会議もそこそこに根津校長と極一部のヒーロー以外全員が会議室を出た。俺に割り振られた役割はスターと協力してのオール・フォー・ワンを
……うん、まあ正直そういう方向で纏まるとは思ってたし、タルタロスですら脱獄してみせるクソッタレは死刑以外ないとも分かってた。
その上でまだ俺は『でも所詮は魔王(笑)じゃん?』とか思ってたんだわ。俺と緑谷見間違えてオギャるだけの阿呆だと。
その認識が間違っていたとようやく理解できた。俺はどうも脳内お花畑のクソ野郎だったらしい。
「そう思いません?ミルコさんも」
「お、おう……?」
「ちょーっと楽観的にも程があったみたいで、ええ……本当に」
この世界に来てから色んなものを見て、聞いて、知った。
A組の奴らはずっとピリピリしてるし眉間に皺を寄せてばかりだし、緑谷と青山があんな顔をするなんて初めて見たよ。
相澤先生は片足と片目を、ミルコは片腕片脚を。その他にも俺の知っている人達が体の一部を失っていたりまともに動かせなくなっていたりしている。
あんな風に泣くトガちゃんなんて見たくなかった。燃え尽きる寸前の荼毘なんか知りたくなかった。堕ちる所まで堕ちた死柄木弔なんていて欲しくなかった。
……こんな酷い“もしも”なんて知りたくなかった。
ああ、そうそう。この世界に来てからずーっと頭の中に響いていた声があった。何度も何度も繰り返し同じ事しか言わない壊れたスピーカーのノイズみたいな声。何となく正体は分かっちゃいたけどようやく確信したよ。
あの声は俺自身の声だ。
この世界で目を覚ました瞬間から薄らと理解はしてた。ここは俺がいなかったらという“もしも”の世界なんじゃないかと。
思えば俺が目を覚ました場所も、俺のいた世界と照らし合わせると実家にあたる場所になるはずだ。
こんな時にも【瞬間移動】の副産物は便利だな。嫌味な程に。
俺がいない世界だというなら俺が手を出すべきじゃないのでは、という疑念がずっとあった。ダツゴクも、雄英も、連合も。
だから誰かに関わる度に声は大きくなったし、何かを助ける度に頻度が増えた。ここは俺がいない世界なんだぞ、と自分で自分に言い聞かせようとしていたんだ。
「……ミルコさん、その手足で戦えるんです?」
「あ゙あ゙!?当たり前だろうが!!ミルコさんを黙らせたきゃ脳天ぶち抜いてみろってんだ!!」
「知ってます。あなたはそういう人だと」
「……何かお前と会話すんの調子狂う!」
「そりゃ失礼」
実際、関わるべきかどうかで言えば関わらない方がいいんだろう。その手の話には詳しくないが、異物が引っ掻き回した歴史なんて凡そいい方向には向かわないだろうしな。
それにこの世界での俺はどこまでいっても部外者、或いは第三勢力でしかない。たまたまヒーローと同じ方向を向いているだけでいつ裏切るかも分からないとでも思われてそうだ。
うん、全部分かった上で決めた。
あのクソ野郎だけは絶対許さない。
俺の物語じゃないのはそうだろうよ。この世界の主役はこの世界に生きる人達であって、他所から来た俺がどうこうしていいものじゃない。
その上で俺は全部を台無しにしてしまうとしてもオール・フォー・ワンだけは絶対殺す。何がなんでも殺す。確実に殺す。
……なるほど、転孤と燈矢が言ってた憎悪ってのはこういう感情か。こんなもん初めて抱えたわ。
腹の奥底でマグマが煮えたぎってるような、何かを手に取る度に握り潰してしまいそうな。とにかく自分の中だけでは持て余してしまいそうな強い激情。アイツらはよくコレを消化出来たな。
「絶対ぶっ殺す……」
「おいアイツ何かヤバいぞ?本当に大丈夫なのか!?」
「ま、まあやる気に満ち溢れてるだけだと思うので……」
「やる気ってか殺る気だろ!?ヒーローと呼んでいいのか困る面構えしてんぞ!?」
◇
「……行ったかな?」
「ヤベー目をしてどっか行きましたよ……いやマジで怖いなあの人」
「それで校長、俺達に残るように言ったのは何故です?」
一方、ヒーロー達が去った会議室。根津校長とマイクに相澤、ホークスとエンデヴァーの五名が残っていた。
残るメンバーを見るに重要な話だとは思うのだが、先の会議で重要な話は出尽くしたとも思っている。
相澤の質問に対し根津は少しの申し訳なさを滲ませて答えた。
「IXA……間飛移の個性について何か聞いているかい?」
「彼の……?」
何故、とは聞かなかった。
誰もがヒーローの一員として認識している間飛だが、その実彼を完全に味方であると断言出来るだけの根拠がないのだ。
分かっている。この状況下であれ程の戦力を手放す理由はないし、これまでの功績を鑑みれば最早味方も同然ではないかと思うのも。
それでも完全に味方と断言出来ないのはやはり並行世界関連の話が原因だろう。
