え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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勝者達

 

 

 

 オール・フォー・ワンの討伐成功。

 そのニュースは瞬く間に日本中へと知れ渡り、ヒーローや市民を沸かせると同時に裏社会の人間達へ無慈悲な破滅を突きつけた。

 

 市民の避難誘導に回っていた雄英生達やサイドキック達から歓声が上がり、魔王討伐を成し遂げた事が伝えられた市民達もまた喜びの声を上げた。

 

 オール・フォー・ワン、殻木球大、リ・デストロ、オーバーホール……敵戦力の幹部格全てを討伐、及び捕縛に成功。ステラを除いた12体のハイエンド脳無も仕留められ、残る通常の脳無達も時間の問題だろう。

 未だ蛇腔病院跡地周辺では脳無との戦いが続いているけれど、そこには絶望も死の気配もない。

 

「主サま。お疲れでしょう?」

「あ?あー……おう」

「……信じられんな。本当にコイツは脳無なのか?」

「らしいッスよ。ドクターとやらが見た目に凝ったらしいッス」

 

 幾ら頭のおかしい脳筋陰キャの間飛であっても、戦闘中常に探知能力をフルで使用していたこともあって凄まじく疲弊している。脳無討伐戦に参加したいところだが、疲れきった頭がそれを許してはくれない。

 地べたに正座したステラの腕に引かれるままに彼女の足の上へと腰を下ろす。思考が上手く働いていないのか気にする余裕がないのか、豊かな胸部装甲をヘッドレストのように扱っているのに平然としていた。

 

 それを真横で見ていたエクスレスが真っ当な疑問を口にするが、間飛としては『本人がそう言ってたしそうなんじゃね?』としか答えられない。

 

 少しすると黒霧によって地下から脱出していた相澤とプレゼントマイクの二人が到着した。自分達が来る前に終わったことをちょっぴり残念がりながらも、今度こそ完全に忘れオール・フォー・ワンを終わらせた事を知って小さく笑った。

 

 それはそれとして、だ。

 

「間飛」

「はい?」

「その脳無なんだが……あー……多分しばらくの間は保護観察処分になると思うぞ」

「……まあ、でしょうね」

 

 味方に引き込めたとはいえその存在はあまりにも黒に近いグレーなものだ。彼女の身柄に関しては如何に間飛であっても簡単にどうこうできる権利はない。

 本音を言えば黒霧(白雲)の件もあって相澤にとっては脳無とは憎悪すら向けるような存在……なのだが、脳無として改造を受けた時点でどうしようもないという事も理解している。

 

 もし脳無として改造された目の前の彼女に家族がいるのならば、その家族の元に返してやるのが一番ではある。

 

「そうなんですカ?」

「遺族の方とか……いるのか?」

「……相澤先生。ステラの素体になった女性ヴィラン、70年前の人ですよ」

「えっ」

「……ああ!どっかで見たことあると思ったら思い出した!!先週テレビでやってた『歴史に残すべきヴィラン名鑑』にいたな!」

 

 ところがどっこい。彼女の素体となった人間は70年前の人間だ。どのくらい前かと言うと捕まえたドクターが【超常特異点】なる論文を出したりオール・フォー・ワンに忠誠を誓ったときぐらい前の人間だ。

 特殊な個性で誤魔化さなければ人としての寿命を迎えていてもおかしくないくらいの時間が経っており、それに加えてそのヴィランが天涯孤独だったこともよく知られていた。

 

 オブラートに包まずに言うと、返すべき家族というものがないのだ。むしろそんな番組で紹介されるだけの罪を犯していたヴィランが素体ということもあり、下手に放逐すれば迫害されてまたヴィランに……なんてことも考えられる。

 

「俺のもの、ってのはその場の勢いで言いましたが……今の俺に責任が取れるかって言うとそんな気もしませんしね……」

「有用な個性に加えてこちらに協力的、か。それなら監視の意味も込めて公安にでも──」

「嫌でス」

「「えっ」」

 

 ステラさん?

