巨悪は滅びた。未だ世界各地に残滓こそあれども再興の芽はない。オール・フォー・ワンに与した闇の住人達もほぼ全員が最早時間の問題である事を悟り、最後まで足掻く者と潔く出頭する者に分かれつつあった。
後者はともかく前者は厄介極まりない。そういった連中の大半は死にたくないが為の降伏、という事になるのだが……時折ヤケを起こす者が出てくるのだ。
自分の命すら顧みないヴィランというのは恐ろしいもので、力尽きるその時まで武器やら個性やらで一人でも多く道連れにしようとしてくる。
今だってほら、ヤケを起こした阿呆が道路のど真ん中で炎熱系らしき個性を使って四方八方に炎の塊を投げつけている。
「ヒヒッ……!お、終わりなんだろ?なあ……俺はとっくに終わっちまってんだろォ!?」
「クソ!オール・フォー・ワンの残党はどいつもこいつも……!」
「怯むな!防御と消火に徹しろ!」
「終わってるってんなら黙って捕まれクソ野郎!!」
オール・フォー・ワンの残党狩りは公安を中心に行われている為、この辺りにいるヒーローも当然公安の息がかかっている。
生半可では無い実力がある彼らでも近づけないのは男が薬物で個性を無理やりブーストしているからだ。本来の出力ならば彼が出せる炎はライターがいい所のはずなのだ。
それがどういう仕組みなのか、男は手のひらにソフトボール大の炎を生み出しては適当にあたりをつけて投げまくっている。ぶつかった炎は小さな爆発を起こして消えてしまうものの、人に当たれば火傷では済まないダメージを負うだろう。
それを瓦礫やら電柱やらを盾にしてギリギリ防ぎながら消火に勤しんでいるけれど、このままでは確実にジリ貧だ。男のブーストが途絶えるのとヒーロー達が限界を迎えるのと、どちらが先に訪れるかの根比べだ。
しかしだ。この先の事を何も考えない男と考えなければならないヒーローとでは使っていいリソースに大きな隔たりがある。
それは燃料、個性に焚べる薪だ。ヒーロー達が常識の範囲内……自身の生命活動に影響が出ない範囲でしか個性を使えないのに対し、男は命を擲ってでも一人でも多くの道連れを作ろうとしているのだ。止まるとすれば完全に燃え尽きた時か、或いは──
「ヒ、ヒヒャヒャヒャヒャ!!ざまあ見ろヒーローど」
「はいお疲れさん、と。隙だらけだねぇ」
──抗いようのない拘束を受けるか。
羽毛のように音もなく降り立った仮面の男……Mr.コンプレスは手のひらを翳すと醜い嘲りをもぶった切り、瞬く間にビー玉サイズの中へと男を確保してしまった。
パンッ!と小気味よい破裂音の後には男の姿はなく、先程までの戦場が一転してそよ風すら聞こえる静寂が訪れた。
「こ、コンプレスさん……!助かりました!」
「いやいや!持ちつ持たれつデショ?オジサンはちょーっといいとこ取りしただけでそれまで耐えてたアンタらの方が偉いよ」
「相変わらず無法な拘束能力だな……発動も一瞬、特殊な条件もないとは」
そいつは俺のボスに言ってよ、とコンプレスはおどけてみせた。ついでにビー玉サイズに閉じ込めた男を引き渡す。
ヴィラン連合改め、自由連合改め……ヒーロー公安委員会直属部隊“
◇
志村転孤をリーダーとし、かつての連合メンバー達をそのまま部下にした部隊。一度は投獄されたジャックガムやマグネの二人も無事に冤罪判決を勝ち取り釈放され、ついでに監視役として渡我被身子までもが所属している。
その役割は主にオール・フォー・ワンの残党処理に加え、他のヒーローには頼みにくい少々血なまぐさい案件を優先的に回されている。
「あとどんくらい残ってんだろーな。あの顔金玉の人脈広すぎんだろ」
「現時点で半分以上は片付いているらしい。残りは探すまでもない小規模な組織だとさ」
「……でもあれね。ソレが全部片付いた後の私達はどうなるのかしらね?」
「「それな」」
ガラス越しの日光に仄かな熱を感じながら、駅のホームに備え付けられたベンチに腰掛けているトゥワイスと燈矢とマグネ。統一感のない服装がプライベートである事を示しているものの、会話の内容は現在の仕事内容について。
