対ロボット戦闘訓練が終わったその後、緑谷と爆豪と間飛の三人はオールマイトにいつもの場所へと呼び出され、ソファに腰掛けて対面していた。
精神世界的な場所で度々歴代継承者と会っているらしい緑谷の【ワン・フォー・オール】に宿る歴代の個性を再確認しようということで呼ばれているのだが、オールマイトはひたすらに困惑していた。
「……そんなに会う頻度高いの?」
「はい。二日に一回くらいの感じで……」
「それ疲れるんじゃねえのか」
「歴代も暇なんだろ。あの腐れ外道の本体がほぼ終わってるし」
何か思ってたよりもずっと歴代の方々がフランクに会ってるっぽい。必死こいて纏めておいた歴代継承者の詳細ノートが完全に無意味になった気がする。
一応本人も知らない何かがあるかも知れないので……と緑谷にフォローさせてしまっている時点でもうグダグダ感満載だけれど、とりあえず話くらいは聞こうか。
「【黒鞭】はどうだい?今日はそれなりに使いこなしてるみたいだったけど……」
「あー……その、それなんですが」
「?」
「実は【黒鞭】以外にも個性が出てきてまして……」
「うっそぉ!!?」
やっぱダメかもしんない。
実は冬休みが終わる二日前。【黒鞭】の練習をしようとしていると違和感に襲われていた。
──アレ?浮いてね?
【黒鞭】を使っての捕縛や拘束に加え、立体的な機動が出来ないものかと試していたのだが……時々明らかに落下までがワンテンポ遅れていた。
まさか、ね……?と恐る恐る【黒鞭】で飛び上がった瞬間、丹田に力を入れて空に浮かぶイメージをしてみると───
「数秒だけど【浮遊】してました」
「ええ……」
「ケッ、今更空を飛ぶ必要もねえだろうが」
「それなー……歴代の方々には悪いが、習得に優先順位付けとくべきだった」
「思ったより不評だね!?」
弟子の中で師匠泣いてるかもしんない。オールマイトはそっと胸の中で手を合わせておいた。
しかし間飛や爆豪が言うことにも一理ある。今の緑谷は【フルカウル】が
ノートを流し見している爆豪からしてもソレ単体で強いと思えるような個性ではないけれど、超パワーの【ワン・フォー・オール】と併用すれば爆発的に進化するようなものばかり。その中で寄りにもよってそれかあ……という感じなのだ。
「【危機感知】に【煙幕】、【黒鞭】に【浮遊】か……二代目と三代目は?」
「えっと、二代目が【変速】で三代目が【発勁】っていって……」
ノートには載っていない二名の個性についても緑谷に尋ねてみれば解説が返ってくる。
【変速】は触れた物の速度を慣性に関係なく変化させられる能力で、【発勁】は一定の動作を繰り返すことで運動エネルギーを蓄積出来る能力だ。
この二つの個性だけでも一瞬であればスピードとパワーを爆発的に飛躍させられる。
「……どう考えても【変速】か【危機感知】だろ。次点で【発勁】」
「【煙幕】は仕様によるな。ある程度指向性を持たせられるなら割と使い勝手はよさそうだが」
「わ、私は【浮遊】がいいと思うんだけどなあ……?」
能力を確認すると尚更【浮遊】は後回しで良くね?感が増してきた。跳躍力でカバー出来るのが悪い。
しかしオールマイトに言わせればそもそもそんな事を考慮していた訳では無いので当然だ。まさか【ワン・フォー・オール】と共に前任者の個性までもが継承されるなどと思ってもみなかったのだ。
その個性なら【ワン・フォー・オール】と相性がいいなどと考える余裕はなく、地獄の中で絶やしてなるものかという強い意志で託して託されて来ただけだ。
事実ノートに纏められた情報では誰も彼もが平均寿命には程遠い年齢で死を迎えている。
「どの道発現しちゃったからには【浮遊】を慣らすしかないんじゃないかな……?」
「そう、ですね……今からまた別の個性を引き出しても制御に苦労するだけですし」
