え?OFA?何それ……   作:南亭骨帯

239 / 243
天敵

 

 

 

 

 オール・フォー・ワンは消えた。荼毘は燃え尽きる(立ち止まる)ことが出来た。渡我被身子は普通を知った。異能解放軍は思想に殉じた。

 

 オールマイトは八木俊典として、【ワン・フォー・オール】継承者の一人として見守っている。エンデヴァーは轟炎司として己の過去を正しく見据えた。人々はヒーローの本質を思い出した。

 

 その果てで今。幼い頃から積み重ねてきた憎悪を膨れ上がらせた少年と、幼い頃から憧憬を追いかけてきた少年達が戦っている。

 かつて平和な社会にあったショービズな雰囲気はどこにもない。ひたすらに危険で泥臭くて、とても見ていられない……それでも目を離せない何かを感じさせていた。

 

 

「っ、があ……っ……!」

「うっ、ぐうっ……!」

「クソが!まだ倒れねェンか!?」

「あ、たり前だろうが……!まだ俺は何も、成し遂げちゃいない!」

 

 【崩壊】を封じられた死柄木の武器は肉体改造によって獲得した超パワーと、辛うじて使い道のわかるいくつかのシンプルな飛び道具となる個性だけ。後は【超再生】にものを言わせて殴り合う事しか出来ていない。

 

 一方で緑谷達の武器は豊富。【ワン・フォー・オール】の歴代継承者達の個性に加え、二人という利点が手数の差として分かりやすく有利。しかし傷が治ることはなく、消耗戦となればこちらが不利。

 

 それらの理由が重なった結果、ほぼ一方的に叩き続ける緑谷達と耐えながら時々カウンターを狙ってくる死柄木という状態になっていた。

 緑谷達は純粋に疲弊を積み重ねており、死柄木もまた痛みと【超再生】の消耗を重ねている。どちらが先に倒れてもおかしくない程に。

 

 何故倒れていないのかとすら思える満身創痍になって尚、死柄木は吠える。

 

「モンちゃんも、華ちゃんも!おじいちゃんおばあちゃんも、お母さんもお父さんも!!全部俺が壊した!」

「っ……!?」

「個性も憎悪もオール・フォー・ワン(アイツ)植え付けられた物だとしても(・・・・・・・・・・・・・)……!それでもまだ!立ち止まれねェンだよ!!」

 

 武術の心得など全くない、子供が駄々を捏ねているような大振りのパンチ。しかし疲弊した緑谷が回避するには難しいだけの速度と威力があった。

 交差させた腕の上から強引に叩きつけられ、防御の上から殴り飛ばされる。骨も筋肉もまだ無事だが、その痛みは酷くズッシリと重い。

 

「……【オール・フォー・ワン】を剥がされた時に、全部、思い出した」

「君、は……」

「俺の憎しみも【崩壊】も、アイツにとって都合がいいように植え付けられただけのハリボテだと」

「……あの顔金玉ろくな事しやがらねェな」

 

 自我を取り戻す中で垣間見た過去。【オール・フォー・ワン】に残された原初の悪意。志村転孤を死柄木弔にする為の策謀。

 

 強靭な精神と暴走している感情がなければそのまま呑み込まれてもおかしくない程の真実を知った死柄木は、自分の中の元凶を跡形もなく消した。

 それを悟られないようにと溢れんばかりの殺意を飲み下し、必ず来るその時まで待った。

 

 そしてオール・フォー・ワンは消えた。自分の関係ない場所で。

 

「後は……俺に残ってんのは連合(アイツら)だけだ。アレは、アイツらだけは俺の意思で選んだ。だから───」

 

 

 ───アイツらのヒーローにならなきゃ。

 

 

 憎悪の原点(オリジン)昇華(ライジング)させて出た結論はそれだけ。酷く曖昧で何一つ具体性のない子供の絵空事のような夢を、絞り出すように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やっぱお前はお前か。転孤」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 オッスオラ間飛。

 いつかの宣言通りフラペチーノぶち込んでやろうと思ってアチコチ走り回ってたら、スターアンドストライプに拾われて『誰かに作って貰ったら?』って言われてホークスからフラペチーノを受け取ってきたところよ。

 ちなみにホークスは死んだ目をしてた。最速のデリバリーありがとうごぜーます。

 

