのは『わからない』という返事のみ。オール・フォー・ワンの組織の情報源に心当たりがあると言って別行動をしてからそれっきり。今彼がどこで何をしているのかなどさっぱり把握出来ていない。
そこで転孤達もある事を思い出した。
「……そういやマキアの奴、そろそろ起きてるんじゃないか?」
「ヤベっ、だとしたらアイツここに来るんじゃねえのか!?」
「あ?アレ死体じゃねえのか!?」
「仕留めきれてねえよ。アレはオール・フォー・ワンを潰すために使えると思ったんだからよ」
しかしマキアが目覚めているにしては静かなままだ。ここからマキアまでの距離はそう遠くは無いはずなのに、彼の姿も足音も届いてはいない。
もしやあのままくたばったか?と無いなら無いでいいやという雑な扱いをされていることなど、マキアには届くことは無かった。
◇
「……主、なのか…………?」
「ああ。君の、ギガントマキアのご主人様だとも」
「……信じ難い」
「言いたいことは分かるよ。こんな見苦しい姿に成り下がった僕を認めたくないんだろう?何せ僕自身もこの姿を僕だと認めたくないからねえ……」
「黒霧には結局逃げられてしまったが、まあいい。今は君を取り戻すことが最優先だ」
「弔がダメになってしまった以上……君だけが頼りでね」
「おいで、マキア。裏切り者は粛清をしよう!!死柄木弔と!連合の者達に!!」
ガム「そもそも私同性愛者でも年下はちょっとタイプじゃないのよね。ダンディなおじ様とか好みなのよ」
ナガン「そ、そうか……」
ガム「おじ様の種になるショタに手を出すわけないってのにねえ?当時の警察も公安も人様を変態みたいにいいやがって……ハラワタが煮えくり返るごつ……!!」
ナガン(助けろナイトアイ)
サー(女子同士()で会話しててくれ。私は処理関係で今忙しいんだ!!)