え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

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零になら

 

 

 

 荼毘が再起したばかりの頃、間飛は予備用の通信機を起動し塚内警部に連絡を取っていた。

 自らの手で分断しておいて言うのもアレだが、複数箇所で戦闘が起こっている現状では常に各戦場の状況把握をしておく必要がある。だからこそ、分断を前提に動いていたヒーロー側に情報アドバンテージがあった。

 

 チープなノイズから二秒。慌てた様子で塚内警部の声が響いた。

 

『IXAか!?』

「はいはいIXAです。今どっかヤバい場所あります?」

『ある!神野のオールマイト広場……エンデヴァーがマズい!!荼毘が復活したんだ!』

「……荼毘が?」

 

 荼毘の鎮圧報告は開戦から数分後だったと記憶している間飛だが、詳しい状況を把握していた訳では無い。捕まえ方によっては再起してくる可能性はあるだろうとは思っていたが、エンデヴァーが危ないほどとはどういうことか。

 

 その理由は単純明快。単にもう一度立ち上がっただけでなく、上昇し続ける高熱から自爆する可能性が出てきたという。

 

『今、観測出来たデータを元に爆破の規模を……五キロ!?』

「…………はあ!?」

『直径五キロだ!荼毘を中心に直径五キロが吹っ飛ばされる!!圧縮した熱エネルギーで───』

「荼毘の近くにとどろ、ショートは居ます!?」

『っ、ああ!』

 

 塚内警部の悲痛な報告を何とか理解出来た間飛は即座に頭を回した。

 

 もう、荼毘を救う手段はない。

 

 自分の知る荼毘と、轟燈矢の個性が同じものならば。間飛では荼毘を救うことはもう叶わない。恐らくだが荼毘は生物としての限界を超えて熱エネルギーを圧縮している。

 

 自分のいた世界での話だが、エンデヴァーもショートも燈矢でさえも『熱の圧縮』には細心の注意を──解放した時の威力については特に──払っていると言っていた。

 生物としての感覚機能のほとんどを失い、いつ死んでもおかしくない荼毘が適切なコントロールが出来ているとは思えない。仮に出来たとしても安全な範囲で止まる理由がない。

 

「(爆豪もそうだった……!圧縮すれば圧縮するだけ、ソレを解き放った時の反動は酷くなる!)黒霧の【ワープゲート】は!?」

『……無理だ。物間君の【コピー】も品切れ、肝心の黒霧本体もイレイザーヘッド達と共にどこかへ消えてしまった』

「っ、じゃあ方角を!今から荼毘の所へ向かいます!」

『わ、分かった!座標を送る!』

 

 表示された距離は間飛に取ってはそう遠くない距離。【フィジカルギフト】にものを言わせて駆け抜ければ間に合わないとは思えない程度の位置。

 

 しかしそれとは別にしなければならない事がある。

 

 

「聞いてたよな?外典」

「…………何故、分かった」

「俺が見てないうちに周囲の警戒と情報の把握に動いてただろうが。分かってンだよ」

「一体どんな異能を……いや、いい。今更だ」

 

 彼の背後で気絶した振りを続けていた外典。こちらに視線が向いていないからと動いてしまったのは悪手だった。

 背中を向けていたとしても、間飛に限っては探知能力があるお陰で誰かが動いている事くらいは把握出来ている。

 

 ゆっくりと立ち上がる外典には抵抗の意思は見られない。そのまま両手を顔の横に持ち上げ、銃を突きつけられた弱者のように降参のポーズを取っている。

 

 彼の個性はあくまでも【氷操】。氷を操ることは出来ても無から氷を生み出せるわけではないのだ。今の彼には氷などなく、例え抵抗したとしても無個性の人間と何ら変わらない力しか出せない。

 それを理解できないほど愚かでもない外典は無駄な抵抗をしない事にした。どうせいきなり引き摺り出されただけの身、リ・デストロもいない今の自分に存在価値などない。

 

「それで?今度は僕をどうする?両手足を折ってまた豚箱送りか?それともまた脱獄されないようにここで首でもへし折っていくか?」

「……しねェよそんなこと。何でお前そんなに物騒なの?」

「ヴィランは物騒な考えで当然だろうに……変なことを言うね」

 

