いっけなーい遅刻遅刻。
本当にすいませんでした。
想定外。
今のオール・フォー・ワンの心境を一言で表すならそれに尽きる。
IXAが想像以上に強い
咄嗟に器にも中身にも聞こえるようにと『死柄木』と呼びかけてみたものの、どちらからもそれらしいリアクションは返ってこなかった。
「まさか……もう
そうなる可能性を考えなかったわけじゃない。自分の手で懇切丁寧に育て上げた憎悪だ、個性因子は
だがそれにしたって早すぎる。ただ【オール・フォー・ワン】の因子に傷をつけられただけではこうはならない。いったい何をされたというのか。
「余所見するとは随分と余裕があるね!オール・フォー・ワン!」
「っ……!スターアンド、ストライプゥ……!!」
考察は後だ。まずはこの放り込まれた戦場を支配するところから動かなければならない。ただでさえ生命維持に必要なマスクを破壊されているのだ、切り札を切る事も視野に入れる必要が───
「──まだ余所見を続けるとはな」
「は?」
──否、その判断すら遅いと言わざるを得ない。
この時のオール・フォー・ワンは自分の相手をするのはスターアンドストライプを中心としたプロヒーロー達だと思っていた。
その考え自体は間違っていない。彼女以外のプロヒーローは手負いのホークスしかおらず、オール・フォー・ワンに与したダツゴクやチンピラは雄英生らが相手をしていたのだから。
しかしもう一人。オールマイトや緑谷出久をも超える怒りを抱えていた男がそこにいた。
バツンッッ!!!
「ぎ、があああああ!!?」
「おっとと……危ねェ」
棒状の何かが振り抜かれ、オール・フォー・ワンの右腕を二の腕の半ばほどから断ち切った。久しく感じることのなかった強烈な痛みが悲鳴を堪えるのを許さず、それでも反射的に元凶へと個性で反撃を試みていた。
その男は音もなくその場から消え去り、当たり前のようにスターアンドストライプの隣に立っていた。
「おいおい、ファーストヒットにしちゃダメージがデカすぎないか?私の番が来るまでに死にそうじゃないか」
「やー……アイツの腕嫌いなんで。どうせトカゲみたいに生えるでしょ」
「IXAァ……!!」
彼の手にあったのは単なる武器とも誰かの個性とも思えない奇妙なブレード。紅色の何かを芯に据えて持ち手の当たりに後付けの柄や強度補助の為と思われる金属パーツが見える。
「ああ、コレ?これはホークスの【剛翼】をちょいと改造してもらっただけの刃物だよ」
「何……!?」
「結構無理を言ったよ。切り離してからも長時間の継続使用を可能とする保持能力だの強度問題だの……アイツなら何とかできねえかと思ったら案の定やってくれたよ」
何らかのコーティングが施されているのか、ただの羽根にしては金属質な光沢を覗かせているソレ。剣士を名乗るにはあまりにも俄仕込みという自覚がある間飛だが、少なくともコレを手にした事でむしろ弱体化した……なんて事態にはならない程度には使える自信もある。
ヒュヒュン、と風を斬り裂く二度の素振りの後にブレードを構える。剣道のソレとは異なる『相手を斬れるならなんでもいい』と言わんばかりの雑な構えだ。
「さっさと腕を生やしてくれよオール・フォー・ワン。片腕の耄碌ジジイを甚振る趣味はねェンだからよ」
「ふん……少しばかり周囲より優れていることがそんなに誇らしいかい?君をも上回る存在に出くわしたことがないんだね、可哀想に」
「……煽るならもうちょいマシな言葉選ぼう?どう考えても負け惜しみ以上の感想が出てこねェよそれ」
全ての段取りを滅茶苦茶にされ、切っ先を向けられて腕をも切り落とされた。そして何よりも自分を見下す間飛を前にしてオール・フォー・ワンから冷静さは失われつつあった。
隣にいたスターですら『うわー、スゲー煽りカスじゃん』みたいな顔をして二人の間で視線を行ったり来たりさせている。
……え?間飛は怒ってたんじゃないかって?
