タルタロスの外で活動しているオール・フォー・ワンとその配下に対し、雄英高校が取れる手立てはそう多くはない。
それどころか積み重なるタスクによってどうしても割ける時間が少ない為にますます出来ることは限られてくる。
結局、雄英高校では後手に回らざるを得ないのだ。故に教師達はいつその時が来てもいいようにと万全の状態でいるしかない。
それ以上の対策も立てられず、今日も雄英高校は通常運転。普通に授業をして普通に一日を過ごしている。
ニュースで泥花市の地均しについて報道される今日この頃、ヒーロー科ではそういった報道陣対策の授業も行われている。
オールマイトとエンデヴァーの人気を分けた要因の一つともされている『愛嬌』や『親しみやすさ』というのは、プロヒーローとしてやっていくのにあって損は無い。
それに神野の時のように失言を引き出したがる記者も少なくないのだ。市民が市民を守るヒーローの足を引っ張るとは何事か、と言いたいけれどそれもまたある意味では仕方の無い部分でもある。
『事件から今日で9日……異能解放の思想を掲げていたとされる大規模なテロ組織が潜んでいたという泥花市では未だに不安の声が上がっています』
「……被害規模は神野以上、ヴィランの数も比にならない程多かったそうだな」
「うん……万単位の人数が揃ってるヴィラン組織なんて歴史の教科書か超常黎明期の話でしか聞いたことない」
(実はもう一桁多いらしいけどな)
だが最近ではその風潮も徐々に批判されつつある。神野の一件から組織だった……というよりは一人で犯罪を犯す度胸のないチンピラが手を組むという事例が増えてきている。すると今まではテレビの向こう側だった、或いは楽観視していられたヴィランが途端に身近な脅威と認識されやすくなった。
ニュースで取り上げられるヴィランともなれば相当な凶悪犯か大規模な組織かの二択である場合がほとんどで、それ以外は大抵活躍したヒーローのスポットライトの一つとして扱われている。
それ故にヴィランへの認識がどこか甘くなってしまい、結果として『ヒーローが何とかしてくれるだろ』と思われてしまっていた。
雑把に言えば国際的なテロ組織よりも近所の不審者の方が怖いというような話だ。皮肉なことに軽犯罪が増えた事でヒーローの有難みをもう一度理解させられているのだ。
「喜んでいいんだか悪いんだか……あんま嬉しくねえな」
「そうか?褒められたりすんのって嬉しくね?」
「上鳴さん、これは裏を返せば『ヴィランが活発化してるから求められてる』ので、ヒーローの支持率イコール治安の悪さでもありますわ」
「あ、そっか」
「その通りよ!!!」
八百万の言葉を拾い上げながら凄まじい存在感を放って教室に入って来たのはMt.レディ。時折ゲストが来る雄英高校だが、正に今評価が上がりつつあるプロヒーローに教室にざわめきが生まれる。
「Mt.レディ!?」
「うわああああああ!!?」
「お前本当に何があったんだよ……」
……一人ざわめき通り越して悲鳴上げてるけど気にしない。
相澤に目を向ければやはり特別講師として来てもらったようで、その授業内容は『メディア対策』だ。
Mt.レディ曰く今の風向きは一見良いように見えても、その裏側にはいつ来るかも分からない危機への不安や恐怖が隠れているのだ。
ショービズ色の濃さから舞台にかけるようなものだった声援が、煽られた不安や恐怖によって真に迫るもの……半ば娯楽だった光景に必死に祈るような声が増えてきているのだと。
「
「オイラが言うのもアレだけど、一番ショービズに染まってたのアンタだろ!?」
「お黙り!!」
コスチュームに着替えてグラウンドに!と言いつけられ、嵐のように過ぎ去っていったMt.レディを見送りながら『何だかなあ……』という空気になっていた。
◇
「ヒーローインタビューの練習よ!!」
(((空気が緩い)))
カメラや舞台を再現したセットでマイクを片手にMt.レディが宣言する。一応ちゃんとした授業だしこれからのヒーローには必須スキルなはずなのだが、何か全体的に緩い。
何かしら一仕事を終えたという体でインタビューを行い、彼女からの質問に答えたりパフォーマンスをしてみて欲しい、と言う。
それじゃあまずは……とMt.レディの目に留まった轟が選ばれた。舞台に上がると早速マイクを向けられる。
『凄いご活躍でしたねショートさん!』
「何の話ですか?」
『アンタ話聞いてた!?何か一仕事終えた体で!はい!!』
「はい」
これ一番最初に轟選んだのは失敗じゃないかな。彼のド天然ぶりを知るA組は苦笑いしつつも顛末を見守る。
『素晴らしい!!貴方みたいなイケメンが助けに来てくれたら私、逆に心臓バクバクよ!』
「心臓……悪いんですか」
『やだなにこの子!?ん゙ん゙っ……どのような必殺技をお持ちで?』
轟は少し考えるような素振りを見せると舞台から降り、右腕を振るうとそれに連動して中規模の、それでも巨大な氷塊が生み出された。
名付けられた技名は【穿天氷壁】。広域制圧や足止め・足場づくり等幅広く使えるいい技だ。そこに炎を交えると【膨冷熱波】というより攻撃的な技に変化する。
エンデヴァーも使っている【赫灼熱拳】は?と皆から尋ねられるが、それはまだ未完成。自分の技と言うには未熟なのだと。
『安心させたいなら笑顔をつくれると良いかもね。貴方の微笑みなんて見たら女性はイチコロよ♡』
「俺が笑うと死ぬ……!?」
『もういいわ!!』