 故に、この後の己の扱いに対しても頓着などない。強いて言うなら死刑を受ける時はリ・デストロよりも先に逝きたいというくらいか。主君よりも生き長らえてしまうなど御免だ。

 

 対して間飛はやや引き気味。見知った顔とはちょっとだけ違うソックリさんから血なまぐさい話を聞かされてまたテンションがダウン。というか普通のヴィラン相手でも気が滅入ることを幼馴染(?)に出来るわけがない。

 

「俺がお前に求めるのは一つ。荼毘を止めるのに手を貸せ」

「はぁ……?何で僕が……というか荼毘がどうしたって言うんだ」

「……アイツ自爆しようとしてるらしい」

「は?自爆?アイツそんな事も出来たのか?」

 

 一から十まで説明するには時間が惜しい。疑問が尽きないという表情の外典に間飛は話を続ける。

 

「現場にいる轟焦凍とお前が手を組めば止められるかもしれない!だから手を貸してくれ!!」

「……ヴィランが素直に言うことを聞くと思うか?」

 

 一応状況は飲み込めた。だからといって外典が協力してやる理由はない。むしろ敵対勢力に甚大な被害が出るのなら万々歳だ。

 

 リ・デストロはもう捕まってしまったし、監獄にいた時に再び拘束されたダツゴク達を見た。もう超常解放戦線は……リ・デストロが率いていた異能解放軍は壊滅したと見るべきだろう。

 既に自分の願いも主君の望みも絶たれているけれど、だからといってヒーロー達に手を貸してやる理由などどこにもない。

 

 どこか上の空のような腑抜けた返事に間飛は。

 

「頼む……!お前も“氷叢”なんだろ!?今手が届かない冷さんの代わりにやってくれ!!」

「っ……それをどこで……」

「知ってるよ! 氷叢零治!お前の名前を忘れた事なんてねェ!!」

 

 慟哭のように言葉を続ける。ここに居ない誰かを想起しながら、それでも目の前にいる氷叢零治へと射抜くような視線を向けて。

 

 

「今!お前の力が必要なんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……分かったよ」

「っ、ホントか!?」

 

 ああ、クソ。本当に、もう……。

 

 名前も顔も全くもって知らない、無関係のヒーローでしかないのに。何故無視することが出来ない。ただのお世辞と何が違うというのか。

 リ・デストロ様への忠誠心とはまるで別物。コイツの為に全てを擲ってやるとか全てを捧げたいとか微塵も思わないけれど、ほんのちょっぴり……カッコつけたくなる。

 

 ちょっと認められただけで揺らいでしまうほど僕がチョロいのか。それとも無気力な僕のほんのちょっとした気まぐれなのか。どちらにせよこれっきり。次は無い。

 

「ヒーローに貸しを作ってやるのも、ちょっと面白そうだ」

「……っ、ありがとう!」

「うわ、抱きつくなよ鬱陶しい!?というかその馴れ馴れしさは何なんだお前!」

 

 それはそれとしてなんだコイツ。最初から妙に距離が近いというか警戒心が薄れるというか。

 

 

 

「じゃあ、今から全力で走るからしっかり捕まっててくれ!」

「……え?」

「方角は……アッチか。よし……!」

「え、ちょ、何を────」

 

 

 瞬間、地面が爆ぜた。それも遥か後方で。

 

 景色が線のように流れていく。向かい風が顔面を思い切り叩いていく。耳元でゴウゴウと風が唸っている。

 

 

「な───なななななな何が起こったァ!?」

「舌噛むぞ!口閉じとけ!」

「おまっ……!」

 

 コイツ。コイツ!

