渡我被身子が仮釈放され人間血液工場と化している一方、もう一人仮釈放……仮を付けていても釈放と呼んでいいのか分からない扱いを受けている者もいた。
かつてはリ・デストロの教えに従い、異能解放軍にて幹部としての役割を担っていた青年。しかしながら研ぎ澄まされた個性による死者はゼロという不名誉なのか罪が軽いと喜ぶべきかも分からないヴィラン。
「……皮肉だな。異能解放軍の誰よりも強かったお前が牢屋の中なんて」
「はっ……主導者を差し置いて自由を得たテメェが言うか?」
名を外典。彼の視線の先には厳しい監視と拘束を受けた死柄木弔がいた。
荼毘を鎮火させたあの日、外典はそれ以上何もしなかった。
間飛と別れた直後、疲弊しきった体を引き摺るように歩いてヒーロー達の元へ合流。警戒心剥き出しのヒーロー達の前で両手を上げたままその場に座り込むと『疲れた。さっさと戻せ』とだけ告げた。
それからは他のヴィラン同様、拘束して檻の中に放り込んでお終い……とはならなかった。
「あれだけ鍛えた異能だったんだが……どうにも人一人すら殺せていなかったらしい」
「無様だな。ご自慢の
「…………本当にな」
「……なんだよつまんねえ。少しくらいレスバしてくれてもいいだろ」
最終決戦の前哨戦においてはセメントスとの戦いに敗れ捕縛された。抵抗こそしたものの、彼の手で誰かが死ぬ事はなかった。
それに加えて今回の荼毘を鎮火することに協力したものだから、ただでさえ(比較的)軽かった刑罰がこうして死柄木の面会に来る権利を与えられる程度に更に軽くなってしまった。
外典とて阿呆では無い。大方、公安辺りが利用価値でも見出して首輪をつけられないかと手を尽くしているのだろうと言うことくらいは想像出来る。
「話し相手がいないんだからもう少し付き合ってくれよ」
「はあ?それこそ毎日のように色んな奴から質問攻めだろう?」
「お前は尋問を会話と認識するクチか?」
「……そりゃそうか」
「毎日毎日バカバカしいことしか聞かねえからうんざりしてンだよ。俺はオール・フォー・ワンに踊らされてた哀れな被害者サマだってのになあ」
対して死柄木弔の扱いは厳重としか言えない。
オール・フォー・ワンの時のように何かの拍子で個性を使われては堪ったものでは無いと思われたのか、少なくとも【崩壊】を無力化する為にと両手から薬指の第二関節から先を奪われている。
加えてオール・フォー・ワンにしたような監視は勿論のこと、個性発動の兆候が見られた時には一発だけ作られた『個性消失弾』を撃ち込まれるようになっている。
未成年でないことも相まって死刑は免れない。例え始まりがオール・フォー・ワンによって仕組まれたものであっても、だ。
「リ・デストロと同じだ。担ぎ上げるバカが再発しないうちに終わらせてェんだろ」
「……リ・デストロ様もか」
「当たり前だろ。穏便に終わりそうなのはネームドの中じゃお前とトガぐらい……ああ、荼毘もか。ありゃほっといても死ぬからだろうが」
「荼毘は……まあ、うん」
死柄木はとっくにこの後の人生を諦めている。ただし絶望故にではなく、これ以上自分に出来ることは何も無いと分かっているが故にだ。
ヴィラン連合を立ち上げてボスを気取り、仲間を集めて暗躍を繰り返し。時には仲間を失いながらも10万人もの異能解放軍さえ傘下に収めて、最後の最後でようやく自分の意思で戦った。
最後の戦いに負けた時点で、そこから先の事なんて何も望んじゃいない。あの日あの瞬間に自分の人生は終わった事を理解している。
「ま、その分死ぬまでは食いてェもん食わしてくれるんだとよ。昨日なんかオール・フォー・ワンの所にいる時よりも美味いもん食えて笑っちまった」
「……」
「ただまあ……一人で食ってもなあ、って気はする」
それ以上を望むとすれば、最後まで一緒に戦ってくれた彼らといたい。それだけだ。
「……時間が合えば顔を出すように伝えておく」
「ん?誰にだよ?」
「渡我被身子、はいいか。スピナー……だっけ?アイツが生きてたらな」
「……おう」
誰にも知られずひっそりと消えるその日まで。せめて友人の顔を覚えて逝きたい。彼のささやかな願いに応えられるかは分からないけれど、外典はそれだけ伝えて席を立った。
◇
また話を病院へ戻そう。
血液工場がフルスロットルで稼働している頃、間飛はまた別の人物と会っていた。
「Hey緑谷。全部治った?」
「そんなわけないですよね!?」
「病院でデケー声出すなよ。色々詰めるぞ」
「何を!?何処に!?」
こちら
間飛が来ないまま進んでいれば【ワン・フォー・オール】を失う事になっていた緑谷だが、寄りにもよって特大のヤベー奴が来てくれたお陰で【ワン・フォー・オール】はそのまま緑谷の中に残っている。