そりゃ勿論怒っている。なので。
「図に乗る──!!?」
「さっさと生やせって言っただろうが。ボケが回って会話すら出来なくなったか?」
「……Wow…」
悠長に喋っていればもう片腕を持っていかれるのも当然だろう。
◇
荼毘の転送先は神野区のオールマイト広場。長きに渡り平和の象徴として戦ってきた英雄の銅像が建つ激戦の跡地。
「……おいおいおい、アンタがこっちに来るのかよ!なあ!!」
「っ……燈矢ァ!!」
そして再び蒼炎と灼炎が衝突する決戦の場へと変わっていた。
ひたすらに出力だけを鍛え続けた、自分自身をも焦がす蒼炎を放出するだけの技。見様見真似の名前だけを借りた最早別物の【赫灼熱拳】と、オールマイトを超えずとも何年もその後を追い続けた努力の結晶たる技【赫灼熱拳】の衝突。
世代を経て強化され、生物としてのリミッターすら捨てた荼毘が極僅かにエンデヴァーを上回る。
「ぐっ、おおっ!!」
「ハァッ……どんな気分だ?なあ。テメェが捨てたガキに焼かれる気分はよォ!!」
まともに被弾する寸前、全身から一瞬だけ【ヘルフレイム】を放出。赫灼熱拳同士の衝突で減衰した衝撃を相殺するが、ノックバックから抜け出すことは叶わない。
地面に手を付きながら後退するエンデヴァーに対しまた蒼炎を放たんと手のひらを突き出し──その横っ面を轟焦凍が殴り抜いた。
「親父だけじゃねえ、俺もいるぞ……!」
「……ああ、そういやそうだった。ハイになっちまってて忘れてたよ」
「っ……」
普通ならば頼もしい援軍。しかしエンデヴァーからすれば我が子同士の殺し合い。胸が張り裂けんばかりの悲しみと罪悪感が胸中を満たす。
覚悟はしてきた。だがそれは自分の手で我が子を殺す覚悟であって、我が子が我が子を殺す光景を見る覚悟ではない。
勿論殺さずに止められるのならばそうしたい。最後の最後まで諦めるつもりは無い。
問題はその余裕があるかどうか。
「最高傑作……お前どんな面して怯える市民と一緒に雄英に籠っていられたんだ?」
温度の上昇に躊躇いがない。自分の生死すら厭わない荼毘の火力は天井知らずに上がっていく。
改造じみた手術でやっと最低限人間に見えていた肉体が焼けていく。かろうじて残っていた皮膚もあっという間に黒く焦げていき、死人を通り越して火葬されている様にすら見える。
異常で過剰な蒼炎の放出はそれだけでエンデヴァーのサイドキック達を近づけない。オールマイトの銅像を溶かし、地面をも焼き尽くす。
「エンデヴァーの息子にして荼毘の兄弟!厄災の煮凝りみてェなテメェが!!」
「っ、避けろ!!」
「そういう厚かましさだよ焦凍ォ!!」
爆発的な放出による推進力を利用しての突貫。乱暴な一撃が仕返しと言わんばかりに焦凍の頬を殴り飛ばす。
更に追撃を、と炎を構えた荼毘をエンデヴァーの炎が吹き飛ばす。膨大な熱の奔流が一瞬荼毘を呑み込み、内側から蒼い炎が食い破った。
「エンデヴァー!テメェの最高傑作とやらは随分と中途半端だな!!最高の環境と最適の身体!それらを持ち合わせて尚他に縋った!」
「……!」
「
止まらない。止まれない。憎悪も悲哀も激痛も愉悦も、自分自身さえも薪として焚べてしまった荼毘は止まってくれない。
大きく腕を振りかぶる荼毘を見て同じようにエンデヴァーも腕を振りかぶる。片ややっと辿り着いたこの瞬間を嘲笑いながら、片や悲痛さを隠そうともしない酷い顔で拳を振り抜く。
【赫灼熱拳】!!
「ぐっ…………!!?」
「どうダ!!?アンタなんかとっくに超えちまってンだよ!!」
衝突、そして一瞬の停止の後に蒼炎がエンデヴァーを殴り飛ばした。
唇を失い歯を剥き出しにして嗤う。あのエンデヴァーを超えてやった、と。
ざり、と水を差す音。振り返ってみれば致命傷……にはならずとも盛大に焼いてやったはずの弟が立ち上がろうとしていた。
「……そうだ」
「あ?」
「遠回りして迷ってばかりの半端者……それが俺だ……!」
「……何が言いてえ(想像よりも効いてねェ……何でだ?)」
「親父の事しか見てねェと思ってたよ……俺の事も見てくれてて、よかった」
次は、お前だ。獰猛に笑いながら焦凍に視線をやると、打撃はともかくとして蒼炎によるダメージの少なさに驚かされる。
何かが違う。自分と、エンデヴァーと。
「この
「赫灼熱拳“燐”」
発目「まずコーティングで強度と切れ味の底上げ。あとこのままだと持ちにくいのでちゃんとしたグリップと柄を付けまして、ついでに微振動を付与して更に切れ味を上げちゃいましょうか。バッテリーは……これでいいですね。これなら五時間くらいは連続稼働できます」
ホークス「……俺が一番欲しかったなあソレ」