 

 

 

 

「お前やっぱり嫌いだああああああぁぁぁあああああああああ!!?」

 

 

 …………なんて酷いドップラー効果の実体験だ。こんなもの二度と体験したくない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そうして荼毘の復活報告から3分後には間飛と外典は神野区へと到達。外典はただ背負われていただけなのに酷くグッタリしているのは何故だろうか。*1

 

 暴発寸前の荼毘の熱は想像よりもずっと強烈で、荼毘の姿が豆粒程度にしか見えない距離でも肌をジリジリと焼くような風が吹き付けていた。

 

「っ……思ってた以上にヤバいな。ここでもただじゃ済まなそうだ」

「ゔっ……僕も、ただじゃ済まない……っぉ゙ェ゙……ェ」

「お前、氷なら何でも操れるんだよな?形状だけじゃなく、温度とかも」

「あ、操れるけど……少し待っ、待てっ……」

 

 しかし間飛が踏み込めるのはここまで。どれだけイカれた超パワーを持っていても間飛はただの人間で、轟やエンデヴァーと違って炎に巻かれてしまえばそのまま焼け死ぬ。

 

 故に、この先は外典に託すしかない。間飛と違って【氷操】である程度の防御が可能な外典ならば踏み込むことが出来る。

 

「……轟の氷が残ってなけりゃキツかったな。こればっかりは運だった」

「ふぅ、やっと落ち着いた……それで?僕は何をすればいい?」

「ん、ああ……まず大前提として轟焦凍、紅白頭の男子高校生の協力がいる」

「……プロヒーローじゃなくて男子高校生なのか」

「並大抵のプロより強いから安心しろ」

 

 間飛が思いついた手段は単純にして明快。轟焦凍の氷による冷却を外典の【氷操】で強化する事。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 今の轟焦凍には【直径五キロを吹き飛ばす圧縮された熱エネルギー】を抑え込むどころか対抗することさえ厳しい。間飛の知る轟焦凍であれば何とかなったかもしれないが、それは無い物ねだりというもの。

 なので外典の【氷操】で氷の温度を更に極限まで落とし、氷結の威力ではなく冷却能力を補ってもらう。これならば少なくとも対抗するレベルまでは持って行けるはずだと思っていた。

 

 しかし、外典はその作戦に懐疑的だった。

 

 

「……それでも、こんな高熱の中だと氷なんかすぐ溶けてしまう。僕が操る前に消えてなくなってしまうと思うぞ」

 

 荼毘はまだ爆発こそしていないものの、その前兆だけでも凄まじい熱波を放っている。そんな環境下でまず氷を生むことが出来るのかという疑問がある。

 荼毘と外典の関係はそう深くない。極僅かな交戦経験と手を組んだ時間があっただけだが、それでも荼毘の炎が並外れた出力であることを知っている。

 

 その荼毘が生命をも薪として焚べた熱波の中で氷を作れるのか?という外典の問いかけに対し、間飛は顔色ひとつ変えずに答える。

 

「大丈夫。だって轟は……アイツは強いから」

「…………そう」

「それにだ。轟が氷を作れたらお前が何とかしてくれる。お前なら絶対出来るって信じてる」

「…やっぱり、お前のその信頼の重さがどこから来てるのかさっぱり分からない。何なんだお前は」

 

 サラリと答えるにはあまりに重すぎる信頼(脅迫)。外典は轟焦凍に同情しつつ、思わず笑ってしまった。

 

 なるほど、これがヒーローの正体。名誉の為でもなければ利益の為でもない、誰かの為に動きたくなる衝動。これがヒーローをヒーローたらしめているのかと、外典はらしくもなく年相応に笑うしかなかった。

 

 

「……さて、もう時間が無い。覚悟は出来たな?」

「ああ……せいぜい期待に応えてや──待て、何をしようとしている?」

「……?何って……お前を投げる準備だけど?」

「はぁ!!?」

 

 

 それはさておき。ぶっちゃけ荼毘がいつ爆発するか分からないのでさっさと動きたいのだ。

 間飛が突然自分を抱えあげたから何をするのかと尋ねれば『何言ってんだオメー』な態度で有り得ないことを口にしやがった。外典は顎が外れるくらいビックリしてるし。

 

「いやだって……俺、あの中に行くと大火傷するし」

「僕もだが!?」

「お前なら氷で防御出来るじゃん?行ける行ける」

「イヤイヤイヤ!?そういう問題じゃ……!」

「あ、轟焦凍に協力依頼する時は俺の名前、間飛移かIXAって言葉を出せば何とかなると思う。頑張ってね」

「待て!?せめて覚悟する時間を───」

 