 

「……それは、どういう?」

「私はご主人様の物でス!!」

「おい間飛どういう事だ」

「こっちが聞きてえッスよ!?」

 

 ステラさん??

 

「だってあんなに情熱的に口説いてくれたンですヨ!?」

「……間飛何て言ったの?」

「えーと……」

 

───────

 

『何でお前の方だけ無駄にディテール凝ってんの??普通にエロくて綺麗な見た目しててバグるんだが???』

『クッソ……何とか味方に引き込みてェー……』

『お前俺の物な!』

 

───────

 

 

 ビックリするくらい口説いてた。いいわけのしようもないじゃん間飛。そりゃあベースの人間の乙女回路にぶっ刺さる褒め言葉しか吐いてないんだから執着もされる。

 

「……要は褒められて嬉しかったからついて行きたい……で、いいのか?」

「あとは……か、かっこよかったかラ……」

「先生。この子お持ち帰りしちゃダメですか?可愛いにもほどがあるんですが」

「落ち着けバカ」

 

 それに起動されたばかりのハイエンド脳無の情緒は幼い。実質2m超の幼女である。

 そんな情緒ならば好意を持った人間について行きたいと思うのも当然と言えば当然で、間飛にしがみついたまま離れるつもりはなさそうだ。

 

 また面倒ごとが増えた……と気だるげにため息をつく相澤。この分だと無理やり引き剥がそうとすれば暴れかねない。

 

「……どちらにせよこの場でどうこう決めることは出来ない。ひとまず手綱を握っておけよ」

「はい……」

「っ〜〜〜♪」

(イヌみてえに擦りついてら)

 

 相澤はとりあえず考えることをやめた。答えが出せないことにいつまでも頭を使ってはいられないのだ。

 

 ……決して面倒くさくなったわけではない。決して。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「っハア……!しんど。手のひら焦げたじゃねえか、クソが」

 

 リノリウムの床が、病院の痕跡が残る場所で一人荼毘はひっくり返ったままボヤいていた。

 

 オール・フォー・ワンの討伐に貢献は出来た。しかしエンデヴァーもまた貢献していた。何ならリ・デストロとハイエンド脳無をも仕留めているので功績としては完全に負けた。

 せめて自分の手でオール・フォー・ワンを追い詰めるまでいけたならば誇ることも出来ただろうが、エンデヴァー(クソ親父)の名前を塗り替えるには至らない所で止まってしまった。

 

 きっとこの先これ以上の功績を残せる機会はない。あったとしても世間の注目が集まるような事にはならないだろう。そう思うと途端に燃え尽きたような気分になってしまう。

 皮肉なものだ。死に損ないの燃えカスとして生きていた頃の方がよっぽどギラギラとしていた。いつの間に自分はこうも全てをどうでもいいと思えるようになってしまったのか。

 

「この後どーすっかなぁ……」

「……家に帰らんのか」

「げ」

 

 ボソッと零した言葉を拾い上げたのは他でもないエンデヴァーだった。

 かつてのNo.1に固執して曇った瞳はどこへやら、酷く何かを期待しているような目を見て思わず顔を顰めてしまう。何が言いたいのか顔を見ただけで分かってしまった。

 

「人の顔を見て『げ』とは酷いことを言う」

「そりゃあ言うだろ。俺とテメェの因縁を考えてみやがれ」

「……そうだな」

「ふん……つか、テメェは脳無倒しに行かねえのか」

「排熱が出来ておらん。今向かったところで満足に戦えんのだ」

 

 相変わらずだな、と鼻で笑い飛ばそうとして……自分も自分の炎が原因で死ぬ程の反動があったなと自嘲した。

 

 少し勢いをつけてムクリと起き上がる。地べたで胡座をかいたままボンヤリと戦いの様子を見つめながら燈矢は尋ねた。

 

