間飛の【瞬間移動】に発動のタイムラグは存在せず、その気になればあらゆる攻撃をノーダメージでやり過ごすことが出来る。
では彼が完全に無敵なのかと言うとそういうわけでもなく、まともに被弾すればダメージを受けるし当たり所が悪ければただの投石一つで殺すことだって可能ではある。
何が言いたいかと言うと間飛は決して無敵の存在ではなく、高機動高火力の個人でしかないという話だ。
「見切るのが早えーよ。なんだその【クラスター】ってのは」
「……相性差で勝っただけと言いてえのか」
「違うって。早々と効果的な対処法に辿り着かれてこっちが参っただけだ」
爆豪と間飛の組手も一方的……ではないけれど、緑谷の時とは異なりそれなりの数の【爆破】を叩き込まれていた。
スピードとパワーで言えば爆豪よりも緑谷の方が上回っているのにこれはどういうことか、見学していた緑谷達は首を傾げている。
爆豪が取った戦法は『ひたすら広範囲攻撃を続ける』というもの。先に見学しようとしている者達に離れるように伝え、新習得していた【クラスター】を使っての絨毯爆撃の連打。
「避ける先にまで攻撃が置かれてたらなぁ……」
「けっ、本気なら400mのワープで範囲外に逃げてんでだろォが」
「その時はお前400m以上の【爆破】ぶっぱなそうとするだろ」
「あ?わざわざ400mも撃つ必要ねえよ。テメェの遠距離を避けれさえすりゃテメェから殴り掛かるしかねえだろうが」
「……怖っわお前」
サラッと話す爆豪。この辺りの戦いのセンスはやはり緑谷以上と言うべきか。無論その緑谷もラーニングが完了すれば加速的に強くなるのは目に見えているので、この世界の最強クラスに二人が食い込むのは時間の問題だろう。
高火力の広範囲攻撃という間飛の弱点*1を的確に突かれたとはいえ、まさか結構ボロボロにされるとは間飛も思っていなかったようだ。普通に【クラスター】の破壊力が高かったのもあるが。
「……そっちの俺はどうなんだ。俺より強ぇのか?」
「さすがにここのお前のが強いよ。同じ時間が経てば分からねえけど、現時点だと断然こっち」
「だろうな」
「で、多分緑谷がラーニングが済んだからまた緑谷と組手だな」
「うん!お願い!」
分析癖が同じならこっちの緑谷も既に分析と学習を終えた頃だろうと彼の名を呼ぶと、すぐさま反応が返ってきた。
元々緑谷は無個性。他の者が年齢マイナス個性発現の年齢、という長い間を己の個性と共に過ごしているけれど、緑谷は高校入試でようやく個性を手にしたばかりでようやく二年目に入ったばかり。
むしろ今の彼は急激に増えた手札に慣れようとしている真っ最中。知らず知らずのうちに間飛が緑谷に求めるハードルが高くなっているだけだ。
与えられる全てをスポンジのように吸収していける緑谷が誰よりも伸び代があるのは当然なのかもしれない。
「オクラホマ・スマーッシュ!!(with【黒鞭】)」
「待て待て待て!?巻き込む!見学してるヤツら巻き込む!」
「君なら対処出来るでしょ!ついでにニューハンプシャー・スマッシュ!!(with【変速&浮遊】)」
「信頼が厚い!嬉しくねえ!」
だとしても何だそのドラ○ンボールみたいな挙動は。
蛇足だがこの後リカバリーガールに滅茶苦茶怒られた。
◇
才能マンの爆豪とラーニングが済んだ緑谷ヤベーわ。何だよあの変態機動は。
組手が終わって治療もしっかりしてもらって現在、俺とトガちと零の三人は相澤先生に呼び出されていた。あ、何か父ちゃんも来てたって?マジで?