マグネが心配しているのは残党狩りが終わった後のこと。いくら何でもそれはないとは思うけれど、まさかことが済んだらポイ捨てなんてことはしないよね?と祈り半分で口にした。トゥワイスと燈矢も何も聞かされていないので不安しかない。
一応転孤と公安の間で今後の雇用関係も約束はされているのだが、報連相を面倒くさがるリーダーが聞かれてもいないのにそんな事を話しているはずもない。
逆に言えば尋ねれば答えてはくれるのだけれど、リーダーが『やっと俺の出番か』とばかりにイキイキと連日戦っているせいで尋ねるタイミングもない。アイツの体力どうなってんだ。
「……アイツ今どこよ?」
「確か……アメリカ?」
「ヒーロー本場の国じゃない。スター……スターナントカみたいなのがいたはず」
「スタープラチナ?」
「それはジョ○ョ。スターアンドストライプな」
現在転孤君はアメリカに出張中。たまたまスターアンドストライプとIXAとデクが関係組織に辿り着いたこともあり、そこに転孤まで合流したことで現地ではデストロイヤー×4の地獄絵図な模様。ヴィラン組織は泣いた。救いは無い。
ぶっちゃけそのうちの二人もいれば余裕なところを倍の人数がいるのでヴィラン組織に勝ち目などない。殴られて蹴られて叩き潰されてバラバラにされるだけだから多分大丈夫だよ。
仲間の行き先を指折り数えているうちになんだかおかしさが込み上げてくる。ヴィラン連合に飛び込んだ時はまさかお天道様の下を堂々と歩く日常がこんな形で叶うとは思わなかったからだ。
表に出ていないだけで何人もの半グレやヴィランを焼き殺した荼毘も、軽犯罪とはいえ無断での個性使用を繰り返したトゥワイスも、冤罪でヤケになって真犯人を自力でぶん殴ったマグネも。
ここにいる三人だけでも本来ならヒーロー出動案件だろうに、追われるどころか手を取って協力するなんて誰が想像出来るのか。
転がり落ちるはずだった人生をたった一人にこうも見事に引き戻されてしまうとは。超常社会では個人の常識など何の役にも立たないようだ。
「あ、お疲れ様れふ」
「あらやだトガちゃん。乙女は飴ちゃんを咥えたまま喋らないものよ?」
「糖分がなきゃやってらんねーのです」
「一理ある」
「……やべ、寝そう。やっぱ徹夜明けは無茶したらダメだって俺。このままレッツパーリィといこうぜ!!」
「まだ治ってねえのかよそれ」
ケラケラと笑いながら燈矢に指摘され、おっかしーなとトゥワイスはさして気にもせず後頭部をボリボリと掻いて首を傾げた。トラウマの根深さ……というよりはもうそれで定着してしまってるのかもしれない。キャラ的な意味で。
トガもクスクスと笑いつつ、カバンの中を少し漁ると一つの棒付きキャンディを取り出した。
「トゥワイスさんもどうぞ。疲れた時は甘いものが一番です」
「ありがとなー……」
「俺にも寄越せ。あるならイチゴで」
「ありますよー。マグネさんは?」
「私はいいわ。帰ったらダーリンのご飯があるもの♡」
「わー!お熱いですね!」
キャンディ拒否のついでにちょっぴり惚気。キャーキャーと黄色い(片方野太い)声をあげての恋バナに男二人がついていけるはずもなく、キャンディを咥えてわざとらしく肩を竦めた。
◇
アメリカ合衆国・ニューヨーク州
かつてはオールマイトが留学していたヒーローの本場にして世界一の大国と言っても過言では無い国、アメリカ。
個性が生まれる前から治安が良いとは言えなかったアメリカだが、個性が生まれた後は尚更悪化した。具体的には日常的にテロが横行する程度には治安が悪い。
無論悪が強くなった分だけ正義も強くなった。個性という分かりやすく強い武器を手にしたヒーロー達は最早テロの一つや二つでは怖気付いたりもしない。
さて今回は志村転孤がオール・フォー・ワンの関係組織の残党狩りで訪れているわけだが、何故かそこには見覚えしかない顔が二名。
Oh......You are Japanese.
