え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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ブレる銃口

 

 

 

 レディ・ナガン。【ライフル】の個性を持ち、遠距離攻撃をメインとするヒーローの中ではトップクラスの実力を持つ狙撃手だ。

 

 かつては公安委員会の下でヒーロー社会に仇なす人間を秘密裏に処分しており、煌びやかなヒーロー達の裏側で汚れ仕事に従事し続けていた。

 

「悪いがこっちもそんなに余裕がある訳じゃなくてね。いつ【IXA】が来るか分からない以上時間はかけられない」

 

 その銃口は今。闇夜を切り裂くように希望の象徴へと向けられている。

 

 右腕を折りたたむようにして突き出された肘……から伸びる銃身。どこに収納されていたのかと不思議な程の長さと大きさのライフルが突き出ていた。

 

 緑谷のデバイスを破壊してからそう経っていないというのに次弾が放たれる。極小のマズルフラッシュが瞬くよりも早くその場を飛び退く緑谷。雨音が響く夜空の下のビル群を縫うように特徴的な弾丸が暗闇を貫いていく。

 

(幸いにも電話中に破壊された!ホークスがオールマイトにも伝えてくれていると思うけど、相手が誰なのかまでは伝わっていない……!)

 

 緑谷は壊れたデバイスを回収しつつ【黒鞭】を伸ばしながら頭を回す。

 

 これまで倒してきたダツゴクは誰もが迷う余地のない悪人であり、同時にオール・フォー・ワンへの手がかりを何一つ持たない実力が高いだけのチンピラばかりだった。

 

 しかし彼女(ナガン)は明らかに違う。オール・フォー・ワンに繋がる何かを確実に有しており、チンピラと違って確かな目的を持っている。

 であればここで彼女を打ち倒し、オール・フォー・ワンや死柄木弔の情報を得るべきだと思ってしまう。

 

 

 そう、考えてしまった。

 

 

「──は」

「ただ真っ直ぐに撃ってくるとでも思ったか」

 

 

 温い思考回路を張り飛ばすような曲射が緑谷を捉えた。間一髪のところで手が間に合い掴むことに成功したけれど、スナイパーライフルの一撃は如何に【ワン・フォー・オール】のパワーが凄まじくとも簡単には止まらない。

 

 それだけではない。着弾を確認したナガンがダメ押しとして更にもう一撃を加えた。バチィッ!!と弾けるような音。貫通した時のソレとは異なる音にナガンは顔を顰めた。

 

「……二発も防がれたのは初めてだ」

 

 曲射は掴み取られ、もう一撃もガントレットらしきもので受け切られた。戦闘不能には程遠いダメージだろう。そうアタリをつけたナガンは一度銃身をしまい込み、虚ろな顔の同胞に視線を向ける。

 

「オヤジ……」

「……ちっ」

「オヤジの元へ……早く……」

 

 最早生きているのかさえ疑わしい生ける屍。頻りにオヤジオヤジと繰り返すその男の正体は死穢八斎會若頭【オーバーホール】だ。

 彼の腕は肘から先が失われており、かつて緑谷達を苦しめた個性の発動条件である『手で触れること』を未来永劫満たすことはなくなっている。

 

 何故この二人が共に行動しているのか。そこに深い理由はなく、オール・フォー・ワンによってタルタロスから解き放たれた時にナガンによって何となくで連れて来られているだけに過ぎない。

 

 故に仲間意識など皆無。 ただ連れ出したのは自分だからと責任をもって面倒を見ているだけ。

 面倒くさそうにオーバーホールに隠れているように指示を出し、ナガンはビルの屋上から何の躊躇いもなく飛び降り───空を蹴った。

 

 

 ──これはほんの手付金さ。

 

 

「……【エアウォーク】」

 

 何も無い空間を足場のように蹴り、重力に逆らってビルの間を散歩でもしているような気軽さで跳ね歩く。

 

 オール・フォー・ワンによって与えられた第二の個性。これが元は誰の個性だったのか、なんて思考は途中で切り捨てた。考えるだけ無駄だろうし、考えてしまえば今度こそこの足は止まってしまうと分かっているから。

 

「……作られた正義に染められちまった餓鬼には分からないだろ?」

 

 十年ちょっと生きただけの子供には見せられたことの無い薄氷の向こう側。ハリボテの裏側を知らない子供に何が分かるというのか。

 

 雨粒に紛れるように懺悔にも似た何かが零れ落ち…………

 

 

 

 

 

 

「おう。知ったこっちゃねェ」

 

 

 無粋な飛び蹴りがナガンの身体を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 幾度となくダツゴクと交戦して来た彼だが、その全ては偶然のエンカウントから始まっていた。