「……誰だ」

「間飛移。IXAって名乗った方が分かるか?」

「ああ……オール・フォー・ワンが死ぬほど腹を立ててた奴か」

「いい顔してた?」

「写真に撮って見せてやりてェぐらいには」

 

 何それ滅茶苦茶気になる。煽り倒してやりたかったのに。*1

 

 さて。宣言通りにフラペチーノを顔面に叩きつけてやってもいいと言えばいいんだが……今の俺がアイツにフラペチーノ叩きつけたらそのままノックアウトしちまいそうでヤダなぁ。ラストバトルのトドメが外野のフラペチーノはダメでしょ。

 

 ──そりゃそうだろ。ここは黙って後方理解者面して見とけ。

(テメェが言うなカス。精神力に任せて磨り潰すぞ)

 ──何でそんなに精神世界への適応が早いの?やめて?あっ、ちょ、マジでやめて!?

 

 でもまあ、確かに因子野郎の言う通りではある。散々振り切れといてなんだが、これは俺の物語ではない。精々訳知り顔で見届けるくらいが丁度いいかもしれない。

 

「つー事で緑谷、爆豪。頑張って勝てよー」

「あ゙!?手伝わねェのかテメェ!」

「え?手伝って貰わなきゃ勝てないの?」

「ンなわけあるか殺すぞノッポゴリラ」

「どっちだよ」

 

 ……うん、お前も変わんねェわ。どこに行っても爆豪は爆発さん太郎だったわ。

 

 というわけで少し移動。具体的にはちょっと離れた所にいるスターアンドストライプの近くに護衛的な立ち位置で待機。

 個性のキャパシティの問題なのかスターは参加する気がないらしく、こちらを見てやや申し訳なさそうな雰囲気を滲ませながら口を開いた。

 

「悪いね。海を渡ってきたってのにこのザマだ」

「いいんじゃないっスかね。俺なんか敢えて不参加ッスよ」

「まあアンタがあそこに加わったら弱いものいじめになっちまうし、いいんじゃないか?」

 

 この人ナチュラルに辛辣ゥ!事実だけども。

 

 ぶっちゃけ転孤一人じゃ緑谷と爆豪には勝てない。手数がどうとか攻撃力アップがどうとかじゃなく、単純に精神力的な意味で。

 あの二人は勝手に競って憧れ合って高め合うもんだから、下手すりゃヴィランそっちのけで張り合い続ける。何なら今も『少なくともアイツより先に倒れてたまるか』とか思ってるんじゃないだろうか。無いか。流石に。

 

 

 緑谷のパンチや爆豪の【爆破】を受けながら、それでも殴り返す転孤。激しいカウンターをギリギリで避けたり逸らしたりしながら畳み掛ける二人。単純な戦いだけど規模がヤベェな。普通なら二、三人は死んでるだろ。

 

 ついさっきまで転孤が過去語りをしていたからか、今度は緑谷の方が過去語りをし始めた。ヒーローへの憧れから始まって無個性発覚、それから虐められる日々……え?爆豪お前何したの?移さん怒らないから後で詳しく教えてくれる?

 

「……彼はヴィランにとっての、アンタと違う形での天敵だろうね」

「え。俺も天敵なんです?」

「アンタはシンプル化け物として……彼は対話を諦めない。ヴィランであろうと心をこじ開けようとしてくる」

 

 おいコラ今なんつった。否定はしないがアンタにだけは言われたかねェぞスターアンドストライプ。というかソレ俺も言われたことあるんだが。

 

「アンタがどうかはさておき、戦意喪失させるという意味じゃこれ以上なく厄介だろう?」

「……まあ」

「あんまりにも必死に見えるせいで、(マスター)とは違う意味で応援したくなる……そんな気がする」

 

 言いたいことは分かる。アイツは人の心に寄り添うというか、理解して力になりたいと思うことが出来る優しい奴だ。俺?俺は『ほーん、せやな』ぐらいで流すから優しくはないんじゃね?