とりあえず一人目が終わった事でいくつかの質問が上がる。その中の一つには『インタビューで必殺技を披露することもあるのか?』というものがあった。
「皆があなた達の事を知ってるワケじゃありません!必殺技は己の象徴よ?」
「象徴……?」
「そ!何が出来るのかを技で知ってもらうの」
それこそショービズ色の代表例ではと思われがちな必殺技だが、その実必殺技という形で特定の攻撃方法や挙動を決めておく事で説明の手間が省ける事が多いのだ。
例えばエンデヴァーの【赫灼熱拳:ヘルスパイダー】であれば、溜めて放たれた熱線によって絡めとって焼き切るという説明にも理解にも手間取る技。アレを画面の中で技名を言いつつ使っているだけで技名を言えば大体どんな事をするのかが伝わるようになる。
加えて必殺技を見せるというのは実力を見せることでもある。ヴィラン達への警鐘にもなれば、市民達の信頼を勝ち取る為の材料にもなる。
故にヒーローが技名を叫ぶのには大きな意味があるのだ。
「兄、インゲニウムの意志を受け継ぎ駆ける者であります!」
『誠実さが伝わるね!』
「博覧強記、一切合切お任せください!」
『自信は人を頼もしくするの!』
「私の前では全てが0kgなのですっ!」
『和らげるのも一つの才よ!』
「闇を知らぬ者に栄光は訪れぬ……」
『良い〜雰囲気良いよ〜!』
「俺の後ろに血は流れねえ!」
『ああー!兄貴ー!!』
実は不安視されていたA組だったが、何だかんだそこまで酷そうな人物は見られなかった。強いて言うなら賛否が分かれそうな爆豪とガチガチに固まっていた緑谷が不安ではあるが……こればっかりは適性というか、本人の性格の問題もあるので仕方ないだろう。
残り四人というところで我らが自称陰キャの番が回ってくる。
『IXAさん!!活躍見ました!』
「ありがとうございます」
『ご自身はどのようにお考えでしょうか!?』
「あの場での最善の行動が取れたと思います。被害の拡大を防ぎつつ、素早く無力化が出来たので自信に繋がりましたよ」
「……違和感凄ェな」
「アイツが敬語使って大人しくしてると不穏な気配しかしねえ」
「腹ン中でどうボケてやろうかとか思ってそう」
「お前ら間飛をなんだと思ってるんだ」
後でしばかれるぞ……と相澤は眉をひそめてA組を窘める。まあ分からんでもないが、と付け足したのであんまりフォローになってませんぜ先生。
あーあ。舞台の上の間飛が『後でシバく』って顔してるし。切島はともかく峰田と瀬呂は強めのグーが飛んできてもおかしくないぞ。
しかし実際間飛らしくないように見えるが、彼の外行きの猫被りは大抵こんなものだ。そもそもやらかしてる事が明後日の方向に突き抜けているだけで、本人は割と真面目だし悪ノリするしな普通の男子高校生だ。
ちょーっと実力が化け物じみてるせいで勘違い、というか忘れられることが多いけれども。
『何か必殺技とか!今見せられるものってあります?』
「えーと……じゃあ、最近完成した技を一つ」
そう言うと間飛は受け止める相手が欲しいからと切島を呼び、ガチガチに防御を固めるように頼む。
それに対し切島は【安無嶺過武瑠】を発動。そこまでせんでも、って?ほぼオールマイトと同等のパワーを前にお前は何を言ってるんだ。*1ここまでしてようやく同じ土俵に立てるかどうかという話だぞコノヤロウ。
全力でガードを固めた切島の前に立ち、腰を落として深く構え───
ガゴンッ!!!
『うひゃあ!!?』
「っ……!!がぁ……ぁ……!?」
「っふぅ……」
死穢八斎會の時にも使用していた技、逕庭拳と呼ばれるそれを完璧に仕上げた一撃。恐るべきはその精度の高さ。
「……と、まあ……無駄な破壊力を撒き散らさずに打てるので結構使い勝手が──」
『やり過ぎよバカタレ!?』
「あ痛ァ!?」
それはそれとしてデモンストレーションでやっていい威力じゃない。【安無嶺過武瑠】で受けた上でダメージの大きい切島を指差したMt.レディに引っぱたかれた。
地面を見れば分かるのだが、ドッシリと構えていた切島にダメージを与えた上で地面を抉りながら後退させていた。こんなもん木材やレンガにでも打とうものならばショットガンみたいな事になる光景が見えてしまう。
というか間飛の技は基本過剰火力なのだ。デモンストレーションで見せろと言われてもそりゃそうなるとしか。
「これ俺が悪いンスか!?あれでもだいぶ大人しめの技にしたんですけど!!?」
「アレで大人しめとかどんなパワーしてんのよ!?オールマイトのスマッシュくらいあるじゃない!!」
「承知の上で頼んだのでは……?」
「くっ……!私が悪いのかしらコレ……!?」
ちょっとインタビュー練習どころじゃない。大丈夫と言い張る切島を保健室に担ぎ込みつつ、相澤のO☆HA☆NA☆SHIが始まった。もうだいぶグダグダになってしまっている。
「……インターン増やすように言われたからメディア対策をちゃんとして欲しかったんだが」
「公安からでしたっけ?」
「もうそれどころじゃないな今日は……ったく」
カメラマンの役をしていた人達からも呆れたように呟かれてしまってはどうしようもない。相澤に声をかけてこの後どうしましょ?と半ば分かりきったことを尋ねることになってしまった。
間飛「すまん切島。大丈夫か?」
切島「お、おう……!俺ァ倒れねえよ!!」
轟「無理すんな。顔真っ青だぞ」
瀬呂「スゲェ音してたしな。休んどけよ」
相澤「何で分かりきった地雷踏み抜いたんですか」
Mt.「本当に申し訳ありませんでした……」