番外編強化月間第3弾です。
多分3話に分けての投稿になるので「本編はよ」という方には申し訳ありませんが少し間が空きます。
パラドックス
最後の一締めまで丁寧に。ゆっくりとネジが回され、ついに全てのパーツが組み上げられた。
「で、できましたよ……!これで間飛さんの【瞬間移動】が他の人にも適用されるはずです!!」
工房で一人怪しく笑う少女、発目明。間飛本人から頼まれた訳では無いのだが、ある意味では究極とも言える『個性の対象や範囲を外部装置で拡張する』という課題に取り組んでいた。
数多くの論文に目を通し、これ関係あるんか?的な技術をも貪欲に吸収した果てに辿り着いた結果。それが彼女が抱えているゴツイ腕輪……“ワールドシフター”。
技術のアレコレの説明は切り捨てるとして*1、要は間飛の【瞬間移動】から重さ制限を取っ払って装備した者をワープさせられるようにする為のアイテムだ。
「早速明日にでも試してもらいましょう!性能テストなので他の方も誘っていただいて……!」
……結論から言えば彼女の作ったアイテムは失敗作だった。
まだまだ未熟というのもあるが、それ以上に間飛の個性への理解度が足りていなかったのだ。彼女が想定している【瞬間移動】と間飛が使っている【瞬間移動】がまったく同じものではなかった。
発目がその事実に気がついたのは翌日に間飛と他二人が消えた後だった。
◇
ヒーローは一度敗北した。
異能解放軍との戦いに勝利し、ヴィラン連合は『超常解放戦線』と名前と規模を改めた。
ホークスのスパイ活動によって死柄木弔が覚醒する前に襲撃をかけることに成功したものの、土壇場で覚醒した
彼の覚醒に反応したオール・フォー・ワンの部下であるギガントマキアによる被害も大きく、街も治安もヒーローへの信頼も崩れ去ってしまっていた。
再び自由を得たオール・フォー・ワンと死柄木弔は各地の監獄を襲撃。マスキュラーを始めとした凶悪犯が解き放たれてしまい、力無き市民達は雄英と士傑の二つを中心とした避難所へ逃げ込んだ。
独りで戦うことを決意していた緑谷もA組の皆からの粘り強い説得で足を止め、ようやく打倒オール・フォー・ワンに向けて足並みが揃いつつあった。
そんな状況下で雄英高校のど真ん中に突然不審者が現れてしまえば誰だってヴィランを想定して動くわけで。
「目的と仲間の数を喋って貰おうか」*2
「目的ナシ!!仲間二人!!アイアムノットヴィラン!!」*3
「力強く言い切ったなー……」
発目に頼まれてアイテムの試験運用をしようとしていた間飛、何故かイレイザーヘッドお得意の捕縛布でグルグル巻きに。
とりあえず景色は変わったので成功したのか失敗したのかも分からず、同じく試験運用を手伝っていた二人にも聞いてみようとするとどこにもいない。
はて?と首を傾げていると殺気立ったイレイザーヘッドとプレゼントマイクを視認し、下手に暴れると拗れそうな気がした間飛は無抵抗で捕縛されたわけだ。
手足の一つや二つくらいへし折ってでも情報を、と思っていたイレイザーはまさかの初手で全部を話されるという事態に少々面食らった。
「……ヴィランじゃないなら何故ここに部外者がいる。警備システムはどうした」
「へ?ぶ、部外者って……俺生徒ですよ!?」
「はあ?お前のような生徒は知らん」
「えっ酷い……担任なのに……」
「……担任?」
「いやいやいや!?俺ヒーロー科の1年A組で──」
「何を言っている?俺はお前のような生徒は知らないと言っているだろう」
「…………んん?」
ここで間飛は違和感に気づいた。
てっきり教師に無断で変な試験運用に参加した事に対して怒っているものだとばかり思っていたが、どうもそういうわけではなさそうだ。
真剣な眼差しの相澤……ではなくヒーローとしての、イレイザーヘッドとしての眼差し。それはヴィランに向けられているものだ。
「……今って何月ですかね」
「は?」
「俺の認識ではこの前雄英文化祭終わったばっかりなんですよ。それに記憶が正しけりゃ相澤先生がそんな大怪我してるはずがないんです」
「おい待て、何が言いたい」
「多分なんですけど……並行世界だったりしませんかね?」
あ、やっと本題に入るんだ。
「……つまり、お前は並行世界では雄英高校ヒーロー科の一人で、サポート科の発目が作ったアイテムの試験運用をしていたらここにいた、と」
「信じてもらえる気はしませんが、まあはい」
抵抗の意思が微塵も見られないこともあって捕縛布を最小限に減らし、椅子に座って話す二人。さすがにイレイザーとマイクだけに任せる訳にもいかず、オールマイトと根津校長まで引っ張り出している。