 

 俺のいた世界だと緑谷と転孤の間に強い関わりはなかった。オール・フォー・ワンが俺を後継者と勘違いしたせいってのもあるが、そもそも眼中になかったというか……雄英生の一人って認識でしかなかった。

 それがこの世界では本音を吐き出して殴り合い、最凶のヴィランと最強のヒーローとしてぶつかり合っている。何がどうなればここまで変わるんだろうか。

 

「アンタの世界じゃ、アレをどうやって止めたんだ?普通にぶっ飛ばしたのか?」

「いやそもそもほとんど戦ってない」

「へ?」

「ショッピングモールのス○バで茶をしばいてたら仲良くなったんで」

「はあ?」

 

 そういや俺……ってか俺のいた世界では転孤達との戦い自体かなり少ないんだよな。USJと合宿襲撃の二回だけで、それ以降は全然オール・フォー・ワンとか異能解放軍とかそっちの相手してたし。

 こっちの世界だと最初から最後までヴィラン連合が相手だったんだろうか。死穢八斎會とか異能解放軍とかも裏で手を回してましたー、的な。

 

 そのせいなのか、それとも最初から別物なのか。俺の知る緑谷とこの世界の緑谷では目指してるヒーロー像が異なっている。

 俺の世界の緑谷は俺を含めた爆豪や轟といったライバル達とバチバチに張り合おうとして来るけど、こっちの世界の緑谷は自分の憧れを目指してる一直線って感じ。似てはいるけど微妙に違う感じが拭えない。

 

「……アンタも色んな意味で規格外だね」

「よく言われますよ。それより、もうそろそろ決着がつきそうです」

 

 元々限界に近かった所を更に限界突破(Plus Ultra)で持ちこたえてただけだったんだろう。三人とも足は震えてるわ息は乱れっぱなしだわでいつぶっ倒れてもおかしくない。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 痛ェ。治ってるけど痛ェし、治してるからこそ体力もキツい。

 でも【崩壊】は使えねェし、【超再生】以外の個性に気を回す余裕もない。解けそうになる拳を握り続けるので精一杯だ。

 

 それは向こうも同じ。緑谷は俺と同じような状態なのか継承者達の個性を引っ込めてパンチかキックしかしてこない。爆豪は何かしらの限界に達したのか【爆破】の威力がだんだんと落ちてきている。

 

 だったら根比べ……と言えりゃあよかったんだが、最早それに付き合えるかも怪しい。あれだけ固くキツく握り締めたはずの拳が開いてしまいそうになっている。

 

「ま、だ……!負けてねぇぞ……っ」

「上等、だ!負けを認めるまでやってやらァ……!」

「いくらでも、付き合うよ……っ!」

 

 なんだろうな。もう半分くらいはバカバカしいと思ってるのに、もう半分くらいは面白くて楽しくて──嬉しくて仕方ない。

 

 そりゃ痛いしキツいし苦しいけど。何故か今この瞬間を最高に噛み締めていたいと思っている自分がいる。

 胸を掻き毟るような憎悪も爆発してしまいそうな怒りもなくて、ただがむしゃらに殴りあっている今が楽しくて仕方ない。

 

 

 

 ──全て僕の手のひらの上だった……!

 

 

 

 …………ああ。

 オール・フォー・ワンが消えたからか?

 

 俺の20年間は全てアイツの手のひらの上にあった。家族も憎しみも怒りも個性さえも何もかも、全てがアイツに仕組まれたことだった。

 

 だから今この瞬間。オール・フォー・ワンも【オール・フォー・ワン】も消えた瞬間から先は俺の、俺だけの人生になったわけだ。

 自分で決めて自分で選んで自分で頑張る。そりゃあ楽しいわけだ。今まで出来なかったことを出来るようになって、嬉しくないはずがない。

 

 なら、最後の一瞬まで俺は俺の夢を諦めない。

 

 

「っ、おおおおおおっ!!」

「ぐ、があっ……!?」

「かっちゃん!」

 

 俺がアイツらのヒーローになってやる。

 

 アイツらにとっての、悪の象徴になってやらなきゃ。

 

 

 

 

 

「緑谷ァァアアアッ!!」

「っ……アアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

 

*1
スター「死ぬほど煽ってなかったか?」






【作者の偏見による緑谷と間飛の違い】

緑谷の場合
無理やり心に踏み込んでくるのでヴィランによっては反発が強い。その代わり強引に来るので誰が相手でも頑張って理解しようとしに来る。真正面から殴り込むような感じ。

間飛の場合
何かヌルッと隣に来ようとする。それを受け入れたらそのままなし崩しに絆される。その代わりちょっと強めに反発されるとすぐに切り替えて仕留めようとする。

スター「…これアンタの方がタチ悪いな」
間飛「理不尽」

転孤「それはそう」
燈矢「ホントにそう」
トガ「納得しかない」
間飛「ええ……?」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。