オール・フォー・ワンは激怒した。
テメェもか。
もう取りつくろう余裕もない。死に物狂いで死柄木弔を回収してきたばかりだというのに、これ以上考えることを増やさないで欲しい。
「おいどういう事だ!?お前何しやがった!」
「僕が聞きたいくらいだよ……!彼女の怒りや憎しみは本物だった!!ほんの数日で覆るはずがないと断言出来る程に!」
「じゃあ……じゃあ何で───」
「トガの奴が自首してんだよ!!?」*1
「知るかァ!?」
悲しいかな。オール・フォー・ワンに人の心は分からぬ。しかし裏切りや離反には人一倍敏感だった……はずなんだけどなあ。いつの間にか手駒がごっそり減ってるのはなんでだろう。
オマケに恐らくIXAと交戦したであろう死柄木弔から情報のフィードバックを受け取りたいのに、何を喰らったのか同化率はリセットされてるしそのせいでフィードバックが出来ないしで散々である。
そんな事するわけないと思うが、もしオール・フォー・ワンが神に向かって『何か悪いことしましたか!?』と尋ねれば優しい神様は深刻な顔で痴呆症を疑うだろう。自業自得だボケナス。
ヒーロー陣営が着々と決戦に向けて準備が整っていくのに自分達はどんどん戦力が削がれていく。そろそろ荼毘も消えたりするんじゃないだろうなと疑心暗鬼になりかけている。
「いいやまだ……!まだここから覆す手はある!」
「ほんとかよ……もう負け戦感しかねえぞ」
「本来ならとっくに死んでいるはずの君がそれを言うのかい?荼毘。僕達が負ける時は僕達の死以外ないよ」
その上でまだ勝ち目があると言い切るオール・フォー・ワン。夢に向かって頑張る根性は褒めてやりたいところだが、世間一般はそれを見苦しい足掻きにしか見てくれないぞ。
荼毘の疑いの眼差しにオール・フォー・ワンは不敵な笑みをギリギリ保ちながら呟いた。
「僕には友達が多いんだよ……君と違ってね」
ちなみにそのお友達は現在進行形で貴方を釣り出す作戦に加担しているぞ☆
◇
死柄木弔の弱体化にスターアンドストライプの到着、雄英にいる内通者の正体の判明と短期間に詰め込んでいい量ではない情報の数々。
これまでが耐えるばかりだった所を、急に反撃の好機が訪れた為にヒーロー達はてんやわんやの大騒ぎになっていた。
しかしそれもオール・フォー・ワンを討伐するまでの辛抱だと、そう思っていたのだけれども。
「渡我被身子が出頭しましたァ!?」
「───ハハッ☆面白いジョークだね☆」
「校長!?貴方のキャラ的に甲高い声とその口調はマズイです!!?」
おかわりが早すぎやしませんかね。
情報処理のキャパシティを突破した根津校長は夢の国で聞こえてきそうな声で思考を放棄した。
いや嬉しいよ?喜ばしいことなんだよ?ヴィラン連合の戦力が減るし対処法とかに思考を割く必要がなくなったよ?
何で数倍の厄介事を引き連れて来るんですかね。
しかしそこは賢い賢い根津校長。この数日で振り回されまくって流石に学習した。
何か予想外の出来事が起こった時、大抵そこにはとある人物が関わっていることに気がついたのだ。偉い。天才。流石。
「今度は何をしたんだよ間飛リスナー……」
「……いや俺が聞きたいというか、あのまま自殺すんのかと焦ったというか」
「よし、とりあえずコイツが関わってるのは確かだ」
「嵌められた!?」
突然のゴニョゴニョに放心していたものの、思い返すと『あれ?あのままその辺でアイキャンフライするヤツでは?』と覚醒を果たし周囲を散策。その後にトボトボと帰還した間飛をプレゼントマイクに引っ捕まえてきてもらった。
やっぱりというか案の定というか、渡我被身子の出頭に関わっているらしいことが判明したのでさっさと知ってること全部吐けやオラァンしているのだ。
尚、その当人も何か普通に生きて出頭している事に驚いているのでろくな会話が成り立っていないのはご愛嬌。
すったもんだの末にようやく全員が冷静になった。息は荒いわ髪型ぐしゃぐしゃだわの酷い有様だが数秒前の混乱よりはマシだろう。
一つずつ認識を擦り合わせようという事で間飛が外出してからの行動を聞くことになった。
ざっくり書き出すと出ていく途中で貰ったミルクティーとサンドイッチを与え、ついでに血も吸わせた。
その後に『貴方は私をどうしたい?』と聞かれ何で自分がこうなったのかを聞かされてそれに対する正直な感想と意見を述べた、と。