 ただ暴れているヴィランがいるらしいと周辺を彷徨きながらそれらしい者を発見しては確認、及び討伐の繰り返し。確固たる意思あっての行動ではなかった。

 

 しかし今回だけは違う。間飛は自らの意思で彼女を探し回り、偶然ではなく必然によってこの場に駆けつけた。

 

「っぐ……!お前が【IXA】か……!?」

「ああ。最高にイカしたヒーローネームだろ?」

「ヒーロー……そうか。お前もハリボテを守ろうとするのか」

 

 緑谷にとっては味方と思いたい、ナガンにとっては最悪に近い第三者。遠くで体勢を建て直した緑谷に目もくれずにナガンは銃身を展開する。

 

「……あんたはアイツより幾分か現実が見えてるんだろ?そういう目をしている」

「流石にアイツよりはリアリストだ。つかアイツと比べたら殆どのやつは現実的な思考だろ」

「かもな……だからこそ、分かるだろ?こんな作られた正義と飾り立てられた平穏の醜さが」

 

 銃口は既に間飛の心臓に狙いを定めた。その上でナガンは間飛に問いかける。

 

 ヒーロー達が華々しく活躍する一方で、公安委員会の指示に従って数え切れないほどの人間を殺してきた。

 血に塗れた自分の手が誰かの手を取るなんてあっていいものか。いつまでこんな事を続けるつもりなのか……誰を殺せば世界は平和になるのか。

 

「綺麗なものだけを見せ続ける事は洗脳と何が違う。その輝きに憧れた誰かが、また汚れた真実に蝕まれる」

「……」

「そんな社会と比べたら……オール・フォー・ワンの支配する世界の方がまだ澄んでいるだろうぜ」

 

 そこまで騙るとナガンはわざとらしく銃身を構えた。反論があるなら言ってみろ、と無言で間飛に問いかける。

 

 対する間飛の反応はというと。

 

「想像の数百倍アホみてェな思考で何も言えねェよ。バカバカしくて反論が億劫なぐらいだ」

「……何だと?」

「どれだけ公安がクソでもオール・フォー・ワンの支配下がそれよりマシなわけあるか。むしろあのクソ野郎の方がそういう事をさせるだろ」

 

 一つため息をついてからアッサリと否を唱えた。向けられた銃口にも何ら視線を向けることはなく、ナガンの目を見据えて馬鹿げた意見を切り捨てた。

 

 洗脳教育?ハリボテ?汚れた真実?間飛に言わせればどれもこれも鼻で笑う程度の言葉を並べられたようにしか思えない。

 

「アンタの頭の中にはコイントスの表裏みたいな白と黒以外は存在しねェのか?グレーはどこにもないと断言できるか?」

「……っ」

「親父の受け売りかつ経験談だ。悪だろうが正義だろうが100%振り切れている人間の方がよっぽどおぞましいぜ。狂人とすら言える」

 

 何十人も殺した人間がゴミを拾って捨てることもあれば、何十人も助けてきた人間がゴミをポイ捨てすることだってある。

 むしろそれが健全なのだ。人の視線がない時の気の緩み、或いは気まぐれによる普段はしない行い。そうした人間が世の中の大半を占める。

 

 徹底的に誰も彼も殺し尽くす人間がいたとして。それは心を持たない兵器と何が違うのか。

 どんな小さな悪事も許さない人間がいたとして。それは意志を持った人間だと言えるのか。

 

「大抵の綺麗な物は誰かの頑張りで出来てるし……汚れってのはどうしたって出てくるものだろ?」

「……だから仕方がないと?」

「アンタが言ってるのは『汚れるのが嫌だから壊してしまえ』ってのと同じだ。綺麗にするのに疲れたからって自分で何もかもを台無しにしようとしている」

 

 何より間飛が真っ先に疑問に思った“ハリボテ”という言葉。まるでそれを悪い物のように言う彼女には賛同できない。

 ソレを守り続けるのは何も飾り立てる為ではない。決して目を逸らす為の免罪符というわけでもない。

 

 彼にとってのハリボテとは、その向こう側の綺麗な世界を守る為……向こう側に汚いものを行かせないようにする、守ってくれる壁なのだから。

 

「そのハリボテの向こう側にいて欲しい誰かの為に頑張ってるんだろ。だからハリボテのこっち側にいることを選んだんじゃねェのか?」

「っ……黙れ!」

 

 超至近距離でのマズルフラッシュ。ハンドガンとは比べ物にならない威力と速度を秘めた弾丸が放たれた。

 コンクリートをも穿つ超高速の弾丸はコンマ数秒と経たずに間飛の心臓へと到達──するはずだった。

 