 

 それ以上いけない。*2

 

 

 

 

 

「氷叢ッ……人間砲弾ン!!射出☆」

「ふざけんなああああああ!!?」

 

 

 

 

 哀れ外典。しめやかに射出。

 

 これで風を切る経験は二度目になるが慣れるはずもなく。ドップラー効果を響かせながらもしっかり氷で熱を防御しつつ戦場のど真ん中へと突入した。

 

 

「ンのっ……!?アイツ覚えてろォォオオ!!?」

「は……!?」

「あ!お前だな!?轟焦凍はお前であってるな!?」

「え、あ、お、おう……」

 

 燈矢とエンデヴァーの生命がかかっている局面だというのに、焦凍君は大混乱。とりあえず名指しで確認されたのではいそうですと返事。

 

「間飛移から頼まれて来た!お前の氷を貸せ!!」

「っ……!?何をすればいい!」

「とにかく、全力で冷やしてやれ!頭を念入りになァ!!」

 

 間飛移。その名前を聞いた瞬間に目の色が変わった。戸惑いが消え、やる事が決まれば後は覚悟を決めるだけ。

 

 胸を中心に炎と氷が混ざっていく。クロス状の半分を熱気が、もう半分を冷気が形取る。エンデヴァーには無い自分と──轟燈矢にしかない力。【赫灼熱拳“燐”】が再び解き放たれる。

 

 もうこちらに目もくれない荼毘を、燈矢を止める為にもう一度限界を超える。

 

 

 

「いい加減に……っ!止まれェェ!!!」

 

 

 

 【大氷海嘯】。エンデヴァーの最高の必殺技である【プロミネンスバーン】の冷気バージョンとも言える技。焦凍を中心に全てを凍てつかせる膨大な冷気を放出する。

 ほんの一瞬、全ての熱を押し潰して静寂の世界が生まれた。

 

 だがそれも一瞬。荼毘を中心に再び膨大な熱が放出されようと───

 

 

「……やっぱり、僕の異能の方が上だな」

 

 

 ──放出、されない。

 下がりきった温度を貫けない。身体を縛める氷を解く事が出来ない。熱を高めても高めても、冷気を上回る事が出来ない。

 

 

「ナん……で……」

「……僕は(ゼロ)を一にすることは出来ない。でも、零を保つことは出来る」

 

 束ねていた熱が解けていく。全てを焚べてきた炎が消えていく。エンデヴァーの命が、遠のいていく。

 

「一度でも零になった時点で……お前の、負けだ」

「──クソ、が」

「……燈、矢」

「燈矢兄!」

 

 何もかもが凍りつく。腕も足も、寿命までもが止まっていく。外典の補助が外れても問題ないまでに熱は消えてしまった。

 

 死に際で生き延びてしまったエンデヴァーと、ようやく止められたと判断した焦凍が近寄っても燈矢の反応はない。ただうわ言のように、あの日からずっと言いたかった事を口にするばかり。

 

「死んじまえ……クソ親父。しね……みんな……おれも……」

「燈矢……!燈矢っ……!!ごめんなぁ……っ!!」

「……だい、嫌いだ。お父さんなんか……!かぞく、なんか……!」

 

 もうそこに炎はない。あるのはただの人間の体温と、痛いほどの冷気だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……で、僕はどのタイミングでこの場を離れればいいんだろうか)

 

 尚、約一名はほぼ無関係。離脱するタイミングを完全に見失っていた。どうしよう。

 

 

 

*1
公式マップだと群訝山荘跡地が和歌山県で神野区は東京。作中でのAFOの移動を加味しても大体430kmの距離があるので間飛の速度は約2880km/h。むしろ生きてるだけ凄い。

*2
荼毘のタイムリミット的に。






本編後間飛
→外典への配慮込みで時速2880km

衰えマイト
USJ脳無に300発
→全盛期なら5発(自称)
→全盛期は衰えマイトの60倍(?)

連合酒場から神野区までの5kmを30秒
時速600km(!?)
つまり全盛期なら時速36000km(!!?)


間飛「つまりもうちょい俺の速度を上げてもなんら問題は無いのである」
外典「ふざけんなカス」

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