「……本当に、それだけ?」
「それだけッスよ。そしたら納得したみたいな顔してからどっか行っちゃって……その、投身自殺でもするんじゃないかと慌てて探し回ってました」
「はぁ……俺達が身構え過ぎてたのかねえ……?」
「ヒーローの初歩中の初歩……『困っている人に手を差し伸べる』事を忘れていた」
蓋を開けてみればこの通り。彼は実直に渡我被身子に向き合い、理解を示していただけだった。その『だけ』を何故誰もしなかったのか。今更になって悔やんでも彼女の手は汚れてしまっている。
思えば彼のスマホにはヴィラン連合のメンバーと楽しげにしている写真や映像があるのだ。きっと並行世界の彼らにも同じように接して、同じように心の壁を取り払っていたのだろう。
強いて欠点を挙げるならば説得に失敗した時のことを何も考えていなかった、という一点に限られる。
もし渡我被身子が『それでも……』と命に手をかけていた時はどうするつもりだったのか。マイクは咎めるように間飛に尋ねた。
「その時は……普通に反撃しますよ。【瞬間移動】なり何なりして」
「お、おう……」
「正直、俺のいた世界で彼女を救えたのは奇跡みたいなものだと思ってるんで。向こうで出来たからこっちでも、なんて言えるほど傲慢になれません」
意外にも冷静に……これまでの対応からは想像しにくい程に淡々と語った。どこまでいっても彼は現実主義らしい。
当然そんな結果になれば悲しいし辛い。故にそれは最終手段だ。
間飛にとっての最後の一線があり、それを踏み越えていないのならば彼は最後まで拳を握ることはないのだろう。
こちらの世界でそれを踏み越えているのはオール・フォー・ワン、そして荼毘の二人。志村転孤は未だ不明だが現時点ではかなり怪しい位置にいる。
それともう一人。出来れば顔すら見たくないヴィランがいる。
「それに……こっちの世界に【間飛移】という人間は存在してないみたいですし。俺が居たなら、なんて口が裂けても言えませんよ」
「は?居ない?そんな事あんのか」
「ええ。俺の両親も雄英卒なんで確認しましたがいませんでしたし……一応実家も探してはみたんですけどね」
間飛は自分の存在そのものが世界を分けた理由なんじゃないかとすら思っていた。だってこの世界には自分の存在が確認されず、自分に繋がるかもしれなかった人間すら見つからなかったのだから。
両親どころか祖父母の名前も見当たらず、何とか見つけ出した同じ苗字の人間は誰一人として無関係だった。
そして思い出した。家庭の事情もあって引っ込み思案だった大切な親友も自分が変えてしまったのかもしれない、と。
「死柄木弔や荼毘達ヴィラン連合も……外典も救えたのは奇跡みたいなもんだったんだなあって思いました」
【氷叢】の血筋にして異能解放軍幹部。リ・デストロに忠誠を誓った【操氷】の個性を持つ人物。
氷叢零治すらもこの世界ではヴィランだった。自分の関わった人間が尽くこちらでヴィランとなっているのだから、いい加減理解せざるを得ない。世界の命運を知らず知らずのうちに変えていたのは自分だったのだと。
そしてその外典は既に収監済で、渡我被身子も恐らくこれから収監される。そうなればきっともう会うことは出来ない。
分かっている。あれは彼女なりのケジメをつける決意であり、たとえ彼女をそうさせた自分であっても口を挟む権利などない事を。
「……“お前の物語じゃない”」
いつかに聞こえた誰かの言葉をポツリと零した。
◇
渡我被身子の突然の出頭。真正面から雄英に来たかと思えば開口一番に『自首しに来ました!』だった。
勿論信じられるわけがないのでまずは拘束を……と動いても彼女は抵抗しなかった。いつも持ち歩いていた大量の刃物はどこにもなく、違法なサポートアイテムも持っていない。あったのは
半信半疑のままヒーロー達は渡我被身子を確保し、暴動が起きてはマズイからと市民の目から隠してどうにか連れて来ることが出来た。
そして現在。これまでの所業からか武器も持たないヴィラン相手には少し過剰とすら思える程の拘束状態で、オールマイトと塚内の二人に尋問をされていた。
「……もう一度聞く。本当の目的を言え」
「本当の本当に自首しに来ただけですよ?一度すっぽんぽんになって確認してもらったじゃないですか」
「信じられるわけがないだろう?ただの名も無きチンピラならともかく、ヴィラン連合の頃からいたお前が出頭なんて……」
