オール・フォー・ワンの切り札。それは壊理の個性である【巻き戻す力】の劣化複製版を発動し、一方通行の若返りを行うこと。
顔を潰され目も鼻も利かない弱く衰えた肉体を巻き戻す事で個性群に頼らずとも視覚嗅覚が働くようになる。その反面発動した巻き戻しにはブレーキが存在しない為発動すれば最後、オール・フォー・ワンの肉体は胎児や受精卵を経て完全に消滅する。
故に、切り札。一度でも使えば明確なタイムリミットが生まれるが、オールマイトより受けたかつての痛手を帳消しに出来るメリットとデメリットが表裏一体のジョーカー。
それを切らせたということはそれ相応にオール・フォー・ワンを追い詰めた証左であり、オール・フォー・ワンが本来の力を取り戻す第二ラウンドの始まりということにもなるのだが……。
「っっ……!【
「随分と粗雑な配合だなおい。混ぜりゃいいってもんでもないだろ」
「HAHAHA!!アレを見てそんな感想で済むのはアンタくらいだよ!」
闇の球体を撒き散らしながら破壊力だけを求められた一撃が放たれた。相性も組み合わせも知ったことでは無いとばかりに使い勝手のいい個性を片っ端から掛け合わせただけの、暴力性そのものを出力したような一撃。
当たれば、殺せた。当たらなかったから、殺せていない。
手持ちの個性を我武者羅に組み合わせての攻撃。衝撃波を撒き散らそうが触手を伸ばそうが何一つとしてIXAには届かない。
「ふっ……ざけるなァ!!?どうなっている!?何故当たらない!!」
「……きっとお前は死んでも分からないね。IXAがどれ程の地獄を経てあの境地に立っているのかなんて」
(すんませんその地獄作ったの味方側なんです)
オール・フォー・ワンは肉体の巻き戻しと同時に死柄木弔の下へと向かうつもりでいた。巻き戻しの発動と同時に規模が大きいだけの目くらましのような攻撃を放って移動に徹するつもりでいたのだ。
超規模の爆煙の中から飛び出したのはオール・フォー・ワンと、IXAの二人だった。広範囲への攻撃の中からなんでもない様な顔をして当たり前のような顔をして追いかけて来ていた。
IXAにビビり散らかしながらも、若さを取り戻した肉体のお陰でまだ一方的な蹂躙にはならなかった。そこにスターアンドストライプが来るまでは。
「鬱陶しいハエ共め!!」
【押し出し+発条化×3+発火+大気圧縮】
「うわー当たらねえからって範囲攻撃に逃げるのダッサ。しかも当たっても大したダメージになりそうにねえし」
「クソエイムを煽られたのが効いたんだろうね。どんな弱パンチでもいいから一発あててクソエイムじゃないとでも言いたかったんだろう」
「っ……!っ……!!」
立ち止まるとノータイムで首を刈り取られかねない【瞬間移動】と攻撃全てに即死の効果があってもおかしくない【新秩序】だ。
たとえどれほど
いっそこれまで培ってきた個性全てを一度に展開してやろうかとも考えたオール・フォー・ワンだが、なんかあの二人相手だと的がデカくなるだけな気がしなくもなくてやめた。ちっ、命拾いしたな。
必死の形相で逃げ回るオール・フォー・ワンだが、それを追いかけるIXAとスターも実はそこまで余裕があるわけではなかった。
二人が最も危惧していたのは人質を取られること。超常解放戦線やダツゴクの残党と戦っているそこらのヒーローを一人抱えられた時点で一気に選択肢を狭められてしまう。
故に二人はまずオール・フォー・ワンの一時的な逃走を許した。自分達以外がオール・フォー・ワンの射程内にいない場所まで移動させる為に。
追い詰める立場から追い詰められる立場へと変わった事に気づいていないのか、オール・フォー・ワンは二人の想定通りに動かされている。人のいない方へ、誰も巻き込まない場所へと誘導されている。
スターの片耳につけられた極小サイズの通信機にノイズが走る。IXAからだ。
『もう少ししたら仕留めにかかりましょう。山間部辺りなら誰もいません』
「ああ!……にしてもアイツ、若返りが早いな?」
『んー……ダメージに比例して加速的に巻き戻ってますね多分。アレは治療じゃなくて巻き戻した結果傷が消えてるって形になってるんでしょうね』
「なら叩き続けてりゃ赤子になるのかもな!」