父ちゃんはさておき、俺達が呼ばれたのはこっちの世界のオール・フォー・ワンとの交戦経験から何か情報が得られないかと話が聞きたくて呼ばれたらしい。
つっても戦ったのは俺だけであってトガちも零も交戦したわけじゃないんだけど。
「じゃあ、オール・フォー・ワンが何をしてくるというのは分からないのか……」
「ぶっちゃけアイツ何でもありな能力ですし、思いつく限りの悪辣な事はしてくると思った方がいいッスよ」
「どんな個性を持っているかも分からん以上はそれが丸いか」
「強いて言うなら奴の手に気をつけるくらいですかね?」
「手?」
あの野郎は山ほど個性を持ってるから攻撃のレパートリーもバカほど多いんだが、何故かその攻撃の起点はほとんどが手首から先にあることが多かった。後はパンチとかその辺かな。
憶測でしかないがオール・フォー・ワン自体に戦闘能力はそんなにない。どこぞのAUOと違って個性という武器を手放せば鈍臭い雑魚と変わらない気がする。
だからイレイザーヘッドの【抹消】があれば緑谷だけでも殴り勝てると思うんだが……納得してないというか不安そうな顔をしてらっしゃる。何か不安要素でも?
「……こっちの世界のオール・フォー・ワンは死柄木弔の身体を乗っ取っている」
「……は?」
「自分の個性因子を複製し、それを植え付けることで内側から死柄木弔の肉体を自分のものにしようとしている。老いて衰えた肉体を捨てる為に」
「……」
「魔王のオール・フォー・ワンならともかく、個性を移植された死柄木弔が【抹消】への対応策を持っていないとは思えなくてな……どうかしたのか?」
「いえ、何も」
……前言撤回。ちょっと父ちゃんの所に行ってきますね。
「……何か思いついたのか?」
「何も思いついてないんですが……事情が変わったんで父ちゃんに頼み事をしに行こうと思いまして」
「ああ……いつの間にか工房にいたアイツか。何を頼む気だ」
「一番いいのを頼みに行くだけです」
ははは。あの腐れ金玉野郎よくもそこまでクソッタレた事を思いつくもんだな。クソ野郎だとは思ってたが性根を通り越して魂から腐りきってやがったとは。
そこまでされちゃ仕方ない。俺らも本格的にあのクソ野郎を潰しにかからねえとな。
「まさかお前らも戦いに参加するつもりか?」
「え、そうですけど」
「「初耳ですが想定はしてました」」
「……お前らはともかく、何故お前は自分から積極的に戦おうとしている」
「
ふざけたことしやがって。大体滅多にそういう面を見せない母ちゃんがその話題を出した時だけ泣きそうな顔してたから察してたわ。一個人への嫌がらせのためにしていいことじゃねえぞ。
尻尾巻いて逃げるしか出来ねえクソザコ魔王が。こっちの世界でもオギャバブさせてやるから覚悟しとけ。
「戦力配分をどうするかは任せますが、出来れば俺は緑谷がいない方に行かせてください」
「……理由を聞こうか」
「姿を隠して殴り合えば緑谷と誤認させられるんで、そうすりゃ【ワン・フォー・オール】が二人いるように見えます」
「囮役をすると?」
「囮役が魔王をぶちのめしても良いと思いません?」
さあて何を用意してもらおうか。個性消失弾とか作れたりしねえかな。アサルトライフルぐらいぶち込んでやりてえから量産されてると有難いんだが。
ってか父ちゃんこっちで変なもん作ってないよな……?怒りのままにヤベーもん頼もうかと思ったけど父ちゃんのことだから既にヤベーもん滅茶苦茶作ってる可能性あるんだよな。前に見せてもらったエセ
アレお目付け役がいないと何するか分からないからね、って母ちゃんに言われるくらいだから下手すりゃガン○ムか宇宙戦艦ヤ○トぐらい作っててもおかしくねえ。
確認なんですけどうちの父ちゃんが何作ってるのか把握してます?