しかし幾ら尋問を繰り返しても意味は無い。トガの目的は既に達成され、これから先は好きに生きた代償を支払う為に生きるつもりなのだ。
ニコニコとしながらもどこかウンザリしたようにトガは話し、その態度から真意を汲み取れない塚内だけが苛立ちを募らせる。
いつ声を荒らげ暴力に走ってもおかしくない。そう悟ったオールマイトは塚内に頭を冷やしてくるんだと申し訳なさそうに伝えた。
「しかし……!」
「塚内君。いくらヴィラン連合でも武器を手放して拘束された少女だ」
「っ……すまない。言われた通り、頭を冷やしてくる……」
塚内を責めることはできないだろう。事実、彼女はヴィランとして数多くの罪を犯してしまっている。
それでもだ。今、オールマイトの目には無力な少女が拘束されているようにしか映らない。
塚内が出ていったことで痛いほどの沈黙が流れた。シン、という空気の張りつめる音が聞こえたような気すらした。
「……渡我被身子」
「はい」
そんな空気の中、オールマイトはゆっくりと口を開き彼女の名を呼んだ。彼女もまたそれにアッサリと返事をした。
「何故……突然出頭を?」
「ん?それはさっき……」
「そうじゃない。罪を償いたいから、ではなく……何故そうしたいと思ったんだい?」
勿論もっと聞きたいことは色々ある。オール・フォー・ワンについての情報など優先すべき情報がいくらでもある。その上でオールマイトはどうしても聞かずにはいられなかった。
渡我被身子が如何にしてヴィランに堕ちたのかは分からないが、始まりがどうであれヴィランに堕ちてでも叶えたい何かがあったはずなのだ。
それを放り捨ててでも罪を償う道を選んだきっかけがなんなのか。オールマイトはそれが知りたかった。
「……私を普通って言ってくれる人に会えたから、です」
「そっ……いや、失礼」
「ふふ。それだけ?って思いますよね」
トガはオールマイトの失言を笑って許した。
他人からすれば『そんな理由で?』と言いたくなってしまうもの。だが、渡我被身子にとっては何年にも渡る逃亡生活に自らピリオドを打てるほどの願いだったのだろう。
トガは目を伏せたままツラツラと他人事のように語った。
昔から好きな人のようになりたくて、好きな人になりたくなって……血を吸いたくなってしまうと。
子供の頃に庭で小鳥の血を吸った所を両親に咎められ、それ以来ずっと気持ち悪いと思われ続けていた事を。
怒鳴り散らす両親が自分を『人間じゃない子を産んでしまった』とすら言われた事を。
「っ……」
「だから決めたのです。私は私が生きにくい世界を壊すんだーって………………でも」
「渡我少女……!」
「……私って馬鹿ですよね。ちょっと理解してもらっただけなのに、たった一人に受け入れられただけなのに」
「もういい……!もう、いいんだ……!!」
あんなに苦しかったのに。あんなに怒ってたのに。
ただそれだけで満足してしまった。
ただそれだけで足を止めてしまった。
ただそれだけが……ずっと欲しかった。
もう二度と彼と会えることはないだろう。それだけの事をして来たのだから。それだけの罰を受けるのだから。
……それだけが心残りだ。一方的に別れを告げて逃げる様に離れたあの人。私に理解を示してくれた、私を普通と言ってくれたあの人にもう会えないことが。
別れを告げて尚、また会いたいなんて考えている自分が居ることに今更気づいた。これじゃあ本当に罪を償おうとしているのかも怪しいじゃないか。
「……こんな中途半端、仁くんに怒られちゃいますね」
勿論今もホークスは憎い。トゥワイスを殺したヒーロー達が、自分達を抑圧し続けた社会が憎いけれど。
満たされてしまった自分はもう同じ道を歩けない。渡我被身子はヴィランでい続けることができない。
胸の内に湧く罪悪感と、何かがストンと降りたような軽さを感じながらトガは口を閉ざした。
トゥワイス「トガちゃんが幸せならオッケーです」
トゥワイス「いややっぱホークスはムカつく」
【ここが違うよ外典と零治】
・行儀作法に疎いのが外典
・行儀作法を守るのが零治
・個性の攻撃力が高いのが外典
・個性の汎用性が高いのが零治
・まだ男らしいのが外典
・もう堕ちてるのが零治
零治「いや最後ォ!?」
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