パラドックス編のサブタイトルを本編のように一つ一つつけることにしました。これまでのパラドックス編もサブタイトルを変更していると思うので気が向いたらご確認ください。
※冒頭部分はとある二次創作をリスペクトしたものです。決してパクリではない。
──オール・フォー・ワンは激怒した。
野郎、帰ってこねえ。
……失礼した。しかし端的に今の魔王の状況を表すとなれば上記の二行以上に適した言葉が出てこないのだ。
いや確かにギャンブルと表現してたけども。ギャンブルならギャンブルらしく賭けに負けた分のフィードバックが生まれるのも分かるけども。
よりにもよって一番大事なものを持っていかなくてもいいじゃないか。
スターアンドストライプは存命の上に【新秩序】も彼女の手にしっかりと収まっている。ここまではまだいい。いや全然良くないけどこの後に出てくるダメージに比べたらまだ全然いい。
問題はそのスターアンドストライプの元に向かわせた死柄木弔が帰ってこないのだ。
「どうなっている……!?」
「……何があったんだよ」
「僕が聞きたいぐらいだよ!」
一応GPSならぬ【AFO】で所在地自体は把握しているのだが、何があったのか一向に戻ってくる気配がない。
洞窟で待機していた本体は死柄木弔に移植した個性からある程度の状況は把握出来ていたが、ダメージが酷くなるにつれてそれも朧気になってしまっていた。
最終的にはある瞬間からプッツリと情報共有が途絶えてしまい、何がどうなって死柄木弔がどうなってしまったのかを何一つ把握出来ずにいる。
正直な話【新秩序】を奪うのは分が悪い賭けだった。
何かしら想定外が起こっても最低限スターアンドストライプを弱体化くらいはさせられるだろうと思っていた。
何でこっちの被害の方が大きいんですかね。
弱体化なんてもんじゃない、オール・フォー・ワンが長年かけて計画してきた事全てがパーになりかねないのだ。
例えるなら【相手の持っている物からランダムで一つだけ奪える能力】でピンポイントで心臓をぶっこ抜かれたようなもの。致命傷じゃねえか。
当然オール・フォー・ワンは大パニックを起こしており、スケプティックを始めとした協力者に連絡を取って確認を頼んだものの、得られる情報は『何か死柄木弔が苦しんでたけど何したん?』という程度のものばかり。こっちが聞きたいっつってんだろ。
「……仕方ない。僕が直々に弔を迎えに行こう」
「危ねェぞ」
「では君がいくかね?轟燈矢君」
「嫌だね。癇癪で死ぬなんざごめんだ」
それをお前が言うのかとか言ってはいけない。何せ澄まし顔をしているがここにいる全員が内心ドタバタパニック状態なのだから。
◇
「……つまりだ。トムラシガラキと混ざりかけていた【オール・フォー・ワン】を無理やりひっぺがしたから反動が起こった、って事でいいんだな?」
「多分ですけどね。実際は別の理由かもしれませんが」
「いや……納得した。あの苦しみ様は尋常じゃなかった。精神が砕けてもおかしくなかったんだろう」
オール・フォー・ワンが困惑している一方でスターアンドストライプと間飛は穏やかな空気の中話し合いをしていた。
あの時間飛がスターに伝えたのは『死柄木弔の中にある異物の名前と彼の本当の名前』だった。
元の世界でスターと面識があった間飛は【新秩序】に必要な条件を把握しており、彼女ならば転孤からオール・フォー・ワンを無理やり引き剥がせないかと思ってのことだった。
まあ実際は引き剥がすどころか精神がぶっ壊れかけていたというのがオチだったが。無力化という意味ではこれ以上なく最適解でもある。
「そんで今のアイツの肉体も志村転孤と認識されるはずなので、精神どころか肉体からもオール・フォー・ワンが追い出されるはずなんですが……」
「出てない、と?」
「綺麗さっぱり出たんならもう動き出してもおかしくないと思うんですよね。オール・フォー・ワンと違って死柄木弔は拘るものがありませんし」
「……いや、私の【新秩序】の射程範囲外に出られている。動かないのではなく動けないのかもしれん」*1
あのまま弱体化して欲しいところだがそうもいかないだろうとスターは残念そうに呟いた。
元々発動条件が『接触する』と酷く緩い。発動条件が緩い個性は解除条件も緩いか制限が厳しいかのどちらかである事が多い。
彼女の場合は発動条件の緩さに加えて能力そのものもかなり強い。その分同時使用可能な対象の数や射程距離等の面で弱点があってもおかしくはない。
事実【オール・フォー・ワン】に付与されたルールはとっくに解除されてしまっている。致命傷にはならずとも進行していた侵食をリセットする程度にはなっただろう。
ああでもないこうでもないと話し合っていると、いつの間にか陸地が近づいてきた。流石は最先端の戦闘機か。
凱旋というには何一つ成果を持ち帰ることは出来ていないが、それでも盛大な歓迎があった。