「この距離でその一撃は殺意しかねェな……」

「なっ……!?」

 

 当たらない。まるですり抜けたように間飛にダメージはなく、少し離れたビルの壁に弾丸が突き刺さる音が聞こえた。

 

 動揺しながらも体は冷静に次弾を装填している。何かの間違いだともう一度心臓に狙いを定め、再び銃口から極小の爆炎がチラつく。

 やはり当たらない。焼き直しのように間飛にはダメージが通らずにビルの壁へと突き刺さるばかり。

 

「何の個性だ……!?」

「……もうやめてくれレディ・ナガン。俺とアンタは致命的に相性が悪い」

「っ、舐めるな!!」

 

 こんな巫山戯たことがあってたまるかと毒づきながらもナガンは止まらない。【エアウォーク】を発動し空を歩いて間飛から一気に距離を取ると通常のライフルでは有り得ない早さで何発もの弾丸が放たれた。

 

 しかしその全てが間飛には届かない。避けられるか叩き落とされるか、どちらにせよダメージを生むことが出来ていない。

 

 こんなイカれた芸当を可能としているのは【瞬間移動】の副産物である空間感知能力だ。

 

 雄英高校の一年目終了時点で自分から500m内の空間を感知能力を有していた間飛だが、残る二年間で射程距離は更に拡大された。その距離は800m。一般的な狙撃銃であれば確実に射程範囲内に入れることが可能だ。

 

 そしてそれだけではない。インターンという名の地獄絵図の組手を乗り越えてきた間飛はそこから更なる発展を遂げている。

 

「無駄だよ。俺はほぼ自動的に遠距離攻撃を回避するんだ。攻撃の軌道も速度も見るまでもなく把握出来る」

「っっ……!?本当にどんな個性だ!?何がどうなればそんな能力になる!?」

「文句なら別世界の自分に言ってくれよ……アンタのせいで獲得したようなもんだぞコレ」

 

 【瞬間移動】から空間感知能力へと発展し、狙撃の脅威への対抗として空間感知能力から更に自動回避という化け物じみた能力にまで発展させていた。

 

 感知範囲内に侵入した攻撃の軌道や速度を把握し、自身に着弾するギリギリを見切ってほぼ反射的に【瞬間移動】を発動するのだ。敢えてギリギリまで回避に移らないのは、早々と回避して軌道を変化させられる方が面倒だからという理由だ。

 

 

 ……今この瞬間にはどうでもいい話だが、この能力を獲得した原因はホークスとレディ・ナガンにあったりする。

 

 インターンという名目で呼び出されては『ちょっと前回の組手に納得いかないから相手してくれる?いや別に悔しくなんかないけどね?』と模擬戦と呼ぶにはガチ過ぎる組手を繰り返していた。

 エンデヴァーに次ぐ実力者にして最速のヒーローと、あらゆる遠距離系の個性の頂点とも言われた狙撃手。そんな二人の攻撃が生温いはずもない。

 

 片や展開しまくった【剛翼】で全方向から攻撃しつつ超スピードでのヒットアンドアウェイを連打し、片や『お前のそれライフルじゃねえのかよ』と言いたくなる程の連射性で弾丸が飛来する。

 ぶっちゃけダツゴククラスどころか場合によってはエンデヴァーでも食えるんじゃないかという難易度だったのだが、その頃には間飛の方が二人との戦いに慣れつつあった。

 

 結果、間飛は加速する組手の中で【瞬間移動】の核心を掴んだ。

 

 最早無意識下で遠距離攻撃の軌道を読み切る事が可能になり、どこの身体が勝手に動く神の御業だよという性能の回避技を獲得した。せめて兆しを挟んでくれ。

 

 

 無論それは別世界の……間飛がいた世界線でのナガンの話。この原作準拠のナガンには全くもって無関係だ。

 

 それをあったことも無い誰かに『この能力はアンタのせいで獲得したんだが?』と言われてもなんのこっちゃ。精々後で事情を知ってからの感想が『別世界の私は何をやっているんだ……?』になるくらいだろう。

 

「何を訳の分からない事を……!」

「……説明すると長いんでね。今はアンタを黙らせる方が先決だ」

 

 ナガンにとって最も相性の悪い戦い。それに加えて緑谷もそのうち戻ってくる事を思うと最早詰みだろう。

 

 一体どこで間違えたと後悔し出したナガンだが、そこのイカレポンチがいる時点で文脈も何もあったもんじゃないので諦めてもろて。

 

 

 






ホークス「ちょっとツラ貸せや」
ナガン「悪いようにはしねえからよ」
間飛「アッハイ」

間飛「で、俺がこうなったってわけ」
原作ナガン「ふざけんなカス」

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