一日の臨時休校を経て、不安は尽きないまま雄英高校は日常へと戻る。
ヴィランの襲撃などさほど珍しくもない世の中である以上、如何に雄英高校であってもヴィランを退けたのなら通常業務に戻るのが当たり前となっている。
「おはよう」
「「「相澤先生復帰はええ!?」」」
「先生!無事だったのですね!?」
「あれ無事言うんかなぁ……?」
「婆さんが大袈裟に包帯巻いてるだけだ。幸い
他人に厳しく自分にはもっと厳しくを地で行く相澤は『それ出勤して来て大丈夫な奴なの?』な見た目で教壇に登る。これでも本来よりはマシだと言うのだから感覚が麻痺してしまいそうだ。
そんなことより、と生徒の心配をバッサリ切り捨てて相澤は雄英体育祭が近いことを伝えた。
───雄英体育祭とは。
最早単なる学校行事のひとつに収まらないビッグイベント。各メディアのカメラが我先にと『良い画』を求めて構え、全国中継すら行われる代物。
かつて個性が跋扈し始める前に賑わっていたスポーツの祭典オリンピック。蔓延る超常に呑まれて行き規模も人口も縮小……今や古臭い伝統のひとつに数えられてしまっている。
それにとって変わったのが雄英体育祭。日本中をお祭り騒ぎにさせるイベントであり、同時に最大の
「プロヒーローの方々も視聴されますわ。スカウト目的で」
「雄英に限らずヒーロー科卒業後はすぐにプロ事務所のサイドキック入りが定石……当然ながら名の知れたプロ事務所ほど経験値も話題性も高くなる」
年に一度の、高校生にたった3回だけ与えられた大チャンス。逃す手はない。
◇
各々が将来の夢を、目標を語りながら雄英体育祭への気合いを漲らせていらっしゃる。コミックなら背景に『ゴゴゴ……!!』とか出てきてるやろなあ……。
切島が強めに肩組んで来て『お前も燃えてんよな!?』って聞いてきたけど、気圧されちゃって『ぉ…おう……フヒッ』って感じの返事しか出来なかった。
ただなあ……水を差す事になるから言わなかったけど、俺別にそこまで上を目指して無いんだよな。
これは雄英高校を志望する前、父ちゃんと母ちゃんにも相談した事だし。あくまでも俺は俺の出来る範疇で頑張るって。
かと言って雄英の校風である『
間違ってたら恥ずかしいけど、あの校風は多分成長とかトレーニングの話ではなく『ピンチはチャンスさ!自分を追い込んで追い込んで……一気に飛躍しようぜ!』的なサムシングの事だと思うんだわ。
それはちょっと俺には合わない考えだ。
追い込まれたヒーローが起死回生の一撃でドラマチックに逆転勝利するのもカッコイイだろうが、俺が目指すヒーロー像はそうじゃない。
ヴィランとの戦いでハラハラすることも無ければ、救助活動で背中に祈られることも無い。コイツなら大丈夫だろうと安心して任される、そんなヒーロー。
ドラマ性なんてひとつも無い、最初から最後まで淡々と己の役割を全うする。ともすればつまらないとさえ思われるヒーロー。
それが俺の理想像だ。
だからこう……なんと言うか、一気にドカーンと飛躍するのもいいのだろうが、それ以上にコツコツ地道に積み重ねる方が性に合うんだ。
相澤先生はその辺見抜いてるかも知れないけど、それはそれでいいか、くらいの感じで見逃してくれてるんだろう。
「だから割と不安なんだよ……」
「…………よく分からんけどヒーロー科も大変なんだな」
「愚痴ばっかで悪いな、
普通科からヒーロー科へ、という目標を掲げる友人に対してヒーロー科の愚痴を聞かせるのは如何なものか?と言われそうだが許して欲しい。コイツが正直に言えって言うから……。
入学してあんまりしないうちに食堂で相席になってから、ちょくちょく話すようになった。ぶっちゃけヒーロー科の誰よりも仲が良いかもしれん。
だってコイツ気遣いが上手いんだよ。口に出しても無いのにソースとってくれたし、*1食券の前で10円玉探してたら貸してくれたし、*2
何より俺と会話がスムーズに出来る!*3
しっかし雄英も意外と馬鹿なのかねェ……?こんな逸材も逸材を落とすって、何を考えてんだか。もしやあの実技試験って滅茶苦茶非合理的なのでは。
「何回それ言うんだよ……むしろ戦闘力を求められるのは当たり前だろ?」
「それは最低限だろ。最悪それなりに自衛出来りゃ何でもいいし……つか、このままだと脳筋isジャスティスになるだろ?」
「ごめん最後のワードは知らない」
そりゃオールマイトは凄いけど、あそこまで極まった『個』の力なんてそうそう無いんだから。よくあるRPGみたいに役割分担すべきだと思う。索敵や拘束に適した個性もあれば、戦闘や救助に適した個性もあるんだから。
その点心操は無力化に置いては無敵とも言えるレベルだな。声掛けて反応すりゃ無力化成功だもの、なんてシンプルでベストな個性なんでしょう。
「……俺はお前の個性の方が羨ましいけど」
「まあ俺の個性は普通に強いしな。でも考えてみ?人質取ったヴィランがいる場面を」
お前なら『人質を解放しろ!』とか言って反応されたらもう勝ちだぜ?その時点でヴィランの無力化&人質の救出が出来る。
俺が同じことやろうとしたらヴィランの近くに転移して一撃で意識を刈り取るしかない。それも人質が傷つけられる前に手早く。結構な博打の上に対抗手段がいくらでもある。
ノーリスクハイリターンにも程があるだろ。
仮に個性の正体が割れたとしても、何らかのアイテムで声を変えてしまえばどうとでもなる。むしろヴィラン達の会話を封じることさえ可能だ。
で、そーんな金の卵を雄英サンは『うーん戦闘力ナシ!雑魚!』で落としたわけだ。バカか?
