「あ゙ー……しんどい…………」
「……お疲れさん」
オール・フォー・ワンに全てをぶつけた。身勝手な憎悪も憤怒も何もかも。
一方的で身勝手な理由での復讐を遂げた間飛の感想は『思ってたよりもずっと虚無』だ。何も感じないし何も思わない。
むしろ巻き戻しによる消滅という形だが、自分の手で人を殺したのだ。精神的にはマイナスの領域に踏み込んでいる。
「なんか……全然スッキリしねぇ……」
「そんなもんさ。アメリカなら甘ったれ扱いだろうが、平和な日本で生まれ育ったなら当たり前の感覚だ」
「そんなもんですかね」
地面に大の字で寝転がる間飛を笑い飛ばすスター。
実際彼は殺人経験と呼べる物はほとんどない。精々が自分のいた世界でのオール・フォー・ワンとの決戦中にハイエンド脳無を殺したくらいで、それも見方によっては改造の犠牲者を安らかに眠らせたとも解釈できていた。
今回は言い訳のしようもなく、完全に自分の意思で殺したのだ。受け取り方も重みも違ってくる。
「まあそれはアンタ個人の問題だ。今はまだやってもらわなきゃならない事がある」
「……死柄木弔かあ」
「キツイか?」
「いや……キツイと言えば精神的にはキツイですが」
「アイツの相手は緑谷がしたいって言ってたんでどうすっかなあ……と」
◇
オール・フォー・ワンが完全に死んだ。
死柄木弔は何となく……第六感のような部分で理解していた。【オール・フォー・ワン】の残滓が何かを感じ取っていたのかもしれない。
今残っているのは死柄木弔と荼毘、スピナーの三名。一応スケプテイックを始めとした異能解放軍の残党もいるだろうが、戦力としてはさほど脅威足りえない。
舌打ちと共に喜色を滲ませながら弔は呟いた。
「クソ……思ったより早い退場だな」
「考え事たァ余裕だな!?」
弔の思考に割り込むように響く【爆破】の轟音。天才的なセンスで制御された爆風で加速したヒーローが弔を吹き飛ばす。
進化した【クラスター】による一撃はニアハイエンドから吸い出した【超再生】をしてもかなりのダメージとなっていた。その爆発規模はミルコが踏み込むのを躊躇う程。
「痛っってェなァ!!」
「痛くなるようにしてっからなァ!!」
爆豪の攻撃は数秒間【抹消】を途絶えさせてしまうが、その数秒間を緑谷が埋める。弔の【崩壊】を自由にさせない。
爆煙の中を突っ切って【黒鞭】が弔の左腕を捉え、煙の外側へと思い切り引っ張り出される。
「い、た!」
「【危機感知】か……!」
「そのまま捕まえてろ!」
もう片手で【黒鞭】を引きちぎってももう遅い。自分の方へ引っ張った弔の胴体を真上へと蹴り上げ、遮るもののない中空に持っていく。
ギシリ、と身体が軋む感覚に苛まれながらも二人を睨みつけ──眩い超爆発が撃ち込まれた。
【クラスター】。手のひらの汗腺から生まれるニトログリセリンのような成分を含んだ汗を球にして溜め、一気に放出するという形にする事で実現した新境地。
その反面、汗を溜めるという行為は手のひらの汗腺に想像以上に負荷を与えてしまい、副作用としてニトログリセリンのような成分が全身の汗腺から溢れるようになってしまう。
そうなると手のひらに限らず全身で【爆破】が起こるようになってしまい、【爆破】になれていない部位が自爆のダメージを受ける事になってしまう。
このデメリットを決戦前に知ることが出来たのは幸いだろう。オール・フォー・ワンや死柄木弔との戦闘中にこの副作用を初めて知った、なんて事になれば大惨事は免れない。
……それに気づいた理由が間飛との訓練でムキになったせい、というのはちょっとアレだが。
「かっちゃん!?また【クラスター】を……!」
「ヌルいこと言ってんじゃねえ……!アレを止めるンならこれぐらいやっても足りねェだろうが!」
「よく分かってるな」
「「っ……!」」
