おはよーごぜーまーす!!!
スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツを履いたばかりの正月元旦の朝のように。
いやあ、父ちゃんからも言われてたけどやっぱり俺は徹夜したらダメだな。ただでさえ頭で処理してる情報が多いってのに、頭の疲れをリセットする為の睡眠を省いたらああもなるか。
目が覚めた時には転孤達はいねえしオールマイトやナガンさんがいるだけで、全部終わってた。なんか腕痛めてた気もするけど気のせいだったか?
色々片付いた後は雄英高校に運んでくれてたそうで、どこぞの病院じゃなくて雄英の保健室で起きたっぽい。リカ婆いるし。
「ああ、起きてたのかい」
「ついさっき起きました。ご心配をかけたようで申し訳ないです」
「……まあ、アンタは真っ当な怪我でここに来る事は少ないからね。ちょっと意外だったよ」
まず攻撃受けませんから。受けてもリカ婆の手を借りなきゃならないレベルになる事はあんまりないし。
てか怪我?俺やっぱり手痛めてたの?
「覚えてないのかい?呆れた……」
「む、間飛少年。起きていたか」
「オールマイト……俺何したんです?」
「……緑谷少年のように、自分のパワーに耐えきれずに腕を負傷していた」
……
えっ、何で?俺が出せる100%じゃ発目のガントレットでやらかしたり*1でもしなきゃ反動なんか来ないはずなんですが。
寝ぼけて打ったから制御しきれなかった?いやそれでも制御も何も今更反動が来るほど脆い身体じゃないと思うんだが。それこそ入学したての頃の緑谷でもないんだ、俺の身体が【フィジカルギフト】の器としては十分じゃないなんて事があるのか?
クソッ、さっぱり分からん。発目の時はガントレットで無理やり閉じ込められた衝撃が返ってきた形での暴発だったし、受け取ってすぐの頃の反動は肉体が追いついてなかっただけだったし……。
「いいからさっさと帰りな。今日はもう自分の部屋でゆっくり寝るんだよ」
「……うっす」
「あ、間飛少年」
「?」
「今度、お礼に美味しいお店……奢らせてくれない?さすがに申し訳なくて……」
「……えーと、じゃあ、高くなくていいんで一年生でバーベキューしたいっス」
急にどうした脳筋。よく分からんけどそういうのより皆でワイワイ食いたいんで。そういうイベントをどっかで用意していただければ。ええ。
本日は土曜日。普通科はいつも四限で終わる半日授業の日だ。
しかし俺達ヒーロー科はいつも通りなら六限までしっかり授業があるはずなんだけど、昨日叩き潰した異能解放軍の関係で雄英も忙しいらしく四限で終わるんだとか。
相澤先生も心做しかいつもより草臥れ具合が酷い。あの人がゼリー飲料を一息に飲めないあたり本気で疲れてそうだ。
とはいえ俺達はまだまだ生徒であり守られる立場。先生達は疲れていてもそれを一切口に出さずに今日の授業を終えた。プロやな───なんて尊敬したくなる。
まあ終わったんなら昼飯食いに行かなきゃな。腹減った。
「お、いたいた……って、お前ら飯は?」
「ちょっと出遅れてな……今から出しに行くんだ」
「ん」*2
「珍しいポカすんだなお前」
「うっせ」
発目は先に席取ってくれてるし、先に座って食ってるぞー。
えーっと……あ、いた。えらい隅っこの方に座ったんだな。
「ほれ、お前の」
「ありがとうございます!中々来られないので忘れられたかと思いましたよ……?」
「人が多かっただけだって」
……なーんか最近の発目、寂しがり屋というか一人でいたがらないというか。お前そんなキャラだっけ?って感じになる事が多いな。今だってちょっとしおらしくなってるし。
何かあったのかー……って聞いてもコイツあんまりそういうの言わないしな。発目から話してくれるまで待つしかない。
「そういえばまた腕を怪我されたと聞きましたが……今度は何が原因だったんですか?」
「俺自身のミスとは思わねえの?」
「え?間飛さんミスするんですか?」
「本当に俺をなんだと思ってらっしゃる?」
化け物かなんかと思ってねえかお前。俺だって人間なんだからミスの一つや二つや三つくらいするわい。
本日の昼食はカツ丼。ここのカツ丼はカツに対して少しだけ米が多めに盛られてるから大変嬉しい。ガッツリ食いたい時は丼ものを選ぶといいと教えてくれた零には感謝しねえとな。
心操達はもう少ししたら来るだろう。今日はヒーロー科も昼で終わるから土曜にしちゃ生徒が多くてちょっと混んでるし。
「間飛さんから頼まれていたアイテムはまだかかりそうですね。調整に時間がかかってまして……申し訳ないです」
「いいよ別に。だいぶ無茶な事頼んでる自覚はあるし」
「いえいえ!私達メカニックは無茶な依頼にお応えしてこそです!今回は私が未熟なばかりに時間も手間もかけてしまっていますが」
結構ダメ元で頼んだのに二つ返事で受けてくれたからな。こっちとしては責める気なんか毛頭ない。むしろ受けてくれてありがとうございますって感じだ。
それに気のせいかもしれんが俺から依頼を持ってくるとコイツ生き生きしてるんだよな。やっぱメカニックってのは自分で弄る事もだけど、頼まれて物を作るってのも楽しいのか。父ちゃん見てると時々分からなくなるけど。
あ、それで思い出した。サポート科ってインターンあるのか?