「……それはそれとして、あの宣戦布告is何」
「…………俺なりの意思表明だよ。本気でやる」
「じゃあ訓練場借りてるしお前も行こうぜ。レッツマッスルと行こうか」
「お前も脳筋じゃないか」
うるせえ俺は脳筋で受かった側だからしゃーないだろうが。お前も脳筋にしてやろうか。
相澤先生じゃないけど時間は有限なんだから急げ急げ。
◇
昔から【洗脳】の個性を怖がる奴は幾らでもいた。
子供の頃から耳にしてきたし、時には大の大人が何十歳も年下の個性を恐れて会話を拒絶した。
そこまで来ると俺の感覚も擦れてしまって、乾いたように笑って誤魔化しては心の痛みを隠してきた。そんな事しないよ、なんて声はどうせ信じては貰えない。
正直ヒーロー科の受験も半分は記念受験。諦めきれなくて『もしかしたら……』なんて甘い思考で志望し、あっさりと落ちた。
縋り付くように雄英高校の普通科に合格し、ヒーロー科への移籍もあると知ってまだ諦めきれなくて。変に燻ったまま過ごしていたのに。
『えっ……強くね?めっちゃいい個性じゃん』
勇気じゃなくて諦観で口にした俺の個性を知って、アイツはそう言った。
ハァ?なんて返す暇もなく、俺の個性が如何に有用でヒーロー向きなのかを語られた。
さも何も無いかのように会話をするアイツに思わず聞いてしまった。俺の個性を知った上で『洗脳されるとか思わないのか?』って。
返ってきたのは『洗脳するのか?』だった。
いやしないけど……と、思ったけど、視界が開けた気がした。
そうだよな。俺は無闇矢鱈と他人を洗脳する気もなければ、この個性を悪用してヴィランになるつもりもない。何をわざわざ自分から縮こまって生きてきたんだろうか。
そりゃアイツも不思議に思うよな。いきなり他人を洗脳して何かしら悪いことをするように見えるか?って聞かれたようなもんだ。初対面の人間にする事じゃ無いな。
別にアイツがした事は何ひとつ特別じゃない。ただ俺と普通に会話しただけ。ただそれだけが、どうしても嬉しい。
「Hey心操ボーイ、もうバテバテちゃんですか?」
「もう、で……済ませて、いい、距離と、速度じゃ、無いだろ……!?」
「まだほんの10周だろ。プルスウルトラの精神で頑張れ〜」
「おまっ、え……!こんな、時ばっか、都合よく……ッ!!」
お前その校風合わねえって言ってなかったかこの野郎。かなりスパルタじゃないか。
ただ走り続けるだけでこんなに疲れるなんて思ってなかった……!クッソ、このおもりがマジでキツい。地面に引っ張られてる気分だ。
間飛もそれなりにおもりを仕込んでるはずなのにピンピンしてる……あれもうゴリラだろ?ゴリラならゴリラらしくナックルウォーク*4してろよ。何二足歩行してやがる。
絶対にヒーロー科にいってやるからな……!!
「ところでポ○リ派?アク○リ派?」
「…………ポ○リで」
「すまんアク○リしか無かった」
「じゃあ聞くなよ」
間飛「きのこ派?たけのこ派?」
心操「きりかぶ派」
間飛「何それ知らない」
心操「ポ○キーは細いのと太いのどっち好き?俺は太い派」
間飛「俺ト○ポ派なんだわ」
心操「は?敵かよ」
間飛「過激派の間違いだろ」
だいたいこんな感じで仲良くなった。