『……ろくでもねえ面してそうッスね』
違いない、と笑みが零れる。
正直、スターをしてIXAは異常と言わざるを得ない。パワーもだがそれ以上に回避能力の高さが。
この戦いが始まる前に個性の内容やその副作用も聞いてはいたけれど、じゃあそういうものかと納得出来る訳では無い。空間感知能力があるのはいいとしてだ、それに連動した紙一重での回避が通常運転なのはどういうことだってばよ。
今だってそう。煽る為だけにオール・フォー・ワンの手が届く位置まで近づいて、伸びてきた手を既のところでへし折った。痛そう。
(油断するな、とBrosなら言うんだろうが……この状況下だと油断も何もあったもんじゃないな)
これでも自由の国のトップヒーローとしてのプライドがあるのだが、どうにもIXAを見ていると変な安心感が生まれてしまう。
どうしようもなくつまらなくて、ドラマ性の欠片もない戦いで……それでもコイツならまあ大丈夫だろうと思えてしまう。
いつかの日に彼が胸の内に秘めていた理想の在り方。スターアンドストライプがそう評価する領域に辿り着いていた。
「おっ、ようやく加齢臭消えたな。お前二十代後半から加齢臭撒き散らしてたのな」
「死ね」
……それはそれとして煽りカスなのは心配した方がいいのだろうか。
◇
周囲に人は……いないな。ヨシ!*1じゃあそろそろ本腰入れて仕留めにかかるか。
仕留め方?そんなもんひたすら殴り潰すだけですが。
山間部なら遠慮する必要も無い。スターの【新秩序】による支援も俺の【フィジカルギフト】での全力も問題なく使える。
オール・フォー・ワンに教えたら頭抱えるだろうな。俺もスターもまだ全然本気じゃなかったって事。回避に徹してりゃ本気になる必要もなかったしな。
これでも一応ブチ切れてはいる。若返る度に何回も顔面金玉にしてやろうと目を潰したり鼻削ぎ落としたりしてやってるし、いつもの十倍以上煽りカスになってるし。
ただ俺の場合はブチ切れると冷静に頭を回すタイプだったみたいでな。今もだけどずーっとこいつが嫌がることが何か考え続けてる。
『IXA!?オール・フォー・ワンが移動を開始したと聞いたが──』
「増援は要らん!むしろ邪魔!!」
通信機から聞こえたオールマイトの声も今はノイズでしかない。一分一秒毎に変化する空間を掌握し続けろ、一瞬たりとも奴に自由を与えるな。
スターはともかく俺なら直接ぶん殴れる。【瞬間移動】で移動時間を限りなくゼロにしたヒットアンドアウェイで削り続けられる。
やたらめったらに放出される何らかの個性も俺なら避けられるし防げる。これは俺が出来ることだから、俺がやる。
「っ、来るな!!」
「嫌だね。俄然、行くとも!」
……というかコイツ予備動作がデカすぎて分かりやすいんだよな。万全のホークスなら割と普通に避けられるんじゃねってくらいには。
某正義の味方の言葉を借りるのなら、アイツは玉座に着くことは出来ても戦場に立つ人間にはなれなかったってことだろう。
無限にも等しい手札を持ちながら、その実自分が使いやすい単純な個性ばかりを掻き集めていた。そこに思考を割きたくないのか労力を惜しんだのかは知らんが。
奪われた人達には酷い言い草だが、有象無象の個性を掻き集めてふんぞり返っていてもオール・フォー・ワン自身が強くなるわけじゃない。剣を持った人間がとにかく剣を振り回しているのと何ら変わらない。
オールマイトやエンデヴァーのように個性を鍛え研ぎ澄ました『究極の一』なら勝てる可能性がある。アレはそういう存在だ。
俺が『究極の一』かはさておき、スターもいればどうにかなる範疇だ。後は逆転を許さないように全身全霊を持って奴を仕留めるだけ。
「スター!仕掛けます!!」
『了解!思いっ切りぶっ飛ばしてやりな!』
「勿論!」
「っ……来るか……!」
慣性を残しながらの【瞬間移動】で追いかけ続けていたが、それももう終わりだ。今この場で仕留める。
全部、見える。分かる。奴の攻撃がミリ単位で、どう俺を狙っているのか全部分かる。
「弾幕薄いぜオール・フォー・ワン!!」
「っっ…………!!?」
何で避けられる!?って顔してんなァ!テメェの狡い攻撃なんざ全部読めてんだよ!!