「飛行能力だろ?ホークス辺りでも参考にしてみたらいいんじゃね?」
「いやハードル高いって」
せめて自分の弟子はそうならない事を祈ることしか出来ない。オールマイトは困った顔をしながらも弟子が順調に育っていることを喜ばずにはいられなかった。
◇
「何してたんだよ遅ェーよバ火力トリオ」
「早く手伝わねえと肉食うの禁止だからな!」
バ火力トリオis何。手伝うからヴィーガン食の刑はやめてくれ。
鍋パするからさっさと帰りたかったってのに、思ったよりも時間がかかってしまった。言いたかねェがオールマイトは情報の更新が遅いんだよな。七割ぐらいグダグダなまま終わっちまったぞ。
闇鍋とまではいかない程度に好きなものを入れようぜ!という感じの鍋パだから俺も用意はしている。見るがいいこの冷凍カニを。
「カニってマジか!?」
「零の……氷叢の人からエラい金額のお年玉渡されるんだよ毎年」
「……幾らくらい?」
「六桁」
貰い過ぎな気もするけど『頼むから受け取って欲しい……!!』と言うもんだから毎年恐縮すんだよな。こっちも零に同じ額渡すようにしてるらしいからトントンだとは思うが。
向こうでは八百万さんがお茶っ葉入れようとして麗日さんに止められてるし、爆豪が繋がったニラを見つけて犯人探ししてるし。犯人轟かい。
コップを用意したり卓上コンロに火をつけたり、そうこうしているうちに鍋パの準備が整った。
「では……」
「インターン意見交換会兼!始業一発気合入魂鍋パだぜ!!会を始めよう!!」
「「「イェーイ!!!」」」
カンパーイ。ちょ、轟強いって。こぼれる。
「寒い日は鍋に限るよなァ〜!!」
「それねぇ、まだ火通ってないよ!」
「わざとやってるでしょ……」
肉を噛み締めて目を細める切島に、透明な指でどれかを指しながら笑う葉隠とちゃんとツッコミを入れてくれる尾白。
お預けされていたという事もあって何人かががっついている中、耳郎が感慨深そうに呟いた。
「暖かくなったらもうウチら二年生だね」
「あっという間ね」
「怒涛だった」
もう数ヶ月もすれば新入生が後輩になり、追いかける立場にあった自分達は追われる立場にもなる。右も左も分からなかった頃と比べるとしっかりと育っているだろう。それにしてもやはり時の流れというものは早いのだなと理解させられる。
しかしヒーロー科は思ったよりも上級生との絡みが無かった事を思い出し、せいぜい何かの行事でチラッと顔合わせをするかどうかだろうかと苦笑いを浮かべている。
「まだ約三ヶ月のこっているがな。期末が控えていることも忘れずに!」
「やめろ飯田!?鍋が不味くなンだろォ!?」
「……?味は変わんねえぞ?」
「おっ、お前……!?それもう天然とかじゃなくね……!?」
「皮肉でしょ。期末慌ててんの?って」
「轟がそんな高度な皮肉出来るわけねえだろ!?」
「おいそれどういう意味だ」
いつもの調子で生真面目に話す飯田を止めてみれば、まさかの轟と耳郎にグッサリ刺される峰田。あんなド級の天然、ド天然がそんな頭を使った皮肉が出来るわけあるかいとカウンターを決める峰田。
突然のコントじみたやり取りに全員が思わず笑ってしまい、何人かは耳郎の言葉に「ヒェッ…」と期末を想像して萎びてしまう。
少し前まではインターンでヴィランとバチバチにやり合っていたとは思えない平和な光景。この平和がずっと続いて欲しいと願うのはヒーローを志す者でなくとも当然だろう。
静かに雪が降る夜はゆっくりと過ぎていく。
三月下旬。
この日……街からヒーローが消えた。
七代目「……グスン」
四代目「その……ドンマイ」
二代目「ほう?あの小僧お目が高いじゃねえか」
五代目(あんまり否定できないのが何とも……)
三代目「まあ今は過剰火力にしかならんしな」
六代目「指向性……持たせられるかな?」
初代(何か仲間外れ感……)