絶賛緑谷が知覚していない精神世界で間飛についての考察と議論を深めている色んな意味で可哀想な彼らはさておき、オールマイトも胸をなでおろしていた。
「【ワン・フォー・オール】を完遂した感想はどうよ?」
「え、ええっと……その、現実味がなくて……なんと言ったらいいか分からない、です」
「……オール・フォー・ワンは俺と転孤で消してたしなあ」
「そう、です……ね?いや、確かに思い返せば僕、死柄木弔としか戦ってなかったような……」
尚、実際は間飛が言った通りである。この世界でもオール・フォー・ワンは【ワン・フォー・オール】と関係ないところで哀れにも爆発四散した模様。ゴウランガ。*1
その分緑谷への負担はかなり軽減されており、原作ならば両手足骨折の所を両手片足くらいになっている。軽減足りてねえぞ間飛。
ちなみに爆豪はもっと軽傷。義肢の選択どころか片腕をギプスつけて吊ってるくらいで済んでる。多分軽減はこっちにほとんど持ってかれた。
「……さっき、かっちゃんが来て『
「アイツ安静から程遠いが過ぎねえ?」
「僕も動けるなら頑張ったんですけどね」
「お前もぉ……?俺何か怒らせるようなことしたっけ?」
その結果が緑谷伝いの宣戦布告である。どこでも変わらない爆豪に安心感を覚えつつ、頭を抱えていそうな医者を想い十字を切った。
それはそれとして緑谷も同じ気持ちではある。少しゲンナリとしている間飛から顔を背けて拗ねるように呟いた。
「……やられっぱなしは悔しいですし」
「ええ……?あんな疲れ切ったところボコボコにして勝ちにカウント出来るわけないだろ……」*2
「いえあの時点でもやりようによってはもう少し抵抗出来たんじゃないかと。【黒鞭】や【煙幕】を逃走用じゃなくて攻撃に回せたらもう少し……いやでも結局避けられそうだから【黒鞭】と【浮遊】で視界と機動力を確保しつつ【変速】と【発勁】の一撃を狙えたら……」
「……ナースコール連打しようか?」
「やめてください!?」
間飛は思い出した。『そういやコイツも大概負けず嫌いだったわ』と。
ブツブツモードに入りかけた緑谷を正気に戻しつつ、話題を変えた。
「それはさておき。精神世界体験者の先達に質問があるんだけど」
「何の先達ですかそれ……」
「自分の中にある外付けの個性因子ってどうやって使えたんだ?」
「……?何故そんなことを?」
「ちょいとワケありでね」
あまりにも突然過ぎる話題に困惑を隠せない緑谷。一応間飛の個性がどういうものかくらいは聞いていたのでさほど違和感のない質問ではあるのだが、その質問は別世界の自分にすればよかったのでは?という疑問だけは拭えない。
かといってソレを教えたところで緑谷にもオールマイトにも何ら不利益はない。内なる何者かとコミュニケーションを取り始めたり新たな能力に目覚めたりしたとしても、間飛なら悪いようにはならないだろうとも思える。
あまり得意ではない感覚の言語化に手を尽くし、身振り手振りと微妙な例え話を駆使してどうにかこうにか緑谷なりのコツを話した。
時折『は?なんて?』と言わんばかりの態度で眉をひそめていたりもしたけれど、最低限の感覚は伝わったらしい。凄く納得がいかなそうな表情で自分の胸の辺りに手を当てていた。
「……うん、まあいいや。どうにかなりそうだし」
「説明が下手ですいません……」
「ある程度は覚悟の上で聞いてたからいいって。俺の方の緑谷もしょっちゅう人使やら爆豪やらにツッコミ入れられてたし」
「別の世界線でも口下手は変わらないのかあ……何か凹むなあ……」
へ、へへへ……と残念な苦笑いを浮かべる。自分の口下手、というか説明力の無さは世界線を跨いでも変わらないほどの筋金入りだった事を知ってしまった緑谷は少し泣いた。
さすがにこのまま放置するのも可哀想だと思ったのか、間飛は肩を竦めて軽く挑発する事にした。
「ま、そのうち元の世界に帰るだろうし、俺に一泡吹かせたいってンならさっさと治しちまいな」
「は、はい!」
「じゃねえと『勝ち逃げあざマースwww』って煽り散らかして帰るぞ」
「早急に治すので覚悟しててくださいね?」
……あの、怪我人なら【黒鞭】出すのやめよう?殺気立ってて怖いんだけど。
公安A「コイツ被害者少ないんだよな」
公安B「何なら荼毘の捕縛に協力したとか」
公安C「……割と有用な個性だな」
公安A「取り込まね?」
公安B.C「「賛成」」
公安A「てことで君、仮だけど釈放ね」
外典「どうして(困惑)」
リ・デストロ「わァ……ァ……」←多分死刑
スケプテイック「何故外典だけ!?」←多分無期懲役
荼毘「草」←ほっといても死にそう
死柄木「www」←間違いなく死刑
コンプレス「いいなー」←多分無期懲役