「パワーローダーを始め、何人も技術者がいるから変なことは出来ないと思うが」
「……その技術者の方々って『馬鹿じゃねえのお前……作ってみるか!』とかなりません?」
「………………」
「あの?」
「……一度様子見に行くか」
自信ないんですね分かります。父ちゃんを見てるとメカニックはロマンに走りがちだと分かるからね、もしかしたら手遅れかもね。
◇
雄英高校がどんどん魔改造されていく一方、オール・フォー・ワン達に動きは見られなかった。時々ダツゴクや暴徒が出てくる程度で、脳無やレディ・ナガンのような刺客が来ることも無かった。
しかしオール・フォー・ワン陣営も決して一枚岩ではなく、それどころか個々人の思惑も目的もバラバラで協力し合おうなどと考えている者はいない。
特にヴィラン連合を名乗っていた頃からのヴィラン達は死柄木弔に着いて来たのであって、オール・フォー・ワンをボスとしていた訳ではないとほぼ解散状態。やりたいことをやる為にバラバラに散っている。
それでも決戦の時に備えて顔を合わせたりはしている。今も荼毘と渡我被身子が合流して会話中だ。
「……まだ始めないんですかね」
「タイミングってのがあるんだろ。オール・フォー・ワンのお友達とやらがいいタイミングを探してるんならそのうち嫌でも始まるさ」
「私は全部壊すのです……仁くんを悪い人なんて言うこの世界も……」
「……そうだな、トゥワイスは良い奴だった」
「ええ。凄くいい人でした」
何もかも壊してやると犬歯を剥き出して怒りを露わにする彼女。先の戦いでホークスによってトゥワイスが殺害された事への怒りと恨みは彼女に“普通”への未練を断ち切らせた。
人間社会は異端者に厳しい。普通になれない人間を叩いては潰し、足並みを揃えられない者から淘汰されていく。秩序という名の枷に囚われない人間を敵視し、基本的に変革を拒むのだ。
そこに彼女のような異端児が生まれればどうなるかなど言うまでもない。受け入れられるよりも拒まれることの多かった人生が人間社会に見切りをつけている。
「あ?……ちっ、またか」
「どうしました?」
「ドクターに色々と調整してもらってたんだが……縫合跡から血とか出てくるんだよ。また後でな」
「……ええ」
不意にドロリとした感触が荼毘を襲い、何事かと手をやれば赤黒い液体に触れた。最近は終わりが近いのか度々零れてしまうらしく、放っておけば何もかも流れ出てしまいそうだからと自ら焼いて止血しているとか。
最早面倒でしかないと言いたげな荼毘を見送って廃墟の中には渡我が一人ぽつんと残った。
この混沌の中で比較的綺麗なままのソファに体を預け、縮こまるように身体を横たわらせると一つ一つ踏み砕く為に思い出していく。
合宿先を襲撃した時のボロボロの出久くんを好きになり、お友達になりたかったお茶子ちゃんと梅雨ちゃん。
あのボロっちい隠れ家でマグ姉や仁くんと楽しくお話したこと。
仮免試験に紛れ込んで出久くんとお話して、もっと出久くんを知って好きになれた。
マグ姉が死んで……極道者になって仁くんを包んであげたし、ボロボロの出久くんを見つけて嬉しかった。
「……楽しかったなあ」
泥花市でもっと深くお茶子ちゃんのことが分かるようになって、仁くんがトラウマを克服していた。
異能解放軍の人達は気に食わないけれど、彼らのお金で美味しいものも食べられたし好きなお洋服だって着られた。
超常解放戦線になってからも嫌なこともあったけど……それ以上に私を拒む人がいなくて楽しかった。
「…………もう、終わるのです」
……蛇腔総合病院にヒーローが来て、群訝山荘にも来て。仁くんが、殺されて、悪者だって言われて。
もう何もわかんなくなって……お茶子ちゃんとお話をした。
そして彼女は私を拒んだ。
あの時に私のやる事は決まった。もう迷わないし躊躇わない。私は私の好きなように生きて、仁くんを殺したこの酷い社会を壊すんだ。
「……そしたら」
少しは生きやすい世の中になってくれる、はず……。
普通になりたいなんて悩まなくていい。
いい人がいい人でいられる。
逃げなくていい。
……本当に?
「──になりたい」
自分の願望すら見ないふりをして、渡我被身子は目を閉じた。目が覚めた時にはこんな悩みも忘れていることを祈って。
間飛父「変なもん作ってないかって?」
間飛「何作ったか言ってみ」
間飛父「新しいのだとドミ〇ーターで潜入してるヴィラン炙り出そうぜってくらいしかしてないよ?」
間飛「ええ……」
相澤「普通に有用だな」
間飛父「あとは……GT〇ボとか作ったから頭数は揃うぞ。戦いは数だよ兄貴ってな!ダハハハハ!」
相澤「お前の父親ヤバいな」
間飛「……はい」