「……何でここに移とデクがいんだ」
「【ワン・フォー・オール】の後継者ってデマをどうにかしに来た」
「大体察してくれますよね」
「分かった何も言うな」
転孤は知っている。この話題になると間飛の目がスンッ…とハイライトを失ってナイアガラもビックリな量の愚痴を投下してくる事を。だからこっちに持ってくんな。親友でも関わりたくないものは関わりたくないのだ。
その誤解していたスター本人は照れくさそうに頬を指で搔いている。早とちりを恥じるのは万国共通らしい。
「ん゙ん゙っ!!……アンタが日本からの公的な増援かい?」
「あー……ああ。私情で捩じ込んでもらったが正規の手続きを踏んで来ている」
何にせよまずは自己紹介から。サラッと日本語で対応されて困惑したが、アメリカのNo.1ヒーローともなれば外国語の習得くらいしているのだろう。ツッコミを放棄した訳では無い。
本人に尋ねれば【
そもそも自分の個性は反則中の反則だという自覚がある。海を越えて来てくれた仲間にマウントをとる必要はないだろう。
「……そういや転孤なら多分スターに勝てるな」
「は?」
「ちょ、間飛君!?」
何だコイツ?言うに事欠いて私の方が下とか言ったか?と、スター、プチキレ。驕りでもなくこのアメリカ最強に勝てると吐かしたか貴様。
一応間飛は『あくまでも特定の勝敗においては』と付け加えている。それはそれでどういう勝負なら私に勝てるって言うんだオラァンと対抗心メラメラ。作戦前に馬鹿なことすんなよお前ら。
「いやさせねえけどよ。スターの【新秩序】でも転孤の【崩壊】は防げねえだろうなって……」
「…………あー……まあ、うん」
「……そんなにか?」
「ルール二つ重ねても多分無理っス。コイツ滅茶苦茶個性因子強いんで」
間飛が言う特定の、とはスターが【崩壊】を防げるかどうかという話だ。
ぶっちゃけスターと転孤が戦えば転孤が普通に負ける。恐らく【新秩序】一つでアッサリと勝てる。
しかしスターが【崩壊】を受けてしまえば【新秩序】をどう使おうと、止めることも耐えることも出来ないまま死ぬだろうと。
何故かと言うと、転孤の個性が一点特化しているから……以上の理由はない。
「最近気づいたんスよね。個性の出力部分が限定されてる奴は素の出力が高いって」
「何?そんな事が?」
「個人差はありますけどね。例えば……この二人とか全然違いましたし」
そう言って間飛が見せたのは爆豪と芦戸の二人の写真。片や最初は手のひらのみで、片や全身からの放出が初期から可能だった。
勿論出力は爆豪の方が上だったし、最初の方の芦戸は全身から出せなくもないけれど効果が薄いからと噴出口を手のひらに絞っていた。
爆豪は訓練の果てに全身で【爆破】を可能にし、芦戸は全身の出力を高めて一瞬でスライムのような鎧を纏えるようになった。
二人のスタート地点は違ったけれど、最終的には身体のどこからでも高出力の個性を使えるというゴールに辿り着いていた。
では転孤は全身のどこからでも【崩壊】を使えるかと言うとそうではない。
「手……もっというなら五指の先だけか?そこに個性の放出口を限定してるんでどえらい出力してるんですよコイツ」
「……なる、ほど?そういう考え方も出来るか」
「おい本人が分かってなさそうだぞ?」
「まあ仮説ですし。貴女やエンデヴァーみたいに全身からヤベー出力してる人もいるにはいるんで」
「むぅ……」
何か煙に巻かれた気がする。スターはそう思っていてもそれ以上の追求はしなかった。
「……さて、そろそろ着くぞ」
「まさかアメリカの作戦で装甲車に乗せられるとは……」
「デカくて隠しやすくて最適なんだ。街中を走っていてもあまりおかしくはないしね」
「装甲車がスタンダードなの?怖いなアメリカ」
大した連中はいないだろうがそれでもオール・フォー・ワンの関係者。一人たりとも逃がす訳には行かない。
装甲車から出て連中のアジトを睨み、四人はニヤリと笑って大胆不敵に声を張り上げた。
「覚悟しな悪党共!!」
「「「「私達が来たァ!!」」」」
「わァ……!ァ……」
「イノヂガケデヘエッヘェィ゙!!」
「人の心とかないんか?」
ヴィラン達はいっぱい泣いた。何でター○ネーターが四体も来るんだよふざけんな。
ガム姐「私の出番is何処」
黒霧「そーだそーだ」
コンプレス「俺も出番少ないぞー」
壊理「わ、私も……」
Q.との事ですが?
A.貴方達便利過ぎて出すと速攻で終わっちゃうのです。
なので顛末を少しここで触れます。
ジャックガムは釈放後に皆と同じく転孤の部下で公安入り。黒霧も同様です。壊理ちゃんは本人の強い希望で燈矢の養子に。轟壊理と名前を改めて轟家と共に青春を過ごしております。
もしかしたら壊理ちゃんの周りは触れるかも?