当然だがいきなりそんな事を言われても信用されるはずもなく。見慣れたはずの教師達が厳しい顔でこちらを見ている状況に間飛は少し涙目だ。
そこでふとある事を思い出した。
「……そういや俺以外にもあと二人いたんですが、こっちに来てませんかね」
「どんな奴だ」
「えーっと……薄ら青みがかった銀?白?の髪の男の娘と、ちょっと特徴的なお団子二つ結びの八重歯が目立つ女子です」
「……名前は?」
「氷叢零治と
「マイク」
「テメェやっぱヴィランだろ!?」
「なしてェ!?」
試験運用に参加していたのは他にもいる。氷叢零治と渡我被身子。その二人の姿が無かったのは巻き込まれなかったのか、はたまた別の場所に飛ばされてしまったのか。
それを尋ねようとして二人の特徴と名前を口に出した瞬間、プレゼントマイクが鬼の形相で殴りかかってきた。咄嗟に首を傾けて回避したけれど、彼の怒りは収まりそうにない。
「間飛、だったか?そっちでどうなのかは知らんがこの世界では渡我被身子はヴィラン側だぞ」
「……マジっスか?」
「大マジだ」
「うそーん……」
何してんのトガち、とガックリ項垂れてしまう。まだまだ短い付き合いとはいえ知り合いが別の世界ではヴィランでした、となればそうもなるだろう。
一方でイレイザー達も顔を顰めている。何せ間飛の話を信じればトガは公安でレディ・ナガンとともに働いているというのだ。
何人もの人を殺していたヴィランが人を救う側にもなれたと知れば、どうしてそうならなかったと思わざるを得ない。
というか話の噛み合い方的に見た目もそのまんまじゃね?ということに全員が気づいた。
「……ヤバくないっスか?」
「……ヤバいな」
ヴィラン連合、改め超常解放戦線の幹部格が避難所内にいればどうなるか。どんな馬鹿でも予想が付くだろう。
「待てやゴラァ!!」
「ひぃやああああああ!!?」
泣きながら逃げ回る少女を【爆破】で攻撃しながら追いかける爆発さん太郎。事案かな?
よりにもよって戻ってきた緑谷との組手をしている近くに現れてしまったトガ。よりにもよって真っ先に気づいたのは爆豪。そりゃこうもなるよね。
右へ左へ転がるように逃げ回り、紙一重の回避を連発しながら駆け抜ける。無数のフェイントは爆豪にすら回避先を読ませず当たる気配がない。
「いい加減に───」
「それはこっちのセリフだから!?話聞いて!!」
「──あ゙あ゙!?またテメェか!」
いっそ広範囲爆撃で強引に当ててやろうかと思ったのも束の間。目の前に巨大な氷壁がそびえ立った。それは轟によるものではなく、トガと同じで突如現れた不審者によるもの。
氷叢零治。彼もまたトガの近くに現れており、咄嗟に爆豪達からの攻撃に対処してみせたのだ。
「半分野郎ォ!!何逃がしとんだコラ!」
「悪ィ!ソイツ、俺の氷を利用しやがった!気をつけろ!」
「ああ……?」
A組達は爆豪と轟に足止めを頼み、まだまだ万全とは言い難い緑谷を逃がしていた。爆豪がトガを、轟が氷叢を相手取る形になっていたのだが、まさかあの轟を振り切ってこっちに来たのかと警戒を強める。
しかし妙なことにトガも氷叢も爆豪達を攻撃しようとはしてこない。ひたすらに彼らの攻撃を凌ぐばかりで反撃に出ようとしないのだ。
何かしらの目的でもあるのかとクレバーな頭が思考を重ねていると……。
「いたぁ!!!」
「ちっ、新手か!」
「まだいたのか……!」
「落ち着けお前ら。アレはヴィランじゃない……多分」
「多分じゃなくて確実に!確実にヴィランじゃないです!」
ようやく二人を見つけた間飛と気だるげなイレイザーが割って入った。
「はあ……?」
「……どういう事です?」
明らかに渡我被身子だろ、という顔の爆豪と何事?という表情の轟。未知の乱入者に警戒は緩めないまま視線だけでイレイザーに説明を求めた。
「俺もよく分からんが……コイツらはヴィランじゃない。今から説明するから他の奴らも呼んでこい」
残念ながらイレイザーもよくわかってない。とりあえず彼らがヴィランでは無いということだけ説明すべきだとA組を集めるように頼んだ。
「こっちでも爆発さん太郎は爆発さん太郎か……」
「並行世界でも変わらないんですねえ」
「アレはもう性根から爆発さん太郎なんだろうね」
「聞こえてんぞゴラァ!!」
発目「どどど、どうしましょう!?座標測定機にエラーが!間飛さん達が消えてしまいました!?どこに行っちゃったんですか!?」
パワロ「落ち着け発目!間飛がいるからまず死にはせんはずだ!」
発目「それはそうですけども!!」
サポA「厚い信頼だなあ……」
パワロ「アレが並大抵に殺されるわけないだろ」
サポA「それはそう」