「……この後の俺の扱いはどうなるんだ?タルタロス送りか?」

「……分からない。お前が荼毘を名乗っていた間に何をして来たのかによるだろうな」

「それもそうか」

 

 何してたっけなあ。燃え尽きてしまった若者のように荼毘は呟いた。

 

 

 あの日……父親が来てくれなくて、山火事で死んでしまったあの日から、ずっとエンデヴァーの嫌がることを考えていたはずだった(・・・・・)。どうしたらアイツを破滅させられるか、絶望させられるか。そればかり考えていた。

 荼毘。『火葬する事』を指す名を名乗っていた男は死に場所を復讐の焔と共にただの少女に消されてしまった。

 

 今この瞬間にエンデヴァーへと攻撃すればその復讐はすぐにでも達成されるだろう。現にエンデヴァーは普段自分の顔を隠している炎さえも出せていないのだ。

 

 絶好の機会を前にした燈矢は手のひらを翳し……しかし何をするでもなく下ろした。

 

「もうどーでもいい……」

「……」

「あんだけ痛くて苦しかったのになあ……人間って現金なもんだよな。こうして治っちまっただけで死んだ怒りすらろくに継続しちゃくれねえ」

 

 絶え間なく訪れる激痛と死への恐怖こそが怒りの原動力だった。お前が俺を見なかったせいで俺はこんなんになっちまった、と自分に降り注ぐ痛苦全てを薪を焚べるように怒りへと変えていた。

 

 人の怒りのピークは長くても十秒と保たない、とは誰の言葉だったか。復讐の焔へと焚べる為の薪が途絶えてしまえば後に待つのは冷静な思考による振り返りだった。

 炎を使う度に思い出す父親の必死そうな顔。焼け爛れた自分の手のひらを見つめていれば否が応でもその理由に気づいてしまう。

 

「……アンタは最初から俺を見てたんだな」

「燈矢……」

「自分の子供だからこそ、守りたくて俺を止めたがっていた……死なせたくなかったから」

「燈矢っ……!」

「それはそれとして家族に対してあの対応はないわー」

「燈矢っ!?」

 

 それとこれとは話が別だ。

 

 言いたいことは分かるししたいことも分かる。自分も中々のクソガキだった自覚はあるけれど……それはそれとして子供に取っていい態度じゃねえし子供に見せていいやり取りじゃねえし。

 

 アレだの生きる世界が違うだの、自分の子供にしていい扱い方じゃないだろう。当時は何も思わなかった燈矢だが、自分が原因で夫婦喧嘩になっていたのだ。罪悪感で押しつぶされるでしょうが。

 

 父親が子供にそうであるように、燈矢もまた炎司へと言いたいことがいくらでもある。

 

「よっ……と。さてエンデヴァー」

「な、何だ……?」

「タルタロス送りになってもかまいやしねェが……そん時ゃタルタロスの職員の間でエンデヴァーのマル秘エピソードが話題になると覚悟しとけ」

「お前何を話すつもりだ!?」

 

 心当たりしかないもんね。そりゃ怯えるわな。

 

 立ち上がった燈矢は手の中に小さな炎を生み出し、ニヤリと笑い───駆け出した。

 

 

「そこで指咥えて見てなNo.1!テメェの息子(・・)の活躍をボーッと突っ立って眺めておけ!」

「っ……そうはいかんな!俺はヒーローだ!」

「ハッ、だったら競争だなァ!!」

 

 まだ排熱も終わっていないだろうに、滝のような汗を流しながらもエンデヴァーもまた獰猛に笑って駆け出した。

 

 

「オラァ!【赫灼熱拳・燐】!!」

「待てお前何だそれは!!?」

「テメェにゃ絶対手に入らねェ俺だけの力だよ!」

「頼むから待て!?せめて説明しろとおおやあああああ!!?」

 

 






間飛「死ぬほど頭痛ェ」
相澤「頭痛薬いるか?」
マイク「何で持ってんだよ」
相澤「さっき黒霧が渡してきたぞ」
間飛「わあ、気遣いの人」

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