戦闘機から降りた所へエンデヴァーやホークスらトップヒーローが声をかける。
「スターアンドストライプ……よく来てくれた。感謝しかない」
「HAHAHA!!途中で殺されかけてちゃ世話ないけどね!」
「……殺されかけたんですか?」
「ああ。そこのIXAが来てくれなきゃ死んでたね」
……そんな「笑えるだろう?」みたいな態度で話されても困るんですが。この場にいた全員の思考が一致した。何ならパイロットの一人が後頭部から引っぱたいた。
「笑い事じゃねェんだよ馬鹿野郎。お前は自分が背負ってるものの重みをちゃんと理解しとけ」
「そうですよ。日本としても救援を頼んだら他所の国のトップヒーロー死なせました、なんて洒落にならないんですから」
「あたた……悪かったって!というかあそこまでやって死なないアイツの方がおかしいだろ!?」
それはそう。全員がそれには首肯した。
実際束ねたレーザー砲で焼きまくって巡航ミサイル十発叩き込んで何で死んでねえんだよアイツという話ではある。
そこに何やら致命傷じみたダメージまで与えたはずなのに、多分というかほぼ確実にまだ生きているだろうし。最早個性とかそういう領域では無い何かで生き延びているようにしか思えない。
伝えたい事はいくらでもある。しかしようやく安心出来る場所に着いたのだから一度休憩がしたいというのが彼女達の本音だ。
まずは雄英高校に移動する事にした。死柄木弔は撃退したが次の刺客が来ないとも限らないのだ。
移動中の車内でもそれぞれの考察を語り合っており、今の死柄木弔がどんな状態にあるのかを推測している。
「まあ一番ありそうなのは『死柄木弔とオール・フォー・ワンの融合がリセットされた』って線ですかね」
「希望的観測ですが『【オール・フォー・ワン】の個性因子にもダメージが入った』って可能性もありますよ」
「有り得るね。IXAも聞いていただろ?あの時アイツの身体から何かが砕けるような音が聞こえたんだ」
そうなると無視できないのがあの時の死柄木弔から聞こえた『バキリ』という音。
最初は【オール・フォー・ワン】を引き剥がされて弱った身体がダメージに負け始めたのかとも考えたが、それならばとっくに死んでいてもおかしくないはずだ。そう断言出来る程のダメージを与えていた。
しかし死柄木弔の目撃情報が上がった以上、彼はまだ生きているのだろう。
大方【新秩序】の射程から逃れられた途端に【超再生】なんかの個性を使って延命し、時間をかけて立て直すつもりなのだと思われる。
ならば最も弱っている今こそ攻勢に出るべき……という意見も上がったけれど。
「オール・フォー・ワン本体の方がどう動くか分からないのがなあ……」
「死柄木弔の回収に動くのは間違いないだろう。奴にとって死柄木弔は重要な駒のはずだ」
「いやその後の話です」
「後?」
「オール・フォー・ワンからすれば回収した死柄木弔は自分の支配下にあるか怪しい上に、下手をすれば自分をも殺しうる怪物って感じに見えてると思うんです」
事実死柄木弔はオールマイトを基準に改造手術を施されている。その基準となったオールマイトも弱りきった引退寸前のものではなく、オール・フォー・ワンの知る全盛期オールマイトだと思われる。
そうなると【オール・フォー・ワン】を移植されてオールマイト並のパワーを持ち触れれば即死の【崩壊】まで持つ死柄木弔はオール・フォー・ワンにとっての脅威にもなり得るのではないか、という話だ。
「せめて向こうの出方が分かってりゃ話も違ったんですがね」
「本当にね……」
詰め切れそうで詰めきれない。後一歩を踏み越える何かが欲しい。勝利を確実なものとする最後の一欠片がどこかにないものか。
もどかしさを感じながらもヒーロー達は雄英高校へと戻った。
多分、あの人は知っている。
誰が裏切り者なのか。誰が内通者なのか。
でもあの人はそれを言わない。
薄汚いヴィランを知っていながら、救えないクズの存在を理解しておきながら。
……僕は、僕はどうすればいいんだろうか。
怖い。苦しい、死にたくない。
彼より先に絶望した自分に絶望する。アレと戦う重圧を背負った上で頑張れる君が羨ましい。
自分が殺していたかもしれない人達と仲間の顔をして笑いあってしまえた僕が、どうしてヴィランなんかじゃないと言い張れる?
……いつあの人が僕の秘密をバラすか分からない。いつ僕達に怒りの矛先が向けられるか分からない。こんな時でも保身に走ろうと考えている自分がおぞましい。
いっそ死んでしまいt「それもう俺の世界で散々やったから。ちょっとツラ貸せ青山」
……………………うん?
AFO「……帰って、こないね」
荼毘「こねえな」
スピナー「ヤバくね?」
AFO「」
スター「邪魔すんでー」
ホークス「よく来てくれました!」
スター「そこは『邪魔すんなら帰ってー』だろいい加減にしろ」
間飛「おい誰だスターに新喜劇教えた奴」