緑谷の心配をバッサリと切り捨てる爆豪。そしてそれを煙の向こう側から弔が肯定する。
【超再生】だけではない、オールマイトに匹敵するレベルまで改造を重ねた肉体の強度はあの爆発ですら致命傷に届かない。
映像を巻き戻しているように傷口が塞がっていき、焼けただれた皮膚もあっという間に元に戻ってしまう。
今の死柄木弔を止める方法はそう多くはない。戦闘中に会話を重ねてどうにか説得するか……【超再生】が間に合わない程の大ダメージを与えて殺すか。或いはそのどちらでもない新たな方法を探すか。
唇の端を釣り上げて笑いながら弔は再び手のひらを突き出す。最早奪い取ることすら忘れ、全てを壊す手を。
◇
時は遡り、荼毘確保の報告が各戦場に届いた後。
セントラル病院前でも戦いが起こっていた。
オール・フォー・ワンがあらゆる個性と比較しても最高クラスに使い勝手がいいと評価した【ワープゲート】を持つハイエンド脳無、黒霧。
魔王はスピナーに超常解放戦線の残党を率いらせて攻め込ませていた。
しかしその規模は残党と呼ぶには余りにも大きく膨れ上がり、配置されていたヒーローと警官隊三百人に対し一万五千人。いかに超人社会と言われていようともこれだけの人数差を覆すには圧倒的が過ぎた。
「ッソ……!!コイツら!」
ラウドアウトシャウト!!
プレゼントマイクの必殺技が放たれる。広範囲への音の衝撃波が大勢を吹き飛ばす──かに思われたが、そこらの人間を肉壁に防がれてしまう。
そこまでするか、と思考が停止しかけたマイクを狙いフォークのような槍を持った男が突撃して来る。マズイと判断する前に鋭い一刺しがマイクの横っ腹をさらっていった。槍……ではなく【動物ボイス】に呼ばれたカラスが攻撃からマイクを守ってくれたようだ。
「先生大丈夫!?」
「危ねェ!?サンキュ、アニマ!テンタコルは!?」
「戦ってる内にはぐれちゃった……!」
目の前で広がる暴徒の進軍を睨みながら、それでも今自分に出来ることは何か頭を回す。
ここまで勢力が膨れ上がった原因。それは残党らに賛同した一般市民達だ。
指揮を執るスピナーを筆頭に進軍する者達全てが『異形型』の個性を持ち、誰もが一律に怒りと憎しみを叫ぶ。
一般市民が与する理由はただ一つ。異形型個性への差別。
超常黎明期よりも前の話だ。個性など存在しなかった頃の人類は肌の色で人種を区別し、互いが互いを嫌悪して差別していた。
全てが変わったのは個性発現後。肌の色どころか本当に人間なのかとすら思ってしまう見た目になった人間が生まれ始めた。
角が、爪が、肉体が。人間の
「怒れ人民!今日が解放日だ!!」
声高に叫ぶ残党。ただ怒りを煽るだけの無責任な発言でありながら、同時に超常社会の被害者だった者達が抱える怒りを代弁している。
現代ではマシになった異形型個性の扱いだが、その差別意識は未だ根強く残っている。かつては『気味が悪かった』の一言で虐殺に加担した者すらいたのだ。
「『この
「我々のヒーローはお前達じゃない!」
そうして男は『代弁者』とスピナーを呼ぶ。
そのスピナーはというと。
──何言ッテるノかワカンネええ
──力貰っテカラ
──頭ガドンドン白ク
代弁するだけの知能も言葉も失われ、飾り物として歩まされていた。
オール・フォー・ワンよりいくつかの個性を与えられ、脳無と何ら変わらぬ存在になりつつあるのだ。
あのギガントマキアですら七つの個性を所有するのが限界で、それも知能の低下は免れずにいた。何の改造も施されていない一般市民だったスピナーが耐えられるはずもない。
その上で黒霧に手を伸ばし続ける理由はただ一つ。
──LoL!?俺もやってた。ソロだけど。
「黒霧ヲ奪還シロぉ!!!」
ただ、友達のために。
弔「今思うとソロでやるの死ぬほどキツかったのか」
スピナー「分かる。お前がいるだけで滅茶苦茶楽になった」