俺には【個性】が2つある。
生まれながらに持っていたのは【瞬間移動】だけで、もう1つの個性は後付けで手に入れた。
後付けで…と聞くと怪しげに聞こえるかもしれないが、出処から受け取りまで安心安全だ。何せ第2の個性の原点は俺の曾祖父にあるのだから。
曾祖父が持っていた個性は【フィジカルギフト】だった。言葉だけ聞くとどこぞの天与の暴君が頭をよぎるが、能力そのものは決してアレと同じとは言えない。
その能力とは
曾祖父→祖父→母→父→俺…の順番で個性が受け継がれており、特にプロヒーローをしていた祖父の代でかなり強化されている。
ちなみに俺が『4代目』なのは曾祖父の時点ではほぼ『無個性』だったからというのが理由だ。
皆いつか受け取る子孫の為にってトレーニングしてたからか、俺に来た時点でかなりのパワーを蓄えている。この前アルバムひっくり返したら曾爺ちゃんも爺ちゃんも筋肉ムキムキで驚いたわ。何あのマッチョ。
母ちゃんも父ちゃんも体格いいなあとは思ってたけど、個性の為に鍛えてたと知った時はちょっと引いた。あのパワーが全部俺に来てるならこうもなる、とは思ったけども。
……さて、脳内モノローグに逃げるのもいい加減にするか。
俺の手元にあるのは、多分だけど紙の厚みではない膨らみ方をしている包み。サイズ的にはスマホより一回り大きいくらい。送り主の名は『雄英高校』と記載されている。
どうやらこの包みこそが高校受験の合否通知らしいな。それにしてはやけにデカいし重いけど。
「母ちゃん、これ爆発したりすっかな?」
「いくら雄英高校でもそんなことはしないはずでしょ……多分」
お母様?そこは自信を持ってくださる?
ええいどうにでもなーれ!
『私が投影されたァ!』
「うわっ!?」
「あらいい筋肉」
お母様?筋肉が性癖なのは知らんけど自重してくださる?
それはさておき投影機かよ。さすが雄英金持ちだな。もしや合否通知の為だけにこれ使ってんのか?おのれブルジョワめ。
結論から言うと俺は合格できた。どうも運悪くほとんどが1Pの仮想ヴィランだったようで、後出しされたレスキューポイントを含めて得点数10位だったらしい。
『今日からここが!君のヒーローアカデミアだ!』と締めくくられると投影機の電源が落とされた。
「やったじゃん!アンタも今日から雄英生だよ!」
「そういうのは入学式の朝に言ってくんねえかな?でも、よかったぁ……ちゃんと受かってた」
「おやおや?アンタにしては珍しく不安だった感じぃ?」
「受験生が多すぎてセーフティラインがどこなのかさっぱりだったんだよ。あと……受験料の桁を知ってちょっと、ね?」
「ああ……」
滅茶苦茶喜んでいる母ちゃんには悪いが、嬉しいより安心した気持ちの方が強いんだよ。自己も他人もある程度は分析出来るけど、受験生の振れ幅がデカすぎたからマジで安心出来なかった。
受験会場が別れてたから、知らんところでゼロポイントの仮想ヴィラン片手間にぶっ飛ばしてる奴がいてもおかしくないし。
とにかく結果も出たことだし、早いとこ学校には電話しないと。覚悟してろよ、うちの担任の給料をぶち上げてやるからなァ……!
◇
同日、緑谷家。
ややネガティブ思考が強めの緑谷出久少年は、間飛と同じく雄英高校から送られてきた包みを前にしてビビり散らかしていた。
筆記試験はともかく、実技試験の結果など確かめるまでもなく悲惨だろう。何せ倒せたのは点数の無いギミックであって、それすらも他人に尻拭いをさせてしまった。
オールマイトや母親の顔が過ぎり、どうしても開ける勇気が出ない。
「……ええい!」
見なければ泣くも笑うも無意味!半ばヤケクソ気味に勢いよく包みを破る。それに伴って中身がポンと飛び出し、慌てて捕まえる。
はて、紙による通知ではないのか?と疑問を持ったのも束の間。ブン…と音を立てて端末らしきものが起動した。
『私が投影された!』
「えええっ!?お、オールマイトォ!!?」
何処かの同年齢の少年よりも驚きながら、投影された人物が誰なのかを確認して困惑した。何故オールマイトが?
曰く来年度からオールマイトが雄英高校に教師として勤務するようになる為、多少のサプライズも兼ねて今年の受験生達への通知を担当したとの事。
こちらも結論から言えば合格していた。仮想ヴィラン討伐のポイントはゼロだったが、もうひとつの採点要素であるレスキューポイントでギリギリの合格を勝ち取ったのだ。
原作の世界線ならばこの時の点数はレスキューポイントのみで60Pを獲得していたのだが、間飛の存在がレスキューポイントを削減してしまった。その点数41Pとかなりギリギリのラインだ。
いても立ってもいられず、オールマイトと共に
息を切らして砂浜を見渡す。まだまだ風の冷たさが残る時期だというのに、クリーム色の砂の景色にポツンと痩せこけたシルエットがあった。
緑谷は転びそうになりながらも慌てて駆け寄ると、開口一番にこう叫んだ。
「オールマイトォ!!」
「ダレソレ!」
……コイツらは隠し事には向いていないらしい。
「リピートアフターミー『人違いでした』!」
「あっ……えと、人違いでした!!」
「なぁんだ」
「こんなところにいるわけ無いわな」
「……すみません」
「頼むよ緑谷少年……まあ、いいけど」
両者とも落ち着いたところで、話題は勿論雄英高校の受験結果へと移る。
危うくオールマイトが託してくれた力を無駄にするところだった、人が多くてとても緊張してしまった……何より、個性を上手く扱いきれなかった、など。
話したいことと聞きたいことが山のように積もる中、緑谷が真っ先に尋ねたのはとある少年の事だった。
「あの……最後に僕の後始末してくれた人って」
「ああ、彼のことか。彼がどうかしたのかい?」
「なんて言うか、その……僕と、ワン・フォー・オールと同じようなものを感じた気がして」
「…………そうだろうね」
余計な贔屓を疑われないようにと、オールマイトは緑谷の採点に関わっていなかった。筆記試験も実技試験も自ら動こうとはせず、レスキューポイントの評価にさえ無言を貫いた。
代わりに間飛の事を、提出書類に書かれた2つ目の個性…即ち【フィジカルギフト】の存在を気にしていた。
簡略化された内容ではあったが、事情を知る者であれば心臓が跳ねる感覚を味わうだろう。
流石に入学してもいない第三者に情報を漏らすわけにはいかない。緑谷の感覚を肯定こそするけれど、オールマイトは詳細を噤んだ。
それに彼もまた合格者の1人。ここで話すまでもなく近いうちに邂逅を果たすのだから、今この場で話す必要も無い。
「緑谷少年、個性は使いこなせてなかっただろう?」
「え?あ、はい」
だから……少年には悪いけれど、そっと話を逸らす。もしも彼が邪智暴虐の魔王の手先であったなら、手を下すのは自分であるべきだから。
──君は、何者なんだい?*1
◇
「これから個性把握テストを行う」
「「「個性把握テストォ!?」」」
──母ちゃん。ここマトモじゃねぇわ。
性別:女
身長:173cm
体重:99kg
個性:【スタミナタンク】
体力を貯蓄できる個性。1日で消費する体力を100とした時、最大で2000の貯蓄が可能。半自動発動の個性で無意識に貯蓄している。