「インターンですか?一応ありはしますが……ヒーロー科と違ってあっても三年生からですよ?」
「あー……そっかぁ」
「何かありました?」
「いや……うちの父ちゃんが『発目ちゃんインターン来てみる?』って言ってたから、聞くだけ聞いてみようと思って」
父ちゃんは一応社長……社長って柄じゃないけど自営業やってる。自分の工房を持ってて色んな所から仕事貰ってるし。
あんなんだけど腕がいいのは確かだから発目さえ良ければ、って思ってたが……そっか三年生からか。俺らがおかしいだけだよな。普通に考えりゃ大学生とかがやることを高校生からやってるわけだし。
「ん゙ん゙……!!私は行きたいのですがっ……!?多分っ……無理、でしょうねえ……」
「頼むだけ頼んでみたらどうだ?父ちゃん元雄英生だし上手く行けば許可降りるかもしれねえぞ」
「パワーローダー先生に相談してみますね!それまでは保留で!」
了解。特に今じゃなきゃダメって話でもないから気長に待ってるって言ってたし大丈夫だろ。
◇
「……で、泥花市で何があったんです?」
生徒達が寮に戻る頃、教師達は会議室に集まっていた。ヒーロー免許を持つ者と公安からの二人も含めて全員が揃っており、壇上に根津校長とオールマイトが立っている。
議題は昨日の一件について。突然間飛を貸せと言われた相澤は『間飛の力がいるほどの何かが起こっている』と判断して目を瞑った。それが片付いたと言うのであれば、ちゃんとした説明を求めるのは当然だろう。
「どう説明したものか……」
「とりあえずこれだけは聞いて欲しい。ヴィラン連合は今、我々と敵対していない」
「何……?」
泥花市で起こった事件。全国ニュースでも取り上げられたその詳細は『泥花市の市民の九割以上が異能解放軍と名乗る超大規模なヴィラン組織だった』というもの。尚、実際は全員が異能解放軍だったのだが、さすがにそれをそのまま報道するわけにはいかなかったらしい。
その泥花市に何故間飛を連れていったのかと言うと、件のヴィラン連合の仲間を攫われてしまった為に救援要請が来ていたのだ。
「何故、敵でないとはいえヴィラン連合のメンバーを助けるために間飛を連れていったんです?オールマイトも動いたんでしょう?」
「それ、は……」
「現状、ヴィラン連合が最も信頼しているのが間飛君だからなのさ」
「校長っ!?」
「もうこれは隠さない方がいい。我々ヒーロー達とヴィラン連合を繋ぎ止めてくれているのは彼だ」
そんな事をバラせばまた疑いの目が向けられるのでは、とオールマイトは根津を止めようとするけれど根津は淡々と返した。
根津の言葉への反応は二つに分かれていた。スナイプやエクトプラズムのような関わりが薄いヒーローは困惑しており、相澤や13号のような彼の人となりをよく知る者は納得していた。
しかしそれらとは別に『じゃあ内通者はやっぱり間飛だったのか?』という疑問も出てくる。
「いやそれはこの前青山って分かったろ?内通者が一人じゃないってのは有り得るけどよぉ……アレが内通者だとしたら裏切ったことにならねえ?」
「それは、そうか……」
「……公安の視点から言わせてもらうと、アイツが黒はまず無いぞ。今回もそうだったがオール・フォー・ワンと完全に敵対していると分かっているしな」
間飛についての言及はひとまずそこで止めた。問題はもう一つのことだ。
「タルタロスに投獄されたはずのオール・フォー・ワンが脳無の身体を得て活動していた……!?」
「それに加えてギガントマキア……どこにそんな戦力を隠し持っていたのか……」
「連合とは手が切れている事だけが救いですね」
打倒せしめた魔王が健在……健在かと言われるとだいぶボコボコにされていたが、タルタロスにいる魔王とは別にオール・フォー・ワンが存在しているというのはあまりに信じ難い。
オールマイトとトガ、連合と間飛が実際に対面しているとはいえそれでもニワカには信じ難いのだ。
クローンの類ならばともかくとして、何をどうすればオール・フォー・ワンが脳無になるのか。何よりオール・フォー・ワンが増えた原因も増やした理由も分からない。
「オールマイトは何か知らないのかい?心当たりでもいい」
「……考えられるのは、優れた肉体を求めている……くらいです」
「肉体って、何でそんな……いや、そうか」
オールマイトが推測で挙げたオール・フォー・ワンの目的。それは肉体を取り替えること。
猛威を奮っていた為忘れられる事が多いが、オール・フォー・ワンはオールマイトによって著しく弱体化していた。頭部の半分ほどを潰す大ダメージを与えており、例えどれだけの……どれほどの個性を持っていたとしても万全の状態には戻れないだけの痛手だった。
実際合宿や神野に現れたオール・フォー・ワンは口以外の顔のパーツを失っており、大量のパイプが繋がったマスクがなければ生存することさえ危うい状態だった。
そんなボロボロの肉体に嫌気が差し、新品の優れた肉体を求めていたのでは……とオールマイトは考えたのだ。
「そんな事出来るのかよ!?人間死んだらそこで終いだろ!?」
「……まさか【ワン・フォー・オール】のように個性に意志を残そうとした……のか?」
「っ……有り得る。オール・フォー・ワンが【ワン・フォー・オール】のソレを把握していてもおかしくはない」
ここに来てようやくオール・フォー・ワンの真の狙いにたどり着いた。まだ魔王との戦いは終わっていない。
相澤「それはそれとして連絡くらいしてください」
脳筋「いや、一応しようとは思ったんだけど……ゴタゴタしてたから夜中の11時ぐらいになっちゃって……」
ナガン「事後処理は本っ当に疲れたな……」