遅刻しました。申し訳ありません。
オール・フォー・ワンの討伐に始まり敵か味方か分からなかった自由連合の立場が決まったり、雄英BIG4と名高い彼らを始めとした三年生の卒業……たった一ヶ月の間に起こったとは思えない濃度のイベント達。
それらも数日としないうちに過去のものになる。別れがあれば出会いがあるのが世の常、卒業する生徒がいるのならば入学してくる生徒だっている。
中学校の時とはまた違った後輩が出来る、という自分ではどうしようもないだけに不安も期待も凄まじいが果たして彼らに出来た後輩とはどんなものか。
ひとまず前年度の自分達とは違って入学式にちゃんと参加出来たらしいことは確認できたが果たして。*1
「オイラ……後輩女子からチヤホヤされる予定立てたんだよ」
「峰田。それは予定じゃねえ……願望だ」
「腐っても雄英体育祭に出た上にヴィランとも戦ってきたからさ、沢山!とは言わずともせめて一人か二人くらいは『えっ?あの【グレープジュース】さん!?』って言われたかったンスよ」
「ヤオモモ今のうちに拘束具作っといてー」
「畜生……!持ってかれた!!」
「元々お前のものじゃねえから」
「アイツらはそれこそ雄英体育祭でもインターンでも活躍してただろ」
「峰田ちゃん通常運転ね。ケロ」
結論から言うと後輩達はちゃんといい子だし先輩として尊敬してくれていた。極一部だけ。
尊敬の眼差しが向けられたのはA組だと主に六名。雄英体育祭で上位を飾った爆豪と間飛、そこにエンデヴァーの息子という評判も混ざった轟。インターン先での活躍が伝わっていた八百万と麗日と梅雨ちゃん。
特に後半の三名は女子からの尊敬が強く、同じ女子として憧れますだの貴女みたいに色んな人をサポートしたいだのとドストレートに褒められていた。
男子三人はというと、男子のみが爆豪で女子多めが轟。間飛はそれぞれ同じくらいの注目を集めており、三人全員が顔合わせ初日から後輩の波に飲まれかけていた。
「や、やっと解放された……」
「…………」*2
「ちっ、鬱陶しい」
「だいぶ揉みくちゃにされてたけど大丈夫か?」
「「「全然」」」
後輩から尊敬されるのは嬉しい。けど訓練も授業もまだ受けてないのにどっと疲れた。これもファンサが出来るようになる為の訓練だと言われてしまえば閉口するしかないが。
そもそも雄英生という時点で注目が集まるのは確約されているようなものではある。教師からすれば慣れろとしか言えないけれど、流石に入学初日から先輩包囲網を築くとは思わなかったのか少し同情的な視線を向けていた。
時間が経てば徐々に落ち着きを取り戻していき、相澤が教室のドアをガラリと開けた時には全員が席について静かに待っていた。
「はいおはよう。今日からお前達は二年生……後輩が出来て追う一辺倒の立場から追われる立場にもなったわけだ」
(物理的に追いかけられたんですが)
(多分そういう事じゃないとは思いますが滅茶苦茶追いかけられてる奴らいましたよ)
何故か微妙な顔をしてる生徒がいることに気づいたが相澤は見なかったことにした。
「せいぜい一年生に負けないようにプルスウルトラの精神で頑張ってくれ。それじゃあ授業を始めるぞ」
「「「はいっ!!」」」
◇
授業描写をすっ飛ばしてお昼休み。ランチラッシュの食堂に向かえば新入生が目をキラキラさせて食券機の前で悩んでいたりしていた。
そういえば一年前の自分達もこんな感じだったなあ、と微笑ましい目で見る──……いや邪魔だわ。腹減ってるからはよ決めてもろて。
「二年になっても何も変わらねえなお前……」
「たった一年で何が変わるというのですか間飛さん!あ、やめてください。そのジト目ちょっと心に来ます」
「……今度パワーローダー先生に話持っていくか」
「何をするつもりです!?」
間飛は通常運転。子猫を咥えて運ぶ親猫のように、食事を忘れがちな発目を連行している。これでも間飛が来たぞ、と同級生や先生に言われれば手を止めるようになっただけまだマシなのが酷い。
「……お前ら新入生にそんな光景見せてやるなよ」
「文句はコイツに言えよ。飯食わずに倒れられた方が困る」
「ん」*3
「え、これもしかして恥ずかしいやつでした?聞いてないんですが?」
言ってねえし、とは間飛の言葉。先程間飛が来たら〜……と言っておいてなんだが、今日ばかりは手を止めたくなかったのかそれを無視して作業を続けようとしていた。
なので逃げられないように俵担ぎにして発目を回収。しばらくはジタバタともがいていたが、間飛のパワーに勝てるはずもないので大人しくされるがままにしていた。
それを見ていた新入生はというと普通に考えたらかなり非常識な光景なのだが、入学したばかりのピュアな彼らには「これが最高峰のヒーロー科がある学校か……!」とよく分からん解釈をしてくれていた。絶対違うからね?