裏切りを警戒しているのではない。彼が土壇場で友人を守りたがる可能性を考慮している。元いた世界での友人……荼毘や死柄木弔を守ろうとするのではないか、と。
「そうなった時、彼の手の内を知らないままでは何も出来ない。何か知っている者がいたら教えて欲しいのさ」
「それならホークスがある程度の推察をしていたはずだ。奇襲を仕掛けた時に何かあったんだろう?」
「あー……アレなんですけど、今思うとそんな個性あるのかなー……って」
「……?どういう能力を……?」
心当たりがあるらしいホークスに話が振られたものの、当のホークスは困ったような顔で話し始めた。
あの時*1は特に何も思わずに発言していたが、あれだけオール・フォー・ワンを憎んでいるのなら複数の個性を持っている可能性は低い。
しかしそうなると【超パワー】と【ワープ】を両立させるような能力なんて有り得るのか、という話になってくる。少なくとも公安の下で動いていたホークスですら心当たりがないくらいには疑わしい。
「あとは……確証はありませんが感知系の能力も持ってる可能性がありますね」
「いやいや……だとしたら増強系とワープと感知系の実質三個持ちになるんじゃねえの?いくらなんでも単一の個性で出来る芸当じゃなくね?」
「そうなんですよね。かといって複数個性なんて【オール・フォー・ワン】か【ワン・フォー・オール】のどちらかでも関わってなければ有り得ませんし」
かといって他人から個性を与えられる……なんてパターンは【ワン・フォー・オール】と【オール・フォー・ワン】以外把握していない。
それこそ彼が【ワン・フォー・オール】の継承者という可能性も浮上したが、それにしてはオールマイトもデクもこれといった反応がない。歴代継承者の個性が発現しているというのなら本人を無個性としても二つしか使用していないことになる。
「……いや、それはない」
「と、言いますと?」
「奴が【ワン・フォー・オール】やオール・フォー・ワンについて語る時、その大半は他人事のように語っていた。少なくとも継承者でも関係者でもなかったのだろう」
しかしエンデヴァーが見てきた間飛はどうにも違う気がするのだ。
二つの個性についてどこか他人事のように語り、どちらか一方を無条件に肯定するわけでもなかった。俗っぽい言い方をすれば全ての話の後に「知らんけど」とついてもおかしくない話し方をするのだ。
故に二つの個性への関わり方は元・部外者。それを何らかの理由*2で巻き込まれてしまったと見るべき……というのがエンデヴァーの意見だ。
と、ここまで話し合いが行われたが、何故直接本人に聞かないのか?という話になってくる。
無論こちらが一方的に疑っている形なので心苦しいとか罪悪感が、というのもあるのだろうが。こうしてグダグダと言い合うくらいならば直接尋ねればいいのでは?と。
全員の視線が校長に向けられる。何か理由でもあるのかと問い詰めるように。
「……正直に言うと、確かめるのが怖いんだ」
「怖い?」
「彼は“今のところ”我々の味方をしてくれている。しかしそれは別の世界の我々を基準として判断しているのではないか、と」
「それは……」
根津校長が口にしたのは紛れもない『恐怖』だった。
彼がこの世界に来てから何日が経ったのか。たった一人の人間がいるかどうかでここまで戦局が変化した。
ヒーロー達に凄まじい利を齎したものの、視点を変えれば彼はたった一人でオール・フォー・ワンの勢力をゴッソリと削る力を持っていることになる。
では、その力が自分達に向けられる可能性があるとしたら?今自分達に味方してくれている彼が味方をする理由がなくなったら?
「本人に直接尋ねるということは、彼の踏み込まれたくない領域に触れる可能性が出てくる……ましてや個性は唯一無二の武器であり情報だ」
「……そりゃあ迂闊に明かそうとはしませんね」
「それに、彼にはこの世界で完全に信用している誰かがいない。彼の視点では自分以外の全てが敵になりかねない」
忘れてはならない。彼は異邦人だ。
この世界は彼にとって限りなく既知に近い未知。知れば知るほどに元の世界との違いを実感し、戻れない可能性を想像しては絶望している事も考えなくてはならない。
都合のいい追加戦力なんて扱いを続ければ彼の心が保たない可能性だって十分に有り得る。
「彼にヒーローで在り続けたいと思って貰う為に、我々こそ証明しなければならない。我々は君の味方である、と」
「……ですね」
ホークスはあの日彼に言われたことを思い出していた。
──生まれついての悪なんていねェ。
──ああなった原因が分かっていなかったらまた同じようなヴィランが生まれるだけだぞ。
……何かを期待するような彼の目と共に。
ミルコ「何かスゲェ悲しそうな顔されたんだけど」
相澤「俺もされました」
ミルコ「あと滅茶苦茶警戒された」
相澤「……それは知りません」