ホークスと発目にゃ悪いが、コイツの出番もここまで。最後に奴の片目だけ持っていってもらう!
「投げ───!?」
グチュリ、と水っぽい潰れた音。投擲には自信があるんでね。しっかり貫いて貰ったよ。感謝するぜホークス!発目!
スターは……構えているな。【新秩序】で大気をプレートのように固めてくれたか。じゃあ後はひたすら殴り殺すだけだ。
「ふ、ざけるな!?まだ終わるものか!消えてなるものかァ!!」
「……ンだよ今更若返りが加速してんのに気づいたのか?もう今のテメェはクソガキもいい所だぜ」
まだ死柄木弔は遠い。ヘドロワープにしろ黒霧の【ワープゲート】にしろ余力を残しながら少しでも近づかなきゃならねえんだろ?
ただ、ちょっとこれは想定外だな。
……これまで奪ってきた個性を全部解き放ったか。奪われたであろう人の顔やら手足やらが生えて気持ち悪いな。グロテスクな超級覇王電影弾みたいだ。
そこまでやってやる事が推進力を得て少しでも死柄木弔に近づくってのが小物過ぎて笑えるぜ。
『IXAァ!
「余裕」
そんな小物にやられてやる理由はどこにもねェ。
間飛が【フィジカルギフト】を継承してから9年。曽祖父から始まり祖父、両親を経て彼へと受け継がれてきた。
しかしその中にヒーローとして戦った者はおらず、精々が空手や柔道といった格闘技の経験があるのみ。【フィジカルギフト】で受け取った経験値の中にヒーローとして実戦に出たものは全くと言っていいほど存在しない。
だからこそ断言出来る。
今オール・フォー・ワンを追い詰めているのは他でもない、間飛移の……純然たる彼自身の実力なのだと。
「……オールマイトが嫌いなんだろ?オール・フォー・ワン」
「どけェエエエエ!!」
「分かる分かる。あの人脳筋だしヒーロー以外ポンコツだし、大抵の事は事後報告だし……」
「俺みたいに全部パワーで解決しちまうもんな」
──【フィジカルギフト】120%
──United States of SMASH
「オオオオオオオッ!!!」
「ギィィイイイイアアアアアアアァ!!?」
一撃一撃がかつての神野区でのソレを軽く凌駕する威力。十メートルを超えるサイズまで肥大化したオール・フォー・ワンの肉体が壊れていく。長年に渡って奪い集めてきた個性達が解けていく。
己の何十倍もの巨体を拳だけで殴り続ける。膨大な推進力も個性から生じたエネルギーも、オール・フォー・ワンが全てをかけた攻撃が押し返される。
衝撃が肉体を削り、巻き戻しを強制する。巻き戻しを緩めれば死神がすぐ顔を出すダメージが断続的に押し付けられる。
魔王の全盛期はとうに過ぎ去った。既に肉体の年齢は一桁にまで戻り、肥大化していた肉体のほとんどが朽ちていった。
奪った個性も、年月を重ねた肉体もない。オール・フォー・ワンから全てが失われる。
「コレが俺の物語じゃねえってンなら……!」
「ガ……ァ……!?」
「アイツらの物語の邪魔してんじゃねェよ!!」
抱えた怒りも憎しみも、何もかもが乗せられた拳が魔王を叩き落とし───地面に到達する頃には跡形もなく消滅していた。
オール・フォー・ワン……【巻き戻し】の個性により消滅。
勝者……スターアンドストライプ、IXA。
【間飛が経験した地獄】
・ナガンからの狙撃
・ホークスからの全方位攻撃
・エンデヴァーの【ヘルスパイダー】
・瀬呂と峰田の粘着コンボ
・ピクシーボブの【土流】
・↑らの中でグラントリノと組手
・↑らの中でミルコと組手
・↑らの中で爆豪と組手
・↑らの中で緑谷と組手
間飛「控えめに言って殺意しかなかった」
スター「ええ……」
※爆豪や緑谷も狙われる側になることもある模様
今話で【継承者の中にヒーローとして戦った経験が……】という描写がありましたが、祖父がヒーロー活動をしていたという設定を忘れていておかしな文章になってしまいました。
なので、間飛の祖父は救助活動をメインとして活動していたのでヴィランとの戦闘経験は少ないけど、身体能力の強化幅が一番大きかった……という方向でいこうと思います。ご指摘頂いた読者の皆様、ありがとうございました。