今更恥ずかしくなったのかまた暴れようとしたが、その前にストンと降ろされてしまった。とりあえず珍しく仕事をした己の羞恥心に従って間飛の背中をポカポカと叩いておいた。
注文した料理を受け取っていつものように四人で集まって席につくと、話題になるのはやっぱり新入生達について。
「A組はひたすら囲まれたな。凄かったとかカッコよかった、って言いながら揉みくちゃにされてた」
「お前は?」
「……中学生ってド派手な一撃に憧れるだろ?男女問わず」
「大体察した。お疲れ」
尚、男女比を伝えると小大が間飛のスネをつついていた。何?と視線を向けられても特に何も言ってくれないけど。
「B組はどうだった?」
「人が集まってたのは拳藤と……何故か俺のところにも来た」
「お前の所にはそりゃ来るだろ?」
「何故来ないと思ったんです?」
「ん」*4
「そ、そうか……?」
一方でB組はどうしても話題性ではA組に劣るものがあった為か、40人のヒーロー科一年の半分しか見に来なかった。
20人分中15人は拳藤の方に向かい、5人が心操の元に。物間は物間物間してたのでちょっとドン引きされていた。
心操からすれば何で俺に?という気持ちになったのだが、間飛達からすればそりゃ来るよ、としか言えない。体育祭で普通科として紹介されていたのに、そこからヒーロー科への編入まで漕ぎ着けてみせた普通科の希望の星でもあるのだ。
故に、ヒーロー科からは5人しか囲まれなかった心操だが普通科の方に行けばほぼ全員から質問攻めに遭うだろう。
新入生の話題で落ち着いた頃にはまた別の話……二年生という立場になったことで近づいた卒業後はどうするの?という話に。
「B組はサイドキックから始めようかって人が多いな。最初から事務所立ち上げて、ってのはハードルが高いしな」
「ん」*5
「私は既にお誘いがかなり来てましたね。この前卒業された絢爛崎さんからも来てました」
「スゲーな。内定貰ってるようなもんじゃん」
「今はそれよりも開発優先なので様子見ですね」
入学したばかりの頃は将来の活躍に夢を馳せていた。しかし一年間みっちりと授業を受けて訓練を受けてインターンにも出れば流石に現実を見ることになる。
ほとんどのヒーロー科卒業生はサイドキックデビューから三、四年後に独立する形で事務所を立ち上げることになる。彼らも例に漏れずその形でヒーローとなるだろう。
では間飛はどうするのか。
「俺?俺は大学行くよ?」
「「「えっ?」」」
おっと聞いてない話が出てきた。小大もこれには普通にリアクションを取るくらいには衝撃的な発言だった。
「だ、大学……?マジか」
「短大だけどな。行先も大体決めてる」
「……ん」*6
「何をされるおつもりで?」
「ちょっと
間飛のやりたい事。かつてはミルコにも語ったソレ。
──今の個性は発現した瞬間から“迷惑をかけないように”制御方法を教えられることがほとんどですよね。
──でも、ずっとそう言われるから『個性は危ないもの』という認識が拭えない。
──あくまでも身体機能の延長線なのに。
──10人いれば10通りの普通が、100人いれば100通りの当たり前がある時代なんです。
──個性への価値観を変えたい。
──それが俺のやりたい事です。
言葉尻だけを捉えればかつての異能解放軍にも近い考え方だが、根底はまるっきりの別物。
未だに根強く残っている個性は恐ろしいもの、決して使ってはいけないものという認識を変えたい。ただ生まれた時から持っていただけの力を忌避して欲しくない。
だから、自分がやる。
自分の力を怖がっている人の前に立って『お前の力なんて怖くもなんともない』と笑ってやる為に。危ないと思ってる個性を『何が危ないんだこんなもの』と跳ね除けてやる為に。
「昔虐められたり個性で悩んだりしてる奴見てきたからなあ……ただヴィランぶっ飛ばすだけじゃ何にもならねえ気がして」
「……お前滅茶苦茶考えてたんだな」
「ヒーロー免許もあるからストレス発散には事欠かないし何とかなるだろ」
「ヴィランはサンドバッグじゃありませんよ?」
これまた珍しい発目のツッコミ。しかし間飛は少し口角を上げてこう言い返した。
「なあに、悪党を殴るとちょっとスカッとするだろ?それでいいんだよ」
1年A「あれ絶対付き合ってるだろ……」
1年B「でも別の女子とも仲良くしてるぞ」
1年C「これが雄英か……